表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃避と依存と変態性  作者: 松戸京
出会い
4/70

死の際にて 4

「あ……どうも……」


 僕は思わず立ち上がって、曖昧に微笑みながら少女に笑ってみせた。少女は仏頂面で僕のことを睨んでいる。


「……見に来たんですか?」


「え……何を?」


「言ったでしょう? 今日、私はここから飛び降りると」


 少女は完全に怒っているようである。まぁ……あの言葉は本気のように聞こえたし……それでいて僕はヘラヘラ笑っていたら、怒るよな……


「あ……別に見に来たわけでは……」


「では、なぜここに? まさか、よりにもよって、今日、君はここから飛び降りるんですか?」


 そう言われて僕は思わずフェンスの下を見る……高い。ここから飛び降りるって……普通に恐ろしい話だ。


「あ……いや、そういうわけでも……ないんだけど」


「はぁ? じゃあ、なんで……いえ。もういいです。飛び降りるわけでもないのならば、今度こそ、ここから出ていってください」


 少女はそう言って、僕の方に近づいてくる。僕は言われてもその場から動かなかった。


「……聞こえませんでしたか? 出ていってください」


 少女は苛ついた様子で僕にそう言った。僕は彼女の顔を見る。


 前回と違って髪は濡れていない。長い黒髪は、左目に少しかかっていて、どこか暗い感じを醸し出している。


「その……僕が出ていったら、君は本当に飛び降りるの?」


 僕がそう言うと、彼女はさらにわざとらしく大きく溜息を付いた。


「……何度も言わせないでください。君は頭が悪いようですね。その問いに関していえば……そうです。飛び降ります。私は言ったことは実行する主義なので」


 彼女はそう言って僕のことを再度にらみつける。しかし、なんだろう……僕は怖がりで臆病だが、彼女に睨みつけられても全く怖いと感じなかった。


「じゃあ……もし、僕がずっとここにいたら?」


 こんな質問を自分がするとは思わなかったが、してしまった。そして、彼女は僕の質問に完全に面食らってしまったようだった。


「……はぁ? 意味がわからない……ずっとここにいるって……なんで?」


「あー……さっき気づいたんだ。ここなら、誰もこないし……僕は、誰にも傷つけられることはないんだ、って」


 僕は自分の本心を彼女に話した。しかし、彼女は明らかにイライラしているようだった。


 だけど……僕はなぜか全く動じなかった。誰かの怒りや感情の爆発にいつも怯えている僕が、なぜか彼女に対しては全く恐怖しなかったのだ。


「……いい加減にして! 君、おかしいんじゃないの!? 私は死にたいの! それなのに……どうして……邪魔するの……」


 そのまま彼女は急にしゃがみこんでしまった。そして、しばらくすると、彼女の嗚咽が聞こえてくる。


「え……だ、大丈夫?」


 彼女は……泣いているようだった。僕はさすがに戸惑ってしまった。


「……お願いだから……放っておいてよ……」


 彼女は悲痛な声でそう言った。僕にはどうすることもできなかったので……言われるままに彼女をしばらく放っておくことにしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