第26話 運命の出会い どう捉えるかは人次第
「運命の印フェイズツー」
「見通す心眼」
「良―し、行くぞー。」
「ちょ、ちょっと待ったあ。」
ユリカ、シャチハタ、ミライの3人が魔法を発動させいざ階段を上ろうとしたとき、アックが突然待ったをかけた。そうアックたち炎の牙の目的は3人が依頼を達成するのを阻止することである。侯爵たちは阻止するまでもなく達成は困難と考えていたため阻止ではなく諦めさせろと言ったわけだが、達成されたら依頼失敗なのには変わらない。
そしてこのままでは達成されるのは目に見えているため炎の牙の面々は焦っていた。
「いや、階段が剣じゃいくら何でも危険じゃねえか?もう少し安全そうな方法を考えるのが良いと思うぜ。」
「そんなに危険じゃないよ。それにお父さんがこの依頼を出したんだからこのくらいの危険は許容だよ。」
「うっ、でもほらあれだ・・・」
「何だぞ?他になんか良い方法があるんならさっさと教えるんだぞ。」
「いや、方法ってのはお前らなんかある?」
「ちょ、俺らに聞いてどうするんすか。」
アックたちは侯爵たちほどずる賢くないようであった。そのまま良い返しを思いつかずに結局3人を止めることは出来なかった炎の牙の4人。ハンターとは往々にして戦闘力以外のものを求められるものである。
「じゃあ、行ってくるぞ。」
結局炎の牙の面々たちに出来ることは落ちてこないように見守ることだけであった。
彼らが見守る中、剣の階段に足をかけるミライ、そしてシャチハタとユリカもその後に続く。
「気をつけて上るのよ。」
「「はーい。」」
ユリカの忠告を聞いて慎重に進んでゆくシャチハタとミライ。側面にさえ気をつけていれば水平に刺さった剣はただの階段と大差ないとはいえ、鋭い剣に気をつけながら進んでいくというのはかなり精神を削られるようであった。
特に何事もなく折り返し地点までたどり着いた3人だったが彼女たちの額には汗がにじんでいた。
「ふえーようやく半分だぞ。」
「ええ、少し休憩してから行きましょうか。」
「でも座るところもないし、あれ?」
「「人?」」
最初に異変に気がついたのはシャチハタであった。そして思考を共有していたことによりユリカとミライも同じことに気がつく。
彼女たちが見たものは骸の木に腰掛ける女性のシルエットであった。
「あれ?最初からいた?」
「木の陰になっていて見えなかったのかしら?でもあんなところに人がいるなんて・・・」
「まあ、行けばわかるぞ。」
明らかに不審な状況ではあったが自分たちも上っていけているのであり得ない話ではないと判断する3人。
そして約10分後階段を何とか上り終えた3人の目の前には少女が座っていた。
「やあ、初めまして、こんなところになんの用だい?」
3人を見て気楽に挨拶をする少女、歳はフレデリカと同じくらいであろうか。しかし彼女とは対照的にその髪は色を忘れてしまったかのように白い。
その少女が纏う空気は今までユリカが出会ってきた人間たちとは一線を画していた。
(人間・・・よね?)
ユリカにそう思わせてしまうほど、おどろおどろしい骸の木を背景に微笑む少女の姿は幻想的であった。
「ふえっ、ええと初めまして、私たちは木の実を取りに来たんです。」
ユリカが固まっているとシャチハタが恐る恐る返事をする。シャチハタとミライも何か不気味な予感を感じ取っているらしい。
そして彼女たちの心境を見透かしたかのように少女は言葉を続ける。
「ああ悪いね。僕ってば他人によく怖がられるんだよねえ。僕としてはこの上なく友好的に接しているつもりなんだけれどどうしてだろう?まあいいや、はい木の実。」
そう言って少女は持っていた木の実をシャチハタに投げ渡す。
「わっ」
急に投げられて慌てながらも木の実をキャッチするシャチハタを横目で見ながらユリカは少女に質問する。
「そう言えば、あなたはどうしてここにいるのですか?」
「どうしてって、それは運命の出会いがあると思ったからかなあ。僕って実を言うと占い師なんだよ。」
ユリカの質問によくわからない答えを返す少女。そして少女は言い終わると立ち上がってユリカたちに近づいていく。
「な、何だぞ?」
「いやどうやら君たちが運命の出会いだったみたいだからねえ、まあそんなに怖がらなくても良いと思うよ。」
彼女の動きに合わせるように後ずさりしていくユリカたちを見てそんなことを口走る白髪の少女。しかしユリカたちはそんな言葉は信用していなかった。
「何ですか、運命の出会いなんてありませんよ。」
「確かにねえ。最初から決まっているなんてロマンのない話だしねえ。いやいや、君の言うとおりさ。運命の出会いなんてゴミみたいなことを言うやつはさっさと地獄に落ちれば良いんだよ。」
さっきまで自分で言っていたことなど忘れてしまったかのように手のひらを返す白髪の少女。
「決定論なんて言うものは無能が自己を正当化するためだけに作り上げた妄言さ。いやはや、君は僕好みの答えを返してくれるねえ。」
「そこまでは言っていませんよ。」
「そうかな?君ならそう思っていると思うんだけどなあ。」
そうこうしている間にも白髪の少女とユリカたちの距離はじりじりと近づいていた。ユリカたちにはもう下がるスペースがなかったのだ。
そして白髪の少女は言葉を続ける。
「ああそうか、自己紹介もせずに近づいたのが悪かったのか。いやいや僕としたことがうっかりしてたぜ。じゃあ、改めて、僕は・・・」
「ッ!飛び降りるわよ!」
「「行くぞー。」」
少女の自己紹介を遮って叫んだユリカ。そして一瞬後、彼女たちは一糸乱れぬ動きで空中にその身を投げていた。
「傷つくなあ、僕に自己紹介されるのがそんなに嫌な・・うん?」
そこでようやく白髪の少女はユリカたちが飛び降りた理由がわかったようだ。
そして彼女がそれに気がついたその瞬間
ドゴォンッ!!
