勇者パーティーを追放されましたがそれはヒロイン達の計画通りだった!~ヒロイン元メンバーが全員出ていったから戻ってきてと頼まれても皆が拒んでるんだけど……~
短編ですよろしくおねがいします。
「アタル。お前は今日でクビだ」
勇者ラマンから今日、僕はクビを宣告された。これまで一生懸命皆をサポートしてきたつもりだけど、勇者はどうやら僕はもう不要と考えていたようだ。
「そんな、どうして……」
「馬鹿が。そんなこともわからないのか? お前の持っているスキル【収納箱】は荷物を自由に持ち運びできるのが唯一の長所だった。だがそれもここまで。大量に荷物が入るようになった魔法の鞄が手に入ったからもう不要なんだよ。荷物持ちなんていても経費が嵩むばかりだからな」
「そ、そんな……」
ラマンは蔑むような目で僕にそう言ってきた。確かに僕のスキルは基本的には荷物を出し入れするスキルだ。勇者が魔法の鞄を手に入れてしまったら必要ないと言われればそれまでかもしれない。
でも、それでも僕はこれまで自分なりに必死でやってきたつもりだった。だけど、役立たず……それが勇者の最終判断だったということなんだ……
「お前たちもそう思うだろう?」
すると勇者ラマンが他の皆にも同意を求めた。つい気になって僕も皆の反応を待ってしまう。
「そうだな――」
肩まで伸ばした美しいブロンド髪を靡かせ、最初に答えたのは剣聖のシャンプーだった。彼女の髪からはいつもいい匂いがしてるんだよね。
「アタルの実力ならそれも致し方無しと言ったところかもしれぬな」
「そ、そんな……」
剣聖のシャンプーはこのパーティにおける戦闘の要だ。単純な戦闘力ならラマンより上で、強力な聖剣術が使える。その上決して怯むことのない強い心とフィジカルの持ち主だ。
皆の盾であり鉾でもある頼りがいのある美少女騎士なのである。
そんな彼女が僕を不要と判断した――
「シノブはどうだ? もうこんな奴愛想が尽きただろう?」
「……例え――追放されようと拙者のやることは変わらぬ」
忍者のシノブもそう答えた。彼女は強力な忍術は勿論、周囲の気配を探ったり罠を解除したりなどをこなす。彼女の斥候としての能力は高く、夜の見張りは勿論ダンジョン攻略においても欠かせない存在だ。
そんな彼女も僕がいてもいなくても変わらないと判断したんだね……
「アンジェラも同じ気持ちだろう?」
「私の気持ちは勿論変わりません。それに神が告げております。これも運命であると。まさに神の思し召し」
アンジェラが胸の前で十字を切り祈るようなポーズで言った。彼女は聖女の称号を持った清き存在だ。聖魔法のエキスパートで死んで三日以内の相手なら蘇生も可能という素晴らしさ。あの最強最悪のアンデッドとされたリッチキングをも消滅してしまうほどの力を秘めている。
彼女はとても優しく清い心を持っていたけど、そんなアンジェラでも僕はここにいる器じゃないと判断したんだね……
「最後にラムだ。お前だって皆と同じ気持ちなんだろう?」
「……そ、そんなの、つ、追放されたからって、な、何も変わらないんだからね!」
ラムもなんだ……ラムは大魔導師としても名高い存在だ。赤髪のツインテールをした可愛らしい女の子であらゆる属性の魔法を完璧に使いこなすことができる。
パーティにおける魔法の要であり、彼女がいることで大量の魔物に襲われた時であっても圧倒的火力で殲滅することが出来る。
そんなラムから見たら僕なんて頼りがいがなくて仕方なかったのかもしれない……
「はっはっは! そうだつまりこういうことだ。俺たちのパーティにはもはや貴様のような荷物係など不要ということだ。わかったらさっさとギルドに行くぞ! 貴様の追放手続きを済ませたいからな!」
ラマンは追放手続きといったけど、脱退手続きのことだろう。確かにそれを済ませたら僕はこのパーティにはいられなくなってしまう。
そうと決まればラマンの動きは早かった。すぐに冒険者ギルドに赴き、いつもラマンが姿を見せると率先してカウンターに立つキヨウコさんが対応してくれた。
「というわけで、今日限りでアタルをパーティから追放することにした」
「はい? え? 本気なのですか?」
「勿論本気だとも。この男はこれまでただ後ろからついてきて荷物持ちをしているだけだった。そんな奴でも優しい俺は報酬の一部をくれてやっていたが、魔法の鞄を手に入れた以上、もう存在意義がない」
「そんなこと……」
「よくぞ言った勇者ラマンよ!」
キヨウコさんが何か言いかけた時、二階から階段で降りてきた壮年の男性が声を大にしながら近づいてきたよ。
彼はこの冒険者ギルドのマスターをしているウルイセ・ヤラツだ。白髪頭でお腹は少し出ているけど、昔は冒険者として随分と鳴らしたらしいよ。
「全く。この私も常々そこの無能には手を焼いていたのだ!」
そして僕のことを睨みつけながらウルイセが近づいてくる。でも、少なくともマスターの手を煩わせたことなんてないつもりなのだけど。
「しかし流石勇者ラマンだ。今のパーティにとって何が必要で何が不必要か、よく分かっているではないか」
「はは。それは勿論。勇者たるもの人を見る目を養わなくてはならないのでな」
「失格ですよ勇者パーティとして!」
するとキヨウコさんもウルイセとラマンに同調するように叫んだ。そ、そっか……やっぱりキヨウコさんもそう思っていたんだ。
いつも仕事を終えて帰ってくるとこんな僕にも優しい笑顔を見せてくれて、紅茶を淹れてくれたり焼き菓子を分けてくれたりしたけど、僕に頼りがいがないから気を遣ってくれていたのかもしれない。
そう考えると何だか申し訳ない気がする。
「さて、アタル。お前のような邪魔者はこれでいよいよお払い箱だな。こうして勇者パーティーを追放された以上、貴様のような無能はギルドからも追放処分とする!」
だけど僕にとって予想外だったのはウルイセのこの発言だった。そんな、冒険者ギルドからも追放だなんて!
