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Promessa di duo-太陽ト月-  作者: 俺夢ZUN
第3楽章 真実解明編
43/43

Ⅴ.真実-Truth-


――それは、狂気にも似た感情。

 “認められたい”と言う感情は、年数をかけて狂気へとなったのだった。

  それを断罪するのは……。



如月(きさらぎ)黒羽(くれは)……!?」

「嘘、だって貴女……、私の目の前で……」


 少女の姿を視界の端に認めたらしく、ネルの驚愕した声が生徒会室に落ちる。

 その後にレナの涙ぐんだ声が静寂の部屋に響いた。

 レナの脳裏には2年前、自身の目の前で突然屋上から飛び降りてしまった少女の姿が、その記憶が過る。

 クレハ――如月黒羽はレナの方へ振り返り、無表情の顔に微かな笑みを浮かべる。

 その時、廊下の方から走ってくる足音が聞こえ、数秒後に生徒会室の扉が開けられる。


「皆!」

「校長……!」


 肩で息をするレイトに、生徒会一同とクリスが声を揃えた。

 彼は状況を見て、弥王へと視線を向ける。


「おや、何だか懐かしい顔が……、って、今はそういう場合じゃないな。

 弥音ちゃん、この状況は……」

「見ての通りです。

 リト・コスモが、失踪事件のそもそもの原因である虐めの主犯――ネル・サクラギを連れてきたんですよ」


 レイトの問いかけに弥王はにべもなく現状を説明する。

 その言葉に「そうか……」と床に倒れているネルへ視線を向けた。


「ネル・サクラギはスタン先輩に扮して、虐めを行っていた。

――いや、仕向けていた、かな。

 本人は最低限しか手を下さず、“寮長の命令”の名の下に虐めを煽動していたんです。

 本人はスタン先輩を陥れる為……と」

「それで……どうして、この場に黒羽ちゃんが?」

「それは……」

「クレハ・エル・クラインは私だったからだよ」


 弥王の一通りの説明を聞き終わると、レイトは黒羽へ視線を向け、首を傾げる。

 それに答えようとした弥王を遮り、黒羽が答えた。

 そして、冷淡な色を宿した黒曜石の瞳がレイトを見据える。


「……というか、校長は最初から()()()()()()だろ。

 知らない振りをしているなんて、本当に悪趣味だね」

「いやいや、そんなことは。

 それよりも、どうして今頃?」


 問い詰めるような目で見られ、苦い笑みを零すしかできない。

 その紺碧の瞳は本当に何も知らなかったのか、将又、何かを気付いていてそれを隠匿していたのか。

 それを見極めようにも、本心を隠すような、何を考えているのか分からないように常に笑みを湛えた瞳からは何も読み取れない。

 意図的に話題を変えるように問うてくるレイトに「無駄か……」と視線を下げてため息を吐いた後、黒羽は面倒くさそうに言葉を投げた。


「漸く虐めの主犯が分かったのでね。

 もう何も隠す必要はないと判断した、それだけの事さ」


「さて……」とクレハはレイトから再び、ネルへと視線を向ける。

 その瞳には、仄昏い色が見え隠れしていた。


「何故、僕が生きているのかって?

 死んでないからだよ。姿見たら分かるだろう?

 全く、疑わなくていい友人を疑っていた、というのはどうにも……ね。

 気付かなかった自分が一番腹立たしいよ」

「黒羽……」


 黒羽の口から“友人”と言う言葉が飛び出してきた――尚且つ、それはレナに向けられたモノであるという事にも気づいた――ことに驚きの声と共に彼女の名前をレナは呟く。

 態度には出さなかったが、黒羽もレナと同様に彼女を――否、生徒会(アリス)メンバーをかけがえのない友人だと思っていたのだ。

 だからこそ、その友情が揺らいだ自分には勿論腹が立つし、それにヒビが入る原因となったネルには尚の事、(はらわた)が煮えくり返るほどの怒りを抱く。


 黒羽はネルの前でしゃがみこむと彼女の前髪を掴み上げ、自分の顔を見せるようにネルの顔を覗き込む。

 その間にも「痛い」と喚くネルの言葉は、黒羽には聞こえていないらしい。


「それで?

