Ⅸ.嫉妬-jealousy-
幼い頃からずっと一緒だった。
この関係がずっと変わることはないのだと無条件で思っていた。
彼に対する君の感情と君に対する彼の感情に触れた時、私は自分の中で蠢いているこの感情の解を知る――。
次の朝、弥王はクリスを伴って生徒会室に来ていた。
今日は個人練習の為、アリスのメンバーと弥王、璃王、レイナスとレイリスは生徒会室に呼ばれていたのだ。
「おや、ミオンちゃんがクリスちゃんを連れてるなんて珍しいね?
リオンちゃんはどうしたんだい?」
「おはようございます、レイ先輩。
璃音は衣装の素材の買い出しです。 僕とクリスがその璃音に衣装の製作を押し付けられまして。
衣装について璃音と相談するので、彼女も連れてきましたが……いけなかったでしょうか?」
「いいや、構わないよ。
可愛い娘は華があるから大歓迎さ」
ライトに璃王が居なくてクリスが居る事を問われた弥王は、璃王が居ない理由とクリスが居る理由を話す。
あっさりとクリスの滞在が許可された事に安堵して弥王は、ライトに勧められたソファーに座る。
「真偽のアイシャ……これが、今年の生徒会でする映画なの?」
テーブルの上に置かれた台本を見て、クリスが弥王に問う。
クリスの目の前には、ピンクの表紙に「True Eyshah」の文字がハートの枠内に書かれている台本が置いてあった。
その台本が誰の制作なのか、表紙を見ただけで分かってしまったクリスはすぐにその台本から視線を外す。
そんなクリスに弥王は頷いた。
「そうだよ。 僕がレイチェルで璃音がアイシャ」
「そう。 貴方がジョニーなら見てもよかったんだけど」
「残念ながら、ジョニーは別の子だよ」
「本当に残念ね」
配役を聞いたクリスは本当に残念そうに肩を落とした。 どうやら彼女はジョニーの方が好みらしい。
そんな様子の彼女に苦笑する弥王。
真偽のアイシャでは、やはり一番に人気を飾るのはアイシャとエルリック・シーズなのだか、クリスのようにエルリックの幼馴染であるジョニー・セコッティンスやレイチェル・ウェン・グレイゼルを推すものも居る。
それは、真偽のアイシャに於いて、その二人も魅力のあるメインキャラという事なのだが……どうも、主人公のアイシャとエルリックばかりが目立って、二人のメインが霞みがちなのである。
クリスと弥王が真偽のアイシャについて話していると、生徒会室の扉が開けられた。
「おはようございまーす!
あれ、ミオンちゃんは居るけど、リーくんはまだ来てないの?」
「おはよう、イリス。
残念ながら、璃音は買い出し中だよ」
ライトと同じ反応を見せるレイリスに苦笑してミオンは答える。
「そっかー」と残念そうなレイリス。
「あれ、クリスちゃんが居る……珍しいね?」
「どうも。 貴女も映画の関係者だったのね、群雲さん」
クリスの姿を認めたレイリスが珍しそうに声を掛けるのに対し、クリスは淡々と言った。 二人の温度差が凄い。
「二人とも、知り合いなのか?」
弥王の問いに対し、二人は次の様に声を揃えて言った。
「一年の時から同じAクラスなの」
「一年の時から仲良しだよ!」
「言ってること、違うけど?」
二人の対極の温度差を感じる言葉に、不意にこの場に居ない筈の人が突っ込んだ。
扉に目を向けると、そこにはクレハとレナが一緒に居た。
「クライン先輩にスタン先輩!
おはようございます。 今日も見回りですか?」
「おはよー、ミオンちゃん! 会いたかったーっ!」
弥王がクレハとレナに挨拶をすると、レナが弥王に走り寄ってきて抱きついてきた。
微妙に首を腕で絞められて苦しい。
「く、苦しいです、スタン先輩。
それに今朝も食堂で会いましたよ……」
弥王はレナの腕を軽く叩きながら、苦し紛れに言葉を出す。
食堂ではアリスのメンバーとは嫌でも顔合わせをする。 なので、毎朝会っていて「会いたかった―」とはどういうことだ?
「今日も異常なしだよ。
そうだね、特に最近は学際の事もあって皆浮足立ってるから見回り強化中だよ」
「お、お疲れ様です」
クレハの言葉の前者はライトに、後者は弥王に向けられたものだ。
クレハの話を聞いた弥王は労いの言葉を述べる。
名門とは言えど、イベントごとというモノは、人々の心を躍らせるものである。
そんなときにこそ、面倒ごとというモノは起こるらしい。
その為に、クレハ達アリスが見回りを強化しているのだが。
今日も特に問題はなかったとのことだ。
「ご苦労様。 直に皆来るだろうから、二人ともゆっくりしててくれ」
「遅くなりました」
ライトの言葉の後で扉が開き、璃王とレイナスが生徒会室に入ってきた。
「あれ、ナスも一緒?
