Ⅱ.束縛-Yoke-
それは、緩やかな束縛。
小さな約束は大きな生きる意味となって、少女たちの心を縛り付けるものだった。
――誰か、この状況を説明して欲しい。
レイナスは、目の前にいる仏頂面の男子生生徒を見下ろしながら、そう思った。
リオンとよく似た群青色の長い髪を三つ編みにして肩に流している男子生徒。
茶色と藍色のオッドアイが何処となくこれまた、リオンに似ている。
事は今朝まで遡る。
レイナスが部屋で準備をしていれば、コンコン、と扉をノックされた。
扉を開けてみれば、1人の男子生徒がそこにいたのだ。
彼は緊張の面持ちでレイナスに手紙を差し出した後、そのまま何処かへ行ってしまったのである。
何なんだ……と思い、受け取った手紙を開いてみれば、「朝礼の前に中庭に来い。 リト」とだけあり、不審に思いながらも、レイナスは朝食も取らず、中庭に来たという訳。
目の前の男子生徒――リトは、不機嫌さを滲ませた声でレイナスに問いかける。
「それで、その後のリオンはどうなの?」
「え?」
リトがリオンを気に掛けて声を掛けてくるとは思っていなかったレイナスは、一瞬だけ目を丸くして声を漏らす。
そのレイナスの反応を見逃さなかったリトは、更に眉間に皺を刻んだ。
「“え?”じゃない、何その変顔。
君と変顔大会を開催するつもりは毛頭ないんだけど。
リオンの様子を聞いてんの。
あれから、大丈夫なわけ?」
「あぁ……」
ぶっきらぼうに捲し立てるリトに気圧されて、レイナスは少しだけ身を引く。
怒った顔が怖いのは、リオンの家系のデフォルトなのだろうか?
リオンも怒った顔が怖かった気がする、と、自身と再会した時に関係を揶揄ってきたレナに向けたリオンの表情を思い出す。
心底不快な時のリオンの表情と、今、目の前にいるリトの表情があまりにも似ていた。
「あれから、何ともなかったみたいに本人は過ごしてるな」
「そう……」
今までの事を思い出すかのように顎に指を添えて応えるレイナスに、リトは呟くように言った。
そして、レイナスから少し離れたかと思えば、彼は渾身の力でレイナスの顔面すれすれに蹴りを叩き込んだ。
その長い脚は、レイナスの後ろのコンクリートの壁にめり込む。
レイナスの頬に爪先でも掠ったのか、一筋の傷口が開き、そこから血が滲み出てきた。
きょとん、と驚いた表情のレイナスに、リトは低い声で唸る。
「もういいよ、君。邪魔」
「なっ――」
なんだそれ、と言おうとした言葉は、リトの今までの視線よりも鋭い視線に遮られた。
触れれば切れそうな刃の様な眼光に、レイナスは押し黙る。
振り上げた脚を下ろしながら、リトは低い声で唸るように言葉を吐き出す。
「君は今のリオンを見て、本当にリオンが“何ともなかったように”見えるの?
そうであれば、君はとんだ節穴野郎だね」
「それは、どういうことだ」
「分からないのかい?
あんなに近くにいて、リオンが日に日にボロボロになっているのが君には見えてないって言うの!?」
――ドンッ!
リトはレイナスの胸ぐらを掴み、力任せに彼を壁へと押し付けた。
力加減なく押し付けられた背中に鈍い痛みが走るが、必死に訴えてきているリトの言葉に何も言えない。
レイナスの目から見れば、確かにリオンは普段通りに振舞っているように見えるのだ。
それは、レイナスを責められた話ではなく。
リオンは周りに勘付かれないように自身に闇属性の呪幻術である外見を操作する術式“姿映し”の術式を掛けている。
それは、呪幻術の心得のないモノには、術者の思う姿に見えるように掛けられる術式なのだ。
それを使い、リオンは自身のボロボロな姿を隠しているという事なのだろうと思うが、それにしたって目の前の“ペルセウス様”とやらは“リオン”の些細な変化に鈍感すぎる。
これまで関りを持たないようにしているリトが遠目から彼女を見かける時だって、彼女が疲弊していることは見て取れるのに。
それなのに、目の前の男はそれを見て見ぬふりをしているのか、本当に気付いていないのか。
どちらにせよ、“リオンを気に掛けてます”というには杜撰すぎる目の前の男に腸が煮えくり返る。
「もう、リオンには時間がないんだ……、たった一度だけの恋の為に、リオンが死ぬ未來なんて……僕が許さない」
「お前……」
その色違いの双眸には、確かな決意が込められていた。
その中に見え隠れするリオンに対する感情。
燃え上がる様な激情、それをレイナスは感じ取ってしまった。
「もしかして……リオンが好きなのか……?」
「……っ!」
ポロっと、本当に無意識の内にレイナスの口から出てきた言葉に、リトはレイナスを睨み上げる。
その表情は、心底不快そうに歪んでいた。
「僕のことはどうでもいいんだよ。
それよりも、リオンのことだ。
僕は彼女に近付けないんだから、君がどうにかするしかないんだからね。
そこの所、本当に分かってる?」
「近付けないって……、お前、本当にリオンを傷付けたのか?
