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Global Boy Central  作者: 安達 ユウヘイ
1 Good Morning, Bad Day
3/49

1.2

 小学生の時はとても好奇心旺盛だった気がする。


 家に帰る道から大きくハズレた道をただ行くだけなのに、それを二人で「冒険道」などと呼び面白がっていた。いつもの帰り道から外れて、何処に誰がどんな人が住んでいるか全くわからない空間を渡り歩くのはとても最高だった。


 永島といつも帰ることが多かった。永島は自分が住んでいるアパートの近くに住んでいた。

 そして同じクラスだった。

 冒険道なんてものは、ほとんど住宅と住宅の間をすり抜けていくだけのルートだったが、永島は『冒険道』をえらく気に入っていた。


 時刻は、5時に差し掛かろうとしていた。

 でも、浅井はもっと時間を消費できるのなら構わないと思った。

 いつもだと自宅から学校まで、約20分。遅くても30分程度で到着してしまう。

 道のりはほとんど真っ直ぐだ。

 地図に線を引いても直線が長く続く。

 最近は近くにあった銭湯が潰れてしまって、近辺の道路は一車線から2車線に変わり大規模な工事がされていた。ただ、それ以外は小学校入学から一切通学の環境は変わっていなかった。


 冒険道のルートは小学生5年生でやっと通れるか通れないかギリギリのところを通っていた。両足で立つと振り落とされるかのような橋も何の問題もなく通っていたり、知らない人の家のフェンスをよじ登り、ショートカットをしてみたりと小学生らしいことは出来る限りやった。


 冒険道を抜けるといつもの通学路に合流する。そこにやってくると一気に現実に引き戻されるかのような気持ちになり、毎回のように嫌な気持ちになっていた。

 特に永島は「楽しかった」という気持ちで家に帰っていく。

 浅井はそんな永島をとても羨ましく思った。

 目の前を乗用車が通っていく。道路の向こう側に移らないと自宅には帰れない。「そろそろ、流れが切れるな」永島がタイミングを見計らっている間、浅井はこのまま長く車が点のようにつながり、壁のように立ちはだかってくれれば。どれだけ、楽なんだろう。


 それでも流れは切れていた。一瞬の出来事のはずが、長い時間車がこの世界から消えたかのような気さえした。自分が、向こう側、歩道の縁に足を掛け、掛けた足に力を入れ前に進むとまたエンジン音が自分の耳に飛び込んできた。

「じゃあ、帰るね」永島はそのまま走って自分の家に帰って言ってた。「じゃあね」と小さな声で言ったものの、乗用車の音にかき消されて目の前で落ちて消えた。


---

 この時間というのは後にとても有意義なものだったかは定かではないが、この時間が家族にとって、とても都合の良いものであったただろう。

 

 このころ、浅井の両親は離婚を考えていた。浅井の両親はともに秋田出身で、秋田市内の会社で出会った。そこで意気投合した2人は勢いのままに結婚をした。

 浅井には姉がいる。姉は中学2年で、浅井は大人ぶる姉に少々嫌気が差していた。ただ、浅井自身はそこまで家族に対して不満があったわけでもなかった。

 

 休日になったらみんなでお昼ごはんを食べて、夜にみんなでリビングに集まってテレビを見て、決まった時間にみんなで布団に入る。それがごく普通のことで、どんな家族であろうとどんな環境にあろうと、それは全国、全世界で当たり前のようにやられているのだろう。

 そう浅井は思ったほど、家族環境にヒビなど一線も入っていないと思っていた。


 それはそれだ。大人の両親にとって、子供の考えだらけの浅井くんのことなんて全く関係がないことだった。父は秋田市内から大館市内の協力会社に「異動」した。そこは、朝8時から夜の8時まで仕事しっぱなしのもので、秋田市内から移動して家族団欒の時間もすべて仕事に奪われていったことに母はとても苛立っていた。


 一度、両親が喧嘩していたところを浅井は見たことがある。直接ではないにせよ、寝室から廊下を伝ってリビングに入るが、そこに両親が立って、言い争っていた。

 

 当時の喧嘩は、何年生の頃だろう。小学3年の頃のはずだ。

 夕ご飯にはとんかつが出ていた気がする。

 嫌な思い出で両親が黒い布のような、目を背けたくなるようなことでも、カラーで頭のなかに残っていた。思い出したくもない記憶は簡単に頭の引き出しの中に収まる。テスト勉強もそう簡単に収まればどれだけ楽になるだろうと何度も思ったほどだ。思い出せと言われれば、テープの巻き戻しのように数秒で再生することが可能だ。


「あなたは私のことを考えていない」「そんなことはない。この前は悪かった」「もういい加減にして」二人の言葉と夜の光がとても印象的だった窓、隣で何も知らずに夢の世界にいる姉と。

 僕はとても無力だなと「再生」するたびに何度も思った。家に帰りたくない。そんな事を思うようになったのはいつからだろう。


 父方の両親はよく母に口を出すことが多かったそうだ。

 最初はそれを快く受け取っていた母も次第に気持ちが変わり、「いつまで経っても自分たちに口出ししてくる」「もうかかわらないでほしい」と思い始めた。

 それを見ていた父は「我慢してくれ」と録音したテープのように毎回そう言って宥めた。


 母の方にも限界というのがあった。環境が変わることにひどく嫌った母の強い思いがあった。

 そんななかで異動が決まって、住んだこともない街に移らされて、性格も深くまで知らない父方の両親からは口出しをされる。母は何回か"アドバイス"を受けていたとき気に入らないことがあったら「それは違いませんか」と反論をしていた。


 母は勤めていた会社を辞めた事もあって、用事がないときは家にほとんど引きこもるようになった。知らない土地にインスタントのように友達なんて湧くわけもなくずっと一人だった。そのあと週に3日ほどスーパーのパートをすることになった。それでも母は引きこもりがちだった。


 環境も変われば人間も変わる。家族の中で一番の被害者と言えるのは姉の方だった。小学2年のときに転入する形で、浅井と同じ小学校に通い始めた。最初はクラスのみんなと打ち解けることもできて、不安な部分が消えて両親も少しではあるが安心できた。ただ、そんなことも簡単には続かなかった。

 姉は少々、「正義感が強すぎた」

 

 気づいたら姉は自分の性格が崩れたかのように、クラスからは追い出された形になってしまった。


 「アドバイス」を受けた母や仕事漬けの父のストレスはもう満タンの状態で、姉は自分の感情を殺すようになった。

 バカの面を晒して幼稚園から小学生になっていった自分。

 バカバカしくて笑い話にもならない。

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