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第3話 許すな権力乱用、弱者たちによる赤熱の反逆!!

 ユリカは初仕事だというのに憂鬱な気分になりながら町を歩いていた。


「はあ、これって絶対燃えているキツネが出てくるわよね。」


 そんなことをつぶやきつつ歩くこと10分あっという間に町の外周についた。

 ヴェルナーは辺境の小さい町なので30分も歩けばどこからでも町の外に出られてしまう。まあこの世界においても田舎であると言えるだろう。しかしながら町を囲うように広がる草原は現代日本ではそうそうお目にかかれない心安らぐ原風景だ。


「話には聞いていたけど広い草原ね。いい景色だけど危険な生き物もいるのよね。それさえなければなあ。」


 町を出るまでの憂鬱はどこへやら、すっかりと気分の良くなったユリカ。

 人間気分が上がると独り言が増えるものだ。誰と話しているという訳でもないが自然と言葉が口に出る。ユリカも町中では絶対に言わないような独り言を口ずさみつつ目的地へ向かう。


「地図の場所はここらへんね。さてとキツネはいるかしら?」


 そう言ってあたりを見回すと何の変哲もないキツネを発見する。


「ただのキツネよね?ファイアーフォックスだったら良かったんだけど。」


「なぜ良いのだ?」


「それは駆除するとお金がもらえるし・・・って今の誰?」


 慌てて後ろを振り向くと先ほどのキツネがこちらを見ていた。


「あれ?誰もいない?」


「なるほどな。貴様も我らを狩りに来たハンターという訳か。小娘と思って侮っていたが危ない危ない。」


「あれえ?」


 そのときユリカが驚いたのはキツネがしゃべったことに対してでも、キツネがハンターについて知っていたことに対してでもなかった。

 では何に対してか


「えっ、燃えてない。」


「いいや違うな。」


 キツネはそう言うと一呼吸置いてから


「我らの魂は燃えている。そうこの社会に対する溢れんばかりの怒りによってっ!!」


 キツネはそう言い放つとユリカに向かって突進する。

 戦いの火蓋は今切って落とされた。




 先制攻撃はユリカ、あらかじめ拾っておいた木の棒でキツネの頭を殴る。


ガコッ!!


「ぐはあ」

ドチャアッ!


 キツネは地面に倒れ込んで動かなくなった。


「・・・なんか動物虐待してるみたいで気分悪いわね。なんでこんな動物が駆除の対象なのかしら?」


「知りたいか?」


「えっ?」


 またも独り言にたいして帰ってくる声。


(まだ生きていた?いや声のした方は後ろね。)


 再び声のした方を振り返る。


「貴様、新人のハンターのふりをして同志を欺くとは汚いやつめ。」

「やれやれ、同志は油断したところをつかれてしまったが、二度同じ手が通じると思ったら大間違いだ。」

「その通りだ。生きて帰れるとは思わないことだな。」



「ええ・・・」


 そこにはユリカの予想通りキツネがいた。しかし予想が外れたのは


「いったい何匹いるのよ。」


「我ら30名、無念にも道半ばで散っていった同志の敵を討つためにはせ参じた。不倶戴天の侵略者ハンターに対しこれまでに散っていった全ての同志達の怒りを込め共同的怒りの鉄槌をくだすッ!。」


 こうして第二ラウンドの火蓋が切って落とされた。勝利を手にするのはキツネか人か。



 今度の戦いはキツネ側の先制攻撃で幕を開けた。

 叫んだ次の瞬間キツネたちは集まり球状になる。

 そして


「我らはファイアーフォックス、群生する炎の意志。我らが魔法こそがエゴイスティックな利権のために不当な差別的行為をくり返す人間たちに対するヴァイオレントデモンストレーションッ!。我らが魂を込めたこの恒星は次の同志たちの道を照らす光であり、そして差別と資本主義のはびこる人類社会を滅却する断罪の炎だッ!」


「これは魔法?キツネも使えたの?というかそれうったらあなたたち死ぬってこと?」


「そうだ。しかし我らの道は同志によって引き継がれてゆくのだ。そう全ては平等な世界のために。」


「ええ・・・」


 なんとなく駆除対象にされている理由がわかった気がしたユリカであった。


「くらえぇっ、人民魔法 粛清恒星ブラッディパージ!!」



ゴオッ


 次の瞬間キツネたちが炎に包まれ巨大な火球となって突進する。

 キツネの一匹一匹は小さいとはいえ30匹も集まればかなりの質量となり、それだけの質量を持った高温の物体が時速100キロほどで迫り来る。まさに灼熱の恒星でありその熱波はまだ10メートル以上はなれているはずのユリカにも十分に伝わって来た。


 しかしユリカもキツネたちの長ったらしい口上を何もせずに聞いていたわけではない。キツネたちの魔法が発動するまでの間にユリカも準備を整えていた。


「その一滴の変化こそが星を砕く矛となる。」


 まるで鏡のように、ユリカの言葉は新たな世界を映し出す。


ザアッ


 キツネたちの前に突如として水の壁が現れる。

 しかし


「ふははははぁー、その程度で我らの炎が消えることはない。一瞬で蒸発させてくれるッ!。」


「ええ、その通りでしょうね。」


 恒星はジュッと音を立てて水の壁と衝突し、水の壁による減衰をものともせずに突き進む。文字通り焼け石に水といった様相で水の壁を突破するかに思われたが、数コンマ遅れてそれは起こった。


ドオオン!!


