Ⅵ.女王陛下‐Grei zer phablett‐
もしかしたら、この時には既に気付かれていたのかもしれない。
洞察力があって、勘が鋭いあなたの事だから。
たとえ、気付かれていたとしても、私は今は――。
「Ciao!
弥王、璃王、グレア、久し振り~! 元気ー?」
執務室の扉を開けたら、女王陛下が居ました、まる。
……って、そうじゃなくて! と、弥王は、心の中で叫ぶ。
執務室を出て行こうと扉を開けた弥王の目の前には、自分の目線より低い銀髪に銀灰色の左目、右目に眼帯をしている少女が立っていた。
一拍遅れて、弥王は叫び声に似た声を上げる。
「じ……っ、女王陛下ぁぁぁぁぁぁあああ!?」
弥王の目の前に居る少女は、グレイ・ゼル・ファブレット。
このグラン帝国を治めていた25代目国王、エリザ・ファブレットの愛娘である彼女は、病でその座を降りた母の後を継ぎ、若干15と言う異例の若さで帝国を治める、歴とした26代目国王だ。
王家の七人兄妹の末っ子であるにも関わらず国王の座に就いている理由は、後継者争いにてその座を勝ち取ったからではあるが、それだけではなく、彼女の持つカリスマ性と国民からの絶対的な信頼があるからこそ、その地位に就けているのである。
その様な手腕を持っているのは、生まれながらの素質もあるがそれ以降の弛まぬ努力の賜物で、それも国民から支持を得ている理由の一つ。
そんな彼女を守るのが、彼女の兄である、グレア・ウォン・ファブレットの──否、裏警察の役目……なのだが。
「で……? 今日は一体、何処を壊して来たんだ、じゃじゃ馬女王。
窓か? 屋根か?」
デスクに座って報告書を纏めていたグレアは、グレイの姿を認めると、咎める口調で問い掛ける。
その白い額には、青筋がピキピキと浮かんでいた。
グレイは最近のグレアの悩みの種の一つである。
「人聞きの悪い事言わないでくれる?
グレアの部屋の窓が無防備に開けっぱだったから、そこから入ったに決まってるでしょ」
さも当然だと言う様にしれっと答える、グレイ。
彼女はどういう訳か、エントランスから入ろうとせず、ある日は窓を突き破り、ある日は屋根を破壊して本部に入ってくる。
被害総額は年間でも万桁を越え、その気になればオーバーテクノロジーの精密機械が幾つか買えそうな程である。
修繕費は勿論、裏警察の運営予算から捻出され、マイナス分はグレアの給料から差っ引かれている。
これはもう、いい加減、嫌がらせだと思ってもいいよな?
と言うか、これは嫌がらせのレベルを超えているのだと思うが。
グレアは、グレイの暴挙に頭を抱える。
「さも『何言ってんの? 当たり前じゃん』とでも言う様に言うなっ!」
「えー、聞こえなーい」
しれっと不法侵入を自供したグレイに、グレアは怒りで肩を震わせ、声を荒げる。
しかし、グレイにはそれが効かないらしく、聞こえない振りをした。
グレイのこういう所は一体、誰に似たのか。
考えても無意味な為、考えない事にした。
腸が煮え切っているグレアの肩を、不意に誰かが叩く。
振り返ってみれば、弥王の顔が目の前にあった。
「まぁまぁ、落ち着きなよ、公爵。
あんまり怒鳴ってると、血管切れるよ」
弥王は苦笑を浮かべて、グレアを見上げる。
「それに、陛下だって悪気があったわけじゃなくて、きっと、ここに引き篭もって中々王宮に帰ってこない公爵に構って欲しいんじゃないのかと、オレは思うが?
