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第21話 努力、勝利、そして芽生える友情

「では大したことはありませんが作戦を説明します。私たち3人で突撃するので風雲児さんたちは生き残っているハンターたちと協力してコアを拾い集めてください。」


「なるほど、復活を阻止する訳ね。」


「そんくらいなら楽勝だぜ。」


「それで私たちは先ほど調整した魔法で敵を削りつつ大きいクラゲを目指しますが、時間はかかるでしょう。撤回の判断は各自で行ってください。」


「死闘だぞ。」


「砲煙弾雨を駆け抜けるよ!」


「どこでそんな言葉覚えたのよ・・・」


 シャチハタとミライのやる気は十分であった。

 そしてユリカもそれは同じである。


「準備は整いました。手はず通りに行きますよ。」


「作戦開始っ!」


「「ゴー」」

「よっしゃあ、ぶち殺してやるわ!」

「俺らはあっちだぞー。」


 ユリカの号令で戦いの幕が上がった。

 早速シャチハタとミライが詠唱を開始する。


運命の印(シンボルコネクト)

見通す心眼(フューチャーアイ)


 3人が手をつなぎ未来視の魔法が発動する。

 そして間髪入れずにユリカが叫ぶ。


「合わせるわよ!」

「「合点承知ぃ!」」


 3人の目に映るは殺戮の嵐、絶対的な暴威が顕現する。


「「「千撃千殺サウザンド・エクスティンクション!!」」」


「「「かけるスリイイィ!!」」」」


 三千の刃が突如として戦場に殺到する。そして次の瞬間大地を揺るがす轟音が鳴り響いた。


ドドドドドドドドオン!!


 切断されたクラゲたちが爆発しとてつもない空振が発生したのだ。


「絶滅の三刀っ!」


 ギリギリでユリカの魔法が発動し、辺りを蹂躙する衝撃波を3本の大剣がせき止める。

 しかし敵も黙ってはいなかった。衝撃波が過ぎ去った瞬間、クラゲたちが3人めがけて突進を始める。


「いくわよっ!」


 とはいえ3人には当然この未来はわかっていた。

 まだ距離があるうちにすぐさま大剣の影から飛び出て走り出し、敵が近づききる前に次の詠唱も完成させていた。


「「サウザンドォ・エクスティンクション!!」」

「絶滅の三刀!」


 再度大技を放つ少女たち。とはいえそれだけでは360度から飛来するクラゲを全て迎撃することは困難であった。

 攻撃の合間を縫って何匹かのクラゲがユリカたちに迫る。

 しかしここで未来視がその力を存分に発揮した。


「右1メートルっ!」


「次は左だぞっ!」


 神がかり的な動きでクラゲたちを回避していく少女たち。

 爆発により土埃が舞い視界は最悪であったが未来視を持つ彼女たちにとっては逆に大きなアドバンテージとなっていた。せっかく斬撃を避けたクラゲたちもほとんどがユリカたちを補足できずに地面に突っ込んでいく。


「こしゃくな小娘共が、神の力を思い知れっ!」


 しかしやられるままの相手ではなかった。またしても天から声が響き渡り戦場中に散っていたクラゲたちが集まってくる。


「わあっ、さすがに多すぎるぞ。」


「ここからが本番ね、キツネたち聞こえているかしらっ?」


「ふん、共闘か、貴様らは憎いが今はあのふざけた劣等民族を粛清するのが先か。良いだろう、ゆくぞっ同志たちよ。」


 一際大きなキツネがユリカの意図を瞬時にくみ取った。

 そしてその号令に呼応して他のキツネたちが一斉に詠唱を開始する。


「指導者に続けえ!!人民魔法 粛清恒星(ブラッディパージ)!!」



 数多の火球が天へと駆け上がっていく。まるで重力のくびきから解き放たれたように火球が宙を舞うその光景は、まさにこの世の終わりといった様相である。


「こしゃくなあ!アカ共のくせにいいいいいい!!」


「真の世界平和を実現するために戦う我々と私欲にまみれた戦いしか出来ない卑しい帝国主義者共とではやはり格が違ったようだな。」


 決めぜりふもとい悪口を放つキツネ、下手すると人間以上に口が達者である。



ドドドドドドドドオン!!


