第23話 希少価値=金
「お邪魔しまーす。」
「よく来てくださいましたね。あなたたちがジメジメドミネーターを討伐したハンターですか。」
「あ、いや、コアは持ってるが討伐したのは俺たちじゃねえんだ。」
フーウンジとフレデリカの2人はハンター組合の応接室に来ていた。
応接室には支部長の他にもう1人男がいた。
明らかにそこいらの一般市民とは身分の違う格好をしたその男はフーウンジの返事に不思議そうな顔をする。
「そうなのですか?ではなぜコアを?」
「なぜって、倒したやつが用事で来れないから預かってたんだよ。ていうかあんたはハンター組合の関係者なのか?」
男の格好を見て尋ねるフーウンジ、男も尋ねられることがわかっていたようでよどみなく返事を返す。
「私は魔法学園の者です。今回出たのは通常のジメジメドミネーターとは少々異なる個体だったようでしてね、研究のために直接買い取らせていただきたいのですよ。」
「はあー、やけに数が多かったのもそいつのせいなの?」
「それに関してはこれから調査する予定ですが、また現れたらどれほどの被害が出るかわかりませんからね。なるべく早いうちに調べないといけないのですよ。」
「はあーだからコアが必要なんだな。」
「そうだったのねえ。」
「と言うわけで、そのコアは金貨3枚で買い取らせていただきたいのですがいかがでしょうか?」
2人が納得したところで商談を開始する男。
提示された金額はコアとしては異例の価格であった。
しかし
「えー、命がけだったんだしもう一声欲しいわね。」
「うーん、まあこいつの言うとおりだな。」
こういった交渉はお手の物の2人、伊達に何年もハンター業界でやって来ていないようだ。
この場合では競争相手がいないので価格はつり上げ放題であった。
結局金貨6枚でコアを売りつけたフーウンジたち。
彼らが部屋を出て行くときの足取りはえらく軽やかであったという。
「なるほど、金貨6枚で売れたのですか。」
シャチハタ、ミライと共にギルドに戻ったユリカはフーウンジたちの交渉の結果を聞いていた。
「おうよ、何でも魔法学園のやつが来てな、高値で買い取っていったんだよ。まあここまでつり上げたのは俺たちの交渉の成果だがな。」
「そうよ、フーウンジの意地汚さが役に立ったわ。」
自信満々に交渉の時の様子を語るフーウンジに褒めているのか貶しているのかよくわからないフレデリカであった。しかしユリカは交渉の話よりもその前の話が気になっていた。
「魔法学園の人が来ていたのですか?」
「え?そうだけど?なんかおかしい?」
「いえ、魔法学園から来たにしては到着が早いなと思って。」
「そういやそうだな。ていうか魔法学園とも交渉してたんだったら支部長戻ってきたの早すぎねえか?」
「まあ、交渉がスムーズにいったってだけでしょ。魔法学園のやつも偶然いることもあるだろうし。」
「まあ、そうですよね。」
少し不思議に思ったもののそこまで気にする必要はないと判断したユリカ。いくら遠いとはいえ、ボルンは国でも有数の大都市なので魔法学園の関係者が訪れていたというのも別に不思議な話ではないように思えたのだ。
そして3人がそんな話をしていると横から声をかけられた。
「お待たせー、ハンター登録をしてきたんだぞ。」
「これでずっと一緒だね。」
声をかけてきたのはさっきまで受付でハンター登録をしていたシャチハタとミライである。彼女らの決意は最早誰にも止められないようであった。
「それでは、報酬の取り分についてですが。」
2人のハンター登録が終わり全員がそろったところで重要な話を切り出すユリカ。今回の場合シャチハタとミライは別に依頼を受けていたわけではないのでルール的には報酬を受け取る権利はないのだがユリカ的にはそれは許せなかった。
「ああ、まあそうだな、みんな頑張ったし山分けで良いんじゃないか?」
「うーん、一番頑張ってないフーウンジが言うと嫌な感じだけど、戦闘以外は結構仕事したものねえ。」
「あたしもそれでいいぞ。」
「そうだね、労働の喜びを分かち合うよー。」