それって何か誤解があったんじゃ……」
リトの言葉に、レイナスは前々から思っていた疑問をリトへ投げつける。
すると、レイナスの言葉を遮り、リトは彼の脚を思いっきり蹴った。
「い――っ!!」
どんな屈強な戦士でも、そこを蹴られれば泣くほど痛いのだ。
肉が薄く、神経が集中しているが故、強くぶつけたら痛い場所、そう、人はそこを“弁慶の泣き所”という。
痛みに悶える様にしゃがみこみたいレイナスだったが、リトが胸ぐらを掴み上げている所為で、それも儘ならない。
激痛に涙目になるレイナスを他所に、リトはレイナスへ吐き捨てる。
「うるっさいなぁ!!
つべこべ言わず君は僕の言う通りにしてればいいんだよ、この鈍感ロン毛野郎略してドン毛!!」
「なっ……、ドン毛!?」
リトの容赦のない言葉にレイナスはその内容よりも、リトの言った“ドン毛”に反応してしまう。
余計な言葉に反応したレイナスに更にリトは追い打ちをかけるように彼の顎に頭突きを食らわせた。
「~~~~~っ!!」
痛すぎると、人は言葉を失くす。
痛みが強すぎるあまり、レイナスは声を上げることもできなかった。
そんなレイナスへと冷めた目を向けつつ、リトはお構いなしに言った。
「とりあえず、君も携帯くらい持ってるでしょ?
ほら、出しなよ、早く」
「なんで……」
レイナスを解放したリトが差し出した手を見ながら、レイナスは嫌そうに顔を顰めた。
それもそうである。
リトに携帯を渡したら最後、何をされるか分かったモノではない。
そんなレイナスにリトは苛立たし気に口を開いた。
「君に拒否権があると思う?
君が言っていいのは、“yes”か“si”か“はい”のどれかだけだよ」
「全部“はい”じゃねぇかよ……」
「君だけでリオンを守れなかったんだから、リオンを守るために僕も協力してやるって言ってんの。
有難く思って、早く僕に連絡先寄こしな」
「横暴だ……」
リオンを守る為に、と言われればレイナスも何も言えなくなり、渋々携帯をリトへ差し出す。
それを乱暴に受け取り、リトはレイナスの携帯を操作して、自分の携帯を左手にそれも操作すると、レイナスの携帯を彼へと投げた。
「わっ!おい、いきなり投げるなよ!」
「用事はこれだけだから。
小さなことでも何かあったらすぐに連絡すること。
僕の命令は絶対ね。
守らなきゃ君を蹴り殺すから、そのつもりで」
レイナスのクレームを無視すると、言いたいことだけを言ってリトは、校舎を後にした。
その場に取り残されたレイナスは、「はぁ~~」と盛大に溜息を吐いて、その場にしゃがみこむ。
くしゃり、と前髪を掻き上げて、空を仰いだ。
冬の澄んだ青が何処までも広がっている空には、雲は一つなく晴れ渡っている。
そんな清々しい空とは反対に、レイナスの心は何処までも沈んで行くかのようだった。
―― ――
―― ――
「あの、コウヤさん……」
「ん?」
次の授業の為、教室を移動していた璃王は不意に女子生徒に呼び止められる。
その声に気付いた璃王が振り返れば、そこにいたのは、自分よりも小柄な少女だった。
ブレザータイプの制服はそれが、彼女が高等部の生徒であることを示している。中に着ているワンピースの色は黄緑であることから、高等部一年の様だった。
彼女は、璃王に声を掛けてからも落ち着きがない様に視線を彷徨わせながら、思い切った様に手を差し出してきた。
タイの色は光寮だと示す黄色。
つまり、彼女は高等部一年の光寮の生徒という事で、璃王とは直接、関わりのない生徒だった。
「こっ、これ、コウヤさんに渡したくて……っ!
