第5話 叔母の優しさ
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ピンポーン、ピンポーン。
「はーい。
全く2連続ピンポンとはまさか訪問販売か?」
俺がドアを開けると、そこには沙也加さんがいた。白いTーシャツに青のパンツ。そして黒いサングラス。長い髪をウェーブのように方にかけている。この人は南国にでも行っていたのだろうか。
「よ、久しぶり。」
「お久しぶりです。どうしたんですか?」
「なーに、昨日日本に帰国してね。せっかくだから姪っ子と弟の顔でも見とこうかなって。」
「いや、俺弟じゃないですし。ていうかご両親には会わなくていいんですか?」
「あー、そういやもう10年も会ってないなー。」
「それって葬式以来ってことじゃ。」
最低1年に1回ウチには来てるのに。やはり帰りづらい理由でもあるのだろうか。大事なお孫さんを預かっているということで俺は年に1度河瀬家の実家には挨拶に行っている。一様誘ってはみるが彩花ちゃんはいつも「今年はやめておくよ。」だ。今年どころか10年行っていない。行くとなぜか俺は歓迎されるので行くのを億劫に感じたことはないが、できれば彩花ちゃんにも祖父母である2人と仲良くして欲しいのだ。
「私、美紀とは仲良かったからさ。その形見である彩花はどうしても守りたかった。
優斗のおかげだ、ありがとな。」
「お礼を言うのはこっちの方ですよ。彩花ちゃんには助けてもらいっぱなしで。
ウチの両親も毎年彩花ちゃんに会えるの楽しみにしてますし。」
「そっか、優斗の両親には懐いてるんだな。」
それって、やっぱり彩花ちゃんはおじいちゃん、おばあちゃんの事が苦手なのか。
「ん?ていうか平日なのに優斗は何で家に居るの?
まさかニート?」
「違いますよ!
今日は有給休暇です。彩花ちゃんは普通に学校行きました。」
「そっか。」
沙也加さんはとても嬉しそうに微笑む。彩花ちゃんが無事に学校に行っていて嬉しいのだろうか。
「じゃ、久しぶりにやるか。」
「ま、まさかあれを?」
「やるに決まってるだろう。」
はぁ、せっかくの休日なのに。
「ねぇ彩花、今日暇?」
「ごめん!今日家におばさんが来てて早く帰らないと。」
「え?そうなん?
それってチャンスだね。」
「チャンスって何が?」
「結婚のお許し、貰っちゃったら?」
「いや、私結婚の予定なんてないけど。」
「またまたー。10年も同棲しといて結婚しないわけないじゃん。」
「は、はぁ?
わ、私と優斗は友達っていうか協力関係というか恩人というか。
決してそのような関係では。」
「焦りすぎだって。ちょっとからかっただけじゃん。」
「その話題は冗談じゃ済まないからからかわないでよ。」
「それはごめん。」
はぁ、こうやって私が注意するとちゃんと謝ってくれるから嫌いになれないんだよねーこの子。
「うん、良いよ。
じゃあまた明日。」
そして私は教室を出て家へと向かう。
その背中を見送って、少女はふと本音を漏らす。
「でもね彩花。
私、優斗さん以外に彩花を任せられる人なんて居ないと思ってるから。」
玄関のドアを開けて、中に入る。
「ただいまー。」
「おおー。お帰り彩花。
随分見ない間にまた美人になってー。さすが私の姪っ子。」
「ははは、ありがと。
おばさんいつも急だから何にも用意できてないんだけど、大丈夫?」
「大丈夫、着替えは持ってるから。明日にはまたフランス行きの飛行機乗らないとだし。」
「さ、さすがおばさん。ん?何かお酒の匂いがする。」
「さっきまで、優斗と飲みゲーしてたからな。」
「え??」
私はリビングで酔い潰れている優斗を見つける。
「はぁ、またやってたのね。おばさんも加減してあげたらいいのに。」
「そんなわけにはいかないさ。日本人でここまで私と渡り合えるのはなかなかいないから。
つい本気だしちゃう。」
「そんな可愛い感じで言われても。もーしょうがないな。」
私は優斗の身体を揺すって起こす。
「お、お帰り彩花。」
「あ、え、えっとここで寝たら風邪引くから。
し、寝室に行こう。」
「うん、分かった。」
私は優斗に肩を貸し、部屋まで運ぶ。
少し気持ち悪そうにしながら寝ているので後で水を持ってこよう。
私はまたリビングの方へ戻る。
「おばさん、水いる?」
「あーじゃあ貰おうかな。」
私はコップに水道水を入れて、おばさんに手渡す。
「ありがと、それで学校どう?」
「楽しいよ。きらりとも相変わらずだし。」
「そっか。それはよかった。」
おばさんは今でも私の分の生活費を振り込んでくれている。優斗が働くようになってからはそのお金を私の将来の為にと貯金しているみたいだ。この前私用の貯金通帳を見つけたから間違いない。
「あのさ、優斗おばさんに何か言ってなかった?」
「何かって?」
「その、今後の生活のこととか。」
「んー、何か言っていたきがするけど覚えてないや。」
「記憶がなくなるくらい飲んでたのね。ま、おばさんらしいけど。」
「で、彩花はどうしたい?
いっそ結婚しちゃう?鈴木 彩花。語呂は悪くないと思うけど。」
「か、からかわないでよ!
私は、就職して1人でやってくつもりだから。」
「ふーーん、それは優斗のため?それともお母さんのため?」
「え、それは多分優斗のため、かな。」
「へぇ、なら私が貰っちゃおうかな。」
「だ、ダメだよ!だって。」
「だって、、、優斗は美樹の事が好きだから、か?」
「う、うん。」
「でも一番大切なのは彩花自身の気持ちだ。」
「わ、わかってる。」
「(きっと全然分かってないんだろーなー。)」
「な、なにか言った?」
「んんー、何でも。じゃあ私もそろそろ寝るわ。おやすみー。」
「うん、おやすみー。」
そして次の朝、おばさんは帰っていった。
フランス行きの飛行機の中で優斗とのある会話を思い出す。
「ていうか、なんでゲームで負けた罰ゲームがビールなんですか。
もっとライトなのでいいでしょうに。」
「まぁまぁお姉さんに付き合ってくれよーー。」
「はぁ、まぁいいですけど。」
「優斗はさ、今後どうするつもりなの?」
「そうですね、彩花ちゃんには独り立ちしてほしいので。大学行く時はともかく就職するならお
別れってことになると思います。」
「それでいいの?」
「まぁ正直めちゃくちゃ寂しいですけど。俺と一緒にいたら彩花ちゃん、彼氏を作ろうにも作り
づらいだろうし。そろそろ俺も彩花ちゃん離れしないと。」
「そっか。」
一口、コーヒーを飲んで頭を整理させる。
2人にとって何が最善かは分からない。でも一つ言える事は彩花には優斗が必要だということ。本人がどこまで自覚してるかは分からないけど。別れて辛いのは両方だろうけど、多分彩花の方は危うい。ま、そのときはおばさんが人肌脱いであげますか。
ほんっと、美樹は運はないのに男を見る目だけはあるのよね。もし美樹と聡君が生きていたら、優斗と彩花は出会わなかったかもしれない。その一点においては彩花は幸運と言えるのかもね。