他傷 1
それから、何日か経って何か変わったかというと……変わった。
一番変わったことで、且つ問題があったのは……委員長だった。
委員長が教室の中でも僕に話しかけるようになってしまった。完全に委員長は僕のことを友達だと認識している。
僕としてもそれは別にいいのだけれど……それこそ、拾ってきた捨て犬のように委員長はほぼ一日中、僕にまとわりついている。
おかげで今まで僕をイジメていた連中が、僕をイジメてこなくなった。こんな形で僕のイジメは終焉を迎えてしまった……かと思ったが、普通に教科書とかはゴミ箱に捨てられて致し、上履きがない時もあった。
委員長はそれを見て「大丈夫か?」と聞いてきた。無論、大丈夫じゃないとは答えなかった。
ただ、委員長がまとわりついてくる分、イジメは減った気がする。
そして、僕は同時に委員長に、今一度僕と内田さんが何をしようとしているのかも話した。
委員長は理解できないようで、そんなことはやめたほうがいいと言った。
ただ、僕もやめるつもりはなかったので、委員長にそんなことを言うのならば、屋上には来ないでほしいと言った。委員長は納得いかなそうだったが……渋々それ以上は何も言わなかった。
結局、一週間後には僕と委員長は一緒に屋上に行くことになった。
「……で、委員長分かっていると思うけど」
屋上に繋がる扉を開く前に、僕は今一度尋ねた。
「え……あ、ああ。分かっているぞ。その……尾張は……死にたいんだよな?」
不安そうな顔でそう言う委員長。僕は小さく頷いた。
「まぁ……内田さんの方が気持ちは強いみたいだけどね」
僕がそう言うと委員長は悲しそうに俯いた。
「その……内田ってあの女の子だよな? 彼女も……イジメられているのか?」
「まぁ、そうだね」
「……それで、死にたいと? 尾張は止めようとは思わないのか?」
委員長は本気で心配しているようだった。しばらく付き合っただけだが、委員長は割と感情に支配されやすいというか……わかりやすい人間のようだ。
「止める……いや。最初は止めようとしたけど……今は別に」
「え……なぜだ? 死ぬなんてそんな……」
委員長がそう言うと、僕は思わず次の言葉を言わずにはいられなかった。
「……確かに委員長の言う通り、止めるのが当たり前だと思うよ。でもさ、彼女は死にたいと思った……死にたいと思うほど辛い気持ちなんだ。その辛いと思う状況を、僕や委員長はどうにかできるわけ?」
委員長は何も言わなかった。というよりも、反論できなかった。
……できない。僕にも委員長にもどうにもできない。
だってそれは、内田さん自身の問題だから。
内田さんがどうにかしなければいけない。それが残酷な事を言っているということは十分理解できる。
それでも……無理なのである。
「だから……僕は屋上に行く。別に死ぬのを止めるとかそんな崇高な目的じゃない。でも、彼女は僕のことを殺すと言った。だったら、僕も屋上に行かなければいけないでしょ?」
「……尾張。その……私にはよくわからない。だけど……屋上がお前や内田の……居場所なのか?」
委員長は少し遠慮がちにそう言った。僕は何も言わずに屋上に続く扉を開いた。
屋上には相変わらず冷たい風が吹いている。フェンスのすぐ近くに長い黒髪が揺れている。
「ああ、やっと来ましたか」
そう言って振り返った内田さんは、確かにどこか、今すぐにでもこのフェンスを乗り越えてそのままこの世界から消えてなくなってしまいそうなくらいに、どこか儚げな表情なのだった。




