7.5
ピチッと頭に張り付くような七三分けで、声は喉にせんべいか饅頭が詰まっているのかのようにか細く、どこか胡散臭いやつが画面に映っていた事を思い出す。柏崎会長とデカデカのテロップと金粉がまぶされているのかわからないが画面を通しても何処か高級感を出そうと必死のスーツが目につく。やつの言うことは教育と呼ばれ、上位に位置するものだ。
「いつか、人々が手を握り合い、明る未来を望んだときが平和への第一歩になります。ゴールではありません」
大きな声でユートピア精神を振るう会長は何処か滑稽だったが、本人はいたって真剣であることがまたそれに追い打ちを掛けていた。
「不安を煽って、正常な判断ができない状態で入会した人もいるだろうけど、根本的なところとして問題を抱える本人に注目をしないといけない」
進藤は真剣の面持ちで浅井に向かって話した。真田薫の母親が入会した理由はまだまだわからない。ただ、その人自体に問題があったことは本人と出会って察することはできていた。
「ただねぇ」
進藤は腕を組んだ。「なんですか」と浅井が聞くと、
「不思議なのは、君の呼びかけに彼女がわざわざ出てきたことだ」
「そうですね」
浅井がそう言うと後ろから平崎が口を挟んだ。
「私は利用できると思ったに一票です」
「痛烈だね」
進藤は平崎に対して笑った。
「それしか考えられないですもん。同級生にだって言えますもん。先生にだって言える」
「そうかも知れないけど」
浅井は少し戸惑った。利用された?お金もまったくない自分に何がある?自分が君の力になると言ったことはもはや関係ないのか。それも全て彼女しか知らない。進藤は「そうだねぇ」と言うと、思いついたように話した。
「タイミングが偶然に合ったのかもしれないね。浅井が秋田に帰ってくる時に会ってみるかと考えたのかもしれない」
「どうでしょう」
3人共、うーんと考えるような格好をした。
「彼女が通っていた学校にでも行ってみるかい?」
「急ですね」
進藤は笑いながら、「どうせこの後は暇なんだろ」と言う。
「そうですけど」
「だったら都合は良い。今から行って問題に取り組んでしまえばいい」
「簡単に言いますね」
「思い立ったらすぐ行動。これが大事さ」
「ちなみに何処ですか」
「情報だと宇都宮だ」
宇都宮。小旅行なら都合がいい。浅井は「わかりました」と小さく返事をしていた。