 レナをターゲットにしたのは勿論、ちゃんとした理由があるんだよね?

 話してくれないかい?

――とはいっても、君には拒否権はないけどね」


 パチン、と乾いた音が生徒会室に消える。

 それと同時に璃王は「げっ」と顔を引き攣らせた。

 どうやら、黒羽がネルに何をしたのか分かったらしい。


「何も知らない、僕は何も見てない、何も聞こえない……」


 頭を抱えて念仏のように呟く璃王。

 こうなっては、自分の首が幾つあっても足りない。

 というか、何だこの無法地帯は。

 頭を抱える璃王に、弥王は「どうした?」と璃王へと声を掛ける。


「クラインせん……、如月先輩、ネルに自白術式である“自白(パルラーレ)”の術式を使ってる……。

 闇属性の中でも扱いが難しくて……、使用者がミスったら、使われた方は下手したら廃人になるような代物だ。

 そんな術式を平然と……」

「マジかよ……」


 璃王が珍しく蒼白な顔で術式の説明をするものだから、弥王は黒羽がネルに使った術式の恐ろしさを思い知る。

 普段、闇属性の術式を何食わぬ顔で使い、標的を追い詰めることがある璃王だが、そんな彼女でも顔を真っ青にするくらいの非道な術式を平然と扱うとは、黒羽の冷酷さを垣間見た気がした。

 そんな二人を置き去りに、黒羽はネルを追い詰めていく。

 その表情は悪魔そのものだった。


「何?まだ術式が弱いって?流石桜ノ一族の人間だ。

 それなりに術式の強度を上げていた筈なんだけど」

「言ってない、そんなこと言ってない!

 何なの、あんた!?何でこんな高度な呪幻術を――っ!」


 ネルの言葉を遮るように黒羽は再び、指を鳴らした。

 紫がかった黒い光が弾けて“自白(パルラーレ)”の術式が強化され、ネルの口から自分の意思と関係なく言葉が迸る。


「レナ・スタンを陥れようとした理由?

 そんなの決まってるじゃない!

 同じ寮生であり、レナ・スタンが一番陥れやすいからよ!」


 目を見開き、吠えるように言葉を吐き出すネルの様子は、何処からどう見ても正常ではない様子だった。

 呪幻術と言いうモノを見たこともなければ、その存在すら知らなかったレナやエイルなどの一般人はその地獄ともいえるような状況に恐れ戦きながらも、固唾を飲んでネルの自白を聞いている。

 ネルの自白はまだ続いた。


「ねぇ、知ってる?

 恋をしている子ほど陥れやすいんだから!

“自分と同じ人を好きになった子を虐めて蹴落とす”なんてよくある話でしょ?

 校長に恋心を持っていたり、校長に気に入られている子を標的に虐めていったら案の定、レナ・スタンに嫌疑が向いたじゃない?

 如月黒羽だって、レナ・スタンを疑ったから彼女を問い詰めて、その目の前で死んだんでしょ?

 だって、あんただって校長に気に入られてたもんねぇ!?

 酷い話よねぇ、レナ・スタンはずっと校長に想いを寄せて、謙虚に校長に尽くしていたのに、彼が気に入ったのは友達だと思ってたぽっと出の女なんだもの!

 レナ・スタンが如月黒羽を虐めている、そして、その彼女は虐めを苦にその目の前で自殺――これで、生徒会(アリス)レナへの不信感は決定的になった……と思っていたのにねぇ?」


 ここまで一気に喋るネルの瞳には狂気が滲んでいた。

 その瞳は、すぐ近くにいたレナへと向けられる。

 ネルを見る瞳はどんなのもだったのか。

 少なくとも、その眼差しは嫌悪感や侮蔑などの敵視と取れるものではなかった。

 ただただ、憐れんでいるようにも見える薄青の瞳がまっすぐネルを見つめている。


「どうして、そんな噂で私と黒羽――生徒会(アリス)の皆の信頼を崩せると思ったの?」


 静かに、ネルへ問いかける。


「確かに、私はイト君が好き。

 人として、そして、1人の男性として。

 でもね、私の感情よりもイト君の意思の方が大事だから……私は、たとえイト君に恋をする子がいても、イト君が誰かに恋をしていても……その子を傷付けることはないんだから。

