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Blue Moonのはぐれ天使 Episode1-9  作者: 瑠華
幸せのありか
1/3

episode1-3 走り出す心〜 キラキラ恋愛は食傷気味

Blue Moonのはぐれ天使


その満月はブルームーンと呼ばれ ルウは 祈ると願いが叶うと信じた。誕生日の夜はブルームーンだったらしい。 数年に一度のその夜 夢は膨らむ。時折 母の眼差しを思い起こした。


主人公芸 香ルウ

京都在住 1975年8月22日生 美男子で容姿端麗 具有族

芸術工科大卒でクリエイター志望


2人目の主人公芸香リン ルウの甥

東京在住 1989年5月21日生 ルウと同じ美形具有族

リンにとって叔父と父が疎遠なため ルウとは殆ど会っていない。


青い月: 多くは火山の噴火、もしくは隕石の落下時に発生するガスや塵などの影響によって、かなり稀でいつ起こるか予測できないものの、月が青く見えることがあるとされている

Blue Moon は、二分二至(春分・夏至・秋分・冬至)で区切られた季節の中に4回満月があるときに、その3つ目をブルームーンと呼んだ

※Wikipedia 出典


ルウは神戸出身だが 両親はすでに亡くなっており 実家で叔父のセレンが育ててくれた。1995年1月 偶然一人で神戸に滞在し 地震の被害にあう。結果それが転換期だった。セレンに対する恩義は忘れないルウ。大学時代から京都に住んでいる。勤務先は大阪だ。たまに神戸に里帰りする。


この物語は 根源に仙士の術使いの能力保持のために一子相伝を守った芸香家の叔父がルウに伝えたい 守りたい 何かを後継のルウに託すところから始まる。後半2人目の主人公 そのルウの甥である芸香リンのメンターとなり徐々に託していく。


episode1.Prologueプロローグ


2001年5月のGW明けの神戸の病院で芸香 ルウは叔父のセレンを見舞う。

外来はごった返している。そこをすり抜け病棟に移る。叔父の病室で枕元で声を掛けた。

セレンはルウの見舞いを喜び 横になったまま話し始めた。


「ルウ あれ(白妙)は常に持っているな?」

「はい もうずっと手元に持っています。」(ルウ)

「十分な一子相伝では無かったが 」

「いいえ十分です」 (ルウ)

「白妙だけは伝来の宝具 お前を守ってくれる」.

「はい ありがとうございます。」(ルウ)

「頼んだぞ 鞍馬には最後の最後に出向け」

「はい では 又」(ルウ)


よもやそれが最後の会話になろうとは思っても見なかった。

その叔父のセレンが雨の降る梅雨の最中の6月亡くなった。


芸香ルウの叔父セレンは ごく身内だけの簡素な葬送を言い渡していた。

一連のセレモニーを兄が仕切っている。


ルウは生前の叔父とのやりとりを回想した。

急に真顔でやりとりしたのは あの地震で神戸で被災した時だ。


1995年1月17日 震災当日朝 無自覚なまま目が覚めた。何が起こっているか分からなかった。

(そうだこんな時こそあれを‥‥)

ルウは自室の奥の大事なもの入れを出してきた。 白妙(霊力で錬成した白い紐)数本。首と左手首に巻いた。

しばらく封印していたのだが こんな非常時 身につけて命を守らねば ご先祖に申し訳ない。


その直後から場所と場合により 気分が悪くなる。何かバランスを崩したようだ。もしや 地縛の存在が剥がれて飛び出したか。場所によっては風景が2重に見えて 回路を閉じていないと声をひらってしまう。

(慣れない これを覚醒というのか)


