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Promessa di duo―太陽ト月―  作者: 俺夢ZUN
第1楽章 少年少女解明編
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番外編 感傷少女



 どうしてか、彼女の儚げな笑顔が、脳裏に焼き付いているんだ。

  “懐かしい”という感情と共に――




 グランツ邸に青年――レイナスは、来ていた。

 昨日のヒリュウの情報通りなら、風神(ウィンディ・ゴッド)は来ている筈。

 裏警察(シークレット・ヤード)の死宣告者、風神(ウィンディ・ゴッド)の監視が、ギルドから命ぜられた彼の任務だ。

 しかし、それらしき人影は今の今まで見当たらない。


 レイナスは、人がごった返して少し熱気を孕んだホールからバルコニーへ出た。少し風にでも当たって、風神(ウィンディ・ゴッド)の姿を思い出そう。



 バルコニーには、先客が居た。

 手摺りに腰を掛けて、感傷的な目で空を見ている蒼い髪の少女。 深海よりも深い藍色の目が印象的だ。

 そんな感傷的な表情とは裏腹に、何処か雰囲気が風神(ウィンディ・ゴッド)の1人、悪魔の猫(デビル・キャット)に似ている様な気がする。

 背丈も恐らくは同じくらいだろう。 蒼い髪も一致している。

 しかし、性別が一致しない。

 確か、彼奴は闇と大地の呪幻術師(ユリア)だ。

 闇の呪幻術師は外見の操作ができると聞いた事がある。

 もし、それが本当なら、彼女には警戒しないといけない。


 そう思った時だった。

 ふと、少女の顔がこちらを向いた。

 あ、マズイ。

 レイナスは、少女がこちらに気付いたのだと思った。


 怪しまれないように声を掛けるべきだろうか。どう声を掛ける?

 それを考えていたが、口は勝手に少女に声を掛けていた。

 声を掛けると、少女はキョトンとした顔でこちらを凝視した。


 あれ、もしかして、こっちには気付いていなかったのか?

 どうやら、勘違いだったようだ。

 しかし、彼女は迷惑そうな表情は一切せず、答えた。


 「人に酔ってしまったから、風に当たっていたんだ」


 聞こえた声は、柔らかくて優しげな心地の良い、何処か幼さを残した声。

 任務の時に時折聞こえて来る、冷たくて低い声ではない。

 幾ら闇の呪幻術師といえど、声までは操作できない為、彼女と悪魔の猫(デビル・キャット)が同一人物であるという可能性が薄れた。


 「君こそ、こんなところで、どうしたんだい?」


 彼女に訊いた事を訊き返されて、レイナスは僅かに動揺した。

 まさか、警戒していたらこちらに気付かれたと思って声を掛けた、なんて言えない。

 この場合は何て言えば良いんだ?