 キツネたちの援護射撃が炸裂し、またしても轟音が鳴り響きクラゲたちで覆い尽くされていた空に穴が開く。そしてその遙か上空には巨大なクラゲが浮いていた。


「見えたっ、あいつが親玉だぞっ!」


「でも高すぎて届かないよお。」


「ふん、最後まで手のかかる奴らだ。我ら最高民族の叡智を貸してやる。同志たちよ、最後の魔法だ、いくぞ究極奥義!」


「全人民魔法、天へと翔る一条の光ボヤージュ・オブ・ミラクロス!!」


 ユリカたちの様子を見て素早い援護を行うキツネたち。

 キツネたちの力を結集したその魔法は天へと続く光の道を作り上げた。そして


「「「うええええええええっ?」」」



 突如として現れた光の帯に沿ってユリカたちは上空へ打ち出された。感覚的には遊園地にある逆フリーフォールと似たようなものだろうか。

 そして幸いにも手をつないでいたためバラバラになることはなかった彼女たちの目の前には巨大なクラゲ、ジメジメドミネーターが浮かんでいる。


「おのれおのれこしゃくなあ!死ねえ、玉砕指令(インペリアリズム)!!」


 嘆きにも似たドミネーターの号令により慌てて周囲からクラゲたちが集まってくる。しかしそれはほんの少しばかり遅かった。


「一気に決めるぞ!」


「私たちの絆を見せてやるう!」


「出し惜しみはもう終わりよ!」


「行くよお、運命の印(シンボルコネクト)フェイズツー!!」


 シンボルコネクトフェイズ2、それはシャチハタが持つ魔法の真の姿である。フェイズ1がお互いの持つ魔法のみを共有したのに対し、フェイズ2では精神や思考すらも共有するため長く使えば心に異常をきたしかねない危険な奥義であった。

 しかしそれだけにその効果は絶大であった。


「これならいけるわ。いくわよ!」


 ユリカの合図がくだり少女たちは必殺の魔法を撃ち放つ。


「「「真・千撃千殺(エスカトン・レイン)!!」」」


 ユリカの驚異的な演算能力とミライの魔法を共有したことにより、一切の無駄なく斬撃を放つ少女たち。その斬檄の豪雨は敵の防御のことごとくをすり抜け、届きうる反撃はすべからく切って落とす。

 最早少女たちの一挙手一投足がこの場における絶対の正解であった。


「ぐはあああああ!!ありえん、神の力があ!」


 そして少女たちはポーズとともに決め台詞を放つ。


「これこそが私たちの絆の力!」

「未来を支配する究極の魔法!」

「そして大切なものを守る決意の証明!」


「「「絶対の未来(ラプラス)」」」


 少女たちが作り上げた究極の魔法、それは正解を選び出す全知の技法であった。

 万能の悪魔の名を謳うその魔法に対して敵に出来る抵抗など存在しなかった。


「馬鹿なあ、ありえん、小娘のくせにい、無知蒙昧な労働者階級の、くせにいいいいいいいいいいい!!」


 断末魔と共についに巨大なクラゲが限界を迎え、その体が光に包まれていく。


「「「私たちの勝ちだあ!」」」


ドオオオオン!


 3人が勝ちどきを上げるのと同時に一際大きな爆発が巻き起こり、そして残っていたクラゲたちの大群もそれにつられて爆発していく。


 爆発が鳴り止んだ後空に残っていたのは雲1つない快晴であった。






「うわっ!なんだ今の馬鹿でけえ爆発は?」


「空が晴れていくわ・・・」


 ユリカの指示は聞いてかなり主戦場からは離れた位置で他のハンターたちとともにコア拾いに精を出していたフレデリカとフーウンジは、戦場に響き渡った爆発音につられて顔を上げていた。

