表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/59

令嬢と最強種 4

「セレンストラ……?」

「念のため言っとくけど、名前じゃなくて種名だぞ」

「それくらい判っているわ」

 明らかに揶揄うような口調で言われた言葉に、アルマニアは少しだけむっとした声でそう返してから、でも、と続けた。

「セレンストラなんて単語、初めて聞いたわ。一応、古文書にあるような古の言葉も少しは学んでいるのだけれど」

 小さく首を傾げた彼女に、男は笑った。

「セレンストラのことを知ってる奴なんて、本当にごく僅かさ。少なくとも、この世界にはいないだろうな」

「……私を攫ったときにドラゴンの姿になったから、てっきり空想上の生き物であるはずのドラゴンが実は実在していたのかとも思ったのだけれど、違うのね」

 確かめるように言った彼女に、男はいや、と言った。

「俺はドラゴンじゃないが、ドラゴンは存在するぞ。つってもこの世界にはいねぇが」

「……異世界には存在する、ということ?」

「ああ。ま、人間がドラゴンと認識しているもののほとんどは人間と本人が勝手にそう呼んでいるだけの存在で、種として正式に確立しているドラゴンってのはほんの一握りなんだけどな」

 だから、本物のドラゴンが存在する世界は数えるほどしかない、と言った男に対し、アルマニアは少しだけ考えるような素振りを見せてから、口を開いた。

「……それじゃあ、貴方のあの姿も、一般にドラゴンを想起させるような形に変身しただけ、ということなのかしら?」

 そう言った彼女に対し、男は面白そうに笑った。

「良い質問だが、その推測は外れだ。俺のあれは、特殊中の特殊でな。結論から言うと、あのとき俺は、本物のドラゴンの中でも最も強い個体である竜王を模倣した」

「模倣……?」

「ああ。それこそがセレンストラのみが持つ特殊能力であり、俺ならあんたを王にできると言った根拠だよ」

 そう言った男に、アルマニアは困惑の表情を浮かべたまま彼を見る。その視線を受けた男は、少しだけ言葉を探すように沈黙したあとで、口を開いた。

「セレンストラは、存在自体が機密事項みたいなもんでな。いくらあんたが相手でも、今の段階で詳しい話をすることはできねぇ。だから、言えることだけ言うぞ。いいか、セレンストラとは、何者でもあり何者でもない存在だ。そしてそれ故に、何者にもなることができる。その辺りは、そこそこ有名な方の種と一緒だな。が、俺らはあっちと違って、肉体のみならず、肉体に起因しない能力までも模倣できる。ま、さすがに竜王クラスともなると、能力の八割程度を模倣するのが精々だがな。で、そんだけ模倣特化な分、あっちと違って全ての世界を自在に行き来できる訳じゃねぇ、と」

 あまりにも判らなさすぎて流れるように耳を滑っていった説明に、それでも必死に食らいついたアルマニアは、かろうじて浮かんだ言葉を口にした。

「……そこそこ有名な方の種、というのを、私は多分知らないのだけれど」

 だから引き合いに出されても理解の助けにはならない、という非難を込めての言葉に、男はけろっとした顔で頷いた。

「だろうな。有名っつったって、俺らに比べりゃって話だから」

「……その種の説明はしてくれないの?」

「できないな。あっちはあっちでぺらぺら話して良い存在じゃあないんだよ。それでもある程度想像できる何かが欲しいってんなら、俺らの亜種みてぇなもんだと思ってくれ。正確には、俺らの方が亜種なんだけどな」

 のらりくらりと交わすようなふわっとした言葉に、アルマニアは顔を顰めつつも仕方なく頷いた。そんな彼女の心境を察したのか、男が困ったような顔をして頬を掻く。

「……一応、これでも言葉を選んで、なんとか許容されるだろうって範囲ギリギリまで頑張って説明してるから、怒んないでくれよ」

「けれど、私には何ひとつ伝わらないわ」

 ぴしゃりと言ったアルマニアに、男が情けない声を上げる。

「教えてやりたいのはやまやまなんだが、無理なんだって。頼むから納得してくれ」

「……禁忌(タブー)だのなんだのって言っていたけれど、どうして無理なの?」

「俺の発言のひとつひとつで世界のバランスが崩れる可能性がある。だから、この世界の根幹に強く関わるようなことは言えない。そんな感じだ」

「…………貴方、本当に何者なのよ」

 アルマニアの呟きに、だからセレンストラだって、と男は言ったが、そういうことを言っているのではないと彼女は思った。

「まあ良いわ。それより、現状私が持っているカードが貴方だけな以上、私は貴方の力についてある程度知っておく必要があると思うのだけれど、……貴方、そういう質問には答えてくれるのかしら?」

「答えられる範囲で、誠心誠意答える」

 その回答に僅かに顔を顰めたアルマニアだったが、仕方がないと諦めてから、言うべき言葉を纏める。

「……そうね、まずひとつ。貴方は自分のことを、この世界においては最強の種だと言ったけれど、どれくらい強いと思って良いの?」

「外からの干渉さえなければ、少なくともこの世界でセレンストラに勝てる種はいないな。極端な話、この世界のありとあらゆる生き物が一斉に襲いかかったとしても、セレンストラであればそのすべてを殺すことができる。多少の時間はかかると思うけどな。で、この世界にいるセレンストラは俺だけだから、実質俺はこの世界では敵なしだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