「そんな、僕はせめて冒険者としてはやっていきたいのです。それなのに追放だなんて……例え実力不足だとしても僕のスキルなら薬草採取や運搬の依頼なら可能です」
「ならん! 貴様のような無能がこのギルドに所属しているということが恥なのだ! それでもこのギルドに残るというなら賞金首として手配書を回すことになるぞ! 勇者パーティーとギルドに損害を与えた罪でな!」
「そ、そんなのあんまり――」
「全くこれだから無能は困るのだ」
「自分の立場をわきまえぬでござるか?」
「神が申しております。この愚か者め! と」
「ま、全くこの期に及んで、本当、し、信じられないんだからね!」
「あ……」
流石に納得がいかなくて反論しようかと思ったけど……他の皆から糾弾されていることを知って、僕は何も言えなくなった。
「あはははは、どうだわかったか? 全く愉快愉快。大体貴様のような無能がこの勇者パーティにいたことがそもそもの間違いなのだ。わかったらとっととこの街から出ていけ。どうしても冒険者の真似事がしたいというのなら、どこかの片田舎にでも移り住んでドブネズミでも退治するかゴミ拾いでもして日銭を稼ぐのだな」
「ぬはは、それはいい。もっともゴミがゴミを拾うなど笑えぬ冗談だがな!」
それから僕はもう何も言えなくなって宿屋に戻っていった。そうか、僕のような無能は勇者パーティは勿論ギルドでもお荷物で不要な存在だったんだ……
その後はよく覚えていないや。他の皆はギルドで話し合っていたようだけど、僕は宿にいつの間にか戻っていた。
「まぁ一応は雑用係とは言えこれまで一緒だったわけだからな。今日一日ぐらいは宿に泊まるのを許してやる。だからいいな? 今日中に荷物をまとめて明朝には出ていけよ!」
戻ってきたラマンにはそう言われた。情けない話だけど、僕の手元にはあまりお金が残っていない。
実際雑用係みたいなものだったのは事実だからね……
僕は部屋に戻って荷物の整理を行っていた。明日の朝にはもうここを出ていく必要がある。
「アタル――」
僕が部屋で荷物をまとめているとシャンプーが部屋に入ってきた。お風呂上がりなのか美しいブロンドの髪からはフローラルな良い匂いが漂ってくる。
「シャンプー。ちょうど良かった返さないといけないと思っていたのがあったんだよ」
「返す?」
不思議そうにシャンプーが小首を傾げていた。ずっと収納箱に入れっぱなしだったもんね……でも借りっぱなしで追放されるわけにはいかない。
「これ、シャンプーから借りていた聖剣術の指南書を返さないとと思って」
収納箱から取りだした本を手渡そうとした。あと他にも――
「剣も何本か預かっていたもんね。それも返しておくね」
「いらないぞ」
「え?」
僕の考えとは裏腹にシャンプーは何故か指南書も聖剣も受け取りを拒否した。
「でも、僕は追放されるんだし……」
「だとしても指南書はもう読まないからアタルに渡したのだ。剣は……私には今この剣がある。他の剣は今返してもらっても荷物になるからな」
それでも受け取って欲しいと僕はシャンプーにお願いしたけど、シャンプーは固辞した。
「アタル……追放された後は色々と大変だろう? お前のスキルのことを考えたらそれは取っておいた方がいい」
シャンプーはどうやら僕に気を遣ってくれているようだ。確かに僕の収納箱はただ物をしまっておけるだけじゃなくて、収納箱にしまったアイテムを自由に複製したり、削除したりが可能だ。それに中に入れた物の効果は別に取り出さなくても発揮できる。
つまりシャンプーから借りていた聖剣術の指南書と聖剣を持っていていいというのなら、複製した聖剣を装備して聖剣術の効果を発揮するだけでも魔物と戦うことが出来る。
パーティーを離れてしまったら僕は暫くはぼっちで過ごすことになるけど、それを思って気を遣ってくれているのかな?
そういえば――僕はいつもシャンプーには助けてもらってばかりいた。一応シャンプーから剣や指南書は借りていたから戦えないことはなかったけど、魔物が近づいて来たり攻撃してくると身を挺してシャンプーが守ってくれたんだ。
でも、今思えばそれが原因で結果的に情けないと思われたのかも知れないよ。
「……ごめんねシャンプー。情けない僕で」
「な、なぜ謝るのだ!」
「だって僕、いつもシャンプーに守られてばかりだった。だけど、そんな僕じゃ駄目だよね! うん。皆とは離れ離れになるけど、今度あった時には少しは頼りがいが出てきたと思えるよう頑張るよ!」
「は? いや、今でも十分頼りがいが……大体そんな寂しいこと」
あれ? 何だろう? 何かシャンプーの顔が赤いような? あ、もしかしてこんな僕が頼りがいなんて言ったから怒っちゃったかな?
