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Global Boy Central  作者: 安達 ユウヘイ
1 Good Morning, Bad Day
6/49

1.5

 車内はFMラジオが放つJポップで充満していた。「愛している」「会いたい」と歌詞の中にもう使い古されたような単語が詰め込まれた音楽を男二人が聞いていた。永島と浅井は電源を切るわけでもなくかといってラジオに愚痴を言うわけでもなかった。車内はずっと真田薫の話で持ちきりだった。


「彼女は不思議な女の子だった」とか「ずっと真顔だった印象」と二人は話していた。

 永島は、面倒だと最初は思っていたが、何度も聞いてくる浅井の重みに負け、覚えている範囲で簡潔に返答をするようになっていた。

 

 車は大館市内に入った。永島の提案で、大館市内をいろいろと回って見ることになった。あそこの公園の噴水は壊されて今でも修復はされていない。ここにあった雑居ビルは放火され今では小さな月極駐車所となっている。などと回るほどこの街の発展のなさを感じる。時間はもう五時を回っていた。外は少しだけではあったが夕焼けへ進むような雰囲気だった。

「今日の飲み会というかごはん処というか、どこでやるか知ってるか」

永島はハンドルを握りながら浅井に聞いた。

「いや、あまり聞いてない。というかお前が考えてたんだろ。大町のチェーン店とか」

「そんなんじゃないぞ。大町はあたってるがな。大通りを一本外れた所で児童公園があるだろ。公園の側にある『居酒屋鳩』」

 居酒屋鳩。入り口の横にある、大きく白塗りの鳩が描かれている看板が特徴だ。近くの児童公園では良く遊んでいた。遊んでいた際に、お菓子や飲み物をくれたのが、当時の居酒屋鳩の店主だった。浅井たちが小学生の時には、頭は白髪で顔には皺だらけ。ただ、人がよく誰も悪口など言うことはなかった。

「あそこに久々に会社の飲み会で行ったんだよ。ただ、もうあのときのおじさんはもう亡くなっていたけど」


 永島は少し悲しげな声を出したが、

「でも息子がいたみたいでさ。その人がやってるんだよ。小学生の時によくお世話になりました、なんて行ったらそれはそれはどうもなんて。じゃあ8月のときはここにしようと思ったわけさ」

「ああ、なるほどね。そういうことだったのね」

 車は児童公園横にある時間制の駐車場に停めた。浅井は車を降り頭の中になんとなく残る地図を頼りに進み始めた。後ろから永島が大きな声で浅井を呼び止め、

「いろいろ街中回ったけどさ、ちょっと気づいてほしいところがあったんだけどわかった?」

 浅井と永島の間には夕焼けが差し込んでいる。浅井は永島の方を見ていると夕焼けが目の中に飛び込んでくる。表情など見えない。

「え、というと」

「わからないならわからないで良い。いつか大館の夜、一人で歩いてみると良い」

「ああ、ああ、わかった」

 浅井はどこか返答する言葉を忘れた。


 居酒屋鳩には、浅井と永島。そして山口と斉藤ケンの4人とカウンター席におじさんが一人と繁盛とは言えない中で「堅苦しい飲み会」は始まった。山口と斉藤ケンは中学の時に仲良くなった。山口はガタイがいい。そして頭も良く、高校を卒業後、刑務官になった。今は山形に住んでいる。

 

 斉藤ケンは細身の体ながら運動神経が良く、体育でバレーボールをやった際には要所要所で重宝されるプレーヤーでもあった。今は秋田市内の大学に通っている。斉藤ケンのケンは健太を短くしたものだ。他人が聞くとケンという名前だと勘違いするから辞めてほしいと言われたことがあったが本人がすぐに慣れてしまった。

 

 最初は昔話にどっぷりとつかったが、長くは続かなかった。中学当時、4人が嫌っていた瀬名と奥出が店にやってきたのだ。当時から瀬名はジャイアン、奥出は出来杉君よりのスネ夫と呼ばれていた。

