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俺は天才  作者: フォース
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13話 才能とは何か

 あの日を境に、星川さんは俺の目の前に現れることはなくなった。


 学校から帰り、毎日のようにあの小屋に通ったが、小屋のカギは開けっ放しで中には誰も人がいない。学校に行っている間に他の人が来た形跡もない。


「星川さん……」


 俺は小屋から出て、あの日座ったベンチまで歩いていく。

 そこから見える景色はあの日と何ら変わりなかった。日の傾きもちょうど同じくらいだ。だが、あの日とは大きく違うものがある。


「どこにいったんだ……」


 もしかしたら家族の仕事関係でどこか違う場所に引っ越したのかもしれない。


 だったら一言暗い声をかけてくれればよかったのに。


 いや、違う。そもそも俺と星川さんは出会ってひと月ほどしかたっていない。普通はそこまで深い仲ではないはずだ。そんな人間相手に、個人的な話をする義務もない。


 そこまで1人、頭の中で考えていてはっとする。何を考えているんだ俺は。星川さんが、そんなことするはずがない、そう思いだした。


「帰るか……」


 どんどん傾いてくる太陽の影を眺めながら、ゆっくりとベンチから腰を上げた。するとその時、遠くから落ち葉を踏み鳴らす音が聞こえてきた。


「はっ、はっ、はっ……こんなところにいたのか。ヒロ」


 それはスーツを着た会社帰りの父さんであった。首元のネクタイを緩めながらこちらに向かってやってくる。


「ヒロ、すまなかった。母さんから話は聞いた。俺が……父さんが分かっていなかったんだな」


 そう言って俺に向かって、頭を下げてきた。流石の俺もこれには驚き、言葉を失う。


「ヒロが小説を何作品も投稿していたのは知っていた。でも落選してばっかりだから、現実を見ろって何度も言ってたんだ。現実を見ていなかったのは、父さんの方だったんだな……」


 そのままゆっくりと歩み寄ってきて、俺のことを優しく包み込む。


「親として、ヒロには間違ったことを言っていた。すまなかった。ヒロの、努力は本物だったんだな」

「……父さん」


 父さんからはあれだけ嫌味を言われた。殴られたこともあった。あの時はものすごく憎んでいた。だが、なぜだろうか、今この言葉をかけられただけで、俺はすべてを許してしまいそうになっている。


「殴ったのも、本当に悪かった……」


 そう言って、優しく俺の頬を撫でてきた。


「いや、気持ち悪い。何々、どうしたんだよ、父さん」

「そう、気持ち悪がらないでくれ。正直、父さんはヒロが小説家になれるなんて思ってなかったんだ。だから夢を見るんじゃなくて現実を見ろといった。だけど、才能があったんだな、ヒロには」


 その言葉をかけられた俺は、どこか胸の奥に違和感を感じた。


 俺は本当に天才だったのだろうか。


 そんな疑問が投げかけられた。


「父さん、これは俺1人の力で成し遂げたことじゃないんだ。星川さん……友達が協力してくれた。そうじゃなかったら俺は受賞していない」


 これははっきりといえる。俺1人の力でも何でもない。むしろ星川さんの力のおかげなのだ。


「友達……? 毎日この山奥に来てたのか?」

「……そうだよ。ここに来る通り道の小屋に住んでるんだ」

「小屋……」


 一瞬話すかどうか躊躇ったが、別に話したところでどうにかなるわけでもない。だが、父さんは俺が話した”小屋”というワードに妙に引っかかっているようだった。


「ヒロ、小屋に毎日行っていたのか……?」

「そうだけど」

「……」


 しばらく静寂が続く。俺にとってはその静寂が長く、永遠のようにすら感じた。嫌な予感がする。そう肌で感じ取っていたのだ。


 父さんは、一呼吸置いてこう告げた。


「ヒロ、あそこの小屋はな、20年前に殺人事件が起きた場所なんだ」


 ゆっくりと、まるで俺を諭すかのように話した。


「え……」


 俺は当然のごとく理解が追い付いていない。あそこで、殺人事件……? だったらあそこにいた星川さんは?


「昔のことだから正確には覚えていないが……確か高校生の女の子だったかな。その子がお母さんに殺されたんだ。当時はうちにも警察が聞き取りに来て、ここら辺一帯は大騒ぎだったんだ」


 父さんが続けて話しているが、その内容は半分以上耳をすり抜けていった。


 そんなはずはない。


 そう何度も自分に言い聞かせていた。

 星川さんは実在していた。


 そう言い聞かせ続けるも、半年、1年の月日が流れていき、とうとう星川さんが姿を現さないまま、20年の月日が流れた。


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