「と、とにかく。明日の朝出発だったな?」
「うん……それでこのパーティーとはお別れだね」
「あぁ、そうだな。そうすれば、ふふ、うむ。わかった! それならまたな!」
「うん。またいつか……」
そしてシャンプーが部屋を出ていった。でも、今またって言ったかな? もしかしたら気を遣ってくれているのかもしれないね。
そして僕は改めて荷物のチェックを行った。
「主君、荷物を整理していたでござるか?」
すると今度は忍者のシノブが部屋に来てくれたよ。
「あ、ちょうどよかった。シノブにも借りていた巻物を返さないとね」
この巻物はシノブが扱う忍法について記された物だ。忍法は魔法に近いけど魂から引き出せるチャクラというエネルギーを使用して扱えるのが特徴だったりするんだよね。
「それは主君に献上した物故、返してもらう必要はござらぬ」
「いや、でも僕はもう追放されるし……」
「そんなことは関係ないでござる。拙者と主君との関係は変わらぬござるから!」
ぐいっと顔を近づけてきてシノブが言った。うぅ、可愛い顔をしているからすごく照れくさい。
シノブは過去に油断して罠にかかり、多くの魔物に囲まれて困っているところで助けてあげたことがきっかけで僕を主君と呼ぶようになったんだ。
でもあれからシノブも成長して立派な忍者になった。そんなシノブからしてみたら確かに今の僕は頼りにならないと思われても仕方ないよね。
「でもやっぱりこれは……」
「忍たるもの、一度主君に献上した物を返してもらうなど末代までの恥に繋がるでござる。どうしてもというのであれば、拙者腹を切る所存で」
「待った待った! わ、わかったよ! これはありがたく受け取っておくね!」
ま、まさか突然肌を晒して切腹しようとするなんて……それにサラシを巻いていたけど、それでもやっぱり目のやり場に困るよ!
「それに主君であれば忍法も上手く扱えるでござる」
「う~ん。でも上手くと言っても僕の場合はスキルで力を借りているだけだしね……」
僕のスキルで技や魔法の再現は出来るけどそれは別に僕の力ってわけじゃないんだ。
「その奥ゆかしさも拙者の尊敬するところでござる」
「いや、別にそんな……」
「拙者は知ってるでござるよ。主君は暇さえあれば常に修行を行い、力を使いこなそうと努力していることを」
シノブ……常に影から見守っているとは言っていたけど、見ていたんだね。でも、それは当然のことだ。でないと僕はただ力を借りているだけで自分では何も出来ない男に成り下がる。
でも、それでもまだ僕には力が足りなかった。だから不甲斐ない僕は愛想を尽かされたんだね。
「……主君。拙者は常に主君と共在しているでござる。それだけは忘れないで欲しいでござる」
「うん。ありがとうシノブ……」
「――しからば拙者も準備がある故御免!」
そしてシノブも部屋からいつの間にか消えていた。はは、全くやっぱり追放されるような僕は、皆に心配をかけてばっかりなようだね。
本当にもっとしっかりしないと……
「アタル様、やはり部屋におられましたね。これも神のお導き――」
自分の未熟さを噛み締めていると、部屋に聖女のアンジェラが入ってきたよ。
「よかった。アンジェラにこそは返したいのがあったんだ」
「私にですか?」
「うん。この聖書は返しておかないと」
聖書には聖なる魔法についての記述がある。だからこれがあれば回復魔法なんかも使えるのだけど追放されるのだから返さないとね。
「それは神からのお告げによりアタル様にお渡しした物。返却の必要などございません。これも神の思し召し」
アンジェラが祈るようなポーズでそういった。えっと、アンジェラも?
「その、流石に聖職者でもない僕がこれを借りっぱなしというのも……」
「もし、今私がこれを受け取ってしまっては神の意思に反したことになり、私の魂は死後煉獄に落とされこの身を一生燃やし続けられることでしょう」
祈るようにしながら怖いことを言い出したよ!
「うぅ、そんなことを言われたら返せないよ……」
「ご安心ください。聖書もアタル様の元にあるからこそその効果が遺憾なく発揮できるのです。アーメン」
アンジェラがニコリと微笑んだ。やっぱりアンジェラも可愛いな。それにしても、アンジェラにもいつもお世話になりっぱなしだった。
僕の怪我にもいつも気を遣ってくれていた。ちょっとした掠り傷だったり、深爪程度でも回復魔法を掛けてくれたのはちょっと大げさかなと思うけど。
「アンジェラにもお世話になったよね。頼りない僕をまるで母親のように面倒見てくれた。でも、僕もきっとそれに甘えすぎていたんだね」
「……母親――私は母親として見られていたのですか?」
う! 宝石のような瞳を向けながら問いかけてきた。上目遣いで、見られているだけでドキドキしてきた。
「少し、顔が赤いようですね。魔法で治療しなければ……」
「いやいや! これは違うから大丈夫だから!」
手をかざして今にも魔法を行使してきそうなアンジェラを止めた。ふぅ、本当に心配を掛けてばかりだなぁ。
「その、アンジェラは母性あふれる人だから。でも、それに甘えてばかりいたから結局僕は駄目だったんだ。だから追放された後は、一人になって暫く自分を見つめ直してみたいと思う」
「……アタル様は一人がお好きなのですか?」
「え? いや、勿論仲間がいたほうがいいんだろうけど……」
「それなら良かったです」
うん? 良かった? アンジェラ、どことなく嬉しそうだ。あ、そうかこれでお別れだから……やっぱり僕がいると余計な苦労を掛けてしまうから……
「アタル様。私にはわかります。アタル様はこれからも神の恩恵に授かれることが。貴方は神に愛されし存在なのですから」
「はは、それこそ大げさだと思うけど……」
「きっとすぐにわかります。アタル様に神の思し召しがあらんことを――」
そしてアンジェラは出ていった。神の思し召しか……きっとアンジェラにも気を遣わせてしまったんだろうな。追放はされたけど、やっぱり皆いい子だよね。
「アタルいる?」
準備も整って最終確認していると、今度は大魔導師のラムが部屋に飛び込んできた。赤いツインテの髪が尻尾のように揺れている。
そして僕を見て胸を張った。大きな果実が跳ねる。あ、相変わらず大きい……
「あ、そうだ。ちょうどよかった。ラムにこそ渡しておかないと」
「渡す?」
「うん。はい。これ借りてた魔導書……」
「それはあんたにあげたもんでしょ! ば、バッカじゃないの!」
「えぇええぇええぇえええ!」
何か怒りながら親切なこと言われたよ!