オレも、よく同じ様な事を兄貴にしていたし」
弥王には歳の離れた兄が居たのだが、兄がブラコンすぎて鬱陶しかった為に、弥王は兄に「幻奏術の練習台」と称して兄で人間ダーツをしてみたり、「トマト大会」と言って、兄にトマトを投げたりしていた。
それと同じ事だと、弥王はグレアに言う。
いや、それはもう「構って欲しい」の範疇を超えている気がするのだが。
フォローにならないフォローをする弥王から目を逸らして、報告書に目を通しながら、グレアは言った。
「どうだかな。 悪意のない奴が毎回、窓から侵入してくるとは思えないのだが」
まただ──。
グレアは、横目で弥王をチラリと見る。
その目の前には、自分に王宮に一度でも顔を出す様に進言している弥王の姿がある。
夜会以来、どうも自分は神南を無意識に意識する様になった気がする、とグレアは思った。
弥王が女装して夜会に潜入した時、何故か感じた既視感。
女装した弥王には、昔会った少女の面影があった。
だが、と、グレアは考える。
神南は男だ。 年下ならまだ救い様はあるが、少年趣味は流石に頂けない。 と言うか、何の話だ、一体。
最近は、思考が余計な事まで考えようとする。
弥王と璃王についてグレアが知っているのは、神南弥王、神谷璃王という名前、2人とも今年で14だという事、2人の血液型と身長、2人がイリア出身で、グレイが裏警察まで連れてきたという事で、あとは好きな食べ物や嫌いな食べ物などの日常で一緒にいれば解る様な事で、詳しい身元は解っていない。
(それと、ここに来るまでの少しの経歴……か。
二人とも、自分を拉致したマフィアに……)
グレイなら何か知っているのだろうとは思うのだが、グレイは頑なに語ろうとしない。
弥王と璃王も、それに触れようとはしないので、こちらから何かを問い詰める事も出来ない。
「あれ、璃王は?」
部屋を見回したグレイが、弥王に訊く。 弥王は答えた。
「璃王なら、一昨日の夜中からリオルを引っ張り出してどっか行ってますよ。
まぁ、今日の昼ぐらいには帰ってくると思いますが」
「そうなんだー。
リオルを引っ張って、って事は、市外か国外?」
「さぁ、そこまでは。
幾らオレでも、あまり入り込み過ぎない様にしていますから」
「まぁ、そっか。
璃王の事だから、弥王になら何でも話してると思ったけど」
グレアを放置して、グレイと弥王が話している声が聞こえる。
そうか、リオルの言っていた「明日は用事が」と言うのは、神谷と出掛ける為か。
グレアは、幼馴染で裏警察専属の操縦士、エリオール・レイスをちょっとパシろうとしたが、断られていたのだ。
「まぁ、今日来たのは弥王と璃王の顔見に来たのもあるけど、新しい子、入ってきたんでしょ? で、何処に居んの?」
グレイは辺りを見回しながら、誰に訊くでもなく問う。
すると、グレアが雑に部屋の隅を指した。
「そこに居るだろ」
グレアの指す方を見れば、ブラウスに黒いリボンを付けて、膝より少し短いスカートに黒いブーツを履いた明日歌が、部屋の隅に立っていた。
グレイは彼女を見ると、一言言う。
「え……弥王じゃん。いつの間に着替えて移動したの?」
「オレはここに居ますよ?」
グレイの言葉に、グレイの後ろに居た弥王が声を掛ける。
グレイはその声に驚いて振り返ると、弥王に訊いた。
「あ……あれ? 今、部屋の隅に居なかった?」
「神南はずっと、グレイの後ろに居たぞ?」
何を想像しているのか、顔を青くして部屋の隅を指すグレイに、グレアは弥王がずっとグレイの後ろ、グレアとデスクを挟んだ向かいに立っていたことを教える。
すると、グレイは部屋の隅と、自分の後ろを交互に見比べ始めた。
「え……?」
見比べて、弥王と同じ容姿の少女がいる事に気付いた、グレイ。
弥王と容姿がそっくりの少女、となると、驚くのも無理はないが……一体、このグレイの過剰な反応はなんだ?
