変化 3
「ねぇねぇ、どうして無視してんの~? つまんないんですけど~」
先程からしきりに大本は僕に話しかけてくるが、僕は完全に無視していた。
僕には内田さんとの約束がある。あんなにも悲しそうだった内田さん、一人で死を選ぼうとした内田さん……内田さんをそこまで追い詰めていたのはまぎれもなく大本だ。そんな大本の相手をする必要はまったくない。
「ちょっと。マジであり得ないんですけど……何? なんか怒ってるわけ?」
……ああ、そうだ。僕は怒っている。大本のせいで内田さんは苦しんだのだ。だったら、もうすでに僕の取るべき行動は決まっている。大本には一切容赦しない……それだけだ。
「……もしかして、内田関係?」
そう言われて僕は立ち止まった。そして、大本のことをにらみつける。大本は相変わらずニヤニヤしながら僕のことを見ている。
「……そうだ。だから、もう……関わらないでくれ」
「はぁ? なにそれ。変態クンさぁ、自分の立場わかってんの?」
僕は返事に困ってしまった。大本は分かっているのだ。自分が、内田さんにとって大きな影響力を持っていることを。
「言ったよね? 変態クンがアタシにどういう態度をとるかで、内田がどうなるかも変わってくるって。それなのに、そんなアタシにそういう態度をとるって、どうかと思うんだけど」
「……いい加減にしろよ」
「は?」
僕はキッと大本を睨みつける。あまり人を睨んだことはなかったが、僕はその時、渾身の憎しみを込めて大本を睨んだ。
「内田さんが何をしたっていうんだ! お前に何か酷いことをしたのか!? なんでなにもしていないのに酷いことをするんだよ! 放って置いてくれよ!」
僕がそう言うとさすがに大本も黙って僕の方を見ていた。なんとなくだが……もしかして、分かってくれたのか? 僕や内田さんがどんな気持ちでいるのかってことを。
……そりゃあ、大本だって人間なんだ。僕がこんなに必死で訴えているのだから、少しはその気持をわかってくれても――
「おい」
と、大本はそう言って僕の方にやってきたかと思うと、そのまま思いっきり僕の首根っこを掴んだ。
「あんま、調子乗んなよ」
……前言撤回。どうやら大本は、まるで僕や内田さんの気持ちを理解するつもりなど毛頭ないようだった。




