3.2
「遅くなってごめんなぁ。どうだった飲み会は」
白のホンダ・ライフで進藤は待ち合わせ場所の大館駅前のロータリーに現れた。外から見ると塗装は一切剥がれていない。きれいに手入れされているなと思えたが、車内に入ると思ったよりもくすんでいるところがあり、車にも寿命はあるんだなと妙に納得していた。
「問題はないです」
「どうよ。久々に友だちに会った印象は」
自分の聖域に土足で突っ込んでくる親戚のような発言だったが、
「まあ、楽しかったですよ」
と当たり障りのない返答をした。
今日の空はやけに青かった。雲は一つもなかった。そして暑い。
駅前のロータリーは部活動で来たのか、電車に乗ってきたジャージ姿の学生でいっぱいだった。夏休みの真っ只中。自分もこの中のひとりだったのだろうか。
「俺も最近、同級生にあってないからなぁ。こういう行事は小さいことでも大切にしていけよ」
やはり妙に親戚じみた発言が鼻につく。それでも、「ええまあ」と返事をする。
浅井は思わず欠伸をした。
「どうした。眠いのか」
「いえ、昨日本当は友達の家に泊めて貰う予定だったんです。でも友達が酔いつぶれて結果ネットカフェに」
そして信教世界という宗教団体を調べていたんですとは正直には言えない。気持ちが悪いなと思われて当然だと思ったからだ。
「おいおい。言ってくれればホテル代も出したのに」
「いえ、そこまでは流石に」
七三分けの男が中二病じみていることを大声で叫んでいたという動画を教えてあげたい衝動に駆られるが、抑え込む。
進藤はドリンクホルダーに置いていたガムボトルを開け、
「これでも噛んで眠気を覚ましてくれ。すぐに着いちゃうから」
車は発進したと同時に大きく揺れた。駅前のロータリーと言っても所々穴が空いている。横を通るバスも大きく車体を揺らす。そして、永島の車と比べるとこの車はどうしても古さが目立つ。
「これからはどこに行くんですか」
「まずは事件のあった獅子ヶ森地区に向かおう」
車の車体は速度を上げるに連れ大きく揺れていた。