二人で来るなんて、いつの間にそんな仲になったの~?」
レイナスと璃王が一緒に来たことについて何かを勘違いしたらしいレナが、にやにやと笑いながらレイナスに詰め寄る。
「何だよ、スタン。 別にそんなんじゃねぇよ。
校舎棟で偶然会ったから、一緒に来ただけでだな――」
「璃音、早く衣装のデザインとか決めようぜ」
「え? あぁ……」
レイナスがレナへ言い訳をしている間に弥王はレイナスと璃王を引き離すように璃王の腕を引いた。
璃王は曖昧に頷きながら、弥王に引かれるままソファーに座る。
「メインの衣装は何とかなりそうだな。
問題はその他の衣装か……時間内にできるか?」
衣装デザインの原案を見た弥王は、璃王に問う。 璃王はさも当然の様に言った。
「大丈夫だろ。 僕と君で作るんだし。
一人一日3着の計算で行けばあと二週間は余裕だな」
「徹夜なのね!? なんて鬼嫁!」
「誰が嫁だ。
問題ねぇだろ? 僕も君も何だかんだでバイトで二着は作ってんだし」
弥王の言葉に冷静に突っ込む璃王。
確かに、デザインを見ればかなり凝っているモノばかりで、到底一日でできるとは思えない。
げんなりした様子で目の前の紙束を見る、弥王。
「これ、全部リオンちゃんが考えたの?」
「凄い、凄いよ、リーくん! このウェディングドレスとか、結婚式で着たいなぁ!」
璃王の衣装を絶賛しているレナとレイリスの横で、弥王は机に突っ伏しながらペラペラと紙束を無造作に捲っていく。
態度や表情がもうやる気なさそうだ。
「まぁ、そうだけどさ……でも、イブニングドレス3着にウェディングドレス1着、アイシャ、エルリック、ジョニー、レイチェルの衣装にレイチェルの正装……これって結構デザイン凝ってるけど大丈夫か?これ。僕死なないよな?練習と撮影と衣装づくりってかなり無茶してない?これが会社なら、即ブラック企業で労働基準監督行きだろ」
ブツブツと死んだ魚の目で文句を垂れている弥王。 それを呆れたように璃王が横目に見ている。
「彼奴は放っておいて、早く練習しようぜ。
そうだ、スタン先輩、クライン先輩。 頼まれた歌、もうできたぜ」
「本当!?」
「早速聴かせてくれないかい?」
弥王を横目にレナとクレハに声を掛ける、璃王。 曲ができたと聞いた二人は璃王の言葉に食いつく。
苦笑しながら、璃王は音楽プレイヤーを出した。
「それ、何? 携帯端末じゃないし……」
「貴族の間で流行ってる音楽プレイヤーってヤツだね。
璃音って貴族だったのかい?」
興味深そうに璃王の音楽プレイヤーを見ているレナとクレハに、璃王は一言だけ説明した。
「懇意にしてもらってる貴族からの貢ぎ物」
それを聞いただけで「彼女は一体、どういう人なんだ?」という疑問がクレハとレナに飛び交う。
璃王が貴族から懇意にされているなら、弥王も同じなのだろうか? 幼馴染だとか言っていたし。
2人が弥王と璃王のことで呆然としている間に音楽は流れた。
《―― ――》
「いい……いいよ、これ!
アイシャのイメージにピタリ! ねぇ、クレハもそう思うでしょ?」
「うん、いいと思うよ、歌はこれで決定だね」
歌を聴いたレナが感極まって絶賛し、クレハもそれに同調する。
璃王は満足そうな二人を見て、安堵の息を吐く。 これでダメ出しされたらどうしようかと思ったのだ。
特にクレハについては音楽に何か拘りがあるらしいので、苦言を呈されるかと冷や冷やしていたのだ。
「歌はこれでいいから、後は適当に合わせでもしてようか。
弥音、いつまで死んでるつもりだい? 早く台本用意して」
「はい……」
「本当に大丈夫なのか、これ?」
クレハの声かけに抑揚のない疲れ切ったサラリーマンの様な声でフラフラと答える弥王に、レイナスが突っ込んだ。
斯くして、二週間後に控えられた学際の為に過酷な練習が始まったのだった。
「『女……?気に入った、お前の名を聞いておこうか』」
「『僕に名乗るほどの名はありませんよ。 そうですね、強いて名乗るなら、「切り裂きジャック」……とでも言っておきましょうか』」
セリフの合わせが始まり、レイナスと璃王が台本を片手にセリフを言っていく。
ここで知ったのは、意外とレイナスが大根役者でなかったこと。 そして、案外リオンが役に成り切れていなかったこと。
ここまでに二人は――主に璃王が――何回かカットを切られている。
「はい、カット。 璃音、もうちょっと間を開けてセリフを言って。
早口言葉じゃないんだから。 もう一回、さっきのシーンから」
「あ、あぁ……」
クレハの指摘に頷いて、璃王はもう一度セリフを言った。
「『僕に名乗る程の名はありませんよ。
――そうですね、強いて名乗るなら……「切り裂きジャック」……とでも言っておきましょうか』」
セリフを言った後で、クレハの様子を横目に見る。
すると、クレハは今度は頷いた。 どうやらこれで良い様だ。
