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10.5
今まで生きてきたなかで全力で走ったことはありますか?と質問をされれば、家を飛び出し、父親から逃げたときと答える。
あの日は本当に必死に走った。歯が擦り切れるぐらいグッと噛み、自分の足が振り切れるまで動かしたつもり。
「あいつを追いかけろ」
今、思えばかなり怖い思いをしていてもおかしくなかった。
大人が必死こいて子供一人を車で追いかけてきた。
突き飛ばした勢いで家を飛び出し、逃げれるところまで逃げてしまおうと。
あんなところ、家でも何でもないのだけれど。
お父さんを助けれなかった。今でも、後悔している。もっと出来たこともあっただろうに。
ずっと道を走って走って。見えないゴールに向かって走って行く。
でもそんなのすぐだった。
ワゴン車が来て、男3人が出てきて、私のことを力いっぱいに掴み、私を車に引きずり込んだ。その近くには近所の人もいたような気がする。
お構いなしに私を車に引きずり込んだ男3人は、「支所だ。支所に行こう」と全員で意見を合わせ、雑木林奥にある支所に行った。
もう少し、自分に力があればとは思う。