 私を心の狭い女の子だと思ったら大間違いなんだから!」


 優しく諭すようだった声は、次第に言葉の最後になるにつれて強くなっていき、最後には怒りすら滲んでいた。

 信頼していた寮弟(ファッグ)が自分を陥れていただけでもショックは大きいのに、その寮弟(ファッグ)からは見縊(みくび)られていたなんて、生徒会メンバー(アリス)として――否、信頼してくれている友人たちに合わせる顔がない。

 湧き上がる怒りに心拍数が上昇して呼吸が浅くなり、肩で息をするレナの肩をレイトが「落ち着け」という様にポン、と叩く。


「確かに、レナは嫉妬に狂って誰かを傷付けるなんて、そんなことができる子じゃないな。

 それは、今までレナを見てきた俺が良く知ってるよ」

「イト君……」


 自身の肩を叩いてきた人物を見上げ、レナは驚いたように瞳をいっぱいに見開く。

 小さく開いた口からは吐息にも似た声が漏れ出た。


「そもそも、レナを陥れてまで何がしたかったのか。

 勿論、答えてくれるね?」


 優しく問いかけるようなレイトの言葉だが、それとは裏腹にその声は厳しく問い詰めるものだった。

 この状況でもう逃げも隠れもできない、何を言って誤魔化すこともできないと悟ったネルは、自暴自棄とも取れるような態度でその問いに答える。


「そんなの、私が生徒会メンバー(アリス)になるのにレナ・スタンが邪魔だからに決まってるじゃない!

 私は!将来、ミオン様に仕えるためにここにいるの!

 ミオン様の唯一の近衛侍女、誰よりもミオン様に相応しいのは私なんだから!

 ミオン様、忌み子なんてすぐに捨てて、私と一緒にイリアへ帰りましょう?

