横槍 3
委員長はうずくまったまましばらく動かなかった。
流石に心配になったので、僕は委員長に近づいていく。
「あの……委員長?」
「……嘘だ」
「え? 何?」
「嘘だ!」
委員長はいきなり立ち上がると僕と内田さんのことを睨みながらそう言った。僕も、内田さんもさすがに驚いてしまった。
委員長は……なぜか少し涙目になっていた。さすがに僕も全く理解できなかった。
「あ……委員長? その……どうしたの?」
しかし、僕が問いかけてみても委員長は僕の質問に答えなかった。むしろ、なぜか恨めしそうに、内田さんのことを睨んでいる。
「……お前!」
そう言って、委員長は内田さんのことを指差す。内田さんは怪訝そうに眉をひそめる。
「お前って……私のことでしょうか?」
内田さんが首を傾げながら、無愛想にそう言う。やはり……初対面の相手にはどこかぶっきら棒な感じで接するのが内田さんのコミュニケーション方法のようだ。
「そうだ! お前に聞きたいことがある!」
「……はい? なんでしょうか?」
「お前は……尾張とどういう関係なんだ?」
委員長は少し恥ずかしそうにそう言った。内田さんは一瞬不機嫌そうな顔で僕の方を見る。
「……どういう関係とは?」
「だ……だから! そのままの意味だ! そ、その……ホントに、尾張の友達なのか?」
委員長は不安そうに内田さんにそう訊ねる。内田さんは今一度僕の方を見る。僕はただ済まなそうに苦笑いすることしかできなかった。
「そうですね……友達……いえ。友達ではないですね」
「え……」
僕は思わず言葉を漏らしてしまった。その僕の様子を見て、委員長は一瞬目を丸くしていたが、満足そうに微笑んだ。
「フ……フフッ……ハッハッハ! そうだよな……尾張に友達がいるなんて、あり得ないよな……」
……さすがに僕も、委員長の言葉にムッとしてしまい、思わず委員長を睨みつけてしまった。
と、委員長は僕に対する言葉が不味いと思ったのか、コホンと小さく咳払いする。
「あー……すまない。そういう意味ではないんだ。尾張は、その……友達とか作るタイプではないだろうと思っていたから……な?」
「え……なにそれ? 委員長、それどういう意味?」
委員長は僕の質問に答えたくなかったのか、適当に視線を反らしながら話を続ける。
「と、とにかく! 尾張! クラスメイトとして立ち入り禁止の場所にお前をこれ以上ここにおいておくことはできない! そこのお前も、尾張とは友達ではないのだろう? だったら! 尾張はクラスメイトの私が、責任を持って連れて行くからな!」
そういって、委員長は僕の腕を掴んだ。
「さぁ! 尾張、行くぞ」
「え……委員長、ちょっと……」
「いいから! お前はこんなところに来るべきじゃないんだ! 行くぞ」
「待って下さい」
と、委員長が無理やり僕を連れて行こうとした矢先、内田さんが口を開いた。
「……なんだ? 悪いが、関係のない者には黙っていてもらいたいんだが?」
「確かに尾張君とは友達ではありません。正確な関係性は、恋人です」
内田さんははっきりとそう言った。確かにそう聞こえた。
僕も、委員長も完全にその場で停止してしまった。
そして、委員長が掴んでいた僕の腕を離した。
「……恋人?」
「はい。恋人です」
委員長の再度の確認にも、内田さんははっきりと答えた。委員長はしばらく完全に硬直していたが、そのまま歩き出した。
「あ……委員長!?」
僕が呼び止めても、委員長は振り返らず、そのまま扉を開けて校舎の中に入っていってしまったのだった。




