横槍 4
「……あの人、私達と同類ですね」
委員長が去ってしばらくしてから、内田さんがそう言った。
鋭い瞳は、僕が初めて会った時の、尖った内田さんの雰囲気だった。
「同類……そう……かな?」
「ええ。ですから、またここに来ると思いますよ」
「委員長がまた……ここに……」
僕はそう言ってから今一度内田さんのことを見る。内田さんは何故か僕の方を見ないようにしているようだった。
「……僕達って恋人同士なの?」
僕がそう言うと内田さんはしばらく動かなかったが……その顔はみるみるうちに真っ赤になっていき、内田さんは恥ずかしそうに僕の方を見る。
「……すいません。その……つい……」
「え……あ、ああ。いや、別にいいよ……まぁ、僕達、恋人って感じじゃないよね」
僕が適当にそんな事を言うと、内田さんは何か言いたそうに僕のことを見ていた。
「え……どうしたの?」
「……嫌なんですか? 私がその……恋人だったら」
内田さんは少し恥ずかしそうにしながら、僕にそう訊ねてきた。僕は思わず言葉に詰まる。
……今のって、どういう意味なんだろう。内田さんが恋人だったら……いやいや。まだ会って一ヶ月も経ってない相手だ。そんな関係になることは考えられない。
それに……逆はどうだろう。内田さんは僕と恋人関係になるなんて考えたくないはずだ。僕なんかとは……
「あー……いや、嫌じゃないよ」
結局、僕はありのままの気持ちを言うことにした。
内田さんは目を丸くして僕を見ていたが、それからしばらくして呆れたようになぜか小さく溜息を付いた。
「……そうですか。まぁ、そうですよね。もし嫌だって言ったら……どうしようかと思っていました」
「あはは……というか、内田さんは、好きな人とかいないの?」
僕がそう言うと内田さんは僕の方を見てからなぜか怪訝そうな顔で僕を睨む。
「……別に。いませんよ」
「そうなんだ。いや、内田さん美人だから、結構クラスでも人気なのかな、って思ったんだけど」
すると、内田さんは更に不機嫌そうな顔をして僕を睨んでいる。なんだろう……何か地雷を踏んでしまったような……そんな気がしてきた。
「……ええ。そうですね。クラスでも人気者ですよ。毎日、手ひどくイジメられるくらいにね」
「あ……い、いや。そういう意味で言ったんじゃないんだけど……その、ごめん」
「……というか、尾張君はどうなんですか? さっきの子、尾張君と私が恋人だって言ったら明らかにショック受けてましたけど……彼女、君のこと、好きなんじゃないですか?」
「え!? 委員長が?」
思わず僕は驚いてしまった。委員長が僕のことを……いやいや。流石に考えられない。
そもそも、委員長とはあまり接点がない。
もちろん、僕のイジメを止めようとしたことは何度かあったけど……別にそれが根本的な解決になったわけじゃないし。
「……聞いてみたらどうですか? 本人に」
そう言って、内田さんは僕に背中を向けて歩きだしてしまった。
背中からでも、内田さんはなんだかとても不機嫌そうだということはなんとなく理解できた。
「あ……内田さん。今日は帰っちゃうの?」
「……はい。では、また来週」
そう無愛想に言って内田さんは屋上から去っていってしまった。
残された僕は少し冷たい風に吹かれながら、内田さんがどうして不機嫌になってしまったのか……そんなことを考えていたのだった。