 「見惚(みと)れていたら、ふらっときてしまった」とでも言えばいいだろうか。


 それを考えて、レイナスは首を振る。

 まさか、「見惚れていたらふらっと来てしまった」なんて言える筈がない。

 何処のキザ男だよ。()ぇよ。

 もっとマシな言い訳は――。


 考えていたら、少女は言った。


 「もしかして、見惚れていたらふらっと来てしまった、とか?」


 レイナスは面食らう。

 その後で少女は、「やってしまった」と言いたげに口に手を当てて、こちらの様子を窺っているようだった。


 「冗談だよ、面白い顔」


 少女はクスッ、と笑って言った。

 その微笑みにレイナスは、既視感を覚えた。

 いつか、何処かで同じ様な笑い方をする子に会った記憶がある。凄く小さい時の話だ。

 しかし、思い出せない。

 レイナスは、つられて微笑んだ。


 まぁ、任務の事はもういいだろう。

 見つからない相手に、神経を尖らせて殺気立った目で探している方が不自然だし。

 監視の任務は今日限りじゃない訳だし。

 そんな事を思っていたら、自然とレイナスは少女をダンスに誘っていた。


 「折角の夜会だ。ここで良いから、一曲踊らないか?」

 「え?あ……。

 ――喜んで」


 少女は最初は戸惑っていたが、軈て、それを受け入れて、レイナスの手を取って手摺りから降りる。

 触れている少女の手は、夜風に冷えたのか、少しだけ冷たかった。


 ―― ――


 ―― ――


 一曲踊った後、特に話すでもなく、レイナスは少女とバルコニーに居た。

 隣の少女は手摺りに腰を掛けて、じっと夜空を見上げている。


 「さっきもそうして居たよな」

 「……高い所、昔から好きなんだ」


 ふと気になって声を掛けると、少女はレイナスを一瞥した後、直ぐに視線を夜空へと戻して、ポツリと言った。

 随分と大人しい奴だな。 他の貴族の女連中とは偉い違いだ。


 社交期(シーズン)最後の社交場とは、独身の婦女子が挙って目をギラギラさせながら、男を漁っている事の方が多い。

 故に、やけにある意味で殺気立った女子が積極的に声を掛けてくるもんだから、ある意味戦場だ。

 そんな中で、彼女は壁の花を決め込んでいた辺り、社交界デビューをしたばかりなのだろうか。

 何にせよ、五月蝿くないし寧ろ、居心地がいいのでレイナスは、ホールには戻らなかった。


 「……ホールには戻らないの?」


 暫く黙っていた少女が、ふと思い出したように訊いてきた。

 まさか、話し掛けてくるとは思わなかったので、男性は少し驚く。そして、頷いた。


 「あぁ。 こっちの方が静かでいいしな」

 「ご尤も」

 「お前は?」

 「ホールに行ったらまた酔うから、終わるまでここで壁の花でも気取ってる予定さ」

 「あぁ……そうだな」


 そうだった。 少女は、人に酔ったからここに来ていたんだった。

 レイナスはそれを思い出して、相槌を打った。

 また、話題が無くなって、沈黙がこの場を支配する。

 しかし、その沈黙は決して、居心地の悪いモノではなかった。


 暫く沈黙していると、不意に少女が何かに気付いたかのような動作で別の方向に首を捻らせた。

 そして、ポツリと何かを呟く。

 しかし、それは、レイナスには届いていなかった。

 すると、少しして鼻を付くような臭いが風に運ばれてきた。 その時には少女は手摺りから降りていた。

 それと同時に、ホールスタッフの声がホールから聞こえてきた。


 「二階から火の手が上がっています!

 皆さん、慌てずスタッフの指示に従って避難して下さい!」


 それを聞いたレイナスの行動は早かった。

 「逃げるぞ」と言うが早いか、レイナスは少女の手を掴み、その手を引いて足早にバルコニーから会場へ入り、玄関ホールを目指した。

 少女は混乱しているのか、生返事に近い返事をすると、走りにくそうに小走りで後ろを引き摺られる様に付いてくる。


 「うわっ!」


 少女の声が後ろから聞こえて、それと同じタイミングで少女の手が離れた。


 「大丈夫か!?」


 急いで後ろを振り返ると、少女は身体を起こしている所だった。

 どうやら転んだらしく、少女はその端正な顔に若干の苛つきを滲ませていた。


 「足を挫いただけ。

 足手纏いはごめんだ。 だから――」


 早口で言う少女が何を言おうとしたのかが何となく解り、それを言い終える前にレイナスは、少女をふわり、と抱き上げた。

 少女の顔は困惑で固まっていた。


 「なんだ、ドレスで重いのかと思ったら……普通に余裕だな」


 レイナスは、少女が「自分は重たいから、自分の事は放って先に行け」と言いたいのだと思った為に、そんな事を言った。

 軈て、状況を理解した少女は、強い口調で咎めるように抗議してきた。


 「え? は、離せッ!」


 その顔は、紅く染まっている。突然抱き上げられたモノだから、恥ずかしさを感じているのだろうか。

 それとも、本気で怒って顔が赤くなっているのか……。

 しかし、今は非常事態だ。彼女を置いていける筈がない。


 「死にたいのか、お前は?