「ま……まさか……」
グレイは、一体何を思ったのか顔を青ざめさせながら、言葉を詰まらせる。
そして、グレイが次に放った言葉はこれだ。
「ドッペルゲンガー!?」
「そっちの解釈か!」
オカルトなどの怖い話が大の苦手なグレイは顔を真っ青にして、有らんばかりの声で絶叫する。
そんな彼女に、グレアは呆れたような声を漏らす。
普通は、弥王と明日歌を見て「ドッペルゲンガー」と解釈する人間は居ないのだが、グレイの中で一番最初に出てきた単語が「ドッペルゲンガー」だったのだ。
一体、どんな思考回路をしたらそんな結論に至るのか。
こんな女王で大丈夫か、この国?
グレアは、呆れて何かを言うのも馬鹿らしくなってきた。
ガクガクと震えるグレイに、弥王は苦笑して紹介する。
「やだなぁ、女王陛下。 この子はドッペルゲンガーなんかじゃないですよ。
紹介が遅れましたが、彼女は神月明日歌。
似てはいるけど、性別も年齢も違いますよ」
「そっか、そうだよね。
驚かせてごめんね。
知っているとは思うけど、ボクは、グレイ・ゼル・ファブレット」
「えっと……女王陛下……?」
「そう、国民からはそう呼ばれてるね。
よろしくね、明日歌」
明日歌に微笑みながら、グレイは別の事を考えていた。
弥王に似た容姿、その蒼い目、年齢。
この子はもしかして……?
後で、彼奴に調べさせよう。
グレイは、明日歌の素性を知り合いに調べさせる事にした。
「ちなみにさぁ、訓練させてるんでしょ?
何させてんの?」
「情報処理と戦闘訓練……それと、歌を少々」
グレイの質問に答える、弥王。
情報処理の訓練をさせているのは、明日歌が裏警察に入りたがった時の為。
最前線で戦わせるには明日歌は幼すぎるのだ。
まだ、弥王たちのように戦おうとしなくていい、という弥王の教育方針によるものだった。
弥王の回答にグレイは目を鋭くして、聞き返す。
「歌……?」
「えぇ。 もしかしたら彼女にも、オレと同じ様な力が流れているかもしれない……いや、流れている様なので」
弥王は、グレイの疑問に答える。
弥王の持っている様な声質を明日歌が持っているとしたら、歌の訓練は必須になる。
と、言うのも、その声質は本人が気付かない内に放出されている可能性が高く、気が付いたらただ歌っていただけで死体が出来上がってました、なんてザラにあるのだ。
それを防ぐ為の訓練だ。
「確証は?」
「どっかの女誑しにも訊かれましたよ、それ。
同じような力が流れている様なので、確証はありません。
ただ──オレが無意識に夢に入り込めるという事は、そういう事ですよ」
グレイの問い詰めるような問いに、弥王は、兄妹で同じ事訊いてるよ、この人達……と、少しうんざりする。
と、言うのも、グレアにはあの後、散々何度も確認されたのだ。
その為、たとえそれがグレイであっても、聞き返されるとうんざりしてしまう。
弥王は、先天的に声に特殊な声質が混ざっており、歌う事によってその波を体内に送り込んで攻撃する事も治癒する事も出来る能力を持っている。
極稀に弥王が顔も知らない人間の夢に入り込めるのは、弥王とその人間の声にその声質があって、その波長が同調した時のみに限定される。
その為、弥王は名前も顔も知らなかった明日歌の夢に入り込み、更に声も聞く事が出来たのだ。
「まぁ、ご心配なく。 まさか、殺戮人形として育てようとは思っていませんし、戦闘訓練と言っても護身術程度の物です。
それ以上の技術は、本人が前線に出る事を望んで、本人に学習する意志がある事を確認してから教える事にしてますから。
本人が嫌がるなら、他の手を打つ事も考えていますし。
その場合は、陛下に少し、協力をお願いしたいと思います」
微笑んで言う弥王に、グレイは安堵の笑みを浮かべて、言った。
「そっか、それを聞いて安心したよ。
まぁ、弥王の事だから、そう言うと思ってたけどさ。
裏警察辞めたくなったら、いつでも言ってね、明日歌。
孤児院を開いている知り合いがいるんだ」
最後の一言は、明日歌に向けられたものだ。
グレイが頭を撫でると、明日歌は嬉しそうに頬を紅潮させて、言った。
「はい。
でも、弥王様が居るので、弥王様が脱退するまで辞めるつもりはありませんし、私は死んでも弥王様に付いて行くつもりです」
「青春だね~。 弥王はモテるから、敵多いよ?
