7.2
もう時刻は4時を過ぎていた。進藤がチャンネルをNHKに変えるとニュースをやっていた。31歳の男性が行方不明などという朝から気味の悪いニュースがこの部屋に先陣を切って乗り込んできた。
そのニュースをある程度見た後、またすぐに別のチャンネルへ変え、また同じチャンネルへと戻っていた。
「その真田さんのお母さんの同級生って」
進藤に浅井は聞いた。すると、「それが荒川だったんだ」と答えた。
「彼女が小学校5年生の時に彼女が会員になっていた。今回、手に入れた名簿に書かれていたんだ。責任者という欄にはっきりと。この前、話を聞いた、引っ越してきた男というのが荒川だった。これであの男が真田さんの周りにひっついていた理由は何となく分かる」
「じゃあ、荒川という人が、まずお母さんを勧誘した」
「何故彼女のお母さんは荒川から勧誘を受けたのか、もしくは入りたいとお願いされたのかは今のところはわからないから何とも言えない」
「そうですか」
浅井はまだわからないことが多いなか、新しい情報が入ったことに何処か疲れていた。平崎は、店内の方にいるため、この会話には参加をしていない。都合が良いのか、悪いのかは今のところはわからない。第三者の意見を聞くのが良いのか。
「彼女のお母さんは少し病気的に感情の浮き沈みが激しかったみたいだね」
何処でその情報を手に入れたのか聞こうとは思えなかった。聞いたところで、その大学の先輩からのルートで間違いはないだろう。
「先日、彼女と会ったときにも同じことを言っていました。『突き放すような離婚をした』と」
「そのとおりだったんだねぇ」
どこか彼女が嘘をついているのではないかと疑っている部分もあった。ただ、ここで一部ではあるものの合致をしている。
「君に知ってほしいというのはあったんじゃないかな」
浅井はその言葉を聞いて、「それは」と言った後何も言えなくなった。本当にそうなのか?弁護士だってこの世に大量にいる中で、何故自分に?頼れる存在なんて星の数ほどある。
「だったら秋田で言いますよ。そうでしょ」
気づいたら後ろに平崎がいた。定位置にしっかりと立っていた。腕を組んで、壁によりかかり。
「まあ、そうだろうけどねぇ」
進藤は平崎の意見に同調した。
「言いづらいことだからねぇ。しかも他の人もいた中では言えないさ」
まあ、と平崎は小さく頷いた。
「でも、彼女は答えれる範囲で答えると自分からその話題を出したんです」
浅井がそう言うと、進藤は「えっ」と驚く顔を見せた。
「あらそうなの。じゃあ、イマイチよくわからないなぁ」
浅井の言うことを聞いた後、進藤は手を頭の後ろに回した。うーむと声に出しながらテレビを見ていた。
「会話もなんだか、他人事のような言い方が印象的で。でも、過去を話すときはどこか客観的になるものかなと。自分もそうです。特に嫌なことはすぐに言い終わりたい」
そういった時、平崎は首を傾げた。浅井は横目で気にしたが、どんな表情かまでは見れなかった。
「こいつもさ、離婚してんのよ、親がね。原因はネズミ講だっけか」
進藤が平崎に向かって言った。浅井はとっさのことだったので、「ああ、はい」と急いで返事をした。
「嫌なことから目をそむけたくなるのは誰でも同じだよ」
平崎は無言で店内へ戻った。
「何か、彼女に言われたの」
小さな声で進藤が話すと浅井は頭を掻いた。
「いや、あの、この前、自分のことを見つめ直せ的なことを言われまして」
進藤は店内の方へ目線を配った。どうやら平崎は見えないようだ。
「強いよねぇ。女の子って」