セレンは 被災後 心得ていたかのように 対処してくれた。

「血統魔術が使えるな おめでとう」

「それはめでたい?」

「今後は Lose and winも覚えなさい」

「負けて勝つ?」

ルウの その問いには答えず それだけ言ってセレンは部屋を出て行った。


一連のセレモニーの間 ルウは呆然としていた。

兄のヒソプが関係者に 邪険な対応をしている。

それだけではない 周囲すべてに冷たい。こんな時に酷い‥。


兄のヒソプは地元から東京に出て大学時代も勤務先もずっと東京で義姉アザミも甥リンも東京だ。

兄とは歳も9歳も離れている。 神戸の実家に寄り付かない。兄弟とは名ばかりだった。

その葬式以来 兄のヒソプとは絶縁状態となった。


それを叔父のセレンがどう思うかなんてなんの想像力も働かなかった。

セレンから託された白妙を握りしめた。代々霊能を持つものに託される。

それが 芸香 ルウだった。しかしそれは 叔父と2人だけの機密だった。

そしていずれ 甥の芸香リンに次を託すようにというのが遺言だった。


約束は 『他界したものとは無闇に交信すべからず』

『山に籠るは最後の手段 時期が来てから 里の業に励むこと』


ルウにとって親代わりだったので 脈略なくポツリポツリと話してくれた。

きちんとまとめてはいない。それに咄嗟に発動するようになっているようだ。


2001年9月11日アメリカの凋落は世界に暗い影を落としていた。不穏な時代に突入していた。


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episode2-1走り出す心


菖蒲 ショウブ

ルウ の部署の上司

社長の御曹司で裕福な一族の後継。

最初の就職はアメリカで 数年で日本に帰国。

英語は完璧で目利き。女にも(男にも)高嶺の花。ルウの言うところの具有族。美形なアジアンで目鼻が通っていたが 雰囲気は人を寄せ付けない。それでいて洒落男だった。


2-2.2001年12月 

新しい上司 菖蒲 ショウブと組む事となった。飲みに誘われてルウはご機嫌だった。仕事終わりは一層 心を軽くする。


「取引先の工場は把握分析した?」


「はい。次の事 考えている人とか 留まって閉じるとかで国内状況は良くない。」


「国内はそうだ 淘汰に向かっている。じゃ 明日から主任のアシストに入って

主任は全般的に決裁をする。君の担当は 雑貨小物とニット製品の生産技術のサポートだ。

いいね やって見て。」

「えっ?そんなに?」


「何か?」

「はい。資料集めます。主任にプレゼンマップ見せてもらいます。」


「うーん時間が許せば 精査して写真と単価を記録しておいて 提出頼む。」

「それが区切りついたら 今夜は飲みに行こう 支度して。」


「はい。」

終業すぎて少ししたら 菖蒲ショウブが迎えに来た。


帰り道の駅近くのパブに寄る。床は落花生の殻で一杯。外人率が高く日本じゃ無いみたいだ。

皆 サーバーから注がれたクラフトビールをジョッキで煽っている。

「相変わらず忙しそうですね。」


「私の部下として来てくれてありがとう

歓迎する。但し 主任のケアは難解な事だらけだから覚悟して。」


「主任はともかくあなたは 仕事中毒ですか?」

「(止まると終わり)ってやつさようやく今年は 海外出張。」


「凄いですね。 工場回りの地味な仕事と思いきや 結構 面白そうですね。」

「ないない 国内と海外と2本立て。」


「おっしゃっていましたね。専門性と総合力 高級とリーズナブル。」

「君だって いつも端から端をkeepしないと気が済まない。」


「はい 夢語りです。でも皆の受け売りです。」

「夢語りそれが君の源泉」


「そう言っていただけると嬉しいです。また 誘って下さい。」

「一緒に電車で帰ろう 芦屋で降りて 酔いは抜けたので車で送る」

「ありがとうございます。」


駅で待っていると車で迎えにきて神戸まで送ってくれた。

お気に入りの曲が流れる。ルウは好みでは無かったが 自分の世界を開示してくれたような気がして嬉しかった。静寂が流れる。

車から降りる際 菖蒲ショウブが 軽く顔を耳まで寄せた。


「芸香 ルウ おやすみ」

コクリ

芸香 ルウは夢見心地だった。


神戸の無人の実家に戻った。疲れ切っていたので普段は無人の実家のベッドに沈んだ。

(これが始まり?)心なしか月の光がルウに祝福を送った。

今夜は満月 一つ大人になった気がする。(おめでとう)そう呟いた。


2-3.その恋の顛末


主任と打ち合わせをすませると廊下でため息をついた。


「大丈夫だったか?」と同僚が聞く

「大丈夫だったでも 十分恐怖の体験」

そう答えた 詳しくは 語りたくも無い なぜなら同僚が 菖蒲ショウブが敬遠するだけの事だけはある。


主任が涙ぐんでいる 思うように企画が進まないらしい。

営業と企画の部長達上層部の最終判断がおりない。期限は迫っている。

芸香 ルウの企画はスイスイ決まるので 慰める役回りだ。


「どうかしら?これで良いと思っているのに。」

「ええ 主任 企画が通らないのは お気の毒です」

「厄介なのよ 申請とか予算とかシガラミとか」

「メインのアイテムは重要ですから 大変ですよね」

「あなたは 強くて美しくて 守られてるのね」

上から下までじっとり見る。そう この男は積極的なゲイだ。


自分なんて観察に値する程でないはずだが 人の好みとはわからない。

妻がいようが子がいようが 彼には 理由にならない。

相当 業界では有名人と仕事を組み ヨーロッパ時代のさりげない内輪話が自慢だ。

(そう聞こえるのはやっかみかも)と駆け出しのルウ。

油断すると耳を舐められた輩もいるらしい。


(げっ 気をつけよう 近寄らないようにしよう)

そう思い 生意気な位 主任とは距離を置いていった。

しかし学ぶことははるかに多くて 仕事で組む事が多い。

以前 プレゼンの時 慣れて来たので ちょっと急いでいたのとで

下世話気味に解説し 勧めたら激怒された。


「あなたは実力があるのに 私のために力を発揮しない どう言う事?」


激怒には心当たり大有りだ。でもその事には 自分も触れたくない。

さっさと取り繕いスルーした。


しかし落とし穴にはまる。

内部で仕事が上手くいかないのは 主任と菖蒲ショウブだ。全体の製品の売り上げは落ちていた。実際はそうでもないが 天真爛漫ぶりを表に出した。

通用したから引っ込めない。


そう 仕事で長時間共にするうちに 惹かれて行った。菖蒲 ショウブに。

たやすく 帰りに飲みに行ったり出張に出たりする。

だからわざわざ約束せずとも 勝手に行き帰りですら一緒に話仕込む事も出来る。

彼が屈折していると気づくのに時間はかからなかった。


誰しも立ち入られたくない聖域がある。

そんな事は人としてデリカシーを持ち合わせていればドツボにはハマらない。

泳ぐように 会社を業界を 浮遊した。


ルウはあの日のように ショウブに芦屋で一緒に降りて車で神戸まで送って欲しいと甘えて見た。彼は深刻そうではあったが 優しく家まで送ってくれた。


車から降りる時 手首を掴まれ 不意にkissをされた。

「おやすみ」

何も言わず驚いて会釈だけして降りた。


うっとりとして車を降りた。数少ない高嶺の花を射止めた気になった。

—————————————————————————————————

芸香 ルウが属しているのは ブランドを複数兼任する企画部門だった。

専門職部門とは分かれているが少人数で 担当は入り組んでいる。

ルウは 片思いだった。職場の上司ショウブ。よくある話だがそれは 同じ具有族で認識し会う希有な存在だった。

その憂いと品のある話し方が魅力的だった。しかし内実は葛藤があったのだろう。

前向き一筋のルウにはそこまでわからなかった。


菖蒲 ショウブは組織では パッとしない。やっかみも手伝って お膳立てしようが 実力が伴わないのだ 本来 組織は補完し合う。

しかし彼のように元から地位を与えられたものでも 実力本位が牙を剥く。

芸香 ルウが仕事上のパートナーに抜擢されたのは サポートに長けていた事。

誉を勝ち取りたいという欲がない事だった。2人きりで企画を進め 主任と連携する。

芸香 ルウの創作は輝き 売れて行った。


2-3.2002年4月 菖蒲 ショウブの誕生日


ルウはショウブに 会食を申し入れたら応じてくれた。


次を期待した。でもその少し酔った芸香ルウに思いもしない台詞を

浴びせる菖蒲 ショウブ。


「おめでとうございます」

「ありがとう 」

「この先もお祝いさせてもらえる?」


「誤解しないで欲しい。心の闇を共有出来そうにない。その思い過ごしに辟易する。

私の生涯のパートナーは君ではない。」

!!!