その、何故か私の部屋にこの手紙が来てたから……、きっと、レター係の誰かが間違えたんだと思う。
たっ、確かに渡したからね!」
「あっ、おい!」
口早に捲し立てるように言うと、璃王の制止も振り切って、少女は何処かへ行ってしまった。
「何なんだよ、ったく……」
意味が分からない、と言いたげに乱暴に言葉を吐き出した璃王は、渡された手紙を見てみる。
白い封筒は、この学園内で流通している便箋の一種だった。
少女の言ったことは確かなようで、白い封筒の真ん中に綺麗な文字で「リオン・コウヤへ」と一言だけ書かれている。
文字は綺麗だが、礼儀はなっていないらしい。
差出人の名前も差出人の部屋も書かれていない。
これで良く、レター係が受け取ったな?とも思うが、ここでひとつ疑問が出てくる。
(たしか、この学校のレター係は中等部一年が持ち回りでやってたよな?
それならまぁ、部屋の間違いはある……のか?)
封筒を色んな角度から見てみれば、怪しさが更に際立つ。
というのも、その便箋には、“宛先”が書かれていないのだ。
ただ一言、“リオン・コウヤへ”と書かれているだけである。
これで、璃王の部屋に手紙が来なかった理由は説明が付くが――。
(ますます怪しいな)
こんな杜撰な手紙がレター係の所に来ていたなら、まずレター係はそれを不審に思ったりしないのだろうか?
璃王はこの学校の生徒ではないので、いくら考えても分かりそうにない。
(……後でクライン先輩辺りに聞いてみるか……)
璃王は乱雑に便箋をパーカーのポケットへ入れた。
と、その時に。
――ゴーン……、ゴーン……。
「あっ、やべっ!」
授業開始5分前のベルが鳴って、璃王は慌てて理科室へ急ぐ。
理科の教師は大変な皮肉屋で嫌な奴なので、理科の授業だけは遅刻できない。
初日に理科の授業に遅れた璃王は散々嫌味を吐かれ、更に明らかに中等部2年のカリキュラムではない内容の問題を出されて、弥王がその教師を殺す勢いで睨んだことがあるのだ。
あと少し璃王が答えるのが遅かったら、その教師はアウラ条約を無視した殺人鬼に殺されていたことだろう。
そう、“神南弥王”という名の殺人鬼によって。
そんなこともあり、弥王を犯罪者にすることだけは絶対に避けなければならないので、璃王は理科室へ急いだ。
―― ――
―― ――
「コウヤァ……」
「……ちっ」
結局、授業に遅刻してしまった璃王は今現在、頭が薄幸そうな教師に睨まれていた。
女子生徒から手紙をもらった後、璃王は急いで理科室へ向かっていた。
璃王の計算では、余裕で理科室に着いていた筈だったのだ。
だが、ここで璃王は一つの計算外に遭遇する。
そう、急いでいた璃王は、背後からの襲撃者に一足遅く反応してしまい、階段から突き落とされてしまったのである。
その為、保健室へ寄って理科室に来たという訳。
しかも、誰が仕掛けたのか、古風な教室トラップ――扉を開けた瞬間、バケツ一杯の水が璃王に襲い掛かって来た――まで仕組まれており、まさかそんな、おばあちゃん世代もビックリのトラップを仕掛けられているとは思わず、教室を開けた瞬間に璃王はバケツ一杯の冷水を被ってしまったのだ。
その水を見事総スルーした教師によって、璃王は今、教師に睨まれているという訳だった。
「ミスター・アルキス!
璃音を怒っている場合ですか!
