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第31話 野次馬って特に後のこととか考えてなさそうだよね


「はあ?調子に乗りやがって、俺たち鉈トリオに喧嘩売ってんのか?」


 そう言うとどこからともなく鉈を取り出す男たち。

 それを見て周りにいた野次馬たちの雰囲気も凍り付く。ただの喧嘩だと思って見ていたところ死人が出るかもしれなくなったのだから当然か。

 しかしながら囲まれている側の男に焦った様子はなかった。


「何だあ?鉈ってそんなんで個性出したつもりかあ?」


 ひるむどころか逆に煽って火に油を注いでいく男。

 そして煽られた側の男たちは顔を真っ赤にして叫ぶ。


「てめえ、もう良い、半殺しで勘弁してやろうと思ってたがもう殺す。」


「後悔してももう遅いぜ。この距離じゃ例え魔法使いでも間に合わねえ。」


 鉈トリオは魔法使いの弱点をよく知っているようであった。いくら強力な魔法であったとしても発動しなければ意味はないのである。

 しかしながらそれでも男の態度は変わらなかった。


「さっさとしろよ、俺も屑の人生の尺稼ぎに付き合ってやれるほど暇じゃねえんだよ。」


「「「死ねえっ!」」」


 今一度煽られ一糸乱れぬ動きで襲いかかる3人組。

 同時3方向からの鉈による攻撃は普通に考えて防ぎきれるものではなかった。

 まあ、それは相手がまともな人間だった場合だが。


ヒュッ


「はっ?」


 鉈が振り下ろされる直前、3人の目の前から男の姿が消える。


「死ね。」


ゴッ!


 次の瞬間、後ろから襲いかかっていた男の顔に強烈な裏拳が炸裂し首から上が吹き飛ぶ。

 男の姿が消えたように見えたのはただただ彼が速く動いた結果であった。


「え?」


 そして血をまき散らしながら飛んでいく生首を見て、一瞬動きが止まる残りの2人。

 しかし1人を殺害した男がわざわざ彼らに合わせて動きを止めることはなかった。


「よそ見してていいんかあ?」


「ごはあっ!」


 人間を超越した速度で一瞬にしてもう1人に接近し前蹴りを叩き込む男。

 食らった側はというとまるでダンプカーにでもはねられたかのように吹き飛んでゆく。


「う、うわああああ!!」


 ここでようやく現実を認識した最後の1人が絶叫をあげる。

 周りの人間たちも恐ろしい光景に悲鳴を上げ、その場は大混乱に陥っていた。

 そしてその混乱を作りだした張本人はと言うと、そんなことは気にもとめずゆっくりと最後の1人に近づいて行く。


「うわあああ、来るなあ!!」


「いや行くよ?ゴミ掃除は最後までやらねえと迷惑だしなあ。」


「うわあっ、逃げっ・・・」


バシャッ!


 逃げようと後ろを向く男の頭が容赦なくはじけ飛ぶ。

 賑やかな市場は一転して地獄と化していた。

 パニックになり逃げ惑う人々によって一瞬にして蜂の巣をつついたような騒ぎとなった市場。そして当然後ろで見ていたユリカたちもこの騒動に巻き込まれていた。


「うわああああ!人があ!」

「きゃああああああ!」


 逃げ惑う人々にもみくちゃにされるユリカたち。

 ミライに至ってはすでにほとんど人々の波に飲み込まれそうになっている。


「わあっ、どうしよう?」


「手を繋ぐのよっ!」


「わふーーーーーーーー!」


 ユリカの努力もむなしく人の波に押し流されていくミライ。ユリカたちに出来たのは彼女の断末魔を聞き届けることだけであった。


「くうっ、せめてこっちだけでも・・・」


 しかしながら何とかシャチハタだけは捕まえることに成功したユリカ。ミライは完全に見失ってしまったとは言え最悪の事態は免れたようである。


「痛っ!」


 逃げ惑う人々にぶつかられるユリカ。場の混乱はまだ収まっていなかった。ミライを探したいユリカた ちであったが、ここに残れば体格の小さな彼女たちは逃げ惑う人々にひき殺されかねなかった。