息を呑んだ 何も言わずその場から逃げ帰った。

どこをどうして京都の部屋まで帰ったか覚えていない。

週末と連休で良かった。

一気に具合が悪くなり 寝込んで泣き濡れた。

その恋はたったの4ヶ月で終止符が打たれた。


婁絡 ルラク 東京在住 具有族 術使い。

ルウとは神戸の幼馴染 学生時代高校までずっと一緒。

大学から東京に移住し そのまま東京で勤務し 副業で企業コンサルをしている。


その夜 大騒ぎをして翌日には 東京の婁絡ルラクがわざわざ京都まで慰めに来てくれた。でも いくら悲しくても 抱きとめて貰えない芸香 ルウ。


「ルウ 悲しい時は泣いて良いんだ。」

「うん 選ばれなかったのは 存在を否定された気がする」(ルウ)

「そんな事ないって 運命の相手じゃなかったって事さ」


「そうか ところで この漫画面白いよ 陰陽師

平安京が舞台で小説が原作らしい 買って 読みなよ 映画公開もされた」


「ふーん 綺麗な絵だね 貸してくれないの?」(ルウ)

「いつも 言っているだろう?人が触ったお古は念を払わないとロクな事ないって」

「うん この京都に神社があるのか 参拝に行ってみようかな」(ルウ)

「これに出て来る真葛という主人公の妻は鬼見で 君と同じ能力の持ち主で参考になる」

「漫画を参考にするの?おかしい」(ルウ)


「それから普通の人が目にしない存在 眷属というらいしいが 主人公は使役している

平安と現在は違うどうして交流していたか分からない」


「人もペットも眷属もすれ違った時 念を重ねてしまうだけだ」(ルウ)


「ペットも眷属も僕は お世話する余裕がないだけだよ。生き物だからね。恋人も同じ。」

寝仕度をしてルウは お喋りしながら泣き濡れたまま眠ってしまった。


原因不明の発熱と称して熱が下がるまでと仕事を休んだ。

ようやく何事もなかったように復帰した。淡々とした日々を過ごす。

業務以外誰とも口を聞かない。病み上がりとは便利だ 怪しまれず済む。


2-4.想定外の悪しき存在


時間はあっという間に過ぎ去る。凹んだら凹んだで バネにする。暫くは人を避けた。


仕事はプランナーといえば聞こえがいいが クリエイター志望だった。

何もないところから 次の企画を起こし 具現化する見本を依頼し意向を汲み取り

形にしていく。店舗を有するバイヤーから 注文を取る そしてルウは 営業トークが できて改善点はコストと照合し決定していく 結構 重宝がられていた。個人的な心情とは裏腹に面白い位 順調に進んでいた。


2-4.2002年8月22日ルウの誕生日


出勤したら驚いた。

元彼の菖蒲ショウブが 現れた時には負傷していた。

!!!

数日前 交通事故を起こし顎と額に傷を負っていた。

ルウ達 下っ端には知らされてなかった。


「大丈夫ですか?」(ルウ)

「命に別状はない」

「痛そう お気の毒です 車 怖いです」((ルウ)


「ああ 夜の雨降り上り坂交差点 見通しが悪く

右折車が見えなくて直進した 互いの対向車の見落とし でドカン」


「うわぁ お大事に」(ルウ)


部屋から去ろうとした時に 背筋がゾワっとした。全身に鳥肌が立つ。

振り返る。(あっ!)

たちまち亜空間になる。そこには初めて見る怪異がこちらに牙をむいて手をこまねいていた。

ルウ(rue)は 素早く白妙で空を切った。


「取り憑いたか」(ルウ)

「ふん そっちに鞍替えしようか?」

「来んな 事故らせた原因はお前か?」(ルウ)

「それがどうした」

「立ち去りな」(ルウ)


白妙が怪異を縛り上げる。右手で空に向かって振り上げると うまく飛ばせた。

(なんて事だ。この怪異は裂け目から 地下界から出てきたか ?)


この元々持ち合わせた力を磨かないと打ちのめされるかと思った。

でも発動するようになっていて時限装置のように白妙を繰り出す。


2002年8月23日ルウ27歳 誕生日翌日Blue Moon

(まず自分を確立させよう)そう思った。


「今後は Lose and winも覚えなさい」

「負けて勝つ?」かつてのルウと叔父セレンの会話だ。

ようやく意味がわかった。咄嗟に闇払いができた事に自分で驚いた。


怪異が特定の個人に憑依するのは事情あっての事。

本来関与しないがこちらに向かうとは話は別だ。


あの振られた時の大騒ぎをもう起こしたくない。存在を否定されたみたいで悲しみに打ちひしがれた。でも何処かで期待していたかも知れない。元彼を必要以上にいたわれない。 2人きりになる事もなかった。


菖蒲ショウブは気の毒だったと思っていた。

たとえ自分を選んでくれなくても 才の活かし方 事故に遭ってしまう事や 社長の息子という恩恵よりも人間関係の方が過酷だった。


男女関係よりもこう言う長身具有族の組み合わせの方が 圧倒的に生息が 少ない分稀有だ。だから惜しむ必要はないが 初めて自分のこの偏向を自然に受け止めてくれた人だった。

それは既に活躍して積極的なゲイとしてオープンにしている主任とは違う種類の秘めた良さがあった。自分達をゲイとは認識していないのも同じ。たまたま惹かれ遭ったのが同じ趣向だったと言う点だ。


「消極的なゲイって事?」(ルウ)

「社会秩序を乱すかのような制裁を受けるから絶対機密主義で行く」(ショウブ)