「いや、僕としては借りていた認識なんだけど。それにラムにも必要だよね?」
「ば、馬鹿にしないで! あんたに上げた魔導書なんて全て私の頭には、入ってるんだからね!」
そうなんだ……流石ラムは大魔導師だけあって頭がいいね。僕なんかとは全然違う。
「うん。やっぱりこのパーティの要の一人だけあってラムは凄いよね」
そう。ラムはあらゆる魔法を使いこなす天才だ。僕もラムにはお世話になった。魔導書を収納箱にしまっておけばそれだけで魔法が使えるのは確かだけど、自分でも魔法について学ばなきゃと思って暇をみつけては彼女に教えてもらっていた。
でも、今思えばそれがラムにとって迷惑だったのかもね……ラムだって常に忙しいのに、僕なんかに付きまとわれていたらそりゃ嫌になるよ。
「……ごめんねラム。いつも迷惑ばっかり掛けていたよ。こんなんだからきっと僕も追放されるんだね」
「ば、ばっかじゃないの!」
「へ?」
何かまた怒鳴られてしまった。やっぱり僕の不甲斐なさに腹が立っているんだね。
「だ、誰も迷惑だなんて言ってないでしょ! 勝手に決めつけないで!」
「え? でも、魔法についても聞いてばかりだし……」
ラムが気を遣ってくれているのはよくわかる。やっぱり僕は駄目な男だよ。
「だから! あぁもう! とにかくあんたは立派に務めてきたわ! それだけは認めてあげる! だから、つ、追放されたからってそんな顔しない! きっと、み、見ててくれる人はいるんだからね!」
「……うん。ありがとうラム。そう言ってもらえると僕も勇気が出たよ」
色々迷惑掛けたし、きっと立ち去る仲間に対して精一杯気を遣っての発言だろうけど、それでも仲間だった子にそう言ってもらえるのは嬉しい。
「わ、分かればいいのよ! じゃあね!」
あぁ、でもやっぱり怒ってるのかな。顔を赤くさせてラムが部屋を出ていくよ。
「そ、それじゃあ、明日ね!」
そしてラムが出ていったんだけど、明日? もしかして見送りに来てくれるつもり? はは、まさかね。
でも勇者ラマンは結局姿を見せなかったけど、他の皆とは話せてよかったよ。
さて準備も整った。結局皆には何一つ返せなかったけど……厚意と思って甘んじて受け入れさせてもらおう。
そしてベッドに横になり、朝がやってきた。カーテンを開けてみたけど気持ちいい朝だね。よし、今日で皆とはお別れだし、この町からは出ていかないといけないけど気持ちを切り替えていこう。
僕は大きなリュックを背負った。収納箱に入れれば済むことだけど、自分を見つめ直すためにあえて重いリュックを背負うことにした。
さて、これで出発、と思った矢先扉が開いて、目の前にシャンプーの姿。
「うむ。アタルよ準備が整ったようだな。ならばいくとするか」
「へ?」
鎧姿のシャンプーが突如そんなことを言ってきた。えっと……
「シャンプー。行くってシャンプーはどこに?」
「何を言っておるのだ。私も一緒にお前と町を出るのだ」
「へ? へぇええぇええぇええええ!?」
シャンプーがとんでもないことを言ってきたよ! え? 僕と一緒に!?
「待って待って! だって僕は追放されたんだよ!」
「うむ。そうであるな」
「だったら、それにシャンプーは勇者パーティの盾なわけだし」
「しかしな。既にパーティーから抜けると置き手紙は残してきた。騎士が一度こうと決めたことを曲げるわけにはいかん!」
「え~!」
そんな、つまりシャンプーは勇者パーティーを抜けてきたってこと?
「で、でもどうして僕に? だってシャンプーは僕の実力なら追放されても仕方ないって……」
「うむ。アタルほどの逸材であれば勇者パーティに収まる器ではない。だからこそ仕方ないと思ったのだ」
「そういう意味だったの!?」
まさかまさかの理由だよ!
「いや、でもそれはちょっと過大評価では……」
「アタルは自己評価が低すぎるのだ。アタルは素晴らしい力を持っているし、その力を使いこなすために日々努力を怠らない。そんなアタルだからこそ私はついていこうと決めたのだ!」
熱弁されてしまった……いや、でもいいのかな?
「……私はもうパーティーから脱退する旨を示してしまった。アタルについて行く覚悟を決めたからだ。騎士として決めたことは曲げられぬ。それでも嫌だと言うなら……私は騎士を辞めてどこか遠くの地でアタルの姿を思い浮かべながら生涯一人で生きていくとしよう」
「待って待って! わかった、わかったよシャンプー! 一緒に行こう!」
「本当かアタル!?」
シャンプーが嬉しそうな声を上げた。そして何故か抱きつかれたよ! うぅ……鎧と言っても谷間の部分は開いてたりするから、か、感触が……
「アタルのことはこれからも私が守り抜くからな!」
「あ、ありがとう」
「よし! ならば早くに町を出てしまおうではないか!」
そう言ってシャンプーが僕の手をグイグイと引っ張ってきた。何か随分と急いでるようだけどどうしたのかな?