それで、弥王はどうすんの?」
明日歌の決意の込もった言葉に、グレイは弥王を茶化すように言った。
実を言うと弥王は、王宮に出入りする貴族の女子から人気があり、好意を寄せられていたりする。
そして、本人も大概、グレアに負けず劣らずな女好きである。
「茶化さないでください。 大体、オレは……っ」
「解ってるって。 だから、そんな仏頂面しないの。
イケメン台無しよ?」
グレイの冗談を聞き咎める弥王の口元に、グレイの指が置かれ、グレイは弥王を見上げて言った。
その構図に、グレアは疑問を抱く。
グレイは確か、筋金入りの男嫌いだった筈だ。
グレイを見初めた貴族の男子が、グレイに近寄る度に彼女に切り捨てられていたのを何度も見ているので、解る。
その時にグレイ本人は「男風情がボクに近寄るな、虫唾が走る」と言っていた。
ただ、気を許した人間が近付く事は平気らしいが、そう言う人間は片手があれば余裕で数えられる程だ。
弥王の言おうとした言葉も気になるし、大体、弥王とグレイの距離が近い様な気がする。
弥王の位置に、例えば他の男が居よう物なら、グレイは光の速さでその腰に常備しているサーベルを引き抜いて、喉元に鋒を宛がうだろう。
サーベルの鋒より外側の範囲が、異性が近付ける範囲なのだ。
弥王に対しては特にそう言う事がない。
そればかりか、自分から普通に近付いて声を掛けたりしているし、弥王とはかなり親密そうな感じがある。
(もしかして、こいつら、付き合っていたりするのか?)
グレアは、そんな事を考えた。
それはそれで有りだな……!
神南なら、義弟になっても文句はないな、うん。
グレアは、楽しそうに話している弥王とグレイを見て、そんな事を思った。
いい組み合わせだ。
そんな事を考えて、それはないか、と、考えを白紙に戻す。
例えば弥王とグレイが付き合っているとして、さっきの弥王とグレイのやり取りが引っ掛かる。
「大体、オレは、陛下しか眼中にないです」と言おうとしたのなら、それを遮る必要もないものじゃないだろうか。
惚気が少しウザく感じるだろうが、遮る必要もない様に感じる。
そこまで考えて、グレアは弥王と璃王について、詳しくは聞かされてない事も考える。
(神南とグレイ、あるいは神谷も知っていることで、私や神月には教えられない様な事があるとするなら?)
グレアは、夜会の辺りから考える様になっていた仮説のことを考える。
その仮説は、例えば弥王が女で、あの少女だとしたら? と言うものだ。
あの少女……ミオン・ルーンも、生きていれば、弥王とちょうど同い年だ。
その事を、夜会の時からグレアはずっと、考えていた。
弥王が実は女で、ミオンなら。
この仮説は有り得そうな気がする。
夜会の時までは気にしていなかったが、「神南弥王」として見るには、神南は酷くミオンと容姿も性格も、仕草や癖、口調、何を取っても似過ぎている。
それこそ、グレイではないが、ドッペルゲンガーの様に。
“他人の空似”と言うには、違和感があるのだ。
昔のミオンとの会話と、最近した弥王との会話を思い出しながら、グレアは考えた。
本当は本人に直接訊いた方が早いのだが、まだ弥王がミオンとは断定できないので、それを尋く事もできない。
グレアは、悶々と弥王の素性について考える。
「でさ、聞いてる、グレア?