そう言った菖蒲 ショウブは 頼もしく ルウはぞっこんだったのだ。

自由意志と自己責任 因果律の観点から 悪魔が誘惑するのでは無い 自分にそういう要素があるから悪の道にはまる。

それが 拒否られて ルウのその嘆きたるや悲惨なものだった。

お人好しはこれでも卒業出来ない。自分でも呆れるくらいだ。


その日は神戸に帰り 青い月を窓から眺めた。今夜は特別な日。

これで一つ大人になったかな‥。誕生日よりも大切な節目。

ふわりと緑を含んだ風が包んでくれた。夕暮れの気の早い虫の音が心地よい。


---------------------


2-5.2002年12月メンターとの謎解き


出張で東京の婁絡 ルラク 部屋に泊まる芸香 ルウ


婁絡 ルラク は芸香 ルウにとって今では 何でも打ち明け相談出来る友人だ

「この間は 大変だったね 恋と能力の履修だ」


「恋?能力?」芸香 ルウ が 婁絡 ルラクに聞き直した。


「その人の弱さと闇の付随の応酬 一変した暮らしを取り戻すのには負荷がかかる」


「ん 起こってしまった事は仕方ない 問題は対処だよ」(ルウ)


ルウは礼を述べ 頭を下げ目を伏せた。ようやく涙がこぼれ落ちた。

泣き足りなかったわけでもないのに 枯れてはなかった。


京都と神戸と週末往復し気が逆に紛れた。仕事はルウに関しては順調だった。

振られた悲しみが辛すぎて 何とか自分を卑下せずに生きて行こうと工夫はした。


芸香ルウは いきなり変容したわけではないが タフになろうとした。何かが少しずつ変わっていった。だから総合的に上手く行くように何かとコンデションを保ち対処していたが 影響を受ける。防御すればするほど過敏になる。悪しき存在に怯えた。

今も怪異が後をたたない。しかし地縛系は以前から存在し 何より闇祓いが出来た達成感は大きかった。


一旦潔癖症になると出向く先を選び 相手を選び 情報を制限し 食べ物を精査し

懐疑心の塊になる。論理的な裏づけも欲しくなる。自分を整える事に専念するルウ。


そして菖蒲 ショウブは 傷の癒えた翌年には 東京に転勤して行った。

ルウは 少しはうら寂しかった。が 一時 事故で傷ついているのを見ると同情を超えたものがあった。それより引きずらずに済んだのは ショウブが東京に去った後 本命の恋人が付いて行ったらしい。(そんな人いたんだ)憑き物が落ちた。スルーを覚えた。


ルウは 同期に誘われてランチに行ったり お茶に行ったりする。

合コンお膳立てするけど?とか勧誘もあった。ノーマルのふりは通用している。

その年の秋 アパレルではなく繊維系商社に転職を果たした。

しばらくキラキラ恋愛は食傷気味だった。


2-6.晒す日々


東京出張が増えて その度タイミングが合えば 婁絡ルラクと会った。

2004年2月に ルウ(rue)は 東北の出張の帰りに東京に立ち寄った。


この手の話が出来る仲間がいるだけでもありがたい。話は自ずと弾む。


「ルウ これからもどんどん変わっていく」

「人類の夜明け?変革の事象が起こるの?婁絡 ルラクはわかるの?」(ルウ)

「まだだ あと数十年位かかる ところで 東北の帰りに寄ったんだろう?どうだった? 」

「山形は冬の景色だった。山々が美しくて誰もいなくて ひっそりとした芭蕉の石碑も見たよ」(ルウ)


「奥の細道か 同行した曾良は幕府の巡見使だった」

「へーじゃあスポンサーは幕府?」(ルウ)


「さあ 表立ってはわからない 曾良が命を受けたは 20年後。だからそれまでは 芭蕉に入門したのは奉公の後からだからどうしていたか不明芭蕉は俳諧の祖で生きた痕跡を残した」


「きっと旅で楽しい時間を過ごしたね」(ルウ)

「今宵は 君の好きな満月だ。落ち着いたね」

「うん 寂しいのに慣れてきた」(ルウ)


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episode3-1.新たな邂逅


2004年5月初めての海外出張の話が舞い込む。

独立したばかりの先輩が小さな商社を開業する。その契約に随行した。

香港だ。きらびやかなアジアのハブ空港。国の入り口とはかくも大掛かりなのか。

タクシーで移動する。 街中は画像で見た通りの 猥雑で人や物が溢れ 音が溢れ 街が熱を帯びていた。香港は商都上海の攻勢に喘ぎ初めていた。


そこで出会いを果たす。ダークな細身のスーツを着て整然と電話しながら立っている。

その美しい横顔がこちらを向く。名をカイと言った。


カイ

香港在住 1972年11月21日生31歳 具有族 美形香港人

留学経験から英語と広東語を操る。当然ビジネス必須の北京語も堪能。


!!!(あっ)

ルウ(rue)は見惚れてしまった。

自分と同じ 具有族で しかも相当美しい。

不思議なことになぜか既視感があった。

面影だか表情だかその風情だかなんだろう?


