殴打の喜び 3
それからは、結構ひどいものだった。
いきなり内田さんは僕を突き飛ばしたかと思うと、そのまま僕のことを思いっきり蹴ったのだ。
最初はスリッパだったが、すぐにスリッパは脱げてしまい、ダイレクトに細い足先が僕の腹や背中に直撃した。僕は思わずそのまま小さく蹲ってしまった。
実際、とても痛かった。しかし……それ同じくらいに僕は高揚感を感じてしまった。
自分自身が変態なんじゃないか、いや、変態なのだと僕はその時理解した。今まで、いじめられているときも、蹴られたり殴られたりすることはあったが……こんな気持ははじめてだった。
そして、それが5分くらい続いた頃だろうか。僕の全身が痛みだした頃、ようやく、内田さんは僕を蹴るのをやめた。
「……変態っ!」
内田さんは蹲る僕にそう言葉を浴びせかけた。僕は痛む体をゆっくりと起き上がらせる。
「……気持ち悪いっ! 頭おかしいんじゃないの!?」
内田さんは少し涙目になっていた。なぜ、今まで完全に僕を一方的に嬲っていたのに涙目になっているのか……僕には少し不思議だった。
「……ああ、僕も、そう思うよ」
そう言ってそのまま僕は立ち上がる。内田さんはなぜか少し後退りした。そのかわり、僕が一歩内田さんの方に歩みを進める。
「で……これで、終わり?」
僕がそう言っても、もう内田さんは怒らなかった。むしろ、化物を見るかのような顔で僕を見ている。
「も……もういいです! 私は、帰りますから……!」
そういって帰ろうとする内田さんの腕を僕は……反射的に掴んだ。
「ひっ……!」
内田さんが小さな悲鳴をあげ、怯えた瞳で僕を見るが、僕は腕を離さなかった。
「ねぇ……君は、死にたいんだよね?」
「え……そ、それは……で、でも、君のせいで……」
「……内田さんに蹴られている間、ずっと思ってたんだけど、君だって、僕のことなんか気にせずに、死ねばいいじゃないか。それなのに、死なない……なんで?」
僕がそう言うと内田さんは視線をそらす。完全に答えに困っている証拠だった。
「ねぇ、答えてよ」
僕が強めにそう言って、腕を強く握る。内田さんはつらそうな顔で僕を見る。
「や、やめてください……乱暴は……」
「……え? 今まで僕のことを散々蹴りまくってたの……誰だっけ?」
僕がそう言うと内田さんは涙目のままに、いきなり僕に向かって頭を下げてきた。
「……ごめんなさい! ホントに……調子に乗っちゃって……だ、だから、酷いこと……しないで……」
先程まで……いや、先週から今に至るまでの威勢はどこに行ってしまったのか、完全に内田さんは変貌してしまったのだった。