璃音、すぐに保健室に行こう。
誰だ、こんなお婆さまも超ビックリの化石みたいなトラップ仕掛けた奴!」
後半は優しく璃王の肩を押し、自身が腰に巻いているパーカーを彼女に着せ、弥王は教室を出て行こうとした。
「待て、まだ話は……!」
「あ゛ぁ゛!?
状況が分からないなら、先に授業でもやってろ!
びしょ濡れの璃音をそのままにできるわけないだろ!」
一瞬素が出てしまった弥王はそうとは気付かないままに捲し立てる。
そして、次に教室の中の生徒たちへ視線を向けると、その翡翠の隻眼を鋭く光らせ、唸るような声で言った。
「それと、誰がこんな下らねぇ事をしでかしたか知らないが、もしこれ以上璃音に何かしようものなら、本当に僕は容赦をするつもりはない。
その事をよくよく肝に銘じて震えてろ」
いつもの翡翠の目からは想像が付かないほど底冷えするような視線で生徒たちへ釘を刺した後、弥王は璃王の肩を抱いて教室を出て行ってしまった。
その後、教室では気まずい空気が流れたまま、重苦しい授業の時間が流れて行った……。
―― ――
―― ――
理科室を出た後の廊下は、現在授業中なこともあってとても閑散としていた。
通りかかる学習室から漏れ聞こえてくる教師の声だけがたまに聞こえてくるが、それ以外は音のない世界。
まるでそこは、璃王と弥王だけが取り残されているかのようでもあった。
保健室へと続く廊下を歩きながら、璃王は弥王に声を掛けてみる。
「弥音……?」
「……」
「おい、弥音!」
「……」
しかし、幾ら呼びかけても、弥王からの返答はない。
その代わりなのか、弥王の璃王の肩を抱く手の力が強くなっていく。
1月のまだまだ寒さが厳しい気候の中、氷で存分に冷やされた水を浴びせられた璃王は、寒さで気を抜けば奥歯がガタガタと鳴る。
それをどうにか嚙み殺して、無言の弥王を見上げた。
「弥音、僕は大丈夫だからそろそろ、手を放してくれないか?」
「大丈夫……?」
肩から手を放してもらおうとかけた声だったが、弥王から返って来たのは、低い声だった。
いつもよりも低い声、それは、弥王が怒っていることを知るには充分な声色。
その声の後、璃王はグラっと視界が揺れて、次の瞬間背中に硬く冷たい感触が背中に伝わった。
弥王によって近くの壁に押し付けられたのだと理解する頃には、手首まで壁に押し付けられて、袖口のボタンを外される。
パラリ、と腕に巻いていた包帯が解け、その下からは黒い痣が広がっているのが見えた。
「あ……」
「これの何処が“大丈夫”なんだよ、璃音。
全然大丈夫じゃないじゃないか。
学校に編入する前まではこんなに広がってなかっただろうが」
捲り上げた璃王の袖の隙間から覗く腕にまで痣が広がっているのが確認できる。
弥王の声は明らかな怒気を含んでいて、その声に、怒りに燃える新緑の瞳に璃王は口を噤んでしまう。
こうなる前に、事件を解決させるべきだったのに。
いや、そもそも璃王が傷付く前に解決させるべきだったのだ。
それとも、こんな依頼を受けなければ。
しても仕方のない後悔が次々と押し寄せて、弥王の心を掻き乱していく。
弥王も、璃王の“猫呪”のことは知っている。
それが、璃王の寿命を無視して命を蝕んでいく呪いだという事も。
そしてそれは、ストレスを受けることによって進行していくことも――。
それが分かっていて、璃王の意思を尊重したのは他でもない、弥王自身なのだ。
こんなことになるなら、璃王の意思など無視して、璃王の問題に介入するべきだったのだ。
自分が“璃王の為”などと言って日和っていたばかりに――。
そんな思いが、弥王の心を蝕んでいく。
「何でこんなになるまで隠してたんだよ……、璃音の問題だからと何も聞かないでいたオレも悪いけど……!」
「いや、これは君は悪くない!
これは……」
悔やみながら言葉を吐き出す弥王に璃王は頭を振るが、それは弥王によって遮られ、否定された。
「同罪だよ!