「主君、お待たせいたしました!」
二人で部屋を出ると天井からシュタッと女の子が飛び降りてきた。シノブだった。
「むぅ! シノブか!」
「うん? お主! シャンプーではござらぬか」
片膝を着いた状態でシノブが顔を見上げてシャンプーを見た。あれ? 何か警戒していそうな顔のような。
「えっと、シノブがどうしてここに?」
「勿論主君をお守りすることこそが忍の務め。故に一緒に出ようと思ってのことでござる」
「えぇえええぇえええぇええ?」
思わず仰天して声が出たよ! シャンプーだけじゃなくてシノブまで一緒に来るだなんて!
「シノブ! 何を言っているのだ! 貴様アタルの追放に賛成していただろう!」
「はて? 一体何のことかわからぬでござる。拙者、例え主君が追放されようがやることは変わらぬと申したまで。つまりこれまで通り主君と共に歩み、主君とともに生きるでござるよ」
「え? そういう意味だったの?」
これには僕も驚いた。正直僕もシノブから嫌われたのかと思っていたから……
「かつて拙者は主君に命を救われた故。主君を裏切るような真似は決してしないでござる」
「でも、勇者パーティはどうするの?」
「そうであるぞ! お主は勇者パーティの仕事が残っているであろう!」
「それならば手裏剣にて文を突き刺してきたでござる。パーティを抜けると認めた文でござるよ」
つ、突き刺した? 一体どこにだろうか? とは言え、まさかシノブまでパーティを出てくるなんて……
「でも、流石にそれは不味いんじゃ……」
「主君は拙者がいると迷惑でござるか?」
「え? いやそんな……」
「もし迷惑と申されるなら! 拙者迷惑を掛けた詫びにここで腹を!」
「うわあぁああぁあ! 待って待って! わかった、わかった一緒にいこう!」
「本当でござるか! いや、よかったでござる。拙者主君に見捨てられたらどうしようかと」
「はぁ~何てことか。折角これで……」
「折角これで何でござるか?」
「いや、だから……」
チラリとシャンプーが僕を見てきた。一体何だろう?
「全く油断も隙もないでござるよ。我が主君を雌狐の好きにはさせないでござる!」
「どっちが雌狐か! 全く折角二人きりでと、くっ!」
「えっと、元々同じパーティなんだし、仲良くいこうね?」
よくわからないけど、結局シノブも一緒に町を出ることになってしまったよ。いいのかな?
とにかく、三人で宿を出たのだけど。
「お待ちしてましたアタル様。これも神の思し召し」
「え? アンジェラまで!」
宿を出た先にアンジェラがいた。祈るようなポーズで僕に挨拶をしてきたんだ。
「なぜお主がここにいるのでござるか?」
「勇者パーティは抜けてきました。脱退を表明する為十字架も逆に置いてきてます」
教会では抜ける際に十字架を逆に置く習慣があるのだけど、それをしたってことは聖女アンジェラは固い決意を持って勇者パーティを抜けたということになる。
「お主、主君の追放に賛成していたではござらぬか」
「何のことでしょうか? 私はアタル様が追放されたのは運命であり神の思し召しと口にしただけでございます。そしてアタル様が追放された後、私がそれについていくことが使命と神のお告げにありました。故に私はアタル様についていきます」
「くっ、また一人ライバルが増えてしまったではないか!」
シャンプーが何か悔しそうに口にしているけどライバル?
よくわからないけど、一応確認する。
「えっと、それ大丈夫なのかな? それに僕についてくるより勇者ラマンと一緒の方が力を活かせるのでは?」
「私は神のお告げでここにおります。もしそれを拒否されては私は神にあわせる顔がございません。それどころかきっとこの身も魂も煉獄に落とされ一生を……」
「わ、わかった、うん。一緒にいこう!」
「ふふふ、これも神の思し召し。怪我をした時の治療は私にお任せください」
「あ、ありがとう、ってちょ、胸!」
アンジェラが僕の手をとって大きな胸に添えて、あ、頭がくらくらしちゃうよ~。
「貴様! 一体何をしている!」
「うぷっ!」
こ、今度はシャンプーの胸に、か、顔が……
「え~い無礼な! 主君に駄肉を押し付けるでない! 無礼でござろう!」
「あらあら、お胸がないからって嫉妬かしら?」
「な、ち、違う!」
「ふっ、確かにシノブは慎ましやかであるからな」
「誰が慎ましやかでござるかぁああああ!」
あぁ何かちょっとした喧嘩に。あれ? でも何か皆楽しそうだよ。というか、何かいつもどおりだった。
……そうか。これから一人だと思ったけど、結局三人も僕についてきてくれると言ってくれた。これは凄く嬉しいことだよ。
「ふむ、しかし、あやつは来ぬな」
「うむ、そうであるな」
「それも運命。神の思し召し、ですが……」
皆も気がついたみたいだね。そう、この中には大魔導師のラムの姿がないんだ。でも仕方ないよね。流石にラムまで来ちゃったら勇者パーティに誰もいなくなっちゃうもの……