言葉はルウが日本語。

先輩が通訳し英語に直す。

彼が英語から広東語

更に内地の通訳が広東語から北京語に。

ルウの作った設計図がコピーされ どんどん色んな文字が記入されていく。


打ち合わせの時間が倍かかる。そして設計図の質問が来る。

見本の写真か設計図の指図か?設計図優先 不都合があれば随時質問を

全部通訳がついた。

日本語→英語→広東語→北京語

左手を口に当て顎を隠し悩んでいる彼。この国の人で香港は垢抜けていると聞いたが

仕事熱心なのも意外だった。

狭いが部屋を見回した。本棚には英語と漢字の本がズラリと並び 日本の雑誌も混じってまさに異国だった

自分とあまり年齢も変わらないのに 組織の代表として休みなく働いていると言う

ようやく打ち合わせが終わり ホテルまで歩いて行った。


そこは異世界ホテルだった。皆はごく普通のホテルだと思っている。

そんな風に見えるのは自分だけか まっ 害がなければいいか


何重もの層になっており 現実離れした物体が交錯して 存在していた。

しかし見えてないフルするのが一番だ。相手にすると厄介だ。

先程の槐 カイ と会食をするので 夜ロビーで待ち合わせとなった。


部屋を結界で結び 清浄を保つ。芸香 ルウは前ほど潔癖症ではないが警戒は解かない。

荷をほどきシャワーを浴び 出掛ける準備をした。


騒がしい店内 料理がどんどん出て来る。

槐 カイ に好みを聞かれたが 冷えたビールと野菜でと答えた。

先ほどは 仕事上 色々質問して来た。

芸香(ルウrue)は英語で他の日常会話をしても聞き取りが やっとで英語で返せない

日本に帰ったら する事を決めた。英語位こなさないと。


香港が鉱山としたら大概取り尽くされ 全ての企業は 大陸内地に本部を移していると言う。香港はショールームで中国返還後 地の利はヨーロッパ輸入の関税が低い事。

しかし 不安なまま 事業を拡大していると言う。撤退はあり得ない。


槐 カイ も現実 ひと月の半分は香港を離れるらしい。

彼は 伏せ目がちで 声は 低くしなやかな動き 普段は寡黙なのだろう こう言う社交の場は苦手みたいだ。神戸だと言えば地震と KOBE beef らしい。

「神戸の地震はどうでしたか?」

と聞かれたので芸香(ルウrue)は

「住んでいたが大変だった。この世で起こったと信じられ無かった。」

と答えた。

槐 カイ は頷いている 。

しかし芸香(ルウ rue)から目を離さない。まつ毛が長くその瞳は薄い琥珀色だ。

自分も瞳は相当 泡褐色で日本人には珍しいと言われるが 同じアジア人として珍しい同士。なんだか親近感が持てた。


これからは問い合わせがあれば 槐 カイ から直接連絡すると言う事だった。


———————————————————————————————

ホテルに戻るとマダムが英語で話しかけたが 困惑すると思念波に切り替えた 普段は使わない。


ようこそ香港へ 会えましたか?

誰に?

まぁ 記憶が 無いのですね

えっ?

なら ごめんなさい 立ち入るつもりはないの

では

———————————————————————————————


芸香ルウは怪訝そうにその場を離れ部屋に戻った。

どうも感度が上がったようだ。あの闇払い以来 平穏を心がけている。

精度の高い思念波の受信が始まった。

どんなに集中しても普段は 途切れ途切れに一言くらいだったからだ。

不意に耳に入り聞き返すとなしのつぶて

芸香ルウはどちらかというと夢見だった。

でも朝には 忘れている。

婁絡 ルラク(※芸香のメンター)はその能力を生業にしていたが 鏡体質だと言っていた。自分は未開発だと言われている。

(まっ 怖い目に合わなければいいか‥。まさか闇祓い程の騒ぎはない。)


このホテルは清潔で綺麗だし超高級ホテルほど高くないし 怪しい限りだけど如何にもだけど 害はない。また来る事があれば 慣れるまではここにしようと思った。

翌日2件商談を済ませ 帰国の途についた。


3-2.槐カイの来日


その年末 2004年8月 槐 カイ が関西にやって来た。

京都に来たいと言っているのでと アテントを頼まれた。

その日はちょうど有給休暇を取っていたので 電子辞書片手に出かけた。

京都のご飯屋さんで 取引先と一緒に食卓を囲んだ。 槐 カイ は 相変わらず静かだ k(少しにこやかだ 旅の開放感か?)必死で始めたばかりの英語で話しかけた。

やはり視線を外さず聞き入っている。でも彼の言葉のヒアリングは出来なかった。

発信だけで受信できないのか‥。


「京都のどこのホテル?」

「これ」と行ってカードを見せる。

「御所の近く?ならタクシーだね 一人で大丈夫?」

「んー」

とか言っている。

自分は少し距離があるが 帰り道だし

「いいよ 送って行くね」

通じたのだろうか 微笑んでいる。タクシーでホテル名を告げ 他のメンバーを置き去りにした。


何かやりとりしたが 今から何が始まるとか 残した通訳とか仕事先の先輩とか挨拶なしだった事をすっかり忘れていた。ホテルに到着したので 部屋に付いて行った。


なんだろう?彼が 部屋をかたづけ始めた。

「泊まって行く?」

とか言ったのかな いいかしばらく休みだし お喋りが出来て親しくなれる。


その時ドアのノック音がし 扉を開けた。

ルウは首根っこ掴まれて荷物と共に部屋の外に 引き摺り出された。


槐 カイの表情が困惑している。

『大丈夫 また会えるから』

脳裏をその言葉がかすめた。 


車の中で その契約先の先輩が 怒り始めた。

「帰りますよ 全く何を考えてんだか お持ち帰りなんてとんでもない」


「いや そう取られても 男同士だし心配ないよ」(ルウ)


「あのね 彼は大切な取引先 何かあったら責任を感じる それに香港で 私的な事情も聞いている まだ安定していないから 勝手なことされては困る 男も女もダメなの」


「私的な事情って?」(ルウ)


「彼は 大学はサンフランシスコ そこで就職した ところが 突然パートナーが自殺した。失意のまま 香港に帰り 親の跡を継いだ」


「そうでしたか 知りませんでした 失礼します」(ルウ)


自分の家の前で降ろされた てか 車から放り出された その夜 ドギマギが収まらなかった


次の日は 半日だけ大阪で仕事だった。

突然 携帯が着信する 槐 カイからだった。


「今 大阪 芸香 ルウ 会える?」

「いいよ どこ?」(ルウ)

「御堂筋」

「どのあたり?」(ルウ)

「高速の高架の南」

「なんて名前の会社?」(ルウ)


有名な社名だったのですぐにわかった。

「では夕方16時に」

休暇の中日で休日出勤のようなものなので 切り上げて まち合わせ場所に行った。

少し訝しげに交差点で待っている槐 カイ

(ちゃんと会話が 成立していた!)