「『「切り裂きジャック」……?巷で言われている呼称か。
そうでなく、お前の名前が知りたい』」
「『名など、どうでも良いものです。 それより、ただ突っ立っているだけなら貴方もそこの女――いえ、彼は男性でしたね。彼の様に切り裂いてしまいますよ?』」
「『うぅ……エルリック、何を、していりゅ……』あ、噛んじゃった、『何を――』」
璃王のセリフの後でレイリスがジョニーのセリフを言った。 しかし、途中で噛んでしまい、セリフの途中だというのに言葉を挟んでしまった。
「カット。 ちょっとレイリスは落ち着こうか。
またセリフがガチガチだよ」
クレハの指摘が入る。
レイリスはしゅん、と萎れて「すみませんです」と謝罪する。
メイン二人がこれでは駄作になりかねない。
クレハは頭を抱えた。
「二人とも、少し休憩しようか。
レイナスは引き続き、弥音と合わせて」
「えぇ? 俺、彼これ二時間はぶっ通し――」
「男だろ? グダグダ言うなよ。
一番、君と弥音の相性が悪すぎるんだから、少しは合わせて相性を何とかカバーしなよ」
反論しようとしたレイナスは、クレハに言葉を遮られる。
クレハの言う通り、レイナスと弥王は――特に弥王のセリフが棒読みになっている。 そして、レイナスもセリフが突っかかっているようなニュアンスになっているのだ。
これでは「幼馴染に恋をしている少女」、「幼馴染を妹の様に思っている青年」ではなく、「犬猿の仲の腐れ縁同士」だ。
レイナス以外と合わせる時は至って普通、寧ろ璃王と合わせた時は「恋敵同士」ではなく、「恋敵に恋をしたツンデレ少女」となっているのに。
これは、元の人間関係を少し観察する必要がありそうだ、とクレハは思った。
「『何~、エル。 ま~たジョニスに不良品掴まされたの~? 懲りないねー、君もジョニスも』」
「『あぁ、まったく。 不器用な癖に困った奴だ。
これなら、支給品の銃を使った方がまだ安全だ』」
「カット。 弥音、君はちょっとレイチェルのキャラを勉強しなおそうか。
それだと、嫌味たらしい姑だよ。
ナスも、嘲笑しているようにしか聞こえないから。
何で君らはこう、相性が悪いんだい?」
弥王とレイナスのセリフを聞いたクレハが呆れたように言った。
何故相性が悪いのかと問われても、二人はその原因がよく解らない。
弥王に至っては何故かレイナスが気に食わないのだ。 何故かと聞かれてもよくは解らない。
強いて言うなら、妹を取られたシスコン兄貴の様な感覚に近い気がする。
「僕は至って真面目にやってるつもりなんですがね。
そうですか、姑ですか。 いっその事、レイチェルをこのキャラに……」
「却下だよ。 君、他の人と合わせる時は問題ないのに、ナスとだけは馬が合わないんだよ。
何とかならないかい?」
「そう言われましても、僕はちゃんとやってるつもりなので」
「弥音、ちょっと向こうで話そう」
「……? はい、解りました」
このままでは話が堂々巡りになってしまう。 そう思ったクレハは、弥王をキッチンへと誘導した。
「クレハがミオンちゃんを連れてキッチンに入って行ったけど……あの二人って、そんな仲だったの?」
「クレハとミオンちゃんか……確かに、クレハはミオンちゃんを気に入ってるみたいだし、有り得なくはないな」
「何の話か知らんが、クラインに限ってそれは有り得ないだろ」
「あーらー、やだー。 エイルったら嫉妬? やっぱりクレハの事好きなんだ~?」
「あぁ、人間的には好きだな。 見ていて飽きない」
「いや、そうじゃなくて……」
クレハと弥王が消えたことについて、三人のアリスが議論していた。
―― ――
―― ――
クレハに連れられ、弥王はキッチンへと入っていた。
唐突にクレハが話を切り出す。
「弥音、この際だからはっきり言うけど……君はレイナスが嫌いだろ?」
「っ!」
はっきりと言われた言葉に弥王は押し黙った。
ある意味では図星。 しかし、違う意味では違う。
現在、璃王とレイナスが仲睦まじく接しているところを見る度に感じる胸中のモヤモヤのことをどういったらいいのか解らない。
「解りません。 確かに、彼の事はあまり好きじゃないかもしれません。
人間が嫌いで、他人に興味を示さなくて僕と慣れ合うまでに時間の掛かった璃音がいとも容易く彼と打ち解けたのが、僕が時間をかけて知った璃音の癖を短時間で把握してしまった彼が、面白くないのかもしれない。
仲睦まじい二人を見てると、凄くモヤモヤして……だけど、璃音は幼馴染でとても大切な子だから、璃音が彼を好きなら応援しないとって思って……矛盾してるけど、大切だから奪われたくないのと、大切だから幸せになってほしいのがせめぎ合っていて、もう、よく解りません」
ここまでを淡々と息継ぎをすることなく、弥王は吐き出した。
黙って弥王の話を聞いていたクレハは、「なるほど」と呟くと弥王の肩を叩く。
「君のその感情は一過性のものだからあまり気に病まない方が良いよ」