◇◆◇
一方その頃、朝目覚めた勇者ラマンは驚愕し、泡を食ったような顔になっていた。
「ど、どういうことだこれは!」
先ず、部屋に置かれていた手紙に気がついた。そこにはシャンプーの文字でこう書かれていた。
『私は真に守るべき者の元へ向かう。見る目のないお前に守る価値などない。脱退させてもらう』
そんな何とも辛辣な手紙が残されていた。これに馬鹿な! と部屋を飛び出てシャンプーの部屋に向かったがすでに荷物もなく、いなくなっていた。
しかもその直後部屋を出たラマンの頬を掠って手裏剣と一緒に文が壁に刺さった。
それがシノブの手裏剣なのはすぐにわかった。そして文を広げてみたが。
『拙者守るべき主君と共に征く。故にお前のパーティから脱退しこれからは敵でござる。主君に手出しするなら抹殺する!』
そう書かれていたのだ。当然慌ててシノブの部屋に向かうがもぬけの殻であった。
「糞! 一体何なんだこれは!」
気を落ち着かせようと洗面所に向かったが。そこには血のように赤く染まった十字架が逆さまに掲げられていた。鏡には赤い文字で地獄に落ちろとまで記されている。
アンジェラなのは間違いなかった。十字架が逆さにされているのは勇者ラマンの元を去るという意思表示であった。当然パーティから脱退するという意思表示にほかならない。しかも真っ赤に染まってだ。
「ふざけるなふざけるなふざけるなーー!」
当然勇者は荒れた。荒れまくってついつい部屋の物に八つ当たりした。そして息を切らしベッドに腰を掛けて頭を抱えた。
一体なぜこうなった? 勇者ラマンには意味がわからなかった。ありえないことだった。本来ならあのアタルを追放したことで勇者の元にはそれぞれ甲乙つけがたい魅力のある女メンバーだけが残るはずだった。ようやく念願のハーレムパーティを結成できるはずだったのだ。
しかし既にそのうちの三人が抜けてしまった。
これではハーレムもクソもないではないか。
「勇者いる?」
その時、部屋の扉が開き、ツインテールの美少女が姿を見せた。それにラマンは相好を崩した。
「そ、そうだ! ラム、まだお前がいた! 他のメンバーがいなくてもお前さえ残っていれば十分じゃないか!」
「は? 何他のって?」
「くっ、それがだ、朝起きたら置き手紙やら文やら逆さ十字架などが残されていたのだ。シャンプーとシノブとアンジェラがパーティから抜けるということでな。全く馬鹿な奴らだ!」
「なんですってーーーーーー!」
ラムが大いに驚いた。それにラマンもうんうんとうなずく。
「そりゃ驚きだろう。全くこの上がり株の勇者パーティを抜けてどうしようと言うのだ。それを考えたらお前は実に賢明だ。この俺を」
「くそ! 先を越されたわ! こうしちゃいられないじゃない!」
しかし、勇者のセリフを全て聞くこともなく、ラムが踵を返す。
「お、おい! どこにいくつもりだ!」
「あんたには関係ないでしょ! それよりこれ脱退届け!」
ラムがパシッと紙切れを勇者の顔面に叩きつけた。ラマンがそれを確認し目玉が飛び出でんばかりに驚く。
「な、何だとーーーー! 馬鹿な! ちょ待てよ!」
「待たないわよ! ちょ、放しなさいよ!」
勇者が飛びつき、ラムの足に縋り付いた。
「放さないぞ! 何故だ! 何故お前まで抜けると言うんだ! 俺の何が気に入らないっていうんだ!」
「全部よ! 大体あんた私達のこと都合のいい女としか見てないでしょ! それにアタルの実力にも気づいてなかったし、昨日だってそれで文句を言ったわよね?」
アタルは勘違いしていたが、昨日ラム達はアタルを侮辱する発言を行った勇者とギルドマスターに対して怒っていたのだ。だが、二人は何にそんなに怒っているのか理解出来ていない様子だった。
「そんな奴と一緒になんて組めないわよ。これまでアタルがいたからまだ我慢していたけど、あんたが追放したならもうここにいる意味なんてないんだからね!」
「な、それじゃあ、お前たちはアタルがいたから俺と一緒だったというのか!」
「そうよ!」
ラムが魔法を行使し、強風によってラマンがふっとばされた。
「ふん。ま、あんた勇者なんでしょ? だったら今度は自分を見つめ直して頑張って見ることね。じゃあね!」
こうしてラムもまた勇者の下を去るのだった――
◇◆◇
結局、シャンプーとシノブ、アンジェラとは一緒に町を出ることになった。僕が追放されたことには変わりないからね。この町ではもうギルドの仕事がもらえないし。
――ズドォォォォォオォォォオン!
「え! な、なになに!?」
突然進行方向上の道が爆発した。何これどうなってるの!?
「アタル! 何私をお、おいて行こうとしてるのよ!」
「えぇ!」
後ろからラムの声が聞こえた。振り返ると、杖を構えて僕たちを睨むラムの姿。えっと、どういうこと?