 大丈夫だから……、私がお守りしますから……、だから……、ね……?」


 言葉の最後には懇願するように弥王へ縋るような視線を向ける。

 幼少の頃から、ネルは弥王に執着していた。

 それは、“ミオン自身に”では決してないのは、弥王も分かっている。

 ネルの瞳に映るのは、“ユリアの生まれ変わりである王女殿下”だけ。

“特別な人間に仕える事”、それだけしか見ていないのだ。

 ネルの言葉が弥王の心を温めた瞬間は今まで一度だってない。


 指先から、表皮から、体温が下がっていくかのように冷たくなっていくのを感じる。

 弥王が今、この場で言えるのはただ一つだった。


()()はそっちには行けない。

“ミオン・セレス・ルーン”は存在しないからだ」


 ややあって弥王は口を開いた。

 その声は、璃王以外は聞いたこともないような、低く冷たい声。

 翡翠の隻眼はネルを冷ややかに見下ろしていた。


「オレは、神南(こうなみ)弥王(みお)――グラン帝国女王直属特殊武装警察“裏警察(シークレット・ヤード)”に所属する者。

 お前の罪はお前の国で裁かれることになるだろう。

 身柄の引き渡しまで、お前は裏警察で過ごすことになる」

「そん……な……」


 弥王から突き放されたネルは漸く、彼女のその言葉が自身を突き放した言葉だと理解できたのか、色違いの双眸に絶望の色が宿る。

“ミオン”からの決別の言葉。

 それは、ネルを絶望させるには充分だった。


「――あとは、失踪事件の方だな」

「あぁ、それならそろそろ……」


――ギィィィ……。


 璃王の言葉に被せるようなタイミングで、再び生徒会室の重厚な扉が開けられた。

 一同がそちらへ注目すれば、生徒会室の出入り口にいたのは、赤い髪にパンク系のファッションの少年――少なくとも、顔立ちは少年の様――。


 注目されたその人物はそれをものともせず、片手を軽く上げて挨拶してきた。


「ちゃーお。

 お待たせいたしやした、カナメ便の到着でっす」

「カナメ……!?」


 生徒会室に入ってきたのは、裏警察(シークレット・ヤード)で他の任務に当たっている筈のカナメ・リハルだった。

 予想外のカナメの登場に弥王は新緑の瞳をいっぱいに開く。

 よく見ると、その後ろにもう1人誰かいた。


「璃王サンの依頼通り、証人を連れてきやしたよ。

 禁踏区でばったり出会ったもんで。

 ほら、もう大丈夫っスから。

 オレの傍にいる限りは守ってやるって」


 カナメは自身の後ろにくっ付いている人物に場所を譲り、その背中を乱雑に押す。

 カナメの背後から出てきたのは、白銀の長髪の小柄な少女。

 彼女の姿を見た生徒会一同が水を打ったかのようにシン……と静まり返る。


「ナターシャ……」


 ややあって、黒羽の口からその名前が零れた。

 静かな部屋に零れたその声に、ナターシャは声の主の姿を認めると青碧の瞳をいっぱいに見開き、軈て、大粒の涙を零した。


「クレハ……ちゃん……、あぁ……っ!」


 その姿を視界に入れた彼女は、真っ直ぐに黒羽の元へ駆け寄る。

 そして、よろめきながらも黒羽の肩に掴まり、どうにか立ち止まった。


「クレハちゃん……、クレハちゃん……ッ!うぅ……」


 涙で声が(つか)えてそれ以上の言葉は出てこない。

 ただ、自殺したとだけ聞かされていた。

 それ以上の事は何も聞かされず、ある日突然姿を消した友人。

 どれだけの日数を泣いて過ごしたのか。


「ナターシャ……。

 良かったよ、君に何もないようで」


 黒羽とい再会できた、彼女が生きていたという事の喜びから、次から次にへとナターシャの目からは涙が零れ落ちる。

 それを優しく拭ってやって、黒羽は彼女の背中を擦る。


「それで……一体、何があったんだい?

 ゆっくりでいいから……」

「そのことについては、()から説明しよう」


 黒羽の言葉を遮り、璃王が口を開く。

 一同は璃王へと注目した。


「……その前に、カナメ。

 そいつが今回の事件の首謀者だ。

 本部に連れ帰っておいてくれ」

「承知しやした」


 床に転がされているネルを一瞥して、璃王はカナメに命じる。

 カナメは頷くと、璃王の視線の先にいた人物へ目をやり、「ひゃぁ~」とドン引きの声を上げた。


「えげつねぇ事すんなぁ。

 この女の周りの重力だけ❘激重げきおもじゃん……、ってん?

 この女、何か見たことあるような気が……、誰だっけ?」


 しゃがんでネルの顔を覗き込むように見るカナメ。

 しかし、カナメはその顔を見ても誰か思い出せない様だ。

 そんなカナメに璃王は「はぁ~」と息を一つ吐いて。


「覚えてないのか?

 ネル・サクラギだよ。

 ほら、お前もたまに会ってたことあったろ。

 俺の母方の従姉」

「あー?

 なーんか、そんな奴いたかも?

 ま、いいや。

 こいつ連れてけばいいんっスね」

「そうだ。

 帰りはこれを使え」


 璃王はカナメへと一つの石を投げた。

 それは、中心が黒く、端に行くほど透明な不思議な石だった。

 それをキャッチして受け取り、マジマジと見た後でカナメは驚きに声を上げる。


「ってこれ、輝星石(きせいせき)じゃないっスか!

 こんな高価なモン、良いんスか?」

「高価って……そんなに高いモンでもないだろ」


 璃王がカナメに投げたのは輝星石と呼ばれる鉱石だった。

 この鉱石は呪幻術の術式を閉じ込めておけるという鉱石であり、呪幻術師の間では重宝する物である。

 何せ、輝星石に閉じ込めた術式は、誰でも使うことができるのだ。

 例えば、璃王の呪幻術の属性は地と闇であるが、闇属性の術式であってもカナメが使えるようになる。

 しかし、回数制限はあるが。


「いやいや、だって……」

「つべこべ言わず、“ヴォイド・ゲート”で帰れ。

 ほら、早く」

「えぇ~」


 まだ何を言おうとするカナメだったが、璃王に手をしっしっ、と払われて、不満げな顔を見せながらも輝星石を握りしめる。


「あの……!」


 そこで、ナターシャがカナメへと声を掛けてきた。


「ありがとうございました……!

