横槍 1
ただ、それからは内田さんはすぐには僕のことを「殺す」ということはなかった。
毎週金曜日に屋上で僕と内田さんは会う……そんな日常が続くことになった。
内田さんは会うたびに僕に辛い境遇を話してくる。僕が聞いていなくても自分から話してくる……僕はそれを聞いている。
僕自身は……僕の身の上の話はあまりしなかった。いじめられていることや、生きていることが辛いことも。
内田さんは僕に自身の辛さを話している時はなんだか安心しているように思えた。実際僕もその話を聞いていると安心した。
僕が最初に考えたとおりに、僕達二人にとって屋上は、僕達が傷つくことのない場所となった。
僕達のどちらかが、どちらかを傷つけようとしない限りは。
それから、また何週間か経った。
僕は相変わらず屋上にいた。まだ、内田さんはいなかった。僕はフェンスの方に近づいていき、空の向こうを眺める。
……別にあの日ここから飛び降りようとした時から、僕の境遇は変わっていない。相変わらずクラスではいじめられている。
だけど……気持ち的には少し楽になった気がする。その理由はわからない。内田さんと会ったからだろうか……
「……内田さんは……もう僕を殺そうとしなのかな」
そう呟いても、僕自身も、この屋上から飛び降りようとする気持ちは……すでにほとんどなくなっていた。
むしろ、なんであの時は飛び降りようとしていたのか、それが逆に疑問だった。
と、その時、ガチャリと背後から音がした。扉が開く音だ。
「あ、内田さん?」
「お前、そこで何をしているんだ!?」
声が……違った。女の子の声だったが、内田さんの声ではなかった。
そもそも、容姿も違う少女だった。髪も短いし、その視線も内田さんのような死んだ魚のようなものではない。
鋭く、僕のことを明確に睨んでいる。
「ん? お前……尾張じゃないか?」
そう言って、その少女は僕の方に近づいてくる。僕は近づいて来る彼女を見て、その子が誰かを理解した。
「……『委員長』?」
僕は思わず彼女の名前……ではなくあだ名を口にしてしまった。その途端彼女は怪訝そうな顔をする。
「……違う! 私の名前は友田知奈だ!」
僕のクラスメイト友田知奈は、憤慨してそう言ったのだった。