「おいていくとは酷い言い草でござる」
「うむ。お主が勇者のもとに残ったのだろう?」
「神も愚かと申しております」
「な、何勝手に決めつけてるのよ! バッカじゃないの!」
目を吊り上げて、文句をいった後、のっしのっしといった様相で近づいてきた。ちょっと怖い……あ、でも動きに合わせて胸がぽよんぽよんって……
「アタル! どういうつもりよ!」
「ご、ごめん! そこまで見るつもりはなかったんだ!」
「は? 何の話よ。それより、なんで皆を誘って私だけのけ者にするのよ!」
へ? のけ者? 改めて見てみるとラムが涙目になっていた。
「えっと、別にそんな気はなかったんだけど、気がついたら皆が一緒に来ていて……って、それってもしかしてラムも!?」
「そうよ! 今勇者に脱退届け叩きつけてきたところよ!」
「えぇええぇええぇえ!」
「ふむ、やはりこうなったか」
「おかしいと思ったでござる」
「こんなこと神のお告げにありません。立ち去られては?」
「ふざけんじゃないわよ! いいアタル! 私も一緒についていってあげてもいいんだからね!」
「えぇっと……」
状況がつかめなくなってきた。それにその、ラムまで来ちゃったら……
「あの、勇者が一人になってるような?」
「気のせいよ」
「えぇ……」
「とにかく! もう決めたの! あ、あんたに拒否権なんてないんだからね! 断ったら一生消し炭にしてやるんだから!」
い、いっしょう消し炭……それはちょっと嫌かな。
「はぁ、しょうがないかな。なら一緒に行こうか」
「仕方がないな。だが抜け駆けは許さぬぞ」
「最初に抜け駆けしようとしておいてどの口がそれを言うでござるか」
「私は神のお告げに従うだけです。ふふふ」
「どうもアンジェラが一番怖いのよね……」
こうして勇者以外の四人と僕で結局パーティから追放。町を出ることになったんだ。でも抜け駆けってんだろう?
そもそもこれって追放なのかな? う~ん……
「あ! アタル君よかったやっぱりここにいたんだ!」
「あれ? キヨウコさん?」
街に出るために門の前に向かった僕たちだったけど、そこにはギルドの受付嬢のキヨウコさんの姿があった。でも、何か荷物が多いような?
「貴方がどうしてここにいるのよ?」
「うむ。ギルドの仕事はどうしたのだ?」
「はい。ギルドは辞めてきました」
「えぇえぇえ!」
「嫌な予感しかしないでござる」
「神のお告げがありました。これ以上話は聞かずに先を急ぎましょう」
アンジェラが僕の腕を取ろうとしたけどキヨウコさんが割って入ってきたよ。
「そうはさせません。アタル君! 私も一緒にいきます! 皆さんの毒牙からお姉さんが守ります!」
「えぇええぇええ!」
「はぁ、やっぱりか……」
「嫌な予感はしたけどね」
「やれやれでござるよ」
「神が申しております。とっとと帰れと」
「だが断ります」
キヨウコさんはついてくる気満々みたいだ。
「もう辞表は出してきました。アタルくんに見捨てられたらもう行くあてがありません。それでも駄目ならもう奴隷堕ちしか!」
「わ、わかりました! とりあえずその、一緒にいきましょう!」
「やった♪」
こうして僕は元のパーティメンバーに更に元受付嬢のキヨウコさんをつれて町を追放されることになったんだ――
◇◆◇
「な、なんだと? 勇者パーティから剣聖、忍者、聖女、そして大魔導師の四人が抜けたというのか!」
「えっと、あと、あのアタルって荷物持ちも……」
「あんな雑魚はどうでもいい! 問題なのは他の四人だ!」
冒険者ギルドにてギルドマスターのウルイセが叫んだ。歯牙をぎりぎりと噛み締め、机を思いっきり殴りつける。
「それで、ラマンはどうした!」
「それが、最近ずっと依頼に失敗続きで、それもあって理由を聞いたのですよ。最近ずっと一人でいることが多かったのでおかしいなとは思ったのですが、それでわかったのです。実は他のメンバーが全員抜けていたということに」
「くそ! なんてこった!」
机の上に突っ伏しウルイセが頭を抱えた。それぐらいの一大事であった。何せ勇者パーティの要と考えていた四人が抜けたのだ。
そう、実は勇者パーティともてはやされているが、このパーティにおける功労者はシャンプー、シノブ、アンジェラ、ラムの四人だと彼は考えていた。
逆に勇者ラマンに関して言えば、確かにそれなりの力はあるが、未だまだリーダーとしての器ではないという評価だったのだ。勇者は剣を扱い魔法も行使し回復魔法だって使いこなす。
一見万能のようだが実はそのどれもが腕前は中級程度だった。つまりどれも卒なくこなすが秀でたものがないいわゆる器用貧乏な称号、それが勇者なのである。
勿論全く利点がないわけではない。勇者には勇者にしか覚えられないスキルというものがある。だが、それを取得するのはそう簡単ではなくラマンにしてもまだ覚えてはいないのだ。
故にラマン単独ではそこまでつかえない。しかしラマンの元に集まった四人は別だった。剣聖のシャンプーは文字通り聖剣技という強力な技を使いこなす上、女でありながらもタンクとして非常に優秀だ。
忍者のシノブは探索に役立つスキルを持ち戦闘でも魔法とは一味違う忍法で敵を殲滅できる。アンジェラについては強力な聖魔法の使い手であり、支援から治療まで一通りこなす。
大魔導師のラムは言うまでもなくあらゆる属性の魔法を無詠唱で放つことが出来る。戦略級大魔法も軽くだ。
それだけの四人だ。当然そのメンバーがいるというだけで勇者パーティの株は上がる。それが結果的にギルドの評判にも繋がるのだ。
だが、その肝心の四人が抜けてしまった。理由はわからないが、とんでもないことだ。
「くそ、折角パーティのお荷物だったアタルを排除出来たと思ったのに!」
ガンッ、とウルイセがテーブルを強く殴った。
