10.1
「思うんだけどさ」
狭いスペース内で大きな声で言った進藤に、パイプ椅子に座る浅井と事務室の扉の横に立つ平崎は注目した。
浅井と平崎がアルバイトで一緒の日は必ずと言っていいほど事務所で話をするようになっていた。取材は大丈夫ですかと聞くと、問題はないと返答をするのが当たり前だ。何を持って問題がないのかはわからない。
宇都宮に行って、柴田さんから話を伺ったのはもう一週間は経っている話。それ以降、何ら情報を得れないままで、進藤とつながりのある、大学の先輩からですら情報は途絶えたままだ。
「単純に、真田さん本人に聞いたほうが早くないかい」
進藤は二人に向かって投げかけた。それに対し、
「いや、まあそういうものなんでしょうけど」と返答に困りながらも浅井は続けて答えた。頭を搔く
「今までは荒川という男を探る目的でもあって、それに」
「なんか、遠回りしてしまったけどさ君が連絡先を教えてくれれば、提供してくれればそれで済んだんじゃないのかなぁ」
浅井は半分笑いながら、
「簡単には教えれないですよ」とパイプ椅子の背もたれに寄りかかった。
平崎は、「どうして?」と聞くと、
「理由はないけど・・・」
「じゃあ教えればいいじゃない」
「せっかく手に入れた連絡先を意図も簡単に手渡すのは・・・本人の了承を得ていないし」
進藤は、「じゃあ今、彼女にメールなり電話なりしてさ、俺と会う約束してよ」
「無理ですよ。前なんか会うまで緊張しっぱなしでしたし」
平崎は呆れたように、「会うぐらいでそんな」と言った。
「平崎さんも言ってるんだから、とっとと教えるか、連絡するか選べよ。オレ一人でやるから」
「なんで今なんですか」
「真田さんに直接会って、どういう人なのか知りたいだけさ」
浅井は頭を掻きながら、「そう言われても困るというか」
今までの流れは一体何だったのだろうか。この人は何処までおかしいのかさっぱり分からない。