第33話 争いは誰のために
「それでですね、この町には伝説があるんです。そう、かつて伝説のレギオンがいたという伝説が。」
「そうなんだ。どんなレギオンだったの?」
「あの・・・」
「それがですね。何でも禁忌の研究をしていた魔法使い集団らしいです。」
「黄金の夜明けみたいな?」
「あのー・・・」
「そうですね、でもそれよりももっと昔に出来たって言われています。何と言っても・・・」
「あのっ!」
「ん?どうしたんですか?ユリカさん。」
「何で宿屋にまで付いてきたのですか?」
結局日が暮れるまでミライを探し続けて見つけられなかったユリカたち一行はとある宿屋の一室にいた。3人そろって。
「いえ、町は広いですから明日また落ち合うのも手間ですし一緒にいた方が良いかと。それに聞きたくありませんか?この町に過去にいたとされる伝説のレギオン、『白夜の担い手』を。」
「聞きたいなー。」
どうやらこの騎士団員は話し好きのようであった。そしてシャチハタも即答するあたり彼女の話に興味津々と言った様子である。
しかしながらユリカは2人が大切なことを忘れていることに気がついていた。
「まあ、話はともかく自己紹介くらいしませんか?」
「あ、そういえば忘れてましたね。私はクレア、17歳です。魔法は使えません。趣味は魔法史を調べることです。」
ユリカのもっともな提案にすぐさま答えるクレア。しきりに伝説のレギオンについて語りたがっていたのにはこの趣味が関わっていたようである。
「私はユリカです。魔法使いです。」
「私はシャチハタだよ。ユリカちゃんと同じで魔法使い。好きなものは辛いものだよ。」
「2人とも魔法使いなんですね。私は使えないからうらやましいですよ。」
2人の自己紹介を聞いてそんな感想を漏らすクレア。この世界では魔法が使える人間の方が有利なのは火を見るより明らかなので、魔法が使えない人間がうらやましがるのも当然の話であった。
「でもクレアさんも使える魔法があるかもしれないよ。」
「まあ、全ての魔法陣を試したって訳じゃないですしね。でも身分証にはクラスは載ってなかったので望みは薄いですが。」
(クラスか、そう言えばそんなものもあったわね。)
「あの、クラスとはどういったものなのでしょうか?」
クラスという単語を聞いて少し気になったユリカ。彼女は1度見た魔法を使うことは出来てもこういった知識は全くと言っていいほど持っていなかった。
そしてそんなユリカの質問を受け、クレアが得意そうに話し出す。
「なるほど、確かにクラスは魔法を語る上で欠かせませんからね。白夜の担い手について語るのにも必要ですし、まずは魔法の属性から話していきましょうか。」
「お、お手柔らかにお願いします。」
「はいっ、まずは魔法には火、水、空気、土の4つの属性があります。そしてクラスもメイジ、ウィッチ、ウォーロック、アルケミストの4つがあってそれぞれ使える属性に偏りがあるんですよ。例えばメイジは火や水が得意で、ウィッチとウォーロックは空気が得意な傾向にありますね。まあ大体の傾向なので絶対ではないのですがアルケミストだけはなぜか土しか使えませんね。」
「そうなんだ。ところで属性とかクラスとかって他にはあるの?」
クレアの話を聞いて手を上げるシャチハタ。彼女はユリカ以上にこの話に興味があったようである。
「いいところに気がつきましたね。実はあるんですよ。でも国や地域によって解釈はそれぞれで中には10個以上属性があるとするところもあれば4個だけとする場所もあります。でも4つの属性とクラスはどこも共通して存在していると言われていますね。4大属性、4大クラスなんて呼ばれているんです。」
「へえ、やっぱりみんな考えることは一緒なのかな?」
「いえ、これは魔法の普及に関係があったようですね。」
目をキラリと光らせ歴史オタクの面目躍如と言った様子のクレア。この少女の話を止めることは最早何人たりとも叶わなそうであった。
「魔法は1人の魔法使いによって世界に広められたという話があります。その魔法使いは自らが創り上げた魔法の仕組みを一冊の本にまとめてそれが近代魔法学の基礎理論になっているみたいですね。そしてその原本は今は魔法学園に置かれているようです。」
