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出会い

 部屋を出て建物を抜けたレイリアは喫茶店「ミゼラブル」へと向かう。正門を抜け右手に宿舎を眺めながらレイリアは問題の喫茶店がある通りに歩いていく。

のどかな昼下がりの町並みはとても静かだった。この光景だけを見ているとほんの数年前まで戦争が起きていたとは誰も思わないだろう。

まして、これから生まれてくる子供達には解るはずもない。

しかし戦争の爪痕はまだ深く残っていた。何より平和に暮らすこの都市に暮らす多くの人々の心には長かった戦争でのつらかった思い出が刻まれている。

「確か喫茶店ミゼラブルは、、、」

レイリアは歩きながら一番早く目的地に付ける道順を思い浮かべる。

彼女はまだ駆け出しの頃よく使った道順を今でも覚えている。駆け出しの頃は事件が起きるたびにいち早く現場に駆けつけていたレイリア。

外に出る機会が少なくなった今でもレイリアはその道順を忘れぬよう時折使っているのだ。

「俺、英雄ソディアやる」

「じゃあ僕は独立英雄ラクレス」

レイリアが右前方に公園を眺め始めていると元気な子供達の声が聞こえる。

公園の中を一望できる距離までくると彼女は一端歩みを止め公園の中を見る。

中では何人かの子供達が仲良く遊んでおり、元気に駆け回っていた。

そんな子供達を見守るかのように公園の真ん中には騎士の格好をした男の銅像が微笑んでいる。

独立英雄ラクレス

かつてこの地域は幾つものの小さな集落に別れていた。それぞれに支配者がおり些細なことで争いを起こしていた。

そんな争いに終止符を打ったのがラクレスである。

彼は今までの少数での考えを捨てさせ一つの大きな都市を造り、村や町を加え国とした。その後他の地域でもラクレス同じように国を治める人物が出現し争いは激減した。

そしてラクレスの名は現在この都市の名前にもなっている。

「僕は争いをなくすため立ち上がりしラクレスなり。人々よ今平和の元に一つとなるのだ」「元気ですね」

レイリアはその公園の中で英雄ごっこをする子供達を優しい笑顔で眺める。

しかし、ずっとそうしているわけにも行かず彼女は再び歩き始める。

公園の入り口にある石塔には「第一英雄公園」とかかれていた。


第一英雄公園からしばらく歩いていると左手の方向にまたしても公園が見えてくる。

しかしその公園からは子供の声は聞こえず、周りに人影もない。

「第二英雄公園」と書かれた入り口の石塔はぼろぼろで、中の敷地は荒れ放題だった。

「やはり英雄と英雄気取りの者達ではこうも違うのですね」

レイリアは公園の中央付近に無造作に置かれた石に侮蔑の眼差しを向けると、早足でその場を後にする。

喫茶店の近くには新たな公園が創られ始めており、中では仕事人以外に一般の人々が協力して花を植えていた。

その多くは家族単位で父や母、祖父母に囲まれた子供達はとても幸せそうだった。

レイリアはその光景を見て改めて自らの仕事の重要性を再認識する。

彼女は気を引き締め報告のあった喫茶店へと向かった。


喫茶店ミゼラブルの店先にはたくさんの屋外席が設けられている

その席の一つに報告通り人が突っ伏していた。

風に揺れる短めに切られた茶色い髪。足下にはなにやら旅の道具とおぼしき袋と細長い袋が置かれていた。

レイリアは喫茶店の主人に確認を取り、その人物で間違いないことを確かめる。

ゆっくりと警戒しながらレイリアは男に近づき話しかける。

「もし、旅人さん。起きてはくれませんか」

レイリアは優しく肩を揺する。しかし男は全く反応しない

「もし、旅人さん」

揺すりかたを大きくするも男が起きる気配はない。

レイリアの後ろで見守っていた喫茶店の主人は無駄だと言うように首を横に振る。

「その程度で起きるならこっちだって困りはしませんよ」

「そうですか」

レイリアは主人に言われると揺

、するのをやめる。

「どうしたものですかね」

眠り続ける男をどうすれば起こすことができるかを考える。

喫茶店の主人はどうも頼りのなさそうなレイリアを心配げな表情で見つめていた。

「、、、リ、ア、、、」

ぼそりと小さく男がつぶやく。

「あっ目が覚めましたか」

突然の事に驚きはしたがレイリアは目が覚めた男に優しく話しかける。

「んっんん、うぅん」

男はまだ意識がはっきりしないのか言葉にならない声を出しながらゆっくりと頭を上げる。目は半分も開いておらず持ち上げた頭もふらふらとしている。

「大丈夫ですか。お水でも飲みますか」

心配そうに話しかけるレイリア。

喫茶店の主人は気を利かして水をくみに店の中へ戻っていた。

男はしばらくふらふらとしていたが少しましになると目の前に立つレイリアを見上げる。レイリアは真っ直ぐに見つめてくる男に優しく微笑むと再度話しかける。

「目は覚めましっ」

彼女は言葉の途中で固まってしまった。

男がレイリアに抱きついたからだ。

彼女の細い腰に両手を回し、頭をすりすりとよせる。

「いいにおい。凄くいいにおい」

レイリアが小さく震え出すのに気づかず男はなおもすりすりと抱きつく。

「うん暖かくてきもぢっいっがはっ」

怒りにまかせたレイリアの打撃が見事に男の頭を直撃する。

ずりずりと力無く机に崩れ落ちる男にレイリアは容赦なく二度三度と追撃を食らわせる。

「ひっひぃ、と、とどめを刺したぁあ」

店から水を持ってきた主人はその光景に驚き手に持ったグラスを落とした。

がたがたと震える喫茶店の主人をきっと睨みつけるとレイリア言う

「違いますっ」

彼女の前に座る男の手がぴくぴくと痙攣していた。

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