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第11話 なによりもまずは頭数をそろえろ!

「着いたぜ。」


 町を出て歩くこと約2時間、ユリカたち一行は山の麓に到着していた。


「これがダンジョンですか、なんかずいぶん小さいような・・・」


 ユリカの目の前には地震で出来たと思われる断層が広がっている。そして確かにそこには人1人くらいならば入っていけそうな大きさの洞穴が見えるが、ユリカの想像していたダンジョンのイメージとは幾分かかけ離れたものであった。


「中は広いのよ、中は。」


 ユリカの疑問に答えるようにそうつぶやいたフレデリカ。


「ある程度の下調べは済んでいるわ。なんたってあの中を丸1日も捜索したんだから。」


 自信満々にそう言い放つフレデリカだったがそこでユリカに1つの疑問が浮かんだ。


「そう言えば、フレデリカさんは何で私たちと来ることにしたのですか?あまりメリットがないように思えるのですが。」


「ええ、最初は私もそう思って1人で探索しようと思ってたんだけど、1人だと調べ切れそうにないのよ。」


「なるほど、そんなに広いのですか。」


「まあ、そういうことね。まあ私はハンターとしての功績さえ立てられればそれでいいから逆にデメリットもないし。」


「功績ですか?」


「ええそうよ。アーティファクトを発見したハンターって国から爵位がもらえたりするじゃない?私はそういうのを狙ってるの。お金なんてそれに比べたら二の次よ。でも大手が来ちゃってからだとそういうチャンスもなくなっちゃうし、私としても渡りに船だったってわけ。」


「あいつらの人海戦術はすげえからなあ。」


 フレデリカの言葉に相づちを打つフーウンジ。確かにダンジョンの規模が大きければ大きいほど人数を用意出来た組織が有利になるだろう。この世界には1つのチームにつき4人までといった制約は存在しない。


(確かに大手に参入されてから真っ向勝負で競い合うのは不可能よね。何か一芸でもあればなんとかなるかも知れないけれど風雲児さんにはなさそうだし。)


 言ってしまえば大手企業対ベンチャー企業と言ったところか。総力で劣ると言っても他にはない一芸を持っていたり、いち早く新規市場を開拓出来たりと、何らかの優位性を持っていれば対抗できる。

 この場合は少数故の行動の早さと、偶然このダンジョンを早期に発見できたということが大手に対抗しうる唯一のアドバンテージとなるだろう。


「でも、こっちの戦力もこれで3倍になったわ。結局のところ一番強い力は数なのよ。奴らはおそらく3日後くらいにはやってくるから、その前にさっさと終わらせるわよ。」


「え?3日もやるのですか?」


「当たり前でしょ、とんでもなく広いんだから。」


「まあ、ユリカもどうせ暇だし良いだろ?」


「暇ではないのですがね。」


 ユリカは4日後に受験を控えているのでお金に余裕は一切ないのだ。しかしそんなユリカの心を読んだかのようにフレデリカが口を開く。


「まあ、いざとなったらその大手グループに私たちで作った地図を売るから収入0ってことはないはずよ。大手からしても他の大手と競争するわけだから買わないわけにはいかないでしょうし。」


「よし、これでただ働きはなくなった。恐れるものは何もねえ。」


「わかったら早速潜るわよ。無駄にして良い時間なんて1秒だってないんだから!」


「はあ・・・」


 あまり乗り気のしないユリカであったが、そんな気など知りもしない2人は意気揚々とダンジョンに潜っていく。ここまで来てしまった以上は一蓮托生、ユリカに帰るという選択肢は残されていなかった。





「これは・・すごい。」


 狭い通路を下り続けること約5分、ユリカの目の前には広大な空間が広がっていた。

 地下深くであるにもかかわらずその空間には光が満ちており、その光が空間内に配置された人工的な建造物を照らし出している。外界とは隔絶したその光景はまさに神秘と呼ぶに足るであろう。


(確かにハンターたちが憧れるのもわかるわね。雰囲気で言うとメソポタミアの遺跡に近いかしら。洞窟にいるって感じはしないわね。)



