11.3
僕の隣りに座っていた高齢の男性はいつの間にか、食べ終えていて今度は中年の女性が座っていた。3人のグループになってゲラゲラ笑いながら流れる寿司を掴み、醤油をつけ、口に運んで、またゲラゲラ笑う。ずっとそれを繰り返していた。
それに対して、僕と真田さんは流れ続ける寿司をそのまま見届ける状態を続けていた。
「荒川京は、3年前だと東北地区の教育顧問という役職についています。ご存知ですか?」
彼女に聞くと、
「興味がなかったので」と答えた。
「そりゃそうですよね」
笑いながらまた寿司を取った。今度はタコだった。醤油をつけようとしているところで彼女が、
「でも普通の会社だったら普通じゃないでしょうか。4月では役職に就いていたのに降格だって当たり前じゃないですか?」
「10月で消えるのは当たり前と?」
「それか本人がやめたいと言ったか」
「まあそれはそうでしょう。社長になったのにある問題が発覚して引きずり降ろされるように辞めさせられたりとかね」
「私はそんなこと、よくあることで何ら疑問に思うこともないと思いますが」
どこか自信があるのか、はっきりとした口調で話してくれた。
「僕もね、宇都宮とかに行ったんですよ。浅井を連れてね」
何も言わずに彼女は僕の方を向いていた。
「誰一人荒川の名前を出そうとしなかった。それか出せなかった。その後も青森だ弘前だと一人で行ってきたんです。そこでも出て来なかった。真田さん、荒川京の居場所は知らないんですか?」
僕の言葉をすべて聞いた後、ふっと鼻で笑い、
「何回も同じこと言いますけどね。・・・知らないんです」
「・・・そうですか」
湯呑に触れるとお湯を入れたときの熱さは完全にどこかに消えていた。半分ほど入っているお茶を一気に飲み干すように口の中に入れ、ゴクッと音が鳴るほどの量を胃の中に放り込んだ。
「知らないなら知らないで構いません。でしたら次に工藤さんについてお聞きします」
彼女は今まで無表情に近かった顔に驚いた反応を見せた。眉間にシワを少し寄せたのが見えた。
「工藤さんですか」
「よくご存知だと思いますが」
また無表情に戻そうとしていたが、工藤ということを聞いて明らかに動揺しているところがある。
「工藤さんは一度、東北の地区長に就任することが決まっていましたね。これは選挙形式で選ばれる。過去の広報誌にも結果が載っている。でも、その後に何故か取り消しになっている。理由は会の規定違反。それでいて大館に飛ばされている。どうしてでしょうか」
「その情報はどこから」
「私の知り合いです」
僕は少し自信有りげに話した。それに対しては無言では会ったが、自慢話のように話し続けた。
「その人はなんというか、まあ使える人ですよ。怪しいところも全部あの人が見つけた」
頷くわけでもなく、何か言うわけでもなく、彼女は少し目線を下にした。
「工藤さんと荒川京、二人は仲が良かったんですよ。工藤さんの選挙の際に推薦人になってる。しかもそれは広報誌の名前が載った4月から2ヶ月後の出来事。自分からやめるとか名前を消す行動なんて出るとは思えない」
彼女は何も言わず、ただこの時間がすぎることを願っているようにも思えた。