 瀬名と奥出は女子を二人携え、店内にズカズカと上がり込み、永島と山口そして斉藤ケンを見つけて、

「お、お前ら久しぶりじゃん」

と言って浅井たちが座っていた座敷に座り込んだ。

 浅井はこの二人のことを覚えていたが、逆に二人は浅井のことを覚えていないようなので浅井は妙に安心した。

 左手には永島が座っているので、

「タイミングを見計らって、帰ろうか?」というと

「帰るってまだ30分程度だぞ。ああ、斉藤ケンが絡まれてる」

 

 斉藤ケンは瀬名に捕まり、ヘッドロックを掛けられていた。痛い痛いと斉藤ケンの声が店内に響き渡る。

「俺達もいいだろ。な、奥出」

奥出は「ああ、そうだね」と二つ返事で瀬名に答えた。

 良いぞ、出来杉君よりのスネ夫。お前はやっぱり世渡りは上手そうだ。浅井は心の中でつぶやいた。というか、心の中以外では呟けない。

「おら、ケンと山口そっちいけ」とジャイアンっぷりを見せつけ、二人を移動させ浅井と永島の座っていた列に移動してきた。8人近く座っても問題ないテーブルの座敷に座ったことが今仇となった。

 女子二人も、嫌々座敷に上がり込んできた。このとき、中学の時の問題児、近藤がいることに気づいた。


「おじゃまします」とグレー色のスカートをキレイに折りたたみながら座布団に座った。当時、反抗期だったのか知らないが、金髪よりの茶髪、パーマも掛けよく生徒指導の先生に怒られていた。今では黒髪の長く手入れされた「真面目人間」に生まれ変わっていた。顔も凛として、清楚な感じがする。近藤は永島の前に座った。


 近藤は前に座っていた、永島を見て、

「ああ、懐かしい、永島じゃない。ああ、ケンじゃん、元気にしてた?」

 斉藤ケンはまた瀬名に髪の毛を引っ張られていたため最後の力を絞り出すように、「一応ねぇ」と答えた。永島は、

「ああ、まあね。君も元気だった?」


 浅井は少し失望した。そうかお前も男だもんな。格好良く見せようとした永島を見てそう毒づいた。

 もう一人の女子はトイレに行っていた。浅井の前はすっかり空洞だった。

 浅井は山口と斉藤ケンが移動したことで端に追いやられた。左手を見ると自分を差し置いて、高校の時に所属していた弓道部の話に花を咲かせる永島と斉藤ケン、高校の時に瀬名・奥出と共に野球部に所属していた山口は当時の監督が起こした笑い話を始めていた。右手には勇ましく鮭を加えるクマの木彫りが置かれていた。

 何をするわけでもなく、浅井は置かれていたメニュー表に手を伸ばし右手で握った。すべて手書きだった。左手にコーラを持ち、頼むわけでもなくボォと見つめた。

 奥の方から最後の女子が来た。目の前に座るのは良いが、関係性が全くない人だったら嫌だなと顔を上げたとき、浅井は一瞬肩の力が抜けた。近藤に「後ろ通るね」と言ってベージュのロングスカートに白色のティシャツ姿。そして、茶髪でショートカットで。

「あ、浅井くんだよね。久しぶり。元気にしてた?」

 左手に持っていたコーラの冷たさは消え、頭の中からすべてが消えていった。真田薫。その人だ。


 参った。彼女が目の前にいる。頭の中が真っ白の中で

「うん。うん。うん。元、元気」

「そう」と言って彼女は微笑んだ。メニュー表良いかなと左手を差し出してきたので、ああどうぞと言って彼女に渡した。彼女はありがとうと言って近藤とメニュー表を見始めた。

 浅井はすぐに、永島の腕を掴み、

「おい、真田が来るって知ってたのか?」

「はぁ?知ってるわけ無いだろ。連絡先も知らないんだから」

 そうすると斉藤ケンが割り込んできた。

「そうだぞ。永島くんは仕事で忙しい。前にいる近藤ですら緊張してるんだから」

「緊張してねぇわ。話題を振りまこうと頑張ってる証拠だ」

 永島と斉藤ケンがイチャイチャし始めた。真田は店主に、「すいません。烏龍茶2つとからあげ」

 はいよと店主が威勢のよい声を返してくる。真田は準備が整ったようにメニュー表を目の前に置き、口を開いた。

「私のこと覚えてる?」

 彼女はまた微笑んだ。浅井の頭の中で記憶のテープが巻き戻し始めた。

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