「どういう事です?」
弥音の質問に一泊おいて、クレハは答えた。
「要するに君は、ナスと璃音があまりに仲がいいから、ナスに嫉妬しているだけなんだよ。
幼馴染でいつも一緒に居たんだろ? まるで、お互いが世界のすべて、みたいな閉塞的な考えを感じるほど特殊な環境に居たと見える。
そんな環境下にあって何かが原因でそれを抜け出して、君は最近漸く外の世界を知った。 違うかい?」
「いいえ、その通りです。 詳しく話せませんが」
クレハの言葉を肯定する弥王。
しかし、その表情は何処か腑に落ちていないようだった。
「お互いが世界のすべてだったのに、外の世界を知った璃音が初めて好きな人を作った。
それに嫉妬することは、ごく自然なことだと思うよ。
無理に祝福しようとはしなくていいと思う。 君は今まで通り、璃音と関わっていけばいい。
いつか自然と受け入れられる日が来るから」
それだけを言うと、クレハはキッチンから出ようと踵を返す。
そして、思い出したかのように肩越しに振り向いて、言った。
「嫉妬するって言う事は、それほど君は璃音の事が好きなんだ。 幼馴染として、ね。
それは悪い事じゃない。
自分を好きでいてくれる幼馴染が居て、璃音は幸せ者だね」
それだけを言うと、今度こそクレハはキッチンを出て行ってしまった。
――嫉妬? 自分が、レイナス先輩に?
先程の話の事を弥王は考えてみる。
嫉妬。 妬ましく思う気持ち。
確かに、璃王に短期間で好かれたレイナスの事を羨ましく思う。 その半面で、妬んでいたのか。
よく、ドラマや映画なんかで兄弟の嫁が気に入らないと言っていびったりしているシーンは何度も見たことある。
嫉妬とは、そういうものだと思っていた。 自分には縁のない感情だと。
「そうか、オレは――彼に嫉妬していたのか……」
マオが璃王をどんなに構っても、決して芽生えなかった感情。
マオは璃王を構いながらも、弥王の事もちゃんと構っていたので、弥王が嫉妬することはなかったのだ。
男としてグレアに仕えていた時も、来るもの拒まずの如く女を誑し込んでいたグレアにモヤモヤするところはあったが、自分は男だからそれを態度に出すのはおかしい、と感情を抑え込んでいた。
そう言えば――と、弥王はバースデークリスマスでの出来事を思い出す。
カナメがグレアにアプローチを掛けている所を見た時、モヤモヤよりもムカつきの方が先走ったことを思い出す。 あれも、嫉妬と言うのだろうか。
不思議と、レイナスとカナメについて考えると、二人で嫉妬の感じ方が違う、と弥王は感じた。
レイナスに対しては彼と璃王がベタベタしていてモヤモヤしただけだったが、カナメに対してはムカつきを感じる。
幼馴染を取られるのと、好きな人を取られるのは違うのだろうか。
ならば、レイナスに対する嫉妬も幾らか和らぎそうだ、と弥王は感じた。
今なら、レイチェルの役も上手くできそうな気がする。
レイチェルはエルリックを愛していたが結局結ばれる事無く、生まれた時から決められていたという占い師の貴族と結ばれることになったのだ。
突然レイチェルとエルリックの前に現れ、エルリックの心を奪ってしまったアイシャに対して嫉妬してしまうシーン。
そのシーンでどうしても詰まっていた。
それが、自分の感情を把握するだけでできそうだと思えるのは、今ならレイチェルの気持ちがわかる気がするからなのだろう。
弥王は、俯けていた顔を上げて、キッチンから出て行った。
―― ――
―― ――
クレハが戻ると、レナとライトがニマニマとした笑みを浮かべて、クレハに近付いてきた。
「何だい?」
「いや~? クレハがミオンちゃんを気に入ってるのは知ってたけど、堂々と二人きりになる程とは思ってなかったなー、ってな」
「で、ミオンちゃんからの返事はどうだったの、クレハ?」
クレハが問うと、ライトとレナが茶化すように訊いてくる。 どうやら二人は、何やら勘違いをしている様子だ。
はぁー、とクレハから長いため息が吐き出される。
そして、フードの下から茶化してくる二人を睨み上げて、言った。
「別にそんなんじゃないから。 下らない話してないでさっさと練習しろよ、色ボケ共」
クレハから暴言が吐き出されたのを聞いて、レナとライトは冷や汗を背中に流す。
こけしを投げているくらいでは怒っている内に入らないクレハだが、本当に怒った時のクレハはまず暴言を吐いてくる。
――これはまずい。
二人がそんなことを思っている時だった。
――ガチャッ。
「こんにちはーっ! お疲れ様です。
レナさん、差し入れ持ってきまし……た……って、あ、アンタはッ!」
一人の少女が生徒会室に入ってきた。
彼女は当然の様にレナに声を掛けると、その前に視界に入ってきた璃王を見て硬直する。
そして、名前を叫んだ。
「リオン・ヴァッ!」
「何方デスカ。 俺は神谷璃音デス、宜しくしないでクダサイ」
