殴打の喜び 4
眼の前で頭を下げている内田さん。
これが先週から僕に高圧的な態度だった女の子なのだろうか?
……いや、僕にはわかる。これが……こっちが、内田さんの本性なのだ。僕はちらりと内田さんの足元を見る。
スリッパは脱げ、学校指定の黒いソックスで彼女は屋上に立っていた。
「……内田さん、君、いじめられているでしょ?」
僕がそう言うと内田さんは悲しそうな顔で僕を見る。どうしてわかったんだ、と言いたげな顔で。
しかし、すぐに観念したかのように下を俯いた。
「……はい。でも、どうして……」
「ああ、まぁ、僕もそうだから。なんとなく分かるよ」
そう言うと内田さんはキョトンとした顔をしていたが、なぜか少し安心したような顔で僕を見た。
「……その……辛い……ですよね……」
急に悲しそうなテンションで、且つ、同情を求めるような顔で内田さんは僕を見る。
「……まぁ、そうだね」
「ええ……その……ホントに……ごめんなさい。あんなに蹴ったりして……謝って済むことじゃないと思うんですけど……」
「……そうだね。謝って済まないね」
僕のその言葉を訊いた途端、内田さんは驚いた顔で僕を見る。
しかし、僕はそのまま話を続ける。
「だって、そうでしょ? 内田さんだって、自分をイジメてくる奴らのこと、謝っても許せないでしょ?」
「そ……それは……」
「できるならば、やり返してやりたい……そう思っているでしょ?」
困ったように僕から視線をそらす内田さん。僕は風に揺れる彼女の黒い髪を見ていた。
だが、僕は分かっている彼女と同じ状況だから。
彼女が心の中でどんな事を考えているのか、を。
「だから、やり返させてよ」
「……へ?」
内田さんは驚いた顔で僕を見る。僕は自然と笑顔になってしまった。
「内田さんは僕に酷いことしたでしょ? だから、僕にもやり返させて。ね?」