 実際、駅などの人が集まる場所で人々が将棋倒しになって死んだ事例は数多く存在する。

 そしてそんな事情を知っているユリカはある決断を下した。


「一旦離れるわよ。ここにいたら危ないわ。」


「で、でもミライちゃんが・・・」


「後で合流できるわ。」


 そう言ってミライの手を引っ張るユリカ。

 そして2人は群衆の流れに沿って市場を走ってゆく。


「足下に気をつけるのよ。転んだら踏まれるわ。」


「うう、ミライちゃん・・・」


「大丈夫よ、ここを抜けたら探しに行けるわ。」


 その後、シャチハタを納得させて何とか危険地帯を抜けたユリカ。

 人の波にもみくちゃにされた彼女たちの表情は疲れ切っていた。




「はあ、危ねえ、危ねえ。屑の血がかかるとこだったわ。それにしても妙な動きをしていたガキ共がいたなあ。」


 ユリカたちがほうほうの体で市場を脱出し騒ぎがようやく収まってきた頃、騒ぎの元凶は市場の中心でたたずんでいた。あれだけ派手に暴れていながらその衣服に返り血が付くことはなかったようだ。

 そして少し経つとその男の周りに何人かの人間が集まり、そのうちの1人が彼に声をかけた。


「中将、これは一体?」


「ああ?どうでも良いだろ。それよりもあっち着いてから中将って言ったら殺すよ?」


「ひっ、も、申し訳ありません。」


 中将と呼ばれた男ににらまれて背筋をピンと硬直させ怯えた返事を返す男。

 さながら蛇ににらまれた蛙であった。


「まあいい。で、準備は出来たのかあ?」


「は、はい。滞りなく。」


「じゃあさっさと行くぞ。そろそろ警備隊も来そうだしなあ。」


 面倒ごとを嫌ってさっさと姿をくらます一団。

 市場に平穏が戻ってきたのはそれから少し先のことであった。




 男たちが市場を去っていたその頃、流されたミライも1人で市場を抜けることに成功していた。


「うう、はぐれちゃったぞ。どうしよう?」


 しかし成功したのは市場を抜けることだけでユリカたちと再開することは叶っていなかったようである。携帯でもあれば話は別だが土地勘のない場所ではぐれた仲間と合流するのは至難の業であった。