名前を叫ぼうとした少女の口を物理的に封じ、璃王は無表情に言った。
あれ、これ何だかデジャブ、とは生徒会の全員が思ったことだった。
「ふざけるんじゃないわよ、ちょっと来なさい!」
「それはこっちのセリフなんだがなぁ?――ネル・サクラギ」
璃王の手を引いて外へ出ようとする少女――ネル・サクラギの行く手を遮り、弥王が笑顔で言った。
しかし、その目は決して笑っていない。
3人のただならぬ光景に、その場に居た全員が息をのんで現状を見守る。
「璃音に話があるのなら、僕も同伴させていただこうか。
――璃音にまた何かされたんじゃ堪ったモンじゃないからな」
ネルを睨むように、弥王は言った。
一触即発の空気の中、ネルは「解ったわよ」と一言だけ言って、生徒会室を出て行った。
弥王と璃王はそれに続く。
「風が……同じ……?」
三人が出て行った扉を見つめ、クリスがポツリと呟いたがそれは誰にも拾われる事無く部屋に消えた。
―― ――
―― ――
「それで、何で死んだ筈のアンタがここに居るのよ、忌子」
ネルが話を切り出す。
忌子――それは、璃王の名を呼ぶのも疎ましく思っていた桜の一族の人間が呼んでいた、璃王の蔑称。
璃王は何も言わない――否、言えない。
幼い頃の璃王を迫害して虐めていた人間にネルも含まれているのだ。
その時の恐怖はトラウマとなり、一部の一族の人間を見ただけで震えあがる程の恐怖を感じる。
その恐怖から、璃王は声が出せなかった。
先ほどは状況的にも動かざるを得なかったが、段々と璃王は幼少の頃の傷が開いていくのを感じる。
「まぁ、アンタが生きていようが死んでいようがどうでも良いわ。
それよりも、私にとって重要なことは――」
ネルは璃王から視線を外して、今度は弥王に視線を持って行った。
その瞬間にネルは水色の瞳を柔和に細め、頬を綻ばせる。
「貴女が生きていること、大変嬉しく思います、ミオン様。
良くぞ生きていらっしゃいました」
璃王の時とは打って変わって丁寧な口調で話す、ネル。
ネルは、次期イリア王家を継ぐ弥王に無条件で仕える事を望んでいる。
その為、弥王には尋常ならぬ忠誠心と尊敬を向けていた。
「ミオン・セレス・ルーンなら今は、消息不明だ。 今のオレは神南弥音。
ただの学生だよ」
ネルの言葉に皮肉で返す、弥王。
この態度からも分かるように、弥王はネルのことをよく思っていない。
それは勿論、幼少の頃の璃王が彼女に散々な目に遭わされたというのも勿論あるのだが――。
「いいえ、貴女はミオン・ルーン様です。 私には解ります」
彼女はこの通り、弥王に盲目的過ぎるが故、弥王の意志すら尊重しようとしない。
そういうところが昔から散見された為、弥王も彼女を苦手としているのだ。
弥王を「ミオン・セレス・ルーン」ではなく、「次期イリア王国女王候補」としてしか見ていないその態度が、弥王から疎ましがられている要因なのだが、本人はそれに気づいていない。
「何でもいい。 とにかく、オレもリオンも今は身分を偽ってここに居る。
余計な事をしないでもらおうか」
「ッ!」
冷ややかな視線で射抜かれ、ネルは言葉をなくす。
弥王としては、余計な人間に絡まれて自分と璃王の身分がバレて大問題になることを避けたいのだ。
もし、身分がバレたりなんかしたら即、イリアとグラン帝国で戦争が起こるだろう。 そうなれば、グレイへの恩返しどころではなくなる。
“ボクとミオンが大きくなって王位を継いだら、協力していこう”――それは、グレイに拾ってもらった翌年の誕生日にグレイと約束したこと。
それを守る為には、今ここで問題が起きては困る。 その為に口封じをしておく必要があった。
「もし、オレやリオンの素性がバレるようなことがあったり、リオンを傷付けるようなことがあった場合は覚悟しろ。
お前の両親の顔も、未だに覚えているからな」
ネルに低く耳打ちして、弥王は璃王の手を引いて生徒会室へ入っていった。
―― ――
―― ――
「はぁ!? もう一人お前の親戚が居る!?」
あの後、生徒会室に戻った弥王と璃王はキッチンで菓子作りをしていた。
その時、璃王がポロっと「この学校にネル以外にもう一人、親戚が居る」と零したのだった。
驚いた弥王の声がキッチンに響く。 璃王は頷いた。
「あぁ……リト・コスモが居た」
「はぁ? リト・コスモ……って、あの午野郎か?」
リト、と言う名前を聞いた途端に弥王の声が低くなった。 その背中に般若が見えた気がした璃王。
それもそうだ。 リト・コスモは、弥王の一番大切な者に一生消えない傷を付けた。
その償いは彼の命を奪っても足りない。 何なら、本当に殺してやろうかと思ったほどに怒りを覚えている。
「彼奴までこの学校に居ようとはな……ちょうどいい。 オレの嫁に手を掛けたこと、今すぐに償わせてやらぁ――」
「しなくていいから! つーか、俺がいつ、お前の嫁になった!?
