05 黒縁
案内された小部屋は、今までに入ったことがない部屋。
子どもの頃からお互いの家に泊まりっこしてたけど、こんな場所あったなんて知らなかったな。
「ちょっとこれ見て」
ゴンザが持ってきたのは、黒い表紙の本。
「なんなの、その本」
「こういう商売をやってると、いろいろ危ない物とかが関係してくることがあるわけ」
「で、その手の危ないのを頭に叩き込んどけって、店番任される前に親父から渡されたのがその黒い本」
「呪いの武器とかなんか嘘っぽいのもいっぱいあったけど、その短刀は本物だと思う」
黒い本のページをめくったゴンザが、開かれた本をテーブルに置いた。
『黒縁の短刀 (クロエニシノタントウ)』
取り扱い注意指数:☆☆☆☆☆
買い取り参考価格: ※買い取り希望者が現れても絶対に買い取りしないでください
推奨標準販売価格: ※金額査定不可
この短刀は某一族の里外不出の品です
里の子供が生まれた時に守り刀として贈られる品です
美しい薄紫色の刀身は、里の外では再現不可の素材・製法によるものです
子供たちはお互いの命を懸けた決闘で相手の短刀を手に入れます
ふたつの短刀はひとつに打ち直されます
成人となった所有者が所持する短刀は何度も打ち直されており
美しい漆黒の刀身となっております
武器として並ぶもの無き切れ味と研ぎいらずの耐久性を誇る逸品ですが
一般に流通することはまず有りません
外部に流れた品は一族の回収部隊が必ず奪還に来ますので
本物・レプリカ・フェイクに関わらず
取り引きは絶対に行わないでください
「読んだな」
ゴンザは黒い本を慎重に確認してから金庫に入れた。
あのお気楽ゴンザが冷や汗まみれだ。
「お前ら、これどっから手に入れたか知らんけど絶対に他の人には見せてないよな」
「母さんだけだよ」
アニーニは真っ青だ。
たぶん、私も。
「アニは早くおばさんとこ行って口止めしてこい。 大至急だぞ」
「分かったよ」
慌てて店を飛び出すアニーニ。
「お前も絶対に誰にもしゃべるんじゃないぞ」
声がうまく出せなくて首をこくこくさせるしかできない。
「早く帰ってしばらくクエストしないで家で大人しくしとけ」
「アニもだぞ」
こくこく
「俺、何回も言っただろ。 お前ら大した固有スキルじゃ無かったんだから冒険者なんかやめとけって」
なんかムカっとしたので、首を横にふるふる振ってやった。
「なんだよそれ、せっかく忠告してんのにさ」
しばらくゴンザとにらみあってしまった。
「とにかく、寄り道しないで早く帰れよな」