「うう、困ったぞ。どっちに行けば良いんだ?」


 何も出来ずにあたりを見渡すミライ。しかしここでそんな彼女に声をかけるものが現れた。


「あなた、困ってる?」


「わふっ?」


 突然後ろから話しかけられ、驚くミライ。

 そして彼女が振り向くとそこにあったのは小さな人影であった。ミライと同じくらいの背丈に白いワンピースを着ており、透き通るような青髪が印象的である。


「誰だ?お前?」


「困ってないの?」


「困ってるぞ。でも誰だ?」


 かたくなに名前を聞きたがるミライ。取りあえずは名前を確認しないと気が済まないようである。


「エリサ、あなたは?」


「エリサちゃんって言うのか。あたしはミライだ。友達とはぐれちゃったんだぞ。


「そうだったの。じゃあ塔に行くといい。」


「何だ塔って?」


「町外れにある。町を隅々まで見渡せる。ほら、あれ。」


 エリサが言うには塔は町外れの高台に立っているようであった。

 彼女の指さす先を見ると確かに高い塔が立っている。町外れにあると行っても現在地も町の外れの方なので行くのにそこまで時間はかからなそうであった。


「なるほどな、あそこに行けばユリカちゃんたちが見つかるんだな。」


「ユリカ?・・・ユリカを捜してるんだ。」


「どうしたんだ?ユリカちゃんを知ってるのか?」


「同じ名前の人を知ってるだけ。もういないけど。」


 ユリカという名前に反応を見せたエリサ。その時少し悲しげな表情を見せた彼女であったが、ミライはそのことには気がついていないようである。


「じゃあ、塔に行くぞー。」


「え、走らなくても・・・」


 エリサの手を引いて塔の方へと駆け出すミライ。

 仲間とはぐれてもまだまだ元気は有り余っているようであった。


 そして石畳の町並みを走ること約20分、彼女たちは高い塔の前にたどり着いていた。


「わふー、近くで見るとすごく高いな。」


 眼前の塔を見上げて声を上げるミライ。

 その石造りの塔は町の中でも圧倒的な高さを誇っていた。そしてその外をらせん状に囲む苔むした階段はこの塔の歴史を物語っている。


「この塔は200年以上前に作られた。でも何のために作られたのか、誰が作ったのかはわからない。」


「そんな昔にこんな高いもんを作ったんかあ。」


 エリサの話を聞き感傷に浸るミライ。

 そのただ高いだけの古ぼけた塔には何やら彼女を引きつけるものがあったようである。

 そして彼女が塔を見上げて停止しているとエリサが横から声をかけた。


「登らないの?」


「あ、登るぞ。暗くなったら見えなくなるもんな。」


 エリサの声で我に返るミライ。現在時刻は5時を回っていた。

 空はすでにあかね色に染まり、日が落ちきるまで

 あと少しといった様子である。


 そして彼女たちは塔登りを開始する。

 中ではなく外に階段が付いている特殊な構造をした塔であったがさすがに階段に手すりは付いているようであった。

 とは言えその手すりも劣化しておりあまり信用できるものではなかったが。どうやらこの塔は長い間手入 れをされていないようであった。

 そんな塔を登っている時、不意にミライが口を開いた。


「エリサちゃんはよくここを登ってるのか?」


 ミライの突然の質問に顔を上げるエリサ。そして彼女は立ち止まってこう言った。


「毎日登ってる。」


「え?何で毎日登ってるんだ?大変だろ。」


 エリサの返答を聞いてミライも立ち止まる。

 塔の高さはどう見ても50メートル以上はあり、誰であれ登るのは一苦労である。

 そんなところを毎日上り下りするというのはあまり考えにくい話であったが、そんなミライの疑問に対する答えは実に簡単なものであった。


「人を捜しているから。」


「そっか、エリサちゃんもあたしと一緒なんだな。」


 納得してまた塔登りを再開するミライ。

 そして彼女たちの額に汗がにじんできた頃彼女たちは塔の屋上にたどり着いていた。


「わふー!良い景色だぞ。」


 彼女の目に広がっていた光景は美しい水都の町並みと、夕日で赤く染まった海であった。

 海は遙かな水平線で空と混じり合い、ありきたりであるはずの風景が幻想的なものへと変化している。

 そしてそんな光景を見ながらエリサが呟く。


「海は私たちの故郷、だから人は海に憧れる。昔誰かが言ってた。」


 小さな声であったがそれは明らかにミライに向けてのものであった。

 そしてその言葉を聞いたミライは不思議そうな顔で返事をした。


「そうなのか?でも人間は神様が作ったんだろ?」


「違う。」


「でもお父さんも先生もみんなそう言ってたぞ?神様を信じていれば救われるって。」


「それは間違っている。神に頼っても良いことはない。」


 端的に自分の意見を言うエリサ。その目には自分の考えが間違っているはずがないという強い自信が感じられた。


「何でわかるんだ?」


 エリサの態度を見て、不思議そうに尋ねるミライ。

 そしてそれに返ってきたのは思いもよらない体験談であった。



「昔、神みたいな女に会った。でもそれがやったのは呪いを振りまくだけ。人間が想像する神なんてこの世界にはいやしない。」



 そう語るエリサの表情には暗い影が落ちていた。


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