巨大な石像が少女のいた壁面へと突き刺さった。
「なあっ!スタテューオブリストレイントだとおっ?」
「嘘だろ?何でこんなところに出るんだ?」
崖の下では炎の牙の面々が上を見上げて驚愕の表情をしていた。
そしてユリカたちも水球をクッションにしながら落ちてきて彼らに合流する。
「うおっ、お前ら無事だったか。」
「無事だぞ、でもあいつは何だ?」
アックに返事をしながら何か知っていないか尋ねるミライ。そしてアックは敵についての詳細を話す。
「あいつはスタテューオブリストレイントだ。戦略級の魔物で、前に出たときは小国が滅んだらしい。まあその後、黄金の夜明けの魔法使い連中が何とかしたらしいが。とにかく戦略級の魔物が出たら組合に報告しなくちゃなんねえからさっさと戻るぞ。」
「あれ?でも討伐依頼に出てましたよね?」
アックの説明を聞いて不思議そうに尋ねるユリカ。しかしアックの答えは想像の斜め上をいくものであった。
「あれは倒せる魔法使いがいたら誰でも良いから一刻も早く絶滅して欲しいって言う国からの依頼だよ。そこらの軍じゃ手も足も出ねえがたまにとんでもない魔法使いがいるらしいからな。まあ受けるやつなんて見たことねえがな。」
(そういえばあの依頼には出現場所とかの情報がなかったし、失敗したときの違約金もなかったわね。いるかどうかすらもいまいちわかっていなかったのか・・・)
馬鹿みたいな話にようやく納得するユリカ。そしてシャチハタとミライがユリカに話しかける。
「あの人、大丈夫かなあ?」
「まあ。今は町に戻るのが先よ、アレも刺さったまま今のところ動いていないし。」
しかしユリカがそう言った瞬間、その言葉を待っていたかのように石像がゆっくりと動き出した。
「やべえ、逃げるぞ。」
とっさにアックが叫び、それにつられて一目散に駆け出す一行。
しかし少しばかり走り出しが遅かったようだ。
突如として石像に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「無窮の束縛」
ゴアッ!
四方の地面から巨大な石柱が突き出し一瞬にして広大な檻が形成される。
「何これえ?」
「何だ?魔法を使うとは聞いたことあるがこんなにでけえもん作れたんか・・・」
「何でも良いわ、鋼鉄の槍!」
他の人間が立ち往生している中いち早く壁を壊しにかかるフーリン、しかし
ギインッ!
彼女の創り出した鋼鉄の槍はあっさりと壁にはじかれてしまう。
そしてユリカも
「一刃にて其を断つ」
ガギッ!
フーリン同様あっさりとはじかれてしまった。
「ただの石じゃない?」
「まずいっ、来るぞ!」
ガボンの叫びを聞いて上を見上げた一行が目にしたものは宙に浮かぶ巨大な石柱の群れであった。1つ1つが高層ビルに匹敵する大きさをもつそれはまさに戦略級と呼ぶにふさわしい代物であった。確かにあんなものをくらえば数千単位の軍でも一瞬で壊滅するだろう。
そしてそれらの全てが明確な殺意を持って檻の中へと降り注ぐ。
しかしここでアックがAランクたる所以を見せた。
「うおおおおっ!豪腕アックスデストロイイィ!!」
着弾するまで後数秒といったところでアックが壁に斧を振り下ろす。
ドガアッ!!
「へえ?」
今度はユリカがアックに驚かされる番であった。ただ力任せに斧を振り下ろすだけで破壊不可能と思われた石壁を砕いて見せたのだ。
石壁の厚さは1メートル以上もあり、普通の石であろうと斧で破壊できるような代物ではなかったにも関わらずだ。
「飛び込めえっ!」
ドドドドドオン!!
全員が壁の外に飛び出したほんの1秒後に彼らのいた場所に石柱が墜落する。
アックの号令と共に壁の穴に飛び込んだ一行はすんでの所で石柱を躱すことに成功していた。
「あ、あっぶねえー。」
何とか第一撃をやり過ごし胸をなで下ろすアック。
しかし敵の攻撃は終わっていなかった。
「っ!来るっ」
ユリカたちの未来視は数秒後にここに着弾する敵の姿を捉えていた。
先ほどとは違い、今回は縦の移動で躱すことは出来ない。その上あの質量の物体の前では木の陰などに隠れても気休めにもならないだろう。
そして次の瞬間、絶対的な破壊力が襲来した。