 死にたいなら、置いて行ってやる」


 レイナスは、強い口調で言った。


 今ここで置いていったなら、彼女は死ぬだけになるだろう。

 火が何処まで燃え広がっているのかは解らないが、少なくとも現状で彼女を助けられる人間は他にいない。

 足を挫いたというのだから、走る事も困難である筈だ。

 後日、新聞で「グランツ邸にて火災発生。 10代後半女性の焼死体発見される」なんて取り上げられているのを見たら、幾ら何でも後味が悪い。


 「そうじゃないなら、大人しくしてろ」


 レイナスがぶっきらぼうに言えば、少女は言葉を詰まらせて、黙り込んでしまった。

 少女を抱え込んだまま、レイナスは出口へと急ぐ。


 ―― ――



 ―― ――



 レイナスは、少女を屋敷から離れた雑木林の木陰に降ろした。


 「失礼」


 少女に断りを入れて、長いスカートの裾から少しだけ覗いている右足をそっと触ると、少女は顔を顰める。

 どうやら、怪我は右足らしい。

 足首までスカートの裾を上げると、剥き出しになった足首は少し腫れていて、ヒールを脱がせてみたら、ヒールに覆われていた腱が赤く切れており、痛々しい傷口から赤黒い血が滲み出ていた。


 これは痛い筈だ。こんなんで尚更、歩ける訳がねぇ。

 あのまま放って置いたら、焼死コースまっしぐらじゃねぇか、巫山戯(ふざけ)るなよ。


 そんな事を思っていたら、少女は細く息を吐いた。


 「靴、履き馴れてなかったんだな」

 「まぁ……」


 持ってきていたハンカチを帯状に裂いて、手早く処置をする。

 その様子を眺めながら、少女は曖昧に返した。

 見たところ、履き潰された様子が見受けられない為、ヒールは下ろしたてだったのだろう。

 初めてヒールを買って貰って、汚したくないから当日まで履かなかったから、履き馴れていなかったのだろうな、と、レイナスは解釈した。


 「これでよし」


 処置が終わってスカートの裾を降ろすと、男性はふと、顔を上げた。

 その先には、少女の深海よりも深い藍色の瞳がじっと見下ろしていて、目と目が合う。

 まるで、アンティークドールの様な無垢で吸いこまれそうな、それでいて儚げで綺麗な目。

 それが、白い肌によく映えていた。


 「お前、名前は?」


 レイナスの口からは、無意識に名前を訊ねる言葉が出てきていた。

 色恋なるモノは元より、どんな女にも興味は持てなかったが、何故かレイナスは少女の名前だけは知りたいと思った。

 それはきっと、少女に対して、何処か懐かしい感情があるからだと、レイナスは思う。


 「リオン。

 ――リオン・ヴェルベーラ」


 少女――リオン・ヴェルベーラは、淡い笑みを浮かべて、名乗った。

 レイナスは、その名前を頭の中で反芻する。


 「リオン、か。 また、縁があれば何処かで会おう。

 ――じゃあな、リオン」


 レイナスは、立ち上がるとリオンの頭をクシャッと撫でて、立ち去ろうとした。

 しかし、それは、リオンによって阻止される。


 「どうした?」


 振り返ってみれば、少女は自分を見上げて言った。


 「まだ、名前聞いてない」

 「あぁ……俺はレイナス、だ」


 レイナスは名乗ると、今度こそその場から立ち去っていった。


 キャラの関係性が何となく解った気になる相関表(現時点)


*神南弥王

 グレア・ファブレット→女誑しだが、一応は尊敬しているボス。

  何か、夜会からやたらと視線を感じるけど、何、ガチでゲイなの!?

 神谷璃王→幼馴染且つ相棒。 共依存?


*神谷璃王

 神南弥王→幼馴染且つ相棒。 共依存?

 グレア・ファブレット→グレート・オリュンポス(世界一標高の高い山)から突き落としたいボス。とりあえず、命綱なしで。

  女装させられたことを未だに恨んでいる。

 レイナス→何だか懐かしい……が、思い出せないのがクソウゼェ。


*グレア・ファブレット

 神南弥王→信頼している部下。と言うよりかは、弟を見ている感覚に近い。

  〝ミオン〟に似てないか……?と疑い始めている。

 神谷璃王→殺気が痛いです。反抗期の弟を見ている感覚に近い。


*レイナス

 神南弥王・神谷璃王→観察対象。決してストーカーではない。任務だ。

 リオン・ヴァルフォア→何だか懐かしい。 ちょっと気になる。リオン=神谷璃王だとは気付いていない。

 ヒリュウ→義兄。 いざという時は頼りになるが、ウゼェ。

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