5.1
部屋に唯一外からの光を届ける役目の窓には大きめの雨粒が打ち付ける。外は土砂降りだ。午後2時。コンビニのアルバイトから帰ってもう何時間も経っているのに浅井は未だに布団の上で脱力した状態で横になっていた。部屋は雨のせいでジメッとしている。自分の体にカビが生え始めてもおかしくない。それだけ布団の上で無力で気力も生まれてなどいなかった。午前5時に言われるべきの言葉ではなかったのだろう。それだけ平崎が言った言葉がどれだけ自分に後味が悪いものだったか長時間思い知らされている。
「自分の過去を見つめろ」
その行為自体が自分にとって大きな賭け事のようなものだ。考えるに連れて反動というのが出てきた。
「ああ、なんて自分は薄っぺらい人生だったのだろう」
と強く思い始めた。卑屈だ。とても面倒な人間の特徴である卑屈なことが頭の中に広がり始める。
「もうどうしようもないな」
小さく呟くが反応してくれるのは雨が打ち付ける窓だけだ。ザアザアと降る雨は未だに晴れる気配はない。
体を起こす。体にはカビの根は張っていないが、重力が強く感じる。
「自分に必要なものはなんだろう」
勇気?愛?友達?
全てが足りないように思えるがどうだろう。
彼女には遠回しに逃げてばかりだと言われたのだろう。それはそうだ。未だに真田のことを気にかけているくせにだ。うざったいんだろう。自分の過去を面と向かって見れない人間が彼女のことを知ろうとするのはあまりにも都合が良すぎる。ただ、平崎には、
「君に何がわかるというんだ」
と大きな声で突き放すことも可能だった。でもそれをやる権利などなかった。
少しでも変わるためには何が必要なんだろう。少しでも何か行動が必要だ。
テレビはこの雨のニュースを放送している。女性のキャスターがスタジオで日本地図を前に解説をしている。
「今日一日大雨になります。特に関東地区では川の増水が予想されます。雨が上がっても決して川や海になど近づかないでください。外出などは控えて、自宅で待機などをお願い致します」
キャスターの忠告の通り、今日一日自宅にいた。何もいい考えなどなくここまでやってきた。
枕元に置いていた携帯がヴァイブレーションで揺れる。手に取るとニュースが配信されていた。同じニュースだった。そして携帯の電源を切る。ただ、ここで思い留まる。真田の連絡先が気になった。連絡先を開く。しっかりと真田と書かれている。電話番号は手に入らなかったが、メールアドレスは手に入った。
手がロボットのように文字を入力していく。
そして、気づいたときには、自分自身のことを棚に上げて他人の過去を見つめるためのメールを送っていた。
「今度、食事でも行きませんか」