お前本当、頼むから一度だけ自分の性別と向き合ってくれ!?」
包丁を持って般若のような顔で言うもんだから、璃王は焦って弥王の肩を掴みその体をガタガタと揺らした。
目が座っている所を見ると、本気で殺りかねない。
「五月蠅いッ、オレは殺ると言ったら殺るんだぁ! 彼奴の首を野晒しにするまでオレは絶対奴を許さんッ! 首を斬るぅぅぅぅうう!」
「お前、キャラが変わりすぎだ! 少し落ち着けよ!」
「打首獄門だぁぁぁぁぁあああ!」
入ってはいけないスイッチでも入ってしまったらしく、弥王は修羅の様に荒ぶる。 璃王はそれを羽交い絞めして抑え込んだ。
しかし、身長も違えば体重も多少変わってくるモノで、自分より身長が高く、体付きのいい弥王が暴れれば抑えるのもやっとだ。
あぁ……こんな事なら、弥王にリトが居る事を話すんじゃなかった。 そう後悔しかけた時だった。
扉の向こうから救世主が現れた。
「大きい物音が聞こえてきたけど、大丈夫か……って、何やってんだ、お前ら?」
扉の向こうから来た救世主はレイナスだった。 彼は弥王を羽交い絞めにしている璃王を認めると、呆れたように肩を竦める。
「あぁ、レイナス! 丁度よかった! ミオンの鳩尾に一発入れてくれ!」
「いや、流石の俺でもそれは無理な相談だ……」
璃王の鬼畜な頼みごとをレイナスは呆れ顔で断った。
「――で、何があったんだよ?」
弥王を気絶させたあと、璃王とレイナスは二人で菓子作りを再開した。
レイナスの問いに璃王は「あぁ……」と、まるで草臥れたボロ雑巾の様な覇気のない顔で気のない返事を返す。
「いや、ミオンにリトが居る事を話したら、暴走した……。
ミオン、僕の親戚には――特にリトには殺意を持ってる所があるから多分、それが再燃したのかもしれない」
「そうか……なんて言うか、怖いな、彼奴」
「昔、僕の事をからかってきてイビリ倒してきた同級生が居たけど、ミオンが般若の如く激高して、そいつを血祭りにあげたことがあったな……」
遠くを見るような表情で語る璃王に、レイナスは絶対に――特にリオン関係で――コウナミを怒らせるようなことをしてはいけないな、と心に銘じた。
もし、怒らせたら命がいくつあっても足りないだろう。
「あ、レイナス、待って。
型に入れる前にこれも入れて混ぜると良いよ」
そう言って璃王が出してきたのは、アーモンドとクルミを刻んだ物だった。
それをチョコレート色の生地の入ったボールの中に入れる。
「ナッツ類を刻んだ物を入れると、適度な歯ごたえがあって美味しくなるんだけど……今更だけど、アーモンドは大丈夫だったか?」
「あぁ、平気だ。
それにしても、リオンは何でも知ってるんだな」
「まぁ、召使の様な事をしている家系で育ったから、基本的な料理から菓子作り、家事全般教え込まれたしな」
感心したようにレイナスが言うモノだから、璃王は思わず目を逸らした。
別に、料理のことを今まで褒められたことがないわけではないが、レイナスから褒められるのは何だか、むず痒さを感じたのだ。
ちなみに、璃王は幼少の頃から、母親に家事全般を教え込まれていた。
それが今、全力で役に立っているので、今では全力で感謝している。
オーブンでブラウニーを焼いている間に、璃王は今まで使っていた調理道具を洗っている。
その隣で、洗った物を拭いているレイナスの顔を盗み見てみる。
「……?
