横槍 2
友田知奈は、僕のクラスメイト、あだ名は「委員長」である。
かといって、別に委員長というわけではない。何かの役職についているわけではない。
しかし、彼女はなぜか仕切りたがるというか……クラス委員長のような振る舞いをしているのである。
例えば、クラスにゴミが落ちていれば注意するし、弱い物いじめが起きていればそれを注意する。
かといって、彼女が注意したからといって、イジメが終わるわけでもない。僕も何度か彼女に「助けて」もらったが、それはあくまで一時的なもので彼女がいなくなればすぐにいじめは再開された。
というか……あまりにも口うるさいので、女子グループからも仲間はずれにされていて最近はクラスでも一人でいることが多い……ある意味では僕と同類な少女である。
そして、クラスメイトからは侮蔑と嘲笑を込めて「委員長」というあだ名をつけられているのである。
「で……お前はなんでここにいるんだ?」
その尊大な口調も、クラスメイトから敬遠されている一因である。彼女は腕組みをしながら僕のことを見ていた。
「あ、あはは……えっと……」
なんと言えばいいか……さすがに女の子を待っていた、というと面倒なことになりそうだ。かといってどんな嘘をを付けばいいのか……
「分かっているのか? ここは立入禁止だ。入ってはいけないんだ。注意書きもあっただろう? 読んでないのか?」
「あ、あはは……ごめん……」
「ごめんじゃない! 私が聞いているのはどうしてここにいるのか、ということだ」
「委員長」は少し強めの口調でそう言った。僕はただただ曖昧に微笑むことしかできなかった。
「死ぬため、ですよ」
その時だった。委員長の背中越しに声が聞こえてきた。僕と委員長は同時に振り返る。
「あ……内田さん」
委員長のすぐ背後には長い黒髪の少女……内田さんが立っていた。相変わらず黒い髪は風に揺れていて美しいが、少し不気味である。
「……なんだ、お前は? ここは立入禁止だ。なんで入ってきているんだ?」
「なんで? 言ったでしょう。死ぬためだって。そうですよね、尾張君」
そういって内田さんは僕の方を見てくる。それと同時に委員長も僕のことを見る。
「死ぬため? おいおい……何を馬鹿なことを言っているんだ? 尾張。お前、コイツと知り合いなのか?」
「え? あ、うん……そうだけど……」
僕がそう言うと委員長の顔が少し暗くなった。
「……え? 本当に? ホントに……お前、コイツと知り合い?」
委員長は内田さんと僕のことを交互に見る。内田さんも僕も同時に頷いた。
「え……そ、そんな……尾張に……友達が……」
そう言うと同時に委員長はそのままその場で頭を抱えて蹲ってしまったのだった。