結局何もできなかったオレも、見て見ぬ振りをしてる奴らと同罪だよ……。
気付いてたのに……、何で……」
「弥音……」
その言葉の最後は力なく呟かれた。
璃王が虐められていることに気付いておきながら、それを放置していた弥王は、確かに見て見ぬ振りをする人間たちと同罪なのだ。
璃王が過去にどんな目に遭ってきたのか分かっていたのに。
きっと、それと同じことが今、学校で起きている。
”リオン・コウヤがネル・サクラギを虐めている”という噂が流れているのがその証拠である。
そして、その主犯は――。
「絶対に許さない……」
「弥音、君……!」
上げた弥王の目にぎょっとする璃王。
新緑の瞳はその燃え上がる感情を表すかのように、赤黒く染まっていた。
エデンカンパニー襲撃の夜に見た時と同じ、緋色の瞳。
その瞳の事を弥王は、“感情が悪い方向に高ぶった時に出る”と言った。
弥王の心を焦がすのは、燃え上がる様な怒り、自分でも抑えられないほど激昂していた。
「馬鹿なことを考えるのはやめるんだ!
下手したら、国際問題になるぞ!」
弥王の肩を強く揺さぶって、璃王は弥王を必死に説得しようと試みる。
が、弥王の瞳から仄暗い光は消えない。
むしろ、その緋色はより昏く、歪んだ光を湛え始めていた。
「そんなモン、知ったこっちゃない。
わたしの大事なものに手を出した罪は命ごときで償えると思うなよ……」
「頼むから正気になってくれ!
こんなことで――っ!」
「こんな事!?
こんな目に遭って、あんな酷い事にもなって尚、“こんなこと”で済ますのか、お前はっ!?」
「――っ!」
ドンっと璃王の肩を掴んだ弥王は、そのまま璃王を勢いに任せて壁に押し付ける。
その言葉は、璃王の言葉に怒りを隠せない様子だった。
「自分が酷い目に遭ったのに、何でお前はそんなに冷静でいられるんだ……。
私は、私には……ッ!」
言葉を切った後、弥王は一旦落ち着くように一つ呼吸を落とした後で、顔を上げる。
璃王の瞳に映ったのは、いつもの弥王の新緑の瞳。
璃王が昔から好きだった弥王の瞳の色だった。
「私には、リオンが酷い目に遭って、それで尚怒らないでいるなんてこと、無理。
私の近衛家令はリオンだけだと決めてるんだよ……、自分のことを大切にしてよ、リオン……」
「ミオン……」
弥王の声は震えていた。
ポタリ、と冷たい玻璃色が頬を濡らす。
初めて会った時から、自分の人生はこの子を幸せにするために使おうと思っていた。
それは、恋をした後も変わってない。
家族と離れ離れになって、ボロボロに傷付いたからこそ、更に望むのだ。
“彼女を誰よりも大切にしよう”――と。
それが例え、共依存でもなんでもいいのだ。
主従を超えた友情、それが璃王との絆だから。
璃王の冷え切った体を優しく温めるように、弥王は彼女を抱きしめた。
「私が王冠を被って玉座に座ったまま死ぬまで死なないといったのはリオンでしょ……。
なら、私が死ぬまで、勝手に死ぬことは赦さないからな……」
それは、呪いにも似た願い。
自分の願いがたとえ、“彼女”の人生を縛ってしまうことになっても、弥王は“彼女”に生きて欲しいと願うのだ。
誰よりも短い宿命を持つ彼女のことを、刹那に生きる彼女を、誰が幸せにせずにいられるのだろうか。
「大丈夫だよ、ミオン。
君が望む死を迎えるまで、僕は死なないから」
自分が生きていることを肯定してくれる弥王の腕が温かいから、璃王もまた、弥王の緩やかな束縛を受け入れるように弥王の背中に腕を回す。
弥王を落ち着かせるように、小さい子にするように背中をポンポンと叩く。
弥王が望んでいることが分かっているから。
弥王が何を望んで、何を大切にしているのかを一番知っているから。
だからこそ、璃王は弥王の緩やかな束縛さえ受け入れるのだ。
それが自分を壊すものでないと分かっているから……。
@弥王と璃王の関係性
束縛はすれど、GLではありませぬ!!!(ここ重要!!!!)
NLを期待しているそこの君!
ちゃんとくっつくべきところにくっつく予定なので、「なんだGLかよ!( ゜д゜)、ペッ」で見限らないでくださいませ~!