(近代魔法学か、それにしてもその魔法使いは全ての属性を扱えたってことかしら?それにしてもそんな人間がいたとしたらとんでもない話ね。たった1人で世界の法則をねじ曲げたとさえ言えるわ。まあさすがに1人で全部作ったというのはないだろうけど・・・)
ユリカの考えるように遙かな過去のことが100%正しく伝わっているのはあり得ないことである。しかしながらこの世界の一般常識では魔法はその人間が創り上げたことになっているようだ。
そしてここでシャチハタが最初に話していたことを思い出した。
「そういえば、白夜の担い手はいつ出てくるの?」
「ふっふっふ、焦らないでください。実を言うと白夜の担い手とこの最初の魔法使いは深い関係があると言われているんですよ。まずは最初の魔法使いから話していきましょうか。この人は本を書き終えた後、あの魔法学園を設立したんです。そしてその魔法学園を出た魔法使いたちが作ったのが白夜の担い手です。」
「それだけだとあまり関係がないような・・・それに白夜の担い手とはレギオンだったのでは?」
クレアの話におかしなものを覚え質問するユリカ。しかしクレアは自信満々な顔で続ける。
「いえいえ、関係があるのはこの後なんですよ。そもそも魔法の発展はアーティファクトと共にありました。アーティファクトから新たな魔法技術が発見され、それを見つけるために魔法使いたちは自らの魔法を磨いてきたんです。そして白夜の担い手も例に漏れずアーティファクトを探して世界中を探検していたんですよ。」
「なるほど。」
「そしてここからが話の本番なのですが、彼らは旅を続ける中1つの小さな港町にたどり着きます。」
「それがベネトなんだね。」
クレアの話に元気よく相づちを打つシャチハタ。そしてそれを聞いてクレアもますます饒舌になっていく。
「そうです。そして彼らはその町の近くのダンジョンでアーティファクトを発見します。それこそが彼らが追い求めていたもの、不老不死の霊薬だったのですよ。」
(不老不死?いくらアーティファクトと言ってもそんなものがあるはずが・・・そもそもアーティファクトって21世紀の便利アイテムくらいのものではなかったの?)
自分の認識とのずれに困惑するユリカであったが熱中しているクレアがそれに気がつくはずはなかった。ユリカが考え込んでいる中クレアの話はどんどん進んでいく。
「しかし、霊薬は1人分しかありませんでした。当然白夜の担い手の魔法使いたちはそれを複製しようとします。」
「それで複製は出来たのかな?」
シャチハタが目を輝かせながら身を乗り出してクレアに尋ねる。
とはいえ返ってきたのはなんともはっきりとしない結末であったが。
「いえ、それはわかっていないんです。その霊薬も現存していませんし。ただ、ここで出てくるのが最初の魔法使いなんですよ。どうやら最初の魔法使いは困り果てた白夜の担い手にとある秘術を授けたらしいです。」
「ええっ!その後どうなったの?」
話が核心に迫っていき声を大きくするシャチハタ。夜も遅くなってきたというのに周りの客からしたら迷惑な話である。
苦情が来なかったのは幸いだったと言えるだろう。
「はい、授けた秘術なんですが一切のことはわかっていないんです。」
「ええ?なんかないのー?」
ためにためた結末があまりにも納得のいかないものでむくれるシャチハタ。しかしながらこの話にはまだ続きがあった。
「とはいえ、その後白夜の担い手がどうなったかはわかっています。彼らは秘術を授けられた直後に解散し、その後は全員行方不明ということになっていますね。でも不老不死の霊薬自体は会員の誰かが使ったみたいです。秘術と霊薬を巡ってレギオン内で争いがあったというのが一番支持されている仮説ですね。」
「へえー。」
「最後は同士討ちですか。何とも悲しい話ですね。」
不老不死を追い求めたものたちが最後はお互いに殺し合って終わった。この話が真実であったとしたら何とも皮肉なものである。
(まあ人間なんてそんなものよね。戦争なんて人間の繁栄のために人間を殺しているわけだし。)
地球の歴史を思い出しやるせない気分になるユリカ。人類の歴史は戦争の歴史といってもいいだろう。人間は人間を殺すために発展してきた。今の生活に欠かせないコンピュータも夢を乗せて飛ぶロケットも、元をたどれば戦争の道具である。そしておそらくこの世界の魔法も・・・