 突如として轟音が鳴り響き、爆風があたりを蹂躙する。


「ちょおっ」


 あまりの衝撃波にユリカの体が宙を舞う。そして


「がっ・・いたあ」


 当然地面にたたきつけられた。


「爆破させるのが近すぎたわね、ごほっ、水も多すぎたし今度やる機会があったら気をつけないと。」


 先ほどの爆発の正体は水蒸気爆発。水が一気に水蒸気になることで体積がいっきに増加し引き起こされる爆発である。その威力は圧倒的で火山の噴火を引き起こすほどだ。当然相手側の温度が非常に高くなければ成功しなかったが、そこは恒星を名乗った相手の力量を信じたユリカであった。とにもかくにもキツネたちは自らの熱量で木っ端みじんに吹き飛んだのだ。



(はあ、ひどい目に遭ったわね。まあ31匹討伐したとなれば報酬はそれなりにもらえるはずだしそろそろ帰ろうかしらって・・・)


「あっ」


 帰る直前で大切なことを思い出したユリカ、驚くことが多すぎてすっかり忘れていたが討伐証明を持ち帰らないと報酬はもらえないのだ。


「危なかったわ、さてコアとやらは・・・」


 ユリカの目に飛び込んできたのは見るも無惨にめくれ上がった地面、ただそれだけであった。そう水蒸気爆発の威力は非常に高い。例えば工場を跡形もなく吹き飛ばしてしまうほどに。ユリカの見つめる地面にはキツネのキの字も残っていなかった。


「え、うそ、成果ゼロ?いや、たしかあっちの方に・・・」


 最初に撲殺したキツネの方を振り返るとキラキラとした結晶が落ちている。


「よかった。一個だけでも持ち帰れば依頼は達成だったはず。でも30匹・・・」


 得をしたような、損をしたような複雑な気持ちになるユリカであった。





組合支部にて


「ファイアーフォックスの討伐お疲れ様でした。無事に戻って来られて本当に良かったです。」


「ええ、まあ」


 げんなりした表情で答えるユリカ。まあ少しよれたキツネの相手をしたあげく、吹き飛ばされたひょうしに体をうったのだから当然と言えば当然か。

その上・・・


「ではこちら達成報酬の銅貨10枚になりますね。」


「ありがとうございます。」


 適当にお礼を言いつつ町の物価を思い出すユリカ。


(ええと、たしかパンが銅貨2枚、宿屋が1泊銅貨10枚(素泊まり)、上着1着銅貨20枚・・・あれ給料安すぎでは?最低賃金とかどうなってるのかしら。労基はいったいなにをやってって・・・)


 この世には神も労基もいないことを思い出したユリカ。


(もしかしてあのキツネたちって資本主義の闇に飲まれたプロレタリアートのなれの果てだったりするのかしら。)


 ユリカがキツネたちから妙な影響を受けていることには気がつかずにそんなことを考えていると


「それではコアはこちらで引き取りましょうか?今なら1つあたり銅貨20枚です。」


「そういえば、コアは達成報酬とは別に引き取ってもらえるのでしたか。」


「はい。今回の依頼はあくまで討伐ですから、コアの所有権はあなたにありますね。もちろんコアの納品といった依頼ではそういうわけにもいきませんが。」


「それにしても1つあたり20枚とはずいぶんと高値なのですね。」


「そうですね。魔法製品を作るために必要ですから、コアは総じて需要は高いんですよ。ただファイアーフォックスのコアはとりにくいということで評判でして供給が追いついていない感じですね。なんでも倒したのにコアを落とさなかったりするそうです。ですから実のところファイアーフォックス関連の依頼は不人気なんですよね。」


(この、いけしゃあしゃあと・・・)


 なぜ最初にそれを言ってくれなかったのだと抗議したい気持ちに駆られるが、今はそれよりも大切なことがあると自分に言い聞かせて踏みとどまるユリカ。


「それではコアの引き取りに関しては今のところ保留とさせてください。」


「え?わかりました。でも怪しげなところとは取引しないでくださいね。加工前のコア本体の取引は国の認可を得た仲介業者またはハンター組合を通じて行わなくてはならないことになっていますので、直接民間企業と取引をするというのは違法になってしまいますよ。」


「・・・そうですか。やはり引き取りをお願いします。」


 不覚にもキツネたちの言っていたことに少し共感してしまったユリカであった。




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