レイナス、ちょっとこっち向いて?」
「ん? 何だよ?」
璃王はレイナスの目に違和感を覚えて、レイナスに正面を向くように言った。
レイナスは疑問に思いながらも、璃王を真っ直ぐに見る。
「ちょっと悪い」
レイナスの目をよく見ようとした璃王はレイナスの頬に触れると、背伸びをした。
先程まで水を触っていて冷たくなった璃王の指が頬に触れて、その冷たさに一瞬、レイナスの肩が強張った。
璃王の顔が目の前にある。
吸い込まれそうなほど深い藍色の目。 それに被さるように伏せ気味の濃く長い睫毛。
ふっくらとした唇は綺麗な紅色で、一目見たら化粧をしているようにも見える。
白い肌が、それらの特徴を引き立てていた。
真っすぐと見つめる瞳は、まるで無垢な宝石を思わせる様で、レイナスは目を逸らしたくなるようなむず痒さを感じる。
「……やっぱり。
レイナス、両目で微妙に色が違うんだな。 右目の方が少し薄い」
「あ、あぁ……生まれ付きみたいでさ。
誰かに言われるまで、全然気にしていなかったんだけど……おかしいか?」
じっと目を見ていた璃王が漸く口を開いた。
余計な事を考えていたレイナスは、璃王の言葉に少し遅れて反応する。
璃王の言うように、レイナスの瞳はぱっと見は赤色だが、左右で微妙に色が違っていた。
本人も昔、誰かからかそれを言われて自覚したのだが……それを言ったのは、誰だっただろうか。
「いいや、全くおかしくない。 良いと思う」
ふわり、と微笑んだ璃王の顔は、夜会の時に見せた柔らかな微笑だった。
不意に見せられた、いつもと違う愛らしい微笑みにレイナスはドクン、と鼓動が脈打ったのを感じた。
「そうか」
甘ったるく脈打つ動悸を振り払うように、レイナスは短く頷いた。
璃王の表情の変化に触れる度に、気になっていっているような気がする。 しかし、レイナスはそれに抗うように抑え込んでいる。
――リオンに落ちてしまうのは簡単だろう。 既に溺れかけているのだから。
しかし、落ちてしまったらどうなる?
恐らく、ただでは済まないような気がする。
一応、そう言う倫理観は持ち合わせているので、未成年の少女に手を出す、と言う事は憚られる。
「レイナス? 大丈夫か?」
「え?」
「顔が赤い。 熱でもあるんじゃないか?」
「大丈夫、何でもねぇから!」
心配そうに顔を覗き込んできて額に触れようとした璃王の手を掴む、レイナス。
突然近い距離に来た璃王に驚いたのだが、璃王はレイナスが驚いてしまったことを別の意味で捉えたらしい。
「えっと、嫌だったか? それだったら、ごめん」
しょんぼりと肩を落として謝る。
眉を下げて申し訳なさそうな表情をする璃王に、レイナスは“こんな表情もするのか”とまた一つ、璃王の表情を知れたことに胸が高揚した。
それでありながらも、やはり璃王にそういう表情をさせたことに罪悪感も覚えたので、直ぐ様、レイナスは弁明する。
「いや、嫌だったとかそういうんじゃなくてだな。
ただ驚いただけだ、大丈夫」
「そうか。 なら、よかった」
レイナスの言葉に安堵の様子を見せた璃王。 その後で沈黙が彼らを包み込んだ。
気まずい。
夜会の時に感じなかった筈の気まずさは、一体どういう感情なのか。
そんな事を思っていたら、タイミングよくオーブンが鳴った。
「あぁ、ちょうどブラウニーが焼けたみたいだ。
ちょっと見て――あ」
「どうしたんだ……って、あぁ、悪い……」
オーブンに寄ろうとした璃王だったが、レイナスが手を掴んだままだった為それは叶わなかった。
レイナスも、自分が璃王の手を掴んだままだったことに気付くと、直ぐに手を放す。
「べ、別に、大丈夫」
離された手を胸元で握りしめると、自分の鼓動が早く脈打っているのが解る。
ドクン、ドクン、と心臓が胸を叩く僅かな振動が握った手の内側へ伝わっていくようで。
これは、顔も赤くなっているのでは?
