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Promessa di duo―太陽ト月―  作者: 俺夢ZUN
第2楽章 学校潜入編
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閑話 累卵之危~Side Lion



――この時から、何となく違和感はあったんだ。

 この時の僕はそれを何故、悠長に放置していたのだろう……。




「連れて来といて何だけど、本当に手伝ってもらって良いのか?

 つか、何で鞄……」


 キッチンに入ると、レイナスが棚を漁りながら璃王に問う。

 それを横目に璃王は鞄から数種類の材料を出しながら頷いた。


「全然問題ない。 それに、余らせても勿体ないしな。

 少し遅めの午後の紅茶(アフタヌーンティー)でもどうだろう、と思って」


 璃王が取り出したのは、小麦粉や卵などのお菓子作りに必要な材料。

 それらはこの後、自室に戻ってお菓子でも作ろうかと思って昼休み中に学校の敷地内の露店で買った物だった。

 手際よくパンケーキを作っていく手元を興味深げにじっと見ていたレイナスが、不意に話しかけてくる。


「……料理、作れるんだな」


 心底驚いた、と言う様な声色だった。


「んー、まぁ、趣味だから。 意外だったか?」

「身分の高そうな貴族っぽいから、そう言う事はしないのだと思った」


 璃王の回答に本当に不思議そうな表情で彼が言った。

 どんな偏見だ。 璃王は苦笑しかできない。

 今日日、お菓子作りすらしない貴族令嬢はいない筈だが……本当にどんな偏見だ。

 璃王の口からは思わず笑いが零れる。


「ふはっ! 残念ながら僕は貴族じゃなくて、その辺の一般人Aだよ」

「そうなのか?」


 璃王の回答にレイナスは意外そうな声で訊き返してきた。

 その反応に、璃王はレイナスから貴族だと思われていたようだと思う事にした。

 そのことを不思議に思っていると、レイナスが更に問い掛けてくる。


「夜会に来てたから、それなりに身分のある貴族だと思ってたんだけど、違うのか?」

「あぁ、あの夜会? 行きたくもないのに、知り合いの貴族に引っ張られたんだよ。

 貴族としての階級はないが、一応、貴族に知り合いは居てね」


 まさか、「ファブレット公爵や王家の方たちと繋がりがあります」なんて口が裂けても言えない為、璃王は暈して答える。

 嘘は言ってない、嘘は。

 夜会に行きたくなかったのも、知り合いの貴族に引っ張られたのも全ては本当のことだし。

 ただ、その貴族が誰であるのかというのを隠しているだけであって。

 それに、貴族に懇意にされている平民はこのグラン帝国ではそう珍しくもない。

 むしろ、能力的に認められたり気に入られたら貴族から懇意にされる、という事が良くあるのだ。


「なるほどな」


 リオンの話を聞いたレイナスは、納得した様に相槌を打つ。

 そんなレイナスへとそっと視線を向ける。


 夜会の時には感じなかった筈の“呪力”をはっきりと、それも焼け焦げるかのような熱量さえ感じる。

 これは、放置しているのは危ない感じだ。

 恐らく彼は、火属性の呪幻術の呪力がある。

 それも、ただそれがあるだけでなく、その呪力が自分のレセプターの許容量を超えている感じ。


 先ほどから、レイナスの隣にいると熱を感じていたのは、この所為か。


(うーん……レセプターがあるのは分かるが……問題は、彼が裏社会の人間(ロヴェッショ)表社会の人間(ディリット)か……。

 どの道、放置する事は出来ないよなぁ、これ)


 璃王は考え込む。


 表社会の人間(ディリット)でも稀に、呪幻術の要素――レセプターを持って生まれる人間がいる。

 その場合、多くはその才能を開花させることなく呪力が消えるか、それとも本人が呪力に耐えられなくて飲み込まれて不審死するかのいずれかである。

 彼の場合は後者だろうか。


 裏社会の人間(ロヴェッショ)ならば、レセプターがあると解った時点で精霊と契約して、それを安定させるのが一般的である。

 璃王も、物心がついた時に精霊との契約で呪幻術の呪力とレセプターを安定させて今に至るのだが――。


 どうやら彼は精霊とは契約していない様で、自身の許容量を超えた呪力が暴走しかけているように見える。

 本人は無自覚の様子なのがまた、リオンの不安を掻き立てた。


 つまりは、隣にいつ爆発するともしれない時限爆弾があるのだ。

 それも、それは「時限爆弾だ」と告げられてはいるが、いつ爆発するのかが分からない時限爆弾。

 そのような状況でリオンが不安を抱かない筈が無かった。


(とりあえずは、様子見か……?

 生命奪取(デヴィタリッザーレ)を制御しつつ、呪力を奪って……。

 あぁ、それをするにもまず触らないとダメだから……)


 そこまで考えて璃王は頭を抱えた。

 理由もなく他人の身体触るのは、紳士だろうが淑女だろうが良くない。


 いや、こちらとしては触る理由はあるが、レイナスからしたら触られる理由がない。

 第一、夜会で一曲踊っただけの仲だ。

 気安く触れるほど親密な仲ではない。

 自然的に触れられる機会があれば別だが――。


 生命奪取(デヴィタリッザーレ)は、触れた者の生命力を奪い、自分の力に変換するという闇の呪幻術で、かなり高度な術になる。

 その為、制御が難しく、暫く触れていないといけない。

 呪幻術の天才と呼ばれる璃王でさえ、未だに完全に制御できるワケではないのだ。


(まぁ、問題は、生命奪取(デヴィタ・リッザーレ)の制御を完全にはできない、という所かな……)


 つまり、下手をすればレイナスは死ぬ、という事だ。


 そもそもレイナスは、ただ単に夜会で知り合っただけの人間で、特別親しいと言う訳でもない。

 今は触れるのはご法度だ。


(まぁ、多分今すぐ暴走する事はないとは思うけど……レイナスが精神的に酷いショックでも受けない限りは……半年か?

 何かレイナスも僕を嫌がっているような感じじゃないし、半年もあれば親しくなってるだろ……多分。

 折を見て呪力の調整をやれば大丈夫かな)





 璃王は、まだ知らない。

 自分でも戸惑う程に目まぐるしい感情の変化を。

 息づく暇もないほどに急速に惹かれ合う事を――。




@リオンから見たレイナス

 いつ爆発するとも知れない時限爆弾。

 面倒ではあるが、裏警察(シークレット・ヤード)としては放置しておけないだろうな……。

 彼と仲良く作戦、始めました。


レイナスとの親密度:他人


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