「その件ですが、実は四人とそれとキヨウコさんも追放されたアタルについていったのでは、という噂が流れてまして……」
「は? いやちょっと待て! キヨウコもだと! そんなの聞いてないぞ!」
「すみません。置き手紙でついていきますとだけ残されていて、それでやってこないのでもしかして休暇でも取ってるのかと誰もが思っていたようで」
「それでこれまで報告しなかったというのか愚か者が!」
「す、すみません。何せキヨウコさんがいないおかげでギルドもてんやわんやで仕事も全然回っておらず」
「ぐ、な、なんてこった!」
更にウルイセが頭を抱えた。キヨウコはこのギルドの仕事を完ぺきにこなしていた。ギルドの多くの仕事は彼女がいたから回っていたと言える。故にキヨウコがいなければギルドの運営に大きな支障を来すこととなるのだ。
「マスターその、言いにくいことなのですが、もしかしたらあのアタルを追放したのがそもそもの間違いだったのでは?」
「馬鹿いえ! あんなクズが何だというのだ! とにかく先ずはラマンを呼べ! 事情を聞く!」
「それが、ラマンも名誉挽回の為に魔王軍に挑むと言って出ていってしまい」
「あ、あの馬鹿が! あいつ一人で魔王軍に勝てるわけないだろうが! くそがぁああああ!」
そして案の定それからラマンからの連絡がくることはなく、更に勇者パーティからシャンプー、シノブ、アンジェラ、ラムに加え評判の受付嬢だったキヨウコも立ち去ったと言う噂が流れギルドはどんどんと落ちぶれていくことになる。
「ひゃは、ひゃはは、国からの依頼が遂にゼロになりましたー! ギルドも借金漬けでえぇえええす!」
そしてウルイセは今、部屋で叫びながらやけっぱちになっていた。床には酒瓶が転がり書類が片付けもされず散乱している。
「……マスター今日限りで私も辞めさせていただきます」
「な、何! 貴様まで抜けるというのか! わしの髪のように!」
確かにウルイセの髪は今やすっかり抜け落ちてしまっていた。昔の面影もない。
「うるさい! もううんざりなんだよ! あぁそうだ。最後に良いこと教えてやるよ。あんたが追放したアタルのパーティだけどな。魔王軍直属の八方災が一人パンストータ・ロウを倒したんだそうだ。すっかり英雄扱いだってさ。全く馬鹿なことをしたもんだ。あんたが彼を追放しなければこんなことにはならなかったんだからな!」
そして最後の職員もギルドを去った。残ったのは髪の毛も財産も失ったギルドマスターのウルイセだけだった。どうしてこうなった。ウルイセは必死に考えて、そして思い立つ。
「そ、そうだアタルに戻ってきてもらえば――」
そしてウルイセは何とかアタルの居場所を突き止め、彼の前で土下座し懇願した。
「どうか、どうか! 私のギルドに戻ってきてください!」
「えっと、そう言われても困ったな……」
突然の土下座に困惑するアタル。だが、そんな彼の後を引き継ぐように彼女たちが言った。
「あんなギルドに戻るなんてまっぴらごめんだ!」
「今更もう遅いでござる!」
「神からお告げがございました。戻る必要なんてないハゲ野郎と」
「今更何いってるわけ? 追放したのはそっちじゃない! ばっかじゃないの!」
「残念ですけど貴方のギルドにはもう未練はないのです」
「アタル様は私の英雄。お渡しすることは出来ませんね」
「て、貴方誰ぇええぇええ!」
一人見知らぬ少女がいたことで驚愕するウルイセであったが、そんな彼に彼女がいった。
「私はここルミック王国の第二王女サクラでございます」
「王女様ーーーーー!」
ウルイセが目玉が飛び出でんばかりに驚いた。そして思い知った。アタルが王族と人脈を築けるまでに優れた人材であったことに。だがそれに気がついてももう遅い。例えアタルが許してもアタルを取り巻くヒロインたちがそれを許さないのだから――
◇◆◇
一方名誉挽回の為に単身魔王軍に挑んだラマンは案の定魔王軍幹部の手によって追い詰められていた。
「がはは、勇者とはこの程度か。他愛もない」
「くぅ、まさか、この僕がこんな奴に!」
「こんな奴とは八方災が一人このジュセンも見くびられたものよ」
「く、くそ、まさかこんなところで俺が? そんなの嫌だ! 本来なら俺のまわりに美少女が集まって最強のハーレムパーティを結成する筈だったのだ!」
「ほう?」
ジュセンの目がキラリと光る。
「なるほど、お前の目的はハーレムかそれは面白い。ならば、殺すよりもっと面白いことをしてやろう」
「な、なに?」
「くく、さぁ喰らうが良い! 我が魔法を!」
「う、うわぁああぁああぁあ!」
そしてラマンがジュセンの魔法を食らってしまう。だが宣告通り死にはしなかった。しなかったが……
「え? な、何だこれは、俺が女になってるぅぅぅうぅううう!」
「ぐははは、そういうことだ。貴様の夢はハーレムだったな? だがその姿ではハーレムなど無理な話だろう。くくく、中々可愛らしいではないか。その姿で一生女として生きていくが良い。ハーレムを夢見ながらな。ぬはははは!」
「そ、そんな、そんなぁああぁああぁああ!」
こうして勇者ラマンは女になってしまった。そして絶望したままフラフラと歩き、そしていつの間にか入っていた森で出会ってしまう、ゴブリンに――
「ひ、まっていや、いやだ、やめてぇええええええ!」
こうして女となった勇者ラマンはゴブリンに連れ去られてしまった。そして後悔する……こんなことになるのならば、あの時アタルを追放なんてするんじゃなかったと――
本当は勇者の更にその後とかアタル達がどう活躍したかなどもっと話を広げることは出来そうですが、短編向きかなと思って短編で投稿いたしました。
宜しければ少しでも面白いと思って頂けたら下の★で評価頂けると嬉しく思います!
評価をいただければ今後の作品作りの為の参考にもなりますのでどうぞ宜しくお願い致します!
感想もどしどしお待ちしてます!