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第19話 KAMIKAZE (形容詞) 向こう見ずな、無謀な


ザアー


「はあ、外行きたくないわね。」


「でも昨日休んでしまったから今日は働かないと。」


 ユリカとフレデリカは2人で組合に顔を出していた。

 天気は良くないが今の彼女らにとっては休む理由にはならないようであった。

 そしてもう1人、休むわけにはいかない男が2人に声をかける。



「よお」


「な、出やがったわねフーウンジ、ユリカは渡さないわよ。」


「いやいや、独占は許されないぜ、ユリカはみんなのものだろ。」


「人を公共の財産みたいに言わないでくれますかね・・・」


 フレデリカに独り占めは良くないと説くフーウンジ、ちなみに全然良いことを言っているわけではない。


「まあ、いいだろ?良い感じの依頼があるんだよ。」


 うまいこと言って差し出されたのは1枚の依頼書であった。


「ん?雨天の支配者(ジメジメドミネーター)または雨天の特攻隊(ジメジメカミカゼ)の討伐ねえ。何こいつ?」


「こいつは雨の日にのみ現れる珍しい魔物だ。だから難易度の割に報酬がおいしいんだよ。まあ、ドミネーターは強いっていう噂だが1匹しかでねえ。みんな同じ依頼を受けているから他の奴らに押しつければ安全だ。」


「そんなに依頼を出すのには何か意味があるのですかね?」


「ああ、これはボルンの領主からの依頼なんだよ、数が増えると町まで攻め入ってくるから対策がいるんだとさ。まあ領主軍を動かしたくないんだろうな。」


(自軍を動かすよりはかかるお金が少ないって判断したのね。)


「そういうことならまあいいわ。」


「私に組むメリットあります?」


「いやいや俺の索敵能力は必要不可欠だろ。」


「私だって雨で視界が悪いとこ照らして見やすく出来るわよ。」


「行くとこ平原なのですが・・・」


「まあ3人で行った方が安全なのには間違いないわよ。」


「はあ、わかりましたよ。」


 結局押し切られて同行することになるユリカ。なんだかんだ言っても付き合いの良いユリカであった。





 3人が現地に着くとそこはすでに大勢のハンターで賑わっていた。

 結構な雨が降っているがどのハンターもそんなこと気にかけていない様子である。


「さっさと帰らないと風邪を引きそうですね。」


「ああ、だから奴らと戦うときはいつも短期決戦だ。」


「ん?何か前の方が騒がしいわね。」


 ユリカとフーウンジが話し込んでいるとフレデリカが何かに気がついた。しかし雨で視界も悪く、音の届きも良くないため何が起きているのかはいまいちわかっていないようだった。

 しかし、それを聞いたフーウンジは即座に判断する。


「俺が気がついていねえってことはまだかなり距離はあるが来たみてえだな。よしいったんは前に出ずに様子見して、後ろに流れてくるやつだけを狩るぞ。」



 フーウンジの見解では前方にいたハンターたちはもう戦闘を開始しているようだった。

 しかしフレデリカが彼の意見に異を唱える。


「はあ?今最後尾なんだからもう少し前に出ないとまともに獲物なんて流れてこないでしょ。せっかく雨の日なんかに出張ってきてるんだからユリカもいるんだし前に行くべきよ。」


「でも、前に戦ったときは結構後ろの方にも来てたんだよなあ。」


「まあ、敵の数が少ないのかも知れませんし、少なくとも見える範囲にはいませんね。少し前に出てみても良いのでは?」


 ユリカとしても報酬が少ないのはいただけなかった。何せ2日後にはお金がかかるイベントが控えているのだ。ただでさえ3等分して報酬が減るというのにこのままでは後列にいる他のハンターたちとも獲物の奪い合いをするはめになりそうである。


「ほら、周りのハンターも前に行き始めているし、私たちも行くわよ。」


 結局フレデリカを先頭にして真ん中のあたりまで進んだ3人であった。



「あ、来るぞ。」


 最初に敵を発見したのはやはりフーウンジであった。ユリカがフーウンジの目線の先を見るとそこにはクラゲのような生き物が浮かんでいた。


「お、あいつね、私に任せなさいっ。」


 ようやく獲物を発見できてノリノリのフレデリカ。即座に魔法を詠唱する。


我が手に握るは(ミストル)翠緑の楔(テイン)


 フレデリカの手元に緑色の粒子が集まっていき、それが弓矢を形作る。

 相変わらず幻想的な光景であった。

 しかし


「でも倒せんのか?」


「はあ?馬鹿にしないでよね。あんなぷよぷよしたやつ倒せないわけないでしょうが。くらえっ!」


ヒュッ


「あっ」


 風切り音を立てて敵に迫る矢であったが、クラゲのような見た目からは想像できない俊敏な動きで躱されてしまう。

 そして


ゴオッ!


 それは突然向きを変えると先ほど矢を躱したのと変わらない速度でフレデリカめがけて突進してきた。


「上等よ、ぶっ殺してやるわ!ミストルテインッ!」


 もう一度弓を構えるフレデリカ、しかしフーウンジが慌てて叫ぶ。


「馬鹿っ、いったん避けろっ!」


「絶滅の三刀」


 しかしフーウンジの忠告は少しばかり遅かった。

 フレデリカの矢は至近距離で敵に命中する。

 そしてその瞬間クラゲが光り輝いた。


「へっ?」


ドオンッ!!


