第3話 ダンジョンへ
僕とファミーさんは依頼を達成するため、ベルミアン洞窟という名のダンジョンに向かっていた。
ダンジョン攻略の依頼というのは、ダンジョンを発見した人から出される。
攻略の権利は発見した人にあるのだが、攻略できない人はこうやってギルドに依頼を出すことがある。
ダンジョンで得た宝の一部を報酬として貰うことで、冒険者は発見者の代わりにダンジョン攻略を行うのだ。
ベルミアン洞窟に向かう道中。
「そういえば、トリフをあの冒険者ギルドは初めて? 普段は見かけないけど」
「そうですけど」
「ダンジョンに行くのは初めて?」
「いえ、行った事ありますよ」
最近は馬車待機で行っていないが、前は行っていた。
馬車待機させられる前は、勇者パーティーの一員として、何度か行っていた。
勇者パーティーに入る前も、冒険者としてダンジョンに行った経験はあるので、結構経験は豊富である。
「へー。冒険者歴は何年目」
勇者パーティーでやっていた頃と、その前に冒険者としてやっていた頃を合わせると、
「5年くらいですかねー」
「何だ、結構長いじゃん。アタシもそんなもんよ。でも五年やっててソロでやってるって、何か事情があるの? 普通早い段階でパーティーに入るもんよね」
「実は長い間パーティーリーダーとそりが遭わなくて、使ってもらえなくて……それで自分から抜けたんです」
「はぁーそうなの」
「ファミーさんも、ソロですけど何か事情があるんですか?」
「アタシは、追い出されたのよ前いたパーティーから」
「追い出された?」
変わった人だから追い出されちゃったのか?
「理由はアタシもよく分かんないの。確実に役には立っていたと思うんだけど」
ファミーは首を捻る。
「でも、トリフはリーダーに干されて自分で抜け出して、アタシじゃ追放、結構、似たような境遇ね。意外と気が合うかもね」
そう言って微笑みを浮かべる。
まあ、不遇な立場同士気持ちは分かり合えるかもしれないな。
○
その後、依頼主にあって、いろいろ話をした後、実際にダンジョンに入った。
「依頼主の話だと、このダンジョンは序盤はスライムとか弱いのしかいなくて、楽に攻略できると思ったけど、奥に行ったらゴーレムとか強いのがいて、慌てて逃げてきたんだったわね。序盤簡単でも油断しちゃだめよ」
「はい」
ファミーさんの忠告に僕は頷いた。
すると、早速魔物が出てくる。
軟体の魔物、スライムだ!
「キル!」
僕はキルをスライムに撃った。
スライムはピクリとも動かなくなる。
死んだみたいだ。
「よし」
ちゃんと決まった。
やっぱりキルが決まると、超気持ちいい。
「よしじゃないわよ。何でスライムごときにキルなんて高等魔法使ってるのよ」
「何でって、あ」
もう一匹スライム発見。
反射的にキルを使う。
今度も決まる。
二回連続で決まってくれるなんて、今日はいい日だ。
「だから何でキル使ってんのよ! スライム倒すのなら初級魔法で十分でしょ!」
「だって、魔物見たら使いたくなるんですよ」
「何でよ」
「性みたいなものです」
「……あんたさ、それでダンジョン後半で魔力切れになったらどうするの?」
「その時は、戦っている人を応援します」
「……」
「まあ、でも僕は魔力が多いので、だいたいボス戦くらいまでは持ちますけどね」
「あのさ、神官の役割って、仲間を回復したり支援したりする事だと思うの」
「それは偏見ですよ。キルっていう素晴らしい魔法は、神官にしか使えないんですから、キルを使うのも立派な役割です」
「魔物を倒すのは、こっちで出来るからいらないって言ってんの!」
「でも、キルで倒したほうが気持ちいですよ」
「気持ちい気持ちいの問題じゃなくて、効率の話をしてんの!」
「キルで倒すのは一瞬で効率よく倒せますよ。キルはそれだけ素晴らしい魔法ですから」
「…………はぁ~」
ファミーさんはため息を吐いた。
「あんたがパーティーに待機させられていた理由、分かった気がするわ……」
「な、何でですか。キルの素晴らしさは先ほど僕が使っているところを見て、理解してくれたでしょう!」
「まさか、こんな平凡な顔をした男が、変人だったとはね。中々の意外性だわ」
ファミーさんは頭を抱える。
僕が変人!?
ファミーさんに変人だといわれたくはないんだけど。
「そうね、私に匹敵するくらい、あんた意外性があるわよ」
「え?」
私に匹敵するくらい意外性がある?
ファミーさんに何か、意外なところがあるのか?
「あ、ゴブリン!」
ファミーさんがいち早くそう叫んで動き出す。
近くに、小さな人型の魔物ゴブリンがいた。
さっきのスライムより少し強い敵だ。
魔物全体で見れば最弱クラスだけど。
キルを撃ちたいが、ファミーさんが倒しに行った。
誤射してはいけないので、さすがに自重した。
ファミーさんは魔法を使ってゴブリンを倒そうとする……
と思ったけど、違った。
杖を振りかぶるとそのまま振り下ろし、ゴブリンの頭を殴った。
グシャっとゴブリンの頭は割れて、非常にグロい事になり絶命した。
ファミーさんは魔法を一切使わず、物理攻撃でゴブリンを倒した。