「ルウ 又 会えた」

「うん」(ルウ)

「明日は?」

「休み」(ルウ)

「これから東京に移動して明日の夕方のフライトで成田から香港に帰る。 だから一緒に来て欲しい」

「いいよ ついてく」(ルウ)


伊丹で 揃って乗れる便の窓側2席を抑えた。もう 夜間飛行だ 滑走路の灯りが綺麗だ。

槐 カイは 席に着くと安心したような静かでゆったりとした伸びをして 顔を甘えたようにこちらを向ける。

それからありったけのメモ紙と身振り手振りと辞書を引きながら互いの質問攻めを繰り返した。 


「芸香 ルウ? 誰か 好きな人は?」


「!!!内緒 言わない」(ルウ)

「聞いて欲しい」

「何を?」(ルウ)

「過去の事だけど サンフランシスコでパートナーと住んでいた。

上手くいかず別れる事になった。そして 彼が突然命を絶った」

!!!…。

「彼?」あー 情景が浮かぶ なんて事だ そんなビジョン見たくもない

表情に困惑が出たのだろうか

芸香(ルウ rue)の心配をよそに 真顔になっている「槐カイ?」

「だから ちゃんと好きになりたい」

!!!!

槐 カイ が そう言って手を取って強く握り直した。

自分が 既に恋に落ちたのがわかった。疲れていた方が より饒舌になる。

槐 カイ が呟いているが 聞き取れない。

‥‥

突然 思念波の回路が解放された。


「急で びっくりした?」

「した」(ルウ)

「こうして会えた そして一緒に過ごせる」

「一緒で嬉しい?」(ルウ)

「一緒で嬉しい」


何語でもないが 脳内ではるか昔のビジョンがグルグル回り出した。

(いつの時代の誰の記憶か?)

「ひょっとして?」

「君は?」


「思い出せる?」

「性格も国も時代も様変わりだ。これは誰の記憶かわからない。そう 同じなのは 男同士なだけ」

「あはは なんて事だ」

「これからも会える?」

コクリ


ルウは どうりでいつもここではない何処かを求めていたか

何か悲しい出来事以来 スルーがしたいが為に漂流する自分が着地点の光を見た気がした。


都内の高層のホテルが予約してあった。

芸香 ルウは部屋に入る時 部屋に結界を張った。

あの闇払い以来 身についた習慣だ。感度が上がるのは 良し悪しだ。


部屋に入って荷物を置くと出かけた。

夕食を和食の寿司にして にこやかに食べた。

素材の日本名は調べていたらしく 詳しかった。

昨夜の京都の事件

大阪で待ち合わせ

そして東京


槐 カイ が一呼吸置いて英語で話す

単語がわからないと

「漢字は?」と聞く

書いてくれるが きょとんとすると思念波を使う。

備え付けのメモがどんどんなくなる。でも捨てないでいた。


「何処か違う国 違う仕事 探している 日本でも世界何処でもいい 香港とサンフランシスコ以外で」


「あぁサンフランシスコ」いった事はないが。

槐 カイがあちらで働いていた状態が 脳に流れ込む

‥‥

余程の財を持ち合わせ 才を磨かないと差別と区別を受ける。きっと自己確立で共倒れしたんだ。 気の毒に 何しろ9.11が起こった国だ。


「香港はどんな見通しなの?」

「併合に備えて一族はオーストラリアに移住準備が 整っている みんな金融封鎖に備えて海外に持ち出している」


「そう 家族は?」(ルウ)


「父が往復 母とその兄弟はオーストラリア 弟はオーストラリアの大学出て銀行に勤務していたが 香港に戻ってくる その下の弟はカナダの大学 兄は‥言いたくない」


「いいよ 聞きたいわけじゃない」(ルウ)

「君は今の仕事を気に入っているみたいだね?日本はどう?」


「活動の仕方を調整すれば しばらくは もつと思う。日本のここからあちこち行くのが夢だ。」(ルウ)


「日本で 仕事ってどうかな?」

「日本語話せないとダメだよ。華僑は帰化状態で様々な職につている。」(ルウ)


「台湾系は衣食住の関連と韓国系は芸能 スポーツが多いと聞く」


「だから日本でもサンフランシスコでも同じだよ。排他的な人も親中派も共存している。

それに華僑の前の世代は結束が固い 誰かいないの?」(ルウ)


「いない どこにもいない」

…‥


3-3.東京の月夜


希望の夢の話をしているつもりが 少し現実を帯びてくると興ざめだ。

ルウは気を取り直してコップに水を注いで一口飲んだ。

槐 カイ にもすすめる。頷く彼のまつ毛は長くやはり憂いを含み見惚れてしまう。


「でも嬉しいよ 会えて しばらくは行ったり来たりで 会えるね」(ルウ)

「うん ルウ(rue)いい?」

「ん?」

「おいで」


もう腕の中で瞼を閉じた。新しい恋の始まり。頭野中は真っ白。

それから身体を重ね 言葉にならなかった。

(本当に好きになってくれたみたいだ。だから好きになろう。)

もう夢中だった。静寂の中2人は抱き合った。


気を失ったか 眠気が勝ったか。

ルウ(rue)は 真夜中に kissで目が覚めた。


寝支度をしながら話し始める。抱き合いながら蘇った記憶を辿る。


「あのね 先に言っとくね この思念波の能力だけど ついこの間から ポツポツなんだ。

カイだから こうしてやりとりが出来る。他はさっぱりだよ カイは?」(ルウ)


「生まれつきに当たり前 でも誰にも明かしていない 必要なのは 読むけど話しかけない でも弊害が大きいから 警戒している」


「どうして悩みがあるの?そんなに資産家の家に生まれて」(ルウ)

「父は一代で築いた口だ 香港ではしれている」

「ふーん」(ルウ)

「君は 前の縁で京都だと思う 昨夜 御所を見てきっとその時に出会っている? 」

「カイはずーとはるか昔の縁で中国なの? 」(ルウ)

「京都は はるか昔の形骸を残している ずっと前だが 私にも既視感があった 」

「もっとカイの事が知りたい。」(ルウ)

「ん」

「カイは 京都の前は中国だったとか?」

「‥‥‥多分 君もだ」

「あのね 知りたい ちゃんと好きになりたい」

「それに‥」(ルウ)

「何?」

「普通に英語で会話がしたい」(ルウ)

