出会い
「おお、みなさま! よくぞご無事で……!」
城の城門を開けると同時に雪崩込んで来たのは、後に建国王と呼ばれる青年の率いる軍隊だ。
今は国が出来たばかりで、周辺諸国との小競り合いもまだまだ多い不安定な時期。今回、我が父の城においでになったのは、周辺国との小競り合いの鎮圧の為。
「さあ、皆。騎士たちが鎧を外すお手伝いするのじゃ」
「はい、おじい様」
それは、実際には婚活である。後の世には王宮なる城があり、舞踏会なる華やかな催しがあったそうだが……
今、私たちが生きている時代には、王宮も舞踏会もありはしない。城といえば無骨な城砦。踊れるような部屋はない。
私たち地方の貴族の娘は、城に来た騎士のお世話をして見初められるのが婚活の一つなのだ。
「これは……っ。ポーションは切れていたのですか?!」
身形の良い騎士の、鎧を脱ぐお手伝いをしていたら……。いくつか傷が、塞がっていないままではないか。
「これくらいで、ポーションなどは使えん。貴重な薬液だ。これしきの傷にまで使っていては、いくらあっても足りんからな」
身に着けていた一際立派な兜を脱いだ騎士は、苦悶の表情を浮かべながらそう返して来た。
鎧が凹み、先が鎧下まで裂き、そして肌まで切り裂いている。
「金属を操る魔法使いも、お傍におりませんでしたの?」
汗と埃と泥に汚れていても、纏められた美しい金髪は彼の君の顔をやんわり包んでその輪郭を際立たせ……
凛々しい眉の尻が僅かに下がり……
戦闘の後でまだ気が高ぶっているのと相まって、不機嫌な空気を放っていても……
長身痩躯に、戦上手とは思えないような柔和な顔は何とも麗しい…………
見た事のない美男子に、思わず手が止まってしまった。しかし、それは一瞬だった。
「金属を操る魔法使い?」
「ええ。このままでは、鎧が脱げませんわよね。戦闘中も、傷が広がるばかりでしょう?
だから、こうするのです」
私は鎧の大きな傷に手を当てると、魔法を行使してみせた。すると、ゆっくりではあるが、手の下の鎧は、元から傷などなかったかのような状態に戻っていった。
「なんだ?! この魔法は?!」
「これが、金属を操る魔法の効果です。
お怪我も、続けて治します。もう少しの間、動かないで下さいまし」
金属を操る魔法は、まだあまり知られていないのだ。地方では、物資が不足する事もある。人材が不足する事だってある。
それを補う手だてを祖父と父は探し求め、近年、この魔法の存在を知ったのだ。
「ほう、聖魔法の使い手か」
「はい、微弱ながら使えますの」
「ふむ。ニヴィアン家は、数代前にエルフの血が入っていたのだったか」
「その通りですわ。しかし、父親が人族でしたので、あまりエルフの血は出ませんでしたの」
エルフとの婚姻は、父親がエルフなのか、母親がエルフなのかによって、エルフの血の濃さが変わるのだ。
父親がエルフなら、純血のエルフの能力と寿命の3分の2程が出る事がある。しかし、父親が人族の場合は、それは良くて3分の1程と言われているのだ。
「それでもたいしたものだ。もう鎧の傷もなくなったし、体の怪我も癒えた」
「ようございました。ですが、無理は禁物。後で、血を作ると言われております食事と飲み物をご用意致しますわ」
「そのような食べ物や飲み物もあるのか?」
「ええ、そのような効果があると伝わる食事などがありますわ」
これがフォール伯爵の長女、エレーナと建国王アーサーリアさまとの出会いだった。
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