第7話 デート
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家に帰ると、彩花ちゃんがソファに寝転がりながらテレビを見ていた。いつも俺が帰ると、おかえりと言いながらドアまで来てくれるので、今日はお疲れのようだ。側に行くと、テレビを付けながら寝てしまっていた。今日は最後の生徒総会と言っていたので、ほっとしたというのもあるのだろう。俺は彩花ちゃんに毛布を掛けて、テレビを消す。その可愛い寝顔を見ながらビールを開けて、さきイカをつまむ。美少女の寝顔を見ながら晩酌ってまるで変態紳士だな。明後日は確か土曜日、休みか。久しぶりに彩花ちゃんとどこかに行くのもありかな。せっかくだし、きらりちゃんや葵ちゃんも誘って。女子高生3人の保護者が30代男性というのも問題ありそうだが。
「んん、あれ?優斗帰ってたの?」
「うん、お疲れ彩花ちゃん。」
「ありがと、これでやっと肩の荷が下りるよ。」
そういう彼女の顔はどこか寂しそうだった。2年の頃、会長に誘われて渋々入った生徒会だったみたいだけど、彩花ちゃんにとって良い思い出になったみたいだ。
「それでさ、明後日お疲れ様会ってことでどこか遊びに行くっていうのはどう?」
「え?うん、行きたい!」
「そっか、じゃあどこ行きたい?」
「遊園地、、、とか」
「良いね、じゃあ他にだれか、、、。」
「ふ、二人じゃだめかな。
その、急にじゃ難しいだろうし。」
「確かにそうか、今回は二人で行こう。二人で遊びに行く機会ももうないかもしれないし。」
「う、うん。そうかも。」
彼女はさっきよりも悲しい顔でうなずく。俺だって彩花ちゃんと離れるのは寂しい。でも、仕方ない。彩花ちゃんが卒業したら、俺と彩花ちゃんの関係は友達というだけしか残らない。だから、これでいいんだ。そう、自分に言い聞かせる。
当日、朝起きると既に彩花ちゃんの姿はなかった。テーブルに置いてあるメモにはすでに最寄り駅に向かっていると書いてあった。なぜわざわざ別で待ち合わせをするのかよく分からないが、いたずら心か何かなのだろうと思い、俺は着替えを始める。朝ご飯はテーブルに用意されていて、それを食べる。昔美樹さんの家で食べた味噌汁や焼き鮭といったラインナップ。もしかすると、彩花ちゃんはあの頃に戻れたらと思っているのかもしれない。お母さんと二人仲良く暮らしていたあの時に。
俺は部屋を出て、最寄り駅へ急ぐ。
待ち合わせ場所には白いワンピースに水色の日傘を持った美少女が。よく見ると、それは彩花ちゃんだった。普段見ることのない服装でとても可愛らしい。
「お待たせ、彩花ちゃん。」
「う、うん。」
なぜか少し緊張しているようだ。
「じゃあ行こっか。」
俺はそのまま行こうとしたが、一言あった方が良いと思い彩花ちゃんの方へ振り返る。
「今日の服、凄い似合ってるよ。」
「そ、そうかな?
きらりに借りたの、私にはもったいない服かなって思ったんだけど。」
「でも、今日結構歩くだろうからワンピースだと大変じゃない?」
「あ、あのねぇ。そういうのは思ってても言わない方がいいの!
これじゃあいつまで経っても彼女できないよ。」
「そ、それは嫌だな。気をつけるよ。」
そして、俺たちは遊園地へと向かう。
そこは彩花ちゃんが昔暮らしていたところにある遊園地で家族3人で来たこともあるらしい。
入り口でチケットを買い、中に入る。
「よし、じゃあ最初はどこに。」
「メリーゴーランド。」
「え?でもあそこって子供とバカップルしかいないんじゃ。」
「そ、そんなことないし!ほら、早くいくよ。」
「お、おう。」
俺達はメリーゴーランドでお馬さんに乗り、その後コーヒーカップにも乗った。
「じゃあ次はお化け屋敷ね。」
うーん、おかしい。いつもならジェットコースターのフルコースのはず。それはそれで大変なのだが、これじゃあまるでカップルみたい。俺は勘違いされても無視できるけど、彩花ちゃんは大丈夫なのだろうか。
「次の方、どうぞー。」
「俺達の番だ。ん?どうしたの彩花ちゃん。」
「な、なにが?私は全然怖がってないよ。」
肩をぶるぶる震わせながら、唇も青くなっている。俺もあまり得意じゃないからホラー映画とかは見たことなかったけど、もしかして。
「怖いの、苦手?」
「ぜ、全然。むしろ得意っていうかストライクゾーンって感じ。」
うん、なに言ってるか分からん。無理して入るものでもない気はするけど、本人は苦手克服をしたいのかもしれなし。今日のところは付き合うか。
「手、繋ぐ?」
「え?
ど、どうしてもっていうなら繋ぐよ。全く優斗は怖がりだよね。」
「はいはい。」
昔、彩花ちゃんが悪夢にうなされていたときに手を握ったら落ち着いた時のことを思い出した。
「きゃ、きゃぁぁぁ。
う、うぉおおおお。
い、いやぁぁぁ。」
実際入ってみると、結構本格的な作りで正直怖かった。隣で悲鳴を上げつつる人がいたから冷静でいられたけど。でも、俺の手を解こうとはしなかった。それを俺は嬉しいと思ってしまう。
昼ご飯を食べ、ジェットコースターへと向かう。
「凄い楽しみだね。ワクワクする。」
俺は嬉しそうなその顔を見て安心する。ようやくいつもの彼女の顔を見ることができた。
猛スピードの上下運動に俺は若干疲労を覚えつつ、ジェットコースターを降りる。
「ふう、もう一回乗る?」
「ううん、もう夕方だし。観覧車乗ろ。」
「う、うん。」
観覧車、か。
俺達は二人で観覧車に乗る。
夕日に目を奪われていた彩花ちゃんと違って、俺は彩花ちゃんから目を離せなかった。
こんなに夕日が似合う子はなかなかいないだろう。その視線に気づいたのか、彩花ちゃんは恥ずかしそうに手で顔を隠す。
「あー、ごめん。」
「ううん。
優斗はさ、私との生活楽しい?」
急にどうしたのか、でも真剣に聞いてるのは声のトーンで分かった。
「楽しいよ、彩花ちゃんが居てくれて本当に良かった。
でも、きっと俺なんかより美樹さんの方が良かったんじゃないかって最近思うんだ。
いや、きっと昔から心のどこかでそう思ってた。もし美樹さんの代わりに俺が事故に遭ってい
たら彩花ちゃんは幸せだったんじゃないかって。」
こんな事を言うはずじゃなかった。今日は楽しく過ごそうと思って、でも彼女との時間があと僅かであるという事実に俺は耐えかねていたのかもしれない。
「なに、それ。
私、そんな事思ったことない!確かにお母さんが生きていたらもっと良かったとは思うよ。
でも、私は優斗が死んじゃったら悲しいよ。優斗は私にとって大切な、、、。」
「ありがとう、でも子供にとってお母さんは大切な存在に変わりない。」
「そ、それはそうかもしれないけど。」
それから俺達は会話することもなく、観覧車を降りた。重い空気の中、電車に乗って、家まで歩いて帰る。最低限の会話だけして、その日は眠りについた。
次の日の朝。テーブルに置いてあったメモには「家出します。少し距離を置きたい。」
そう書いてあった。