「私もそれでいいと思います。」
結局、後に禍根が残りにくい山分けを選択した一行であった。
「じゃあ、報酬は金貨13枚に銀貨5枚だから、ええと1人いくらかしら?」
「金貨2枚に銀貨7枚ですね、やはりドミネーターの収入が大きいですね。」
「わふーお金持ちだぞー。」
「すごーい。何でも買えるよ。」
「あんまり大声でそういうことは言うものではないわ。悪い人に狙われるから。」
予想外の大金にはしゃぎ回るシャチハタとミライとたしなめるユリカであったが2人がはしゃぎ回るのも無理もないことであった。
金貨2枚というと一般的なハンターたちの月収以上に相当する。年端のいかない少女にとってはまさに想像もできないような大金であった。
「まあ、確かにこれだけ金があればしばらく仕事しなくてもすみそうよね。」
「そうだなあ、そういやフレデリカお前暇ができたら王都に行きたいとか行ってなかったっけ?」
「あ、そういやアーティファクトを売りに行かないといけなかったわ。よし明日行くわ。」
「え?売るのですか?」
とんでもない発言に戸惑うユリカ、しかしフレデリカの言葉には足りないところがあった。
「売るって言っても王国によ。ハンターたちの発見を発表するところがあるのよ。そこでアレを発表して一躍時の人になり、そして上流階級の仲間入りを果たすのよ。」
「じゃあ、私たちと一緒だね。」
「え?あんたたちもアーティファクト売るの?」
「違うよお、私たちも旅に出るから王都によるんだ。」
「え、お前ら旅にでんの?」
シャチハタの言葉にいち早く反応したのはフレデリカではなくフーウンジであった。
「そういえば私たちがいなくなるとフーウンジさんと一緒に依頼を受ける人はいなくなりますね。」
「うっ、そうなんだよなあ。」
その心の中を見透かしたようなユリカの発言にうなだれるフーウンジ。
しかし彼女たちに慈悲はなかった。
「まあ、今までも1人でやって来たんだし、別に今更でしょ。」
「そうだね、1人でも頑張ってねフーウンジさん。」
「困ったらフーウンジも友達を作ると良いぞ。」
「一応今までお世話になりました。友達とはいかなくても仕事仲間だとは思っていましたよ。」
「お前ら好き勝手言いやがって・・・」
好き放題言われて少し悲しそうなフーウンジであった。
まあ信用を築けなかったのは大体がフーウンジのせいなので自業自得ではあったが。
「じゃあ、今日は解散ね。」
そしてそのままの流れで今日は解散と相成るユリカたち。
やりきった表情で組合を出て行ったフーウンジとフレデリカを見送る、ユリカ、シャチハタ、ミライの3人。彼女たちの表情は対照的に真剣であった。
そうこれから彼女たちには最後の戦いが残っていたのだ。
「じゃあ、私たちも行きましょうか。」
「そうだな、みんなに冒険に出ることを認めてもらわないといけないぞ。」
「恫喝してでもなんとかしてみせるから応援しててね、ユリカちゃん。」
最後の戦いとはシャチハタとミライが冒険に出る許可を家族にもらうことだった。
そして3人は足取りをそろえて2人の家族が住まう家へ向かうのであった。
「ちょっと待って、これはおかしいわ。」
目的地に着いたときユリカの顔は引きつっていた。しかしそれも無理のないことである。彼女の目の前に建っていたのはこの町で最も巨大な屋敷であった。
「ただいまー帰ったよー。」
ガチャリという音と共に大きな正門が開き、中から執事服の男が出てくる。
「お待たせしました、お嬢様方。おや?そちらの方は?」
「ユリカちゃんだぞ。」
「友達だよ。すごい魔法使いなんだよ。」
「左様でしたか。それでは客間までご案内いたします。申し遅れました、私トッケン家執事長を務めさせていただいております、ブラーと申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。」
「は、はい。ユリカです。よろしくお願いします・・・」
そここそがこの町の支配者たるトッケン侯爵家の屋敷であった。