 そして、良かったら、その……連絡先を……」


 ナターシャの頬は林檎のように赤く、もじもじと指を擦り合わせている。

 その様子にカナメは「げぇ~」と面倒くさそうな表情を浮かべた。


「別に、オレはリオンサンから頼まれたことをしたまでだし。

 彼女以外興味ないんで」


 それだけを言うと、カナメはネルを引きずり「“ヴォイド・ゲート”!」を声を張った。

 すると、カナメの身体は漆黒の闇に飲まれ、その場から消えてしまう。

 カナメのいた場所には、黒い光がパチンと弾けて消えて行った。


「……さて、虐めについては解決したから、ついでに失踪事件についても解き明かそうじゃないか」


 璃王は、カナメを見送った後でその場に残された生徒会メンバーたちへと向き直る。

 そして、レイトへ視線を向けた。


「俺がカナメに頼んだのは2つ。

 プレアデスの(エデン・オブ・)禁踏区(プレアデス)について調べる事。

 そして――」


 そこで一旦、璃王は言葉を切る。


「ナターシャ・エーデルシュタイン以下5名の姿を確認次第、公爵に捜査令状を出してもらい、乗り込め――だ」


 ややあって、璃王は強く言葉を吐き出した。

 レイトを見る視線もそれと同時に強いものへとなる。


「俺がプレアデスの(エデン・オブ)禁踏区(プレアデス)に目を付けたのは、彼女たちの魂の場所を追ったから。

 丁度、その場所には魂が6人分集中していてな。

 そこは廃村だった筈なのに……どういう事だろうな?

 そう言うことで、カナメにプレアデスの(エデン・オブ)禁踏区(プレアデス)について調べてもらったんだよ。

 そしたら、ビンゴ。

 ついでに、そこの管理者の名前も調べがついている。

――レイト・スタン校長。

 ご説明、願おうか」


 璃王の話を聞いた生徒会メンバーとクリス、そして、弥王は一斉にレイトへと驚いたような視線を向ける。

 この失踪事件の死犯人はレイトだったというのだろうか?

 レナに至っては悪い想像でもしたのか、口元を抑えてショックを隠し切れない様子だ。


 強い視線を向けてくる瑠璃色の瞳をレイトは見つめ返す。

 軈て、彼は観念したのか肩を竦ませて一つ息を落とした。


「流石、グレアが信頼する子だ。

 まさか、こんなに早く真相にたどり着くなんてね」

「イ……イト君……?」


 レイトの諦めたような言葉にレナが恐る恐る声を掛ける。

 そんな彼女へ視線を向けて柔和に微笑んだ後、レイトは口を開いた。


「そもそも、ナターシャちゃんたちの失踪事件そのものは“事件”じゃないんだ」

「えっ!?」

「何と!」


 驚きのあまり、その場の全員が言葉を失くす。

 これは弥王や璃王も予想だにしなかった答えだった。

 璃王に至っては、レイトは少女趣味であり、めぼしい女子たちに声を掛けて監禁していたのだと思っていたのだから。


「どういうことだ……?」


 瑠璃色の隻眼がレイトを睨み上げる。


「そうだな……何処から説明すればいいだろう。

 彼女たちは、家庭に問題がある子たちでね。

 学校を辞めることは、彼女たちの命に係わるような状況だったんだ」

「それって……」


 レイトの言葉に、弥王と璃王は目を見開く。

“親は必ず、子供を愛するモノ”――それは、疑いようのない真実だと、二人は思っていたのだ。

 だって、二人の両親は二人を溺愛して、大切に育てていたから。

 だから、“家庭に問題がある”と言われてもピンとこなかった。


 ナターシャは視線を下げる。


「私の実家は貧しくてね。

 この学校の奨学金制度と特待制度を利用して入学したの。

 そういう子、貧困の家だと珍しくないんだ。

 ウチは特に両親が厳しくて……、虐めが辛くても辞めさせてもらえなかった。

 そんな時にスタン校長から声を掛けてもらったの」


 ナターシャは5か月前、自殺一歩手前だった状況の時の事を思い出していた。

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