「それもそうだな じゃ 勉強して」

「うん なりたい自分になる」(ルウ)

「そのビジョンに私がいるといい」

「うん いて欲しい」(ルウ)

「エンドも望まないが エンドレスも嫌」

「意味がわからない」

「わかるといいな」

「うん 今はいい おやすみ」

おやすみ

その夜は ブルームーンで青い光が射していた。

ルウの待ちに待っていた青い月明かり 特別な幸福感に包まれた。

ずーとこのまま一緒にいたい。それは敵うべくもないが夜に止まって欲しかった。


翌朝 遅い目の朝ごはんをカフェで一緒に食べた。

部屋に戻り 槐 カイが荷物をまとめ旅支度をするのを芸香 ルウは ぼんやり見ていた。

先に成田までのリムジンバスの時間を調べておいた。

荷物を預けて散歩に出た。


(新宿は デカすぎて複雑だ。)

かと言って いつも行く取引先と駅を往復するだけで他を知っているわけではない。

槐 カイはお土産を物色していた。

「これは おかきとかあられとか言うんだ。醤油味 日本の代表的なお菓子 空港でも色々買えるよ。」(ルウ)

コクリ

「少し休んで お茶しよう」(ルウ)

「賛成」

メニューを指差しながら たどっている。シンプルな英語表記が助かる。

「紅茶でいい?」(ルウ)

コクリ


ポットで出てきたので注いだ。好みは2人ともストレート。

「どうですか?日本は?」(ルウ)

「人は清潔にしている 皆 綺麗 ルウは特に美しい」

少し顔が赤くなったが 平静を装った。

‥‥

「街は 整備されている 英語と漢字で表記されているから分かりやすい」


「そうだね だと日本語覚える?」(ルウ)

「何か教えて」


「英語にない言葉で よろしくお願いします」(ルウ)

「ヨロシク?オネガイ シマス?」

「意味は えーっと 後でメールする」(ルウ)


「ふふ」


そろそろ バスの時間だ。槐 カイ の表情がいつもの物憂い感じに戻った。

芸香 ルウ は 自分も少し寂しかった。

先に槐 カイ を 成田行きに乗せて 手を振った。

去りゆくバスを見送り 少し移動して羽田に向かった。

(なんだろう この楽しかった分 胸にぽっかり空いたこの感じは?)

(また手にした喜びの次の瞬間から 手放す心配?)

でも新たに始まった日々を思うと胸がいっぱいになった。


3-4. 香港の可惜夜


2004年11月ルウ(rue)は一人で香港に行った 商用自体は そんなにハードでは無いが やっと又会えるとなると心が踊った。


カイが空港まで迎えに来てくれるはずだ。荷物を受け取りゲートを出た。沢山の出迎えがズラリと並ぶ。その垣根を超え 少し辺りを見回した。

後ろからスッとカイが現れ トイランクの持ち手を添える。


それだけで嬉しくて礼を言うのが精一杯だった。

車に乗り込みホテルに向かった。やはり緊張して黙りがちだったが嬉しさが隠せない。 


ホテルにチェックインした。無理やり予定を詰め混んだせいで グロッキーだった。

部屋に入る時 ルウは 密かに結界を張った。


「元気がない?横になって」

「うん」(ルウ)

「どこが痛い?具合は?薬は持っている?」

「持っている 頭痛薬飲む」(ルウ)


ペットボトルから水を注いでくれるカイ


「じゃ ここで 仕事かたずける。」


書類に目を通し煩雑に電話をかけている。その姿がだんだんぼやけて 眠ってしまった。

眼を覚ますと カイは 静かに書類を作っている。外は暗くなり その人影が壁に揺らいでる。

ルウ はベッドから手を差し出した。

心配そうに覗き込みながら カイは手を握ってくれた。

何故か 懐かしくようやくその思い出にたどり着いた気がする。


「眠っていた」(ルウ)

「うん」

「薬が効いたみたい」(ルウ)

「うん」

「寝不足と飛行機苦手 特に気圧に揺さぶられると

もうダメ」(ルウ)

「うん」


眼を閉じると何か懐かしいようなそんな感触が 頭をよぎる (これも誰の記憶だ?自分のか?)


「ルウ(rue)ルームサービスを取ろう 何がいい?」

「おかゆは 朝だけ?じゃ 炒めご飯」(ルウ)


食事が運ばれてくる。

「一人分だ カイは食べないの?(ルウ)


「いつもあまり食べない 少し 残して それでいいよ」


「そっか 少食なんだ そう言えば いつもお腹いっぱいが口癖だったね 無理していた?」(ルウ)


「ちょっとは 君はちゃんと食欲 戻っている 良かった」

「泊まっていける?」(ルウ)

「ん」

「じゃ 打ち合わせ 片付けよう。そしたら 明日は自由時間?」(ルウ)

「午後なら時間取れる」

「はじめるね」(ルウ)


カイとルウは 真夜中のホテルで

書類を広げ 依頼の確認をする。前回の修正と最終指図

それを踏まえた新しい企画の依頼 いくら頭で考えて図面を起こしても

その商品の出来は 現場の対応次第だからだ。


だから信頼の置ける日本製は 依然人気があり中国製だと言うだけで偏見を持たれる。

しかしルウの仕事はきちんとした検査機関を通し 店頭に並べた時に遜色のないのが売りだ。


中国の共産圏の生産価格で日本の資本圏の売値をつける 期限は当然あり 時間勝負だった。価格と納期は 先輩の商社が引き受けた。企画の具現化と最後の一点まで検査するのが仕事になっていた。

一通り 説明と質問の応酬が終わり 英語で作った書類と簡単な現場英語で随分上達した。荷物をかたずけて カイに託した 。

そして感想を求めた。


「どう思う?」(ルウ)

「ん やってみる」

「さてと 片付いた 荷物しまって」

カイが憂いを秘めた瞳で見つめる。

「切り替えて ルウ」(rue)

「ん?」

両手を広げ迎え入れてくれた。

「承諾は聞かないの?」(ルウ)

「要る?」

「要らない 」(ルウ)


胸に顔を埋めた

「ちゃんと好きになっていける?」(ルウ)

「いける」

「良かった」(ルウ)


そして2人は 身体を重ねた。その肌なじみの良さにルウは 身を委ね

それでいて身体は しなり 受け入れた。その疲れと喜びとが交錯して夢心地だった。

(ああ これで本当に恋に落ちた。)

ルウは声にならない声を漏らしそれに紛れるようにカイの吐息が絡む。


3-5.ドライブデート


翌朝 カイは家に帰って行った。


「じゃ明日 午後16時にロビーで」

「うん」(ルウ)


————————————————————————————————————————

また あのマダムが微笑む

まだ何も引き連れてないのね?