 その直後に起こったのは大爆発であった。辺りの地面がめくれ上がり粉塵が宙を舞う。

 しかし


「きゃあっ、ってあれ?剣?」


(カミカゼってついていたから警戒はしていたけどまさか本当に来るとは・・・)


 不吉な名前だったので一応警戒だけはしておいたユリカ。それが功を奏して間一髪助かったフレデリカであった。


「ふう、危なかったな。あいつらは突っ込んできたときは爆発するんだよ。」


「はあ?何で最初に言わないのよ、この馬鹿っ。」


 フレデリカの怒りはもっともである。フーウンジは説明をすっかり忘れていたようであった。


「まあ、何がともあれ一匹討伐だ。」


 そう言って、地面からコアを拾い上げるフーウンジ。


「自爆でもコアは落とすのですね。というかフーウンジさんは前回どうやって倒していたのですか?」


 確かに遠距離攻撃が出来ないフーウンジが倒せそうな相手ではない。

 しかし、その答えは簡単だった。


「いや、他人のところに突っ込んでいったやつのコア拾い集めてただけだし・・・」


「「・・・」」


 フーウンジの索敵能力を考えると最も効率的な方法ではあった。

 とはいえ、残りの2人は釈然としていないようだが。


「おっ、また来るぞ、今度は3匹だ。」


「撃墜します。」


「一刃にて其を断つ」


キンッ


 一瞬空に閃光が走り、宙を舞うクラゲが両断される。

 そして


ドオォン!!


 次の瞬間空中で爆発して消し飛んでいった。


「よおし、よくやった。」


 慣れた手つきでコアを拾い集めるフーウンジ。そして


「さっきはよくもやってくれたわね、死ねえっ」


 フレデリカも別の方向から飛んできたクラゲを撃墜する。


「お、また来たぜ、こいつは大漁だな。」


「よっしゃあ、皆殺しにしてやるわ!」


 フーウンジが発見してユリカとフレデリカが撃墜する。

 一見、この上なく順調に依頼を達成していっているようだが、少したつと異変が現れ始めた。


「あれ?なんか多いな?」


 いつの間にか辺りからはたくさんの爆発音が聞こえてくるようになっていた。

 そして気がつけば、他のクラゲとは一線を画す巨大なクラゲが宙に浮いている。


「うわ、あれがドミネーターか。でも何でだ?そんな前には出てねえぞ?」


「もしかして前のハンターは壊滅したのでは?」


 クラゲの数が一気に増えて嫌な予感を感じ取ったユリカ。

 そしてユリカの予想を裏付けるように突然空から声が響き渡った。


「さあ敵の前衛は殲滅した。我らには神の加護がついている、全軍特攻せよ。」


「うわあ、しゃべった・・・」


 キツネといいこの手の魔物にはしゃべる種類が多いようだ。

 そしてその声に勢いづけられるようにこの場は激戦地へと移り変わってゆく。


「うわあぁぁぁ!!」


ドオォン!


 周りではすでに何人ものハンターが爆風で宙を舞っている。

 その様子はさながら紛争地帯のようであった。


「ちょっ、これまずくない?」


「やべえ、撤退するぞ、よいしょっと。」


 撤退の判断が早いフーウンジ。

 そう言っておもむろにユリカを背負い上げる。


「え?急に何ですか?」


「俺が走るからお前は後ろだけ見て飛んでくるやつを落とせ、普通に走っても避けきれん。」


「ほらさっさと行くわよ。」


 もはやコアを拾い集めるどころではなく、町に向かって一目散に駆け出す2人。ユリカもフーウンジの背中から魔法を放ち追いすがるクラゲたちを撃墜する。


「一刃にて其を断つ。」


ドドドドドオン!


 ユリカが切ったクラゲが爆発し、そして他のクラゲも巻き込まれて連鎖爆発を引き起こす。

 一度に大量のクラゲを仕留めることは出来たが焼け石に水であった。


「くっそ、数が多すぎるか」


 敵の数はあまりに多すぎた。いつの間にか空はクラゲで覆い尽くされている。


「あのでかいのやれないの?」


「射程外です。」


「くっ、煽っておいて自分は高みの見物なんてろくでもないやつね。ぶっ殺してやりたいわ。」


「フレデリカさんがそれを言いますか?」


 こんな会話をしているが状況は厳しかった。そもそも町へ逃げ込んだところでかまわずに追いかけてきそうな勢いである。

 他のハンターたちも次々とやられていき、ユリカたちに攻撃が集中し始めた。


「くそ、やべえな・・」


 しかし平原のある地点を通過したときそんな状況は変化を見せた。


「ふん、帝国主義の豚どもめが、我らの領土に土足で踏み込んでくるとはな、我らが赤き星のもとに粛清してやろう。」


「「「うわっでたあ!」」」


 ユリカに、いや全ハンターにとってのトラウマが姿を現す。


「独裁政治を許さない。我々に対する不当な侵略行為をくり返す劣等民族は、可及的速やかに自己批判せよっ!」




新たなる絶望が襲来した。


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