第6話 ボス戦
ボス部屋にいたのは、ジャイアントヘルハウンドという、巨大な狼の魔物だった。
全身の毛が黒く、邪気が溢れ出ている。
まともに魔物と対峙したことのない人なら、卒倒しそうなほどの威圧感を放っている。
経験が豊富な僕とファミーさんですら、恐怖で震えを抑えられない。
「ジャイアントヘルハウンド……予想より大物が出てきたわね」
「え、ええ」
一応勇者パーティーで戦った経験があるが、強者が集まっているあのパーティーですら苦労していた。
そういえば、あの戦いで僕はジャイアントヘルハウンドに、キルを撃ちまくりまったく通用せず、勇者から怒られて、その後、待機させられるようになったんだよな。
僕にとっては因縁の相手でもあるようだ。
「さて、やるわよ……トリフ援護をよろし……」
「キル!」
今の僕のキルなら通用するはずだ!
絶対に倒せる。
そう信じてキルをジャイアントヘルハウンドに放ったが、
効かなかった。
ヘルハウンドはピンピンしていた。
「そ、そんなぁ」
「そんなぁ、じゃないでしょ! ボス級の敵にキルが効かないなんて常識じゃない! 何で使ったのよ、あんたアホ!?」
「今回は効くようになったと思っていたんだ……」
道中、100%の確率で葬り去ってきた今の僕なら、確実にヘルハウンドにも通用すると思っていた。
「効くわけ……ってわわわ!」
ジャイアントヘルハウンドが、口からヘルブレスを吐いた。
地獄の炎を吐き出す攻撃だ。
直撃したら、灰も残さず燃やされ尽くされる。
急いでファミーと僕は避ける。
避けた後、僕は再び、
「キル!」
と魔法を使う。
もしかしたら、雑魚モンスターは100%殺せて、ボスモンスターには50%の確率で殺せるようになったのかもしれない。
残念ながら効かない。
「ちょっとマジあんた何やってんの!?」
ま、まだまだ。
50%は意外と当たらないんだ。
8回くらい連続で外した事は、今までもあった。
「もういいアタシ一人でやる!」
ファミーさんはヘルハウンドに向かっていく。
僕は3度目のキルを撃つが、これも効かない。
「はああああああ!!」
ジャイアントヘルハウンドの頭めがけて杖を振り下ろす。
後ろに下がりジャイアントヘルハウンドは避ける。
その後、ヘルブレスを吐き出す。
ファミーさんも避ける。
次にジャイアントヘルハウンドは、魔法を使用する。
自身の体の周りに結界を張る。
「っげ! あれは!」
ディフェンダー。
物理攻撃を防ぐ魔法だ。
近接攻撃をするファミーさんには、天敵のような魔法である。
あれは魔法攻撃は一切防げない。
僕のキルで殺さないと!
4度目のキルを使うが、これも効かない。
む、無理なのか?
流石に4回連続外れて、心が折れかけていた。
やっぱり僕のキルがボス級の敵にも通用するようになっていたんなんて、ただの幻想だったのかもしれない。
ヘルハウンドはファミーさんを一方的に攻撃する。
ファミーさんは防戦一方に追い込まれる。
そこまでうまく防御したり、避けたりしていたのだが、ヘルハウンドの爪攻撃が足に当たってしまう。
「ひゃあ!」
足を切り裂かれて、ファミーさん動けなくなる。
ヘルハウンドは、ヘルブレスを動けなくなったファミーさんに撃とうとする。
万事休す。
僕は助けるため、方法を考える。
流石にここまでの緊急事態だと、キル以外の魔法を撃つ事も検討に入れるが、無い。
この状況を挽回できる魔法がない。
回復魔法は長く唱える必要があるので、間に合わない。
支援魔法を使ったところで、あのヘルブレスの威力の前には無力。
そもそも僕はキル以外の魔法は得意では無い。
ちゃんと発動してくれるかすら疑問だった。
結局この場面をどうにかする方法は一つだ。
キルを奴に効かせる。
それ以外ない。
それで効かなかったら、ファミーさんは死ぬ。
僕も成すすべもなく殺されるだろう。
効くのだろうか。
無理なんじゃないだろうか。
効く気がしたのは気のせいだったんじゃないか。
結局何の成長も僕はしていないのじゃないか。
でも、今は撃つしかない。
気のせいだろうが何だろうが、ここはキルを使うしかないのだ。
死の女神……エルシュミア様……
僕に力を貸してください!
そして僕はキルを使用した。
その瞬間、
ドスンッと大きな音が鳴り響いた。
ジャイアントヘルハウンドが、死亡し倒れ込んだ音であった。