 少しだけ感傷に浸っているユリカに対してムードの読めないフレデリカが話しかける。


「さあ、見とれてる場合じゃないわ、さっさと行動開始よ。」


「・・・」


「で、どうするんだ?やっぱり手分けして探すのか?」


「あたりまえじゃない。3人で来た意味がないでしょ。今から担当を決めるから地図を見て。」


 フレデリカはそう言って地図を取り出し、その1か所を指さす。


「まずここがフーウンジね。」


「まあ良いけど、何で俺なんだ?」


「一番広いからよ。このダンジョンは大きく3つのブロックに分けられるわ。この右ブロックは全体の半分くらいの広さだけどフーウンジならいけるでしょ?」


「まあ、こういうのは得意だが・・・」


「そしてユリカはこの一番狭いブロックを担当。」


「理由を聞いても?」


 狭いと聞くと一見楽そうではあるが何かあるのではと勘ぐるユリカ。この数日ですっかりすれてしまったようだ。


「まあ、あんたが一番小さいってのと、それとフーウンジが言っていた魔法に期待してるのよ。」


「魔法ですか・・」


 なんだか嫌な予感を感じ取ったユリカ。


「ええ、あそこは実を言うと私も入ってないの、ちょっと近寄りがたい雰囲気があったのよ。でも調べないというわけにもいかないでしょ?」


「はあ、危険と言うことですか?」


「なんとなく行きたくないってだけよ。具体的に何を見たとか聞いたとか、そういうのはないわ。ほら、暗いところとかってなにもなくても行きたくないでしょ、あんな感じよ。」


「理由はわかりましたが、魔法は関係なくないですか?」


「それは万が一なんか出てくるとしたら多分あそこだからよ。魔物を虐殺することに特化したあんたの魔法ならなんとかなるでしょ。」


「フーウンジさんは私のことを一体どう説明したのですかね・・・」


 釈然としないユリカであったが、分担に関しては文句はなかった。


(まあ、未開の遺跡を不気味だと感じるのは別に不思議なことじゃないし、探す範囲が狭いのは楽で良いわね。)


 ユリカからすればフレデリカの言っていることは、子供があの部屋は暗くてお化けが出そうと言っているのとさほど変わらず、考慮するには値しなかった。


「じゃあ担当はこれで決まり。このダンジョンは馬鹿広いからちまちまやってても終わらないわ、次に集まるのは7時間後よ、集合場所はもちろんここね。」


「わかったぜ。何か見つけても絶対に独り占めするんじゃねえぞ。」


「フーウンジさんがそれを言いますかね・・・」


「万が一戻ってこないやつがいたらおいてくから集合時間は厳守すること。じゃあ解散よ。」



 きびきびと指示を出すフレデリカ。孤高の一匹狼を自称するにしてはチームプレイに慣れているようであった。


 その後フレデリカの指示通りに分かれた3人は、それぞれの目標のために歩を進める。

 あるものは功績を立てるため、あるものは神秘を解き明かすため、そしてあるものはさっさと帰るため、皆それぞれの思惑を胸にダンジョンの奥へと潜っていくのであった。






 仲間たちと別れたユリカは1人石畳の通路を歩いていた。

 ユリカの担当は遺跡の西の端に位置する巨大な建造物の内部調査である。別れた地点から1キロほど離れたその建造物はこの遺跡の中においても異様な存在感を放っていた。


「近くで見るとやっぱり大きいわね。」


 ユリカが思わず声に出すのも無理はなかった。

 それは高さだけでも高層ビルに匹敵するほどの巨大な三角錐であった。近いもので言うとギザの大ピラミッドを想像するとわかりやすいだろうか。とは言え緑の植物に覆われており砂漠に存在するあれとは似ても似つかない色合いではあるが。


(密林のピラミッドはこんな外見なのかしら?それにしても入り口を隠してすらいないなんてピラミッドと似ているのは形だけね。)



 三角錐の正面と思われる面には人が何人もいっぺんに出入りできる大きさの穴が開いていた。文字に起こすと大して目新しくもない普通の入り口のように思えるがユリカの目はとある異常を捉えていた。


(なんで扉もついていないのに中の様子が見えないのかしら?)


 扉がついておらず中が丸見えのはずの三角柱の内部はまるでもやでもかかったかのようにかすんでいる。中から光が漏れているということだけがかろうじてユリカが得ることの出来た情報であった。


(これは、確かに入りたくないわよね・・・)



 外界から切り離された空間。ドアはなくとも確かにそこに仕切りはあった。

 異形の時の本能に訴えかけてくるような恐怖は感じない。されど内部は外部とは違う、そのことをユリカはひしひしと感じていた。


(怖くはないわね、まあアレのせいで慣れたのかも知れないけれど・・・でもまあ異常なのは確かよね。どうしよう?)



 入り口付近まで近づいて立ち止まるユリカ。

 それもそのはず、今回は入ったら何かが起こるのはほぼ確実と言って良いような状況なのだ。しかもその何かについては一切想像が出来ない。


(まあ、別に危険な感じはしないし良いかしら?ここまで来て何も調べないのも馬鹿らしいし。それに・・・)


 深いことを考えないことにしたユリカ。

 考えてもわからないものは考えない。それが彼女のモットーであり強みである。

 人は未知に遭遇したとき往々にして恐れの感情を抱き、前に踏み出せなくなる。しかしながらユリカはなんとなくを信じない、故に機会を逃さない。



「まあ、多少は楽しみよね。」


 そう言って入り口をくぐるユリカ。

 彼女もまた年相応の探究心を持つ少女であった。


 しかしながら忘れてはいけないのは選択の責任を持つのはいつだって自分だということだ。

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