今、|切り裂きジャック2世《ジャック・ザ・リッパー セカンド》の話してんだけど」
気が付いたら目の前に、額に青筋を浮かべて殺し屋の目で自分を睨んでいるグレイの顔があった。
右手をサーベルの柄に掛けている辺り、あまりボーッとしていたら、グレイに斬り捨てられそうだ。
グレアは応答する。
「あぁ、聞いているさ。 その事件に関係しているか解らない死宣告者が居るんだろう?
そいつの事は、こちらでも確認済みだ」
前に璃王が「自分達以外の気配や視線を任務中に感じることがある」と、グレアに報告していた事があり、弥王と璃王には一応、警戒はさせている。
敵なのか味方なのか、今の所解っていないので手が出せないのだ。
「そう。 ──で、テーゼに調査させてたんだけど、ほら、テーゼには王宮の管理とかボクの補佐とか任せてるじゃん?
だから、あんまり王宮から離せないんだよねー」
「あぁ、あの男装癖持ちのナルシストか。
彼奴、まだ居たんだな」
グレイの話に出ていたテーゼ、と言う名前を聞いて、グレアの顔が真顔になる。
グレイの女執事で補佐であるテーゼとは、昔馴染みなのだ。
昔から、グレアとテーゼの仲は最悪で、顔を合わせる度に毒舌の応酬をしていたのだが、その話はまあ、いずれ。
彼女がいる、という事だけでもグレアが王宮に顔を出したがらない理由になっている。
「当たり前でしょ。 ボクの男嫌いを何だと思ってんの?
テーゼ居なきゃ、ボク死んじゃう」
腕を引き伸ばしたりしながら言うグレイに、グレアは嫌な予感を感じる。
別に、任務の追加なら問題はない。
嫌な予感の正体が、自分が思っているようなことじゃないことをグレアは願いながら、グレイの話を聞く。
「──で、その話は良いとして、テーゼとの話し合いで、その死宣告者怪しすぎるねーって話になってさー。 と、言うワケでグレア」
グレイは窓枠に移動しながら話すと、窓枠に手を掛けた。
そのグレイの行動で、グレアの嫌な予感は確信に変わる。
「|グラン帝国26代目女王からの公式優先任務追加ね。
その死宣告者の調査及び拘束、場合によっては粛清」
――公式優先任務。
それは、グラン帝国の王が公式に出す任務の事だ。
最優先、優先とランク分けされており、その言葉通りに重要度によってランク分けがされている。
公式な任務の為、その任務は皇室の記録に記され、その任務の重要性が精査されることもある。
が、この場合は殆どが「必ず任務を遂行せよ」の意味合いが強い。
勿論、この任務に“失敗”の2文字は許されない。
「じゃあ、後は頼んだ」と言うと、グレイは窓から飛び降りた。
それを見た明日歌が顔を真っ青にして驚愕しながら叫ぶ。
「あ……! ここ、6階……!」
明日歌の声は、遠くの空にハンググライダーで飛び立ったグレイには届かなかった。
「あぁ、いつもの事だ。 で……」
ショッキングな場面を見た明日歌に冷静に説明する弥王の声に被って、今度はドタバタと騎士団が執務室に足音荒く向かってくる音が聞こえた。
「また、やられたぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
世界の終わりを告げられたかの様に絶叫するグレアの後ろで、弥王はその背中を指しながら言う。
「あれも、いつもの事だ」
「え……あの、ファブレット公爵……ですよね、この人?」
弥王の言葉に、明日歌は戸惑いを隠せない。
何せ「グレア・ウォン・ファブレット」と言えば、グレイの兄で、公爵と言う爵位も持っていて、容姿端麗、博識多才……と、天才の名を欲しいままにしている人物だ。
貴族ではない一般人の自分でも、名前を聞いた事があるくらいの有名人である。
そんな彼と、目の前で絶望している彼との印象がまるで違いすぎて、同一人物だと思えない。
明日歌の中でイメージが大きく崩れた瞬間だった。
明日歌の問いに、弥王は頷く。
「あぁ、あのロリコン・シスコン・女誑しで有名な……」
「グレア・ファブレット!