 もちろん他のハンターたちも同様に空を見上げている。

 彼らが見たものは晴れ渡る青空であった。


「うおおっ、あいつら勝ったってことだよな。」


「そうに決まってるでしょ、ぼさぼさしてないで早く合流するわよ。」


 ユリカたちがいる方向に早速駆け出すフレデリカとフーウンジ。

 他のハンターたちも降り注ぐコアの雨を見て喜びの声を上げる。


「これで町は救われたぞお!」


「ほら、急いでコアを集めるんだよ!」


「逃げなくて良かったあ。」


 喜びようは人それぞれであったが逃げずにこの場にとどまった彼らはきっと町を守りたかったのだろう。

 大地を覆い尽くすほどのコアは彼らへのささやかなご褒美だった。






「ぷへえー、やったねえ・・・」


「勝ったわね・・・」


「やっつけたぞ・・・」


 大任を果たした少女たちは草むらの上に寝転がっていた。

 少女たちは頭からつま先までびしょ濡れであったがその気分は晴れ晴れとしていただろう。

 ・・・1人を除いて


「はあ、なんか叫んだり、ポーズ決めたり・・・」


(あああっ!恥ずかしいいい!!何であんなことをしたのよ、私?いくら精神が繋がってるったって、あんなこと叫ぶ必要なんて・・うああ)


 羞恥心にもだえ苦しむユリカ。しかしユリカの羞恥心など知るよしもないシャチハタとミライがさらに   ユリカに追い打ちをかける。


「本当にありがとうユリカちゃん、勝てたのはユリカちゃんのおかげだよ。」


「最後のポーズもユリカちゃんが一番格好良かったぞ。」


(うぐううううう!)


「い、いや、一番頑張ったのはあなたたちよ、私は手伝っただけだから。」


 何とか気持ちを立て直すユリカ。


(そうよ、考えてみたらアレはこの子たちにしか見られてないわけだし気にすることないわ・・・ないのよ。)


 ユリカが自分に言い聞かせていると左右にいたシャチハタとミライが転がってくる。


「えへへ、これで私たちもっと仲良しだね。」

「ぎゅーしてやるぞー。」


「ふわっ!」


「「ぎゅー」」


 シャチハタとミライに抱きつかれるユリカ。仲良し2人組は仲良し3人組になったようであった。


(なんかこうしているとさっきまでのことなんてどうでも良くなってくるわね)


「ふふっ。」


 自分の考えていたことがどうでも良いことだったとわかり思わず笑い出すユリカ。そしてそれにつられてシャチハタとミライも笑い出した。


「うふふふ。」

「わっはっはっは!」


 それはなんとも微笑ましい光景であった。

 そして3人がそうこうしていると遠くから聞き覚えのある声が響いてきた。


「おーい、無事かあー。」


「あんたらーキツネはまだ残ってるから気をつけなさいよねー。」


「「「あっ」」」


 駆け寄ってきたのはフレデリカとフーウンジであったが、この場にはもう一つの勢力があったことを思いだしたユリカたち。

 慌てて辺りを見回す3人だが警戒する必要はなかったようだ。一際大きいキツネが彼女たちに話しかける。


「貴様らは反革命の悪党共だが今日は我々も損耗しているし見逃してやろう。だが忘れぬことだ、世界革命の日は近いということを。」


 不吉なことを言い残しキツネたちはその場を後にしていった。


(なんか嫌な予感はするけれど今回は助かったみたいね。)



 なんやかんやあったが結果的には大勝利を収めたユリカたちであった。





 そして彼女たちが勝利を喜び合っているころ町では


「報告します。」


「なんだ?娘たちが見つかったか?」


「いえ、敵の大群ですがハンターによって殲滅された模様です。」


「な、何だとお?壊滅したのはハンターたちだったはずであろうが。」


「ですが、監視部隊からの報告では確かに敵は1匹も残っていないとのことです。」


「む、むう?どういうことだ?」


 すでに避難の準備を整え、後は娘たちが見つかり次第町を出るところであったトッケン侯爵は部下の報告に困惑していた。実際に町の様子を見てみても大勢のハンターが逃げ帰ってきていた。そんな状況で戦況が逆転するなどどう考えてもおかしな話である。


「は、博士どう思う?」


「ふむ、ジメジメドミネーターが自爆することはないと言われております。要するに・・・」


「要するに?」


「一切のことはわかりません。」


「またか・・・まあ、良い。ハンター組合に後で話を聞けばわかるであろう。少なくとも誰がやったのかは把握しておかんとな。」


 領主たちが衝撃の真相を知ったのは屋敷に戻ってまもなくのことであった。



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