――どうして? 夜会の時にも手を掴まれたけど、気にしなかった癖に。
今では、そう言う事でさえ意識してしまう。 掴まれた手も、顔も熱い。
「あ、いい感じに焼けたな。 後はこれを切って……熱ッ!」
「大丈夫か!?」
オーブンから取り出して台の上に置いたブラウニーを無意識に触ってしまい、慌てて手を引っ込めた璃王に、レイナスが慌てて寄ってきた。
思わず璃王の手を取ってしまったことで、目を見開いて凝視してくる璃王の目と目が合う。
「あ……っと、悪い。
早く冷やした方が良いぞ」
「あ、うん、そうだな……」
パッ、と手を放して、冷静になったレイナスは言った。
さっきと今とで更に気まずくなった璃王は、ぎこちなく返事を返す。
――レイナスと再会した時から、胸の辺りがザワザワと騒めいている様な気がする。
璃王は、いつも以上に冷たく感じる水道から流れる水で指を洗いながら、そんな事を思う。
レイナスと居ると、その一挙一動に反応するかのように熱が出る。 何故だ?
今だって、水道の水がいつも以上に冷たく感じる程には熱があるようだ。
動悸も時々速くなるし、喉の辺りがつっかえる様な感覚があることもある。
それは、ある症状に似ていた。
「何だ……? 慣れない環境で風邪でも引いたかな」
璃王は呟いて、水道を止めた。
「え、大丈夫か?
何なら、今から医務室に――」
璃王の言った「風邪」と言うワードに反応したレイナスが顔を覗き込んできて、璃王の額に手を当てる。
風邪と言えど、この季節では重症化して死んでしまうような種類の風邪も存在している。
レイナスが心配するのも当然と言えばそうだった。
特に璃王は、本人はそうでもないが見た目が病弱そうに見えるのだ。 風邪なんか引いたら、すぐに死んでしまいそうなくらいに。
璃王は更に熱が上がったみたいに顔を真っ赤にしてレイナスから離れた。
「い、いいや、いいッ! 大丈夫だッ!」
「だが――」
慌てて首を振る璃王に尚も食い下がる様に近づいてくる、レイナス。 彼は本気で心配しているようだ。
「本ッ当に大丈夫だから! 2,3日寝てりゃ治るから――うわっ!」
レイナスから逃れようと後ずさった璃王だが、直ぐ後ろは作業台。
それに手を着こうとした璃王だが、レイナスに気を取られていた為、作業台の距離を見誤り倒れた。
「あ、おい!」
咄嗟にレイナスは璃王の腕を掴んだが、そのまま二人でバランスを崩して床に倒れる。
ガシャーン!と言う音を立てて、床に調理器具が散らばり、その中心にが璃王を押し倒す形で倒れていた。
「いつつ……大丈夫か、リオン?」
起き上がったレイナスは、手に柔らかい感触を感じるとともに、璃王の顔が真っ赤になっていることに気づく。 先程よりも顔が真っ赤で、目を瞠っている。
「~~ッ!」
「リーくんッ! 今の音、何!? 大丈夫!?」
――バン!
突然、キッチンと生徒会室を隔てる扉が開き、レイリスが入ってきた。
そして、キッチンの光景を見た彼女は顔を真っ赤にする。
「ごッ、ごごご、ごめんなさいですッ! お邪魔しましたぁッ!」
言うや否や、レイリスは脱兎の如くその場から逃げ出した。
あれは絶対何か勘違いした!
璃王がそう思った時には既に、キッチンからレイリスの姿がなくなっていた。
「いつまで掴んでるんだ、変態ッ!」
――パァン!
キッチンには、璃王がレイナスを平手打ちした音が響いた。
思いっきり引っ叩いたのか、その音はとてもいい音だった。
「わ、悪ぃ!」
璃王に言われて初めて、自分の手が何処を突いていたのかを知り、慌てて手を離す。
すると、またバランスを崩してしまい、璃王に被さるように倒れてしまった。
「~~ッ! 早く退きやがれ、ムッツリヤローッ!」
璃王はレイナスを押し退ける様にその肩に手を突く。
レイナスは今度こそ、やっと起き上がった。
「えっと、リオン? さっきのはその、わざとじゃなくてだな……」
何事もなかったかのように起きて立ち上がった無言の璃王に、レイナスは正座をして弁明する。
しかし、無言の璃王が怖く、その様子をチラリと見る事しかできない。
わざとではないにしろ、璃王を不快にさせてしまったのだ、レイナスには璃王に何を言うことができるだろう。
軈て、璃王は振り向いた。 その顔は笑顔だが、恐怖を感じる笑顔だった。
「当然だろ? わざとだったら――」
次の瞬間、璃王に胸倉を掴まれる、レイナス。 彼の背中には大量の冷や汗が流れていた。
――|人生終了の悲報《The end of me》……。
一瞬、そんな言葉が脳裏をかすめた。
「――その喉笛を掻っ切っていたよ」
耳元に降りてきたのは、絶対零度の声だった。
璃王はブラウニーを切ると、紅茶を淹れてキッチンを出て行った。
@リオンから見たレイナス
今度、今回と似たようなことがあれば、絶対殺す。
※事故であることはちゃんとわかっている
レイナスとの親密度:他人




