第4話 ファミーさんは意外性を求める
え~?
魔法使いじゃなかったの?
僕はその様子をみて唖然とする。
「はははははは! その表情が見たかったのよ!」
ファミーさんは高笑いする。
「どう、びっくりしたでしょ、意外に思ったでしょ。アタシはこんな格好をしているけど、実は魔法の使えない近接攻撃しか出来ない奴だったのよ!」
「い、いやびっくりしましたけど……な、何故そのような事を?」
僕がそう尋ねると、待ってましたと言わんばかりの表情で、ファミーさんは、
「印象を残すためよ」
「はぁ……印象?」
「ええ、さっきまでアタシは何の変哲のない魔法使いの格好をしていた。これでは普通に魔法を使って敵を倒したのじゃ誰の印象にも残らずに終わっていたわ。恐らくあなたも三日会わなければ、アタシのことなど綺麗さっぱり忘れていたでしょう」
「はぁ?」
「しかぁし! この格好で、実は前衛でした! ということならば、見るものに強い印象を与えるのよ! あんたもこれで、アタシの名をしばらくは忘れないはずよ!」
ファミーさんは決め顔でそう言った。
まず、元々何の変哲のない人じゃなかったですよね。
めっちゃ変な人として、印象に残ってたんですけど。
確かにびっくりしたけど、元々印象に残ってたのが、少し深まったくらいなんですけど
つっこみどころが多すぎて、逆に一つもいえなかった。
「なぜアタシが他人の印象に残ろうと思ったか、それは4年前に遡るわ……」
な、何か語り出した!
「あの時アタシは、ただの戦士だった。地味でパーティーの隅で適当に相槌をうっているような存在だったの。目立たないけど、それで良いと思ってた。あの時までは……一年間一緒に過ごしてきたパーティーメンバーに、名前を覚えてもらっていなかったという衝撃の事実が発覚するまでは……」
えー? この人、昔そんな地味だったの?
全然想像がつかないんですが。
「ショックだったわ……あんなに一緒にいたのに名前を覚えられていないだなんて……アタシは、その辺に落ちている石並みにしか存在感がなかったのよ……存在感を出そうと、色々やったわ。奇抜な格好をしてみたり、言葉遣いを変えてみたり……でもあまり効果がなかった」
ファミーさんは、昔を思い出しているのか、苦々しい表情をしている。
やっぱりそんな存在感なかったなんて信じられないな。
「そして最終的にたどり着いたのがこれよ! 人は意外だと思うと、それを記憶に残すものなのよ! この格好をし始めてから、他人に絶対に名前を覚えられるようになったわ!」
いや、そりゃ忘れられないだろうけど。
ファミーさん良い人だったらよかったけど、これ相当変な人だ。
僕は一気に不安になってくる。
「でも、名前は覚えてもらえるけど、パーティーからすぐに追放されるようになったの。この格好でも、ちゃんと前衛として仕事はしているのに、何でかしらね……」
「……あの……魔法使いとして仕事してほしいのに、実は戦士とか言われるのはさすがに怒ると思いますよ」
「何でよ」
「だって、詐欺みたいなものですよそれ」
「何が詐欺よ。アタシはちゃんと仕事しているのよ!」
「前衛としてですよね?」
「そうよ、それの何が悪いの!」
「悪いですよ!」
「どこが!」
「後衛がいると安心してたら、前衛だらけになったとかになりかねないからですよ!」
「ぐ……あ、あんたにそんな事、言われたくないわね。ちゃんとした神官だと思ったら、キル撃ちまくるわけの分からない神官がくるなんて、これも詐欺みたいなもんでしょ!」
「な、何ですと! キルは素晴らしい魔法なんですよ! よくわからん理由で魔法使いの格好をしているあなたと一緒にしないでください!」
「よくわかんなくないわよ! 意外性を求めているって言ったでしょ!」
その後も、しばらく口論を続け、
「「はぁはぁー」」
2人とも疲れる。
「もういい、先に行きましょう」
「……そうですね」
「不安だなぁ」
「それはアタシのセリフよ」
とりあえず言い合っても仕方ないので、先に進む事にした。
依頼を受けたからには遂行しないといけない。
一人では厳しそうな依頼だし、少なくともこのダンジョンないでは、ファミーさんと協力してやる必要があるか……
少しげんなりした気分で、先に進んだ。