辛辣 2
「え……委員長、ちょっと……なんで泣いているの?」
流石に僕も慌てて委員長の近くに駆け寄っていった。委員長は未だにボロボロ涙をこぼしていた。
「だ、だってぇ……それは……聞くなよぉ……」
子供のように涙声になって委員長は泣いている。傍から見れば屋上で女の子を泣かしている最低の男である。
「い、委員長……泣かないでよ。そんな……」
「……結局……お前もそう思っていたんだな……」
委員長はなんとか涙を拭いながら、恨めしそうに僕の方を見る。
「え……ど、どういうこと?」
「……私のこと、クラスで浮いている、って……みんなと合わせられない……変なやつだ、って……」
……そう言われてしまうと、否定できなかった。
無論、俺だってイジメられている手前、偉そうなことは言えないが、委員長は……実際浮いていると思っていた。
「そ、それは……」
「……お前だって……イジメられているじゃないか……だから、友達なんて……いないだろう……って……そう思っていたんだ……」
そう言って、委員長は泣くのをやめた。そして、申し訳なさそうん僕のことを見る。
「でも……お前には……昨日のヤツがいたんだな……」
「え……あ、ああ。内田さんのことか……いや、友達っていうか……あれは……」
「でも……話し相手なんだろう?」
委員長は悲しそうな顔でそう言う。僕はどう言おうか迷ったが、かといって嘘をついても仕方がないと思い、小さく頷いた。
「……そう思って、私はすごく……不安になったんだ」
「え? 不安に?」
「……お前は……私と同じだろう、って思ってたから……」
すまなそうに、それでいて恥ずかしそうに委員長はそう言った。
委員長のその言葉で委員長がなぜ、僕がイジメられている時に助けようとしていたのか……それがなんとなく理解できた。
「……つまり、委員長は、イジメられている僕の方が、友達のいない自分より酷い立場だって思って……安心していたってこと?」
僕がそう言うと委員長は俯いてしまった。その行動が肯定を示しているということは簡単に理解できた。
「でも、僕には内田さんがいたから、委員長は不安になった、ってことか」
委員長は何も言わなかったが小さく頷いた。それから僕はジッと委員長を見る。
そして、僕は今一度思い出した。ここが屋上で、今は僕と委員長以外誰もいないということを。
「……最低だね。委員長は」
僕がそう言うと委員長は顔を上げた。そして、とても悲しそうな顔で僕から視線をそらす。
「じゃあさ、たまに委員長が僕がイジメられているところを止めようとしていたのは……自分が僕よりマシな立場にいるってことを確認したかったから?」
「そ、そんなことは……!」
「そう、だよね?」
委員長は否定しなかった。というよりも、否定の言葉が思いつかなかったようだった。
「それに、クラスの風紀委員の真似事みたいなことしているのも、自分が誰からも相手にされていないってことを紛らわすためなんでしょ?」
「……やめてくれ。そんな……私は……」
「……委員長さ。委員長って……生きている意味あるの?」
自分でも思ったより酷い言葉がポンポン口から出てくる。委員長は絶望した顔で僕を見ていた。
「……酷い……酷いよ……尾張。そこまで言わなくても……」
「そう? 僕はイジメられている時に何度か言われたけどね。だから、ここに来てたんだ」
そう言うと委員長は更に驚いた顔で僕を見る。そして、僕はニッコリと微笑む。
「そうだ、委員長。最低な委員長に一つ提案してあげるよ」
「え……な、なんだ?」
「悪いんだけどさ……僕と一緒にここから飛び降りない?」