引き連れる?(ルウ)


ご存知ないのに 毎回 御免なさいね でも気をつけてね

————————————————————————————————————————


約束の時間に カイが迎えに来てくれる。車を走らせ 山を登った。

「都会を離れてすぐに こんな自然がたっぷりあるんだ。」

「うん」

昨夜の余韻だろうか はしゃぐのもバツが悪く 横向いて顔を眺めた

「何?」

「ちゃんと見ておく いっぱい見ておく」(ルウ)

コクリ

何か 結ばれた喜びで一杯のルウ。

今日は 朝から火照りが収まらず 無理やり封印したが こうして思い人といると解放してしまう。子篭った熱のようなものが見つめるだけで身体を巡る。


山頂では夕陽が沈むのを見届ける人達が 押しかけていた。

見晴らしの良い窓際の席ではなく2列目に通された。


「すまない 予約が取れてなくて」

「いいよ 十分だよ ほら素敵なテーブルだ 蝋燭の火 まるで カップルのような‥」(ルウ)


2人とも俯いてしまった。上客に扱われなくても ちっとも構わないのに

ここは まだ階級制が根強く残っている。照れくさいのと嬉しいのが入り混じった。

何かどこからか視線が刺さる気がした。でも異国の地で恋人と食事を楽しんでいる。やっぱり2人きりの方が気楽だ。


帰りの車中で少しぼんやりしてウトウトした。西向きフライトは 時差ボケは

そんなに無いはず。でも睡魔が襲う。


「寝ないで おきていて」

「ごめん でも満腹になるとこんな風」(ルウ)

「起きていて」

「何故?」(ルウ)

「つまらないし 寂しい」


あまり聞き取れなかった 確かそう言ったと思う。

「うん いいよ」(ルウ)


その夜も カイが優しく包んでくれた。

少し趣が 違っても 名前を呼んでくれなくても 気にならなかった。

ただ一つだけ疑念があった カイが囁いた。

何か名前のような単語 違和感があったが それをルウは気のせいにした。


翌朝は 帰国の日だ。朝食バイキンで色々な国の食材を皿に盛り 野菜ばかり食べた。それでも寂しさは否めない。ルウは 荷物をパッキングしてロビーに降りた。

チェックアウトの手続きはカイがした。


「支払いは?」(ルウ)

「贈り物だよ」

「ありがとう 嬉しい」(ルウ)

これが当たり前だと思うのは禁物だ。


少しカイの顔が誇らしげに見えた。時間があるので 市街を散歩した。

「ルウ(rue)何か欲しいものは?」


「うーん 特には お土産は機内持ち込みで買う パッキング済んだし 搭乗時間迄 長いし」(ルウ)

「そう言わず 一緒に買おう」

「じゃ甘いお菓子 職場の人に」(ルウ)

「月餅の餅 ここのが一番美味しい 年間発売」

「ありがとう 嬉しい」(ルウ)

「これは?ナッツの詰め合わせ 素焼きだけど」

「うん」(ルウ)


どんどん買ってくれる。時計専門店の前に来た。スイス製のカジュアル系のお店。


「入ろう」

「うん」(ルウ)

「どれがいい?」

文字盤がシンプルでシックな銀色の腕時計が 目に止まった。

「つけて見て」

「どうかな?」(ルウ)

「これにしよう 似合っている」

「えっ?」(ルウ)


冷やかしのつもりだったのに もうプレゼント包装して貰っている。

何でも手馴れていて素早い 知らない一面だ。


「こうして同じ時が 刻めるように」

「ありがとう」(ルウ)


それから 車に乗り 帰国前の遅い目のランチだと言って 海辺のご当地レストランに行った。外国人観光客はほとんど居ない。


魚が丸ごと唐揚げにしてある。茹で蟹も出て来た。

でも身を取り出すのにルウ(rue)が苦労していると綺麗に取り出してくれた。


「ありがとう器用だ」(ルウ)

「他に何かいる?」

「野菜」(ルウ)

「OK」

茹でた野菜が出てくる。

「冬は鍋を食べてみよう きっと美味しい」

「うん」(ルウ)


アジアは旅行でタイとかフィリピンとか行った。ホテルの併設のレストランでとてもじゃないが 現地の屋台とかは無理だった。しかし香港は 国際都市だけあって味がこなれている。


「美味しいよ」(ルウ)

「良かった」

「今度 また日本にも来てね」(ルウ)

「うん でも そんなに往来はできない」

「そっか 私のように雇われの身の方が気楽だからね」(ルウ)

「それに兄弟が帰ってくるし」

「ああ兄弟 たくさんで賑やかだね」(ルウ)


「君の家族は?」

「兄が東京で結婚して住んでいる 甥が一人」(ルウ)


「東京か やはり混雑していたね」

「うん日本人の10人に一人は住んでいる」(ルウ)

「大都会だね」

「うん たまに行くだけで十分」(ルウ)


食事を済ませ 空港に入った。搭乗手続きをしてパスポートをしまって

あとはギリギリにゲートを潜るだけ。


「カイ そろそろ」

前を向いてゲートに進もうとしたら 手首を掴まれ引張られた。

振り返ったらカイがkissをしてくれた。

顔を離すとその目は悲しみで一杯だった。


‥‥

‥無言で頷いた。


その溢れそうな涙をこらえた顔なんて見られたくなかった。

一度だけ振り返り ゲートに吸い込まれた。

最後に見たカイのその姿はもう涙でぼやけていた。



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