2.3
ファミレスの外がサラリーマンや会社の制服を着た女性で道が渋滞に近い状態になっていることに気づいた。そのときにはもう進藤はハンバーグとご飯を平らげていたが、浅井はピザ一切れしか食べていなかった。
「どうした。お腹いっぱいなのか」
「いや、そんなことはないんですが」
「気がすすまないのか」
「いろいろ詰め込まれたので」
浅井は一呼吸置き、進藤に聞いた。
「同じことを聞くかもしれませんが。なぜ、そんな仕事をしているんでしょうか。よくわからないんです。いきなり雑誌の取材をするって」
「そうだなあ」
進藤はグラスを持ったが、中にはなにもないことに今更気づき、
「ちょっと待ってて、飲み物を」
進藤はコーラのボタンを押しながら、なぜと言われた理由を考えていた。コーラがコップのフチまで浸かっていく。そのまま席に戻って、これまでの経緯を話すことにした。
「一応、この件は仕事とは思ってはいないけどさ。俺はそう思ってるわけで。なんだろうな。たまたま知り合いだったそれだけなんだけどさ」
「でもわざわざ会社をやめてまで。そんなことをやる必要あったんですか。僕に比べて、進藤さんは僕が入社した当時から管理者とか、現場では重宝されていたじゃないですか」
「そんなことはないんだけどね。俺にもいろいろあったんだけど。今はそんな話じゃないね」
進藤は、コーラをまた口に含んで、飲み込んだ。
「仕事を辞めたのはたまたまタイミングが同じだっただけ。今回の秋田での事とだよ」
「タイミングですか」
「そう。タイミング。タイミングが合わなくても、あの会社を辞める理由は何通りでもあったわけで。・・・2年前にちょっと連絡があったんだ」
2年前、浅井が入社したかしてないかの時期だ。新人教育や現場に出向き立会などをしながら、進藤は同時進行で雑誌関連の取材をしていることになる。
「大学の先輩だったんだ。大学を出てから一度も連絡をしていなかったんだ。よく話を聞いたら雑誌関連の仕事をしていて、人手が足りないと」
「でもなんで、進藤さんに話が行くんですか」
「そうだね。そう思うよね。簡単に言えば、業界の人間じゃないほうが、面白い話を拾ってこれるだろうって。面白い話はお前みたいなやつがよく取ってくるんだよと。まあ、俺も大学ではお遊びで雑誌の取材とかをアルバイトとかでやってたりしてたけど」
浅井は二切れ目に手を付けた。あまり喉の通りは良くないようだ。
「まだイマイチ、よくわかってないところはあるんですが、やるとしたら自分は何をすれば良いんでしょうか」
「基本的には何もしなくていい。一人で話を聞きに回るのはどうも寂しい」
進藤は恥ずかしさを隠しながら話した。すると浅井は、笑いながら、
「そうですよね。一人で電車とか車とかに乗って色んな人に聞きに行くのは辛いですよね。でも、今まで一人でやってきたのなら、そのほうが都合が良かったりしませんか」
「そんなことはないよ。二人のほうが色んな意見や聞き出すための引き出しのようなのも増える」
なるほどと浅井はうなずき、3切れ目に手を付けた。
「難しいことはない。なんなら買い物に付き合う感じと思ってくれればいい。なんだかんだあの人は金は出してくれるから安心してほしい」
「はぁ」
店内はいくらかランチタイムであるにもかかわらず、先程よりは落ち着きを取り戻していた。店員呼び出しのチャイムも、入店音も聞こえなくなっていた。皆、一心不乱に話やご飯に夢中だった。
「お聞きしたいんですが、聞き込みとやらはどこで」
浅井は恐る恐る聞いた。秋田と言っても縦に長い。少しは情報として知りたかった。
「それがね、これも偶然なんだけども。君の育った街。大館さ」
浅井は「は?」と言った。その次に出てきた言葉は、「え?」だった。
「どうしてまた大館なんですか。いや、秋田という時点でもおかしいんですが」
「じゃあ、これ見てみてよ」
ホチキスで留められた資料を渡された。見るとそこにはインターネット上の記事をそのまま印刷したであろうものだった。
「その内容で今は何か探っているらしんだ。俺もよくわからないが、聞けるだけ聞いてきてほしいって」
「この内容を中心に今進んでいるんですか」
「そうらしい。浅井の方で予定が決まったらで構わない。それに合わせる。集合の時間も全部だ。友達とご飯を食べるとか行きたいところに行きたいようにしてくれればいい。誘って悪かったな。よろしく頼むよ」
浅井は、「あ、はい」と簡単に返事をした。進藤は残りのコーラを一気に飲み込もうとグラスを傾けた。
渡された紙に「大館誘拐未遂事件」と書かれていたことで、浅井の意識はすべて吸い込まれた。