(誰かより優位に立ちたいと願う。生物は皆そう設計されている。結局のところ生き残るには競争に勝たないといけないから。根源的なところで私たちは殺し合うように作られているのね。)
「神様は性格が悪いわね。」
そんなことを考えつつ何の気なしに呟いたユリカ。しかしいつもなら温厚なシャチハタが珍しくここでくってかかった。
「それは違うよ。だって神様が本当に悪人だったら幸せになる人なんていないはずだもん。」
「まあ、神様云々はともかく、これで白夜の担い手についての話はおしまいです。そう言えばお二人のクラスって何ですか?」
何かを察して話題をそらすクレア。そしてユリカもそれに便乗する。
「そう言えばそこまでは話してませんでしたね。私はスカラーです。」
「スカラー?聞いたことないクラスですね。」
いつぞやの受付と同じ反応をするクレア。どうやらユリカのクラスは本当に珍しいものであったようだ。
「シャチハタさんはどんなクラスなのですか?」
「私はエンチャンターだよ。」
「エンチャンターとはこれまた珍しいですね。4大クラスではありませんが確か空気の属性と相性が良かったはずですよ。」
「空気か、うーん。」
クレアの話を聞いてうなるシャチハタ。確かに彼女の魔法は物質的なものではないように思える。しかしながらこの世界の魔法論は物質を中心に考えられているようであった。
そしてここで彼女はもう1つの物質的ではない魔法のことを思い出した。
「そう言えばミライちゃんの魔法ってどんな属性なのかな?」
「探しているお友達ですか。どんな魔法を使うのですか?」
「未来が見えるんだよ。」
「未来が・・・ですか?」
驚いた顔で聞き返すクレア。どうやら彼女にとってその言葉が出ることは、信じられないことだったようだ。
(まあ、未来視なんていくら何でもファンタジーすぎるものね。本当に物質と関わっていない可能性すらあるし。)
ユリカがそんなことを考えている中、クレアが少し経って言葉を再開した。
「すみません。未来が見える魔法というのは聞いたことがないです。というか、魔法学会でも時間律に触れる魔法の存在は否定されていたはずです。」
「ええっ?そうなの?」
今度はシャチハタが驚いてクレアの顔を見上げる。
クレアの話を聞くにこの世界には魔法学園が中心となって運営している魔法研究に関する学会が存在しているらしい。その中でも認知されていないほどにミライの魔法は珍しいものだったようである。
「それでですねー。魔法学園が主催していると言うことはもちろんレベルは世界最高と言うことでしてー・・・」
ミライの魔法を聞いてまた始まったクレアの魔法オタクトーク。とどまることを知らないそれが終わったのは日付をまたいだ頃であった。
次の日の朝、ユリカたちは宿屋を出て朝一番に昨日の市場に来ていた。
「市場に来たけどこれからどうするの?」
「色々考えたのだけれどやはり昨日あの子がイレギュラーな動きをしたのは確かだと思うわ。でもいる場所は3つに絞れた。確率はどれも同じくらい。」
「じゃあ3人に別れますか?」
「それが最善ですね。時間が長引くほど行動範囲は広がって行きますか。とは言え私たちが合流できなくなったら目も当てられないので集合場所と時間は決めておきましょう。」
「じゃあ6時にここでいいんじゃないかな。」
シャチハタが出した時間は日が暮れる時間や捜索時間を加味して丁度良い時間帯であった。
もちろんユリカもクレアも異論はなくその日はスムーズに捜索が始まった。とはいえユリカはシャチハタのことが若干気になる様子ではあったが。
「それじゃあ、頑張ってくださいね。」
「行ってくるよ。」
「ええ、お互いに頑張りましょう。」
シャチハタとクレアの後ろ姿を見送って自分も担当場所へと移動するユリカ。
(なんか前にも似たようなことがあったような・・・)
彼女の頭に浮かんでいたのは今は会えない2人の仲間の顔であった。
色々と忙しくて久々の投稿になってしまいました。
これからは最低でも週1以上の頻度で投稿していきますので、これからもこの物語を読んでいただけたら幸いです。
また原稿が出来たらなるべく早く上げるように心がけていますので、投稿する曜日はこれからもバラバラになる予定です。ですのでブックマーク登録をしていただけると更新がすぐわかって便利かと思いますのでよろしくお願いします。
また感想やレビュー等もいつでもお待ちしております。




