他傷 2
「さて……やっぱり来ましたか」
内田さんは、委員長を見てつまらなそうな顔でそう言う。
「な……なんだ。私がいると嫌なのか?」
委員長もこれまた不機嫌そうな顔で内田さんを見返す。
「いえ……別に。ただ、分かっているんですよね?」
そう言って内田さんは僕の方を見る。僕は視線を委員長から内田さんの方に向ける。
「あ……うん。委員長には伝えておいたよ。邪魔しないでね、って」
「そうですか。それならば問題ありません。じゃあ、始めましょうか」
委員長はそう言って何かをスカートのポケットから取り出した。それは……何やらカッターナイフのようだった。
「お、おい! なんでそんなもの、持っているんだ!」
委員長が驚いた調子でそう言う。僕に関しては……まぁ、持っていてもおかしくないかな、という程度だった。
「はい? 何か問題でも?」
「いや、危ないだろ! カッターなんて持っていたら」
「そうですか? まぁ、確かに刃物ですが……これで人は殺せないと思いますよ?」
委員長をバカにした調子でそう言う内田さん。委員長は悔しそうに僕の方を見てくるが、僕は何も返事しなかった。
「それ、どうするつもりなの?」
僕が訊ねると内田さんはニヤリと微笑む。相変わらず不健康そうな、不穏な笑みだ。すると、内田さんは僕になぜかカッターを差し出してきた。
「え……僕に?」
「はい。どうぞ」
差し出されたカッターを僕はとりあえず受け取った。とりあえず、カッターの刃の部分を押し出してみる……確かに銀色の刃が光っていた。
「それで、切ってみて下さい」
「……何を?」
「何って……決まっているじゃないですか。私をです」
当然のことであるかのように、ごく自然な表情で内田さんはそう言った。僕は意味がわからなかった。
思わず委員長を見てしまう。委員長も内田さんの言葉の意味がわからず呆然としていた。
「……切るの?」
「はい。どこでもいいですよ。顔、腕、足……なるべく人目につくところを切ってほしいですね」
内田さんは冗談で言っているわけではないようだった。目を見ればわかる。
目が笑っていない。表情は笑っているが、目は真剣だ。
自分を殺してみろ、と本気で言っているのだ。それならば……僕は彼女の要望に答えなければならない。
そして、同時に思い出した。この屋上は僕達が唯一傷つかないでいられる場所であり……同時に自分をさらけ出せる場所だということを。