陛下の所在を吐いてもらおうか!」
弥王の言葉は、荒々しく執務室の扉を蹴り開けて押し掛けてきたグレイの私騎士団団員の言葉に掻き消された。
あんの野郎、また仕事投げ出して騎士団に黙って出てきてたのかよ!
グレアは、騎士団にグレイが先程出て行ったことを説明した。
グレイが私用で来ていたのは解っていたが、まさか、誰に何も言わないで出てきていたなんて思わなかったのだ。
この日、グレアは物凄い胃痛を覚えたとか、そうでないとか……。
@登場人物
名前:グレイ・ゼル・ファブレット
年齢:15(初登場時)
誕生日12月24日
星座:山羊座
血液型:??
身長:165㎝
体重:45㎏
出身国:グラン帝国
趣味:フェンシング、グルメ、乗馬
特技:ダーツ、フェンシング
好き:甘味、愛馬のレイトン、弥王、璃王、テーゼ、幼馴染の占術師
嫌い:男、オカルト系、頭の固い貴族のハゲジジィ
異名:ルシファー
武器:メイン……サーベル
サブ……銀食器
グラン帝国26代目女王。
グラン帝国女王直属特殊武装警察「裏警察」のボス、グレア・ウォン・ファブレットの妹で、グレアの他に姉兄が5人いる。
そのいずれも、騎士団か警察、医療関係者である。
末っ子の為、自分より年下である神南弥王始め裏警察の年下メンバーを兄弟の様に可愛がる。
筋金入りの男嫌いで、弥王や璃王、兄貴と幼馴染の占術師以外がサーベルの切っ先の範囲より内側へ来ると「近付くなっ、男風情がッ!」などと言いながら容赦なく切り捨てる。
極度の方向音痴で、良くその辺で道に迷っている。
Goo〇le先生を使っても目的地へ辿り着けない様は「ポンコツ」としか言い様がない。
余りに酷い方向音痴は時に「キャラ作りじゃね?」と訝しまれるが、本人はガチで迷っている様子。
―― ――
―― ――
名前:神月明日歌
年齢:8(初登場時)
誕生日12月25日
星座:山羊座
血液型:B型
身長:135㎝
体重:30㎏
出身国:??
趣味:読書、お菓子作り(璃王の影響)
特技:弥王様サーチ
好き:弥王様、弥王様、弥((ry、本、ココア(弥王の影響が大きい)
嫌い:グレア(なんか最近、弥王様と距離が近い気がするから)、色の濃い野菜、苦い物、弥王様の敵
異名:悪夢の子爵
(後に、「悪夢の伯爵と似たような精神攻撃をしてくるから」と言う理由で呼ばれるようになる)
武器:メイン……弓矢
サブ……ダガー
弥王と瓜二つな少女。
弥王と同じO.C.波を持っており、弥王と夢を共有できる。
弥王に拾われ、裏警察に身を置く。
弥王が大好きで、頭の過半数が「弥王様」で占められている弥王様ガチ勢その2。
「私の弥王様」。
弥王によって性格を180度変えられてしまったある意味犠牲者その2。
ちなみに、ガチ勢・ある意味被害者その1は璃王である。
一日でも早く戦えるようになって、弥王を守れるようになりたい年頃。