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第1話 パーティー離脱

「スティング! そろそろ僕を馬車から出して、使ってくれよ!」


 勇者パーティーが移動に使用している馬車の中。

 僕、トリフ・ブラスターは必死にそう訴えた。


「駄目だ」


 僕の訴えを聞いた勇者スティング・ハーヘルは首を横に振る。


「今度は本当なんだ! 信じてくれ!」

「信じられるか! もう、お前と話すことは無い! 行くぞ!」


 スティングはそう言い残して、仲間を三人連れて馬車から出ていった。

 中に取り残されたのは、僕と、商人の男アメールだけになった。


「はぁ~……」


 僕は大きなため息をつく。

 どうしてこんな事になったんだろう……



 ◯



 僕がトリフ・ブラスターは神官である。


 神官っていうのは、回復や支援などの魔法を得意とする職業である。


 例えば、傷を治したり、凄い人なら死んでいる者を生き返らせたり。

 仲間を支援したり、光属性の魔法で攻撃したり。

 そして、敵の命を一瞬で奪ったり。


 色んな魔法を使うことが出来る。

 パーティには必須の存在だ。

 勇者パーティーに僕以外に神官いない。


「ねぇアメール、それなのに何で、僕はいつも馬車に待機させられているのかな……」


 僕は一緒に待機させられている商人のアメールに尋ねた。


「――――分かってないんですか?」


 アメールは質問に質問で返してきた。


「分かんないよ」

「はぁー。あなたのダンジョン内でも行動を見れば原因は一発で分かりますがね」


 呆れたようにアメールは呟いた。


 アメールが馬車に待機させられ続けているのは分かる。


 商人は戦闘力が低い職業だ

 戦いでは役に立たないので、当然、待機する事になっている。


「でも、僕は戦いの役に立ってるよ。敵は誰よりも倒してるし」

「それがいけないんでしょ」

「どういう意味さ」

「あなたが即死魔法キルばっかり使っているから悪いのでしょう」

「それのどこが悪いんだよ」


 僕は少し変わった特徴を持った神官だ。

 死の女神を信仰する僕は、回復魔法などは得意ではない。

 得意とするのは敵を即死させる魔法「キル」だった。


 キルは、当たったものを二分の一のの確率で即死させる素晴らしい魔法である。


 自分のレベル大きく上回る者には効かない。

 しかし、少々レベルで上回られたくらいの敵は、確実に二分の一で殺すことが出来た。


「キルは素晴らしい魔法さ。それで道中の敵を何体も葬り去って来たのに」

「道中の敵は、ですよね。絶対にキルの効かないボスにまで使って、足を引っ張るアホだって、スティング氏がおっしゃってましたよ」

「う、し、仕方ないでしょそれは」

「何がですか。ボス戦くらい普通の神官みたいに立ち回ればよろしいでしょう」

「それは無理だよ」

「何でですか」

「魔物を見たらキルを撃ちたくてしょうがなくなるんだ。それが効くとか効かないとか考えられないんだよ」

「……それ病気では?」

「本当は魔物だけじゃなく人間にも撃ちたくなる時が、たまにあるくらいなんだ」

「怖いこと言わないでください!」


 人間に撃ちたくなるのはたまにだよたまに。

 実際に撃ったことはない。

 殺人鬼じゃないからね僕は。


「確かに今まで足を引っ張ってたかもしれないけど、今の僕はボスにでも効くキルが使えるはずなんだ」

「それいつもの思い込みでしょ? 前もそんなこと言って連れて行ったら、騙されたってスティング氏怒ってらっしゃいましたよ?」

「今度こそ本当なんだよ!」

「根拠は?」

「ない!」

「ではなぜ効くと思っているのですか?」

「勘」

「話になりませんね……」


 アメールはため息をつく。


「確かに勘だけど、今回の勘は今までと違う気がするんだ!」

「何がどう違うんですか……全く、ちゃんとやれる事をやれば使ってもらえるかもしれないのに悩んでいるなんて、私からしたらあほらしいとしか思えませんね」

「どういう意味だよ」

「私なんか商人ですよ! 何をどうやろうと戦いの役には立たないんですよ! ちゃんとやれば役に立てるあなたは恵まれているんですよ!!」


 アメールの怒りが炸裂した。


 確か彼が勇者パーティーにいるのも、何か最初のほう勇者に仲間が全くいなかった時に、手助けをしていたから、そこからちゃんとした仲間が出来ても、なし崩し的にいるみたいな理由だった。


「本来は店でも持ちたいんですがねぇ……離脱してしまおうかな……」

「り、離脱」


 僕の頭に閃光が走った。


「あ、今のは口が滑っただけですよ。確かに戦闘では役に立ちませんが、取引をする時、私は必要ですからね……離脱は……」

「それだ!」


 僕は叫んだ」


「離脱すればよかったんだ。馬車の中にいても何もいいことなんてない。もうスティングは僕を見放しただろうし……僕、離脱するよ」

「……はい?」

「うん、この世のどこかに僕を必要としているパーティーがあるはずだ。それを探しに行くよ」

「……本気ですか?」

「本気さ! 別のパーティーで活躍して、スティングを見返してやるんだ!」

「……まあ、止めはしませんが」

「じゃあ、行ってくる!」

「い、今から?」

「早い方がいいでしょ」

「そ、そうですかね……? まあ、行くならお元気で」


 そうして僕は馬車から出て、勇者パーティーを離脱した。





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