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Global Boy Central  作者: 安達 ユウヘイ
2 Vokuo Egure
11/49

2.5

ポケットに手を入れ、映画の主人公気取りで夜空の方に顔を向けた。ただ、そこまできれいと言えるほど夜空が広がっているわけでもなく、どちらかというと曇り空が各家々の明かりに照らされている状態だった。浅井はすぐに顔を下ろし、地面に目線を置きながら歩き始めた。


 今日は宿無しかと状況よりも案外冷静にいられているのはなぜなのか、浅井本人にもわかっていなかった。さあ、これからどうしようと焦ることも可能だったが、なんら心配はないと心の中でその勢力が大勢を占めていた。

 浅井はなんとなく歩き始めた。もちろん実家に帰るわけでもない。なんなら現在知っている住所が、今住んでいる住所であるとは限らない。なぜなら半年近くも連絡を取っていない。3年も過ぎていれば、賃貸なら更新を迎え、引っ越しも考える。中高生なら卒業、大学生なら就職活動を考え始める。なんなら自分の存在を忘れている、消しているかもしれない。


 大館は8月ではあるが、肌寒い風を浅井にぶつけていた。居酒屋鳩を出てからまた温度が一回り下がったような。道路には車や人影などあるわけもなく、ただただ街頭が力を振り絞って輝いていた。

 ここから10分程度歩けば、あの公園がある。そうだ、そこに向かおう。もう日付は変わった。何も恐れるものはない。誰に言うわけでもないのに、頭の中でセリフのように反復した。


 10分といえど、腕時計をしているわけでもないので正確な時間はわからない。少し長く感じた。通りの途中にはススキが道に伸びていたりと怪談話にはピッタリの場所を通った。こんなに暗いと怖かっただろうか。運が良かったか、人は誰ひとりいない公園にたどり着いた。


 公園の中はきれいに整備され、生え放題の雑草はすべて刈られ芝生のようだった。遊具は一つだけになっていた。スターダストを生み出すブランコやジャングルジムはすべて跡形もなく消えていた。残っていたのはすべり台のみだった。

 浅井は何を考えるわけでもなく、すべり台の上に立った。上から見た景色は、小さい頃の自分とは少しぐらいしか変わっていなかった。


 ただ、この公園も時間が経ったことを示す看板が設置されていた。

『ボール遊び、ゴルフの素振り、バットの素振りはおやめください』

 自分が小さな頃はルールなどあるだけ無駄だと騒いでいたときと比べ、この看板は世界が狭くなった証なんだろう。

 自分が知っている雰囲気など一切残っていなかった。ゆっくりとまた、来た道を帰ることにした。

 

 なぜ彼女はあそこまで性格が180度変わったのだろう。 

 成長か、進化か、もしくは元々そんな性格だったのか。

 どこか違うんだよなぁ。

 浅井は気づいたら自分が以前通っていた小学校の通学路を歩いていることに気づいた。大きな通りと変貌した道路には車はなく、信号は虚しく黄色の点灯を繰り返している。

 当時、酒店だった商店があったのだが今はコンビニへと変貌していた。ああ、ここにもねと店内を見てみると誰ひとりいない。営業時間は24時間営業なのだろう。虚しくBGMが店内から溢れている。本を立ち読みするのもいない、面倒くさいを顔に出しながら陳列作業をする店員もいない。


 今、僕は未知を進んでいる。


 格好を付けた。ここにいるのは、この世界にいるのは僕一人だ。大きな声で、誰も車も通らない二車線の道路真ん中で叫びたくなった。

 彼女がやってきて、僕のことを覚えていた。嬉しかった。それ以上の言葉など出てくることはない。

 大館のど真ん中。一人ぽつんとやっと過去の自分が救われたような気がする。


 浅井は「ははっ」と小さく笑い、ポケットに手をいれ、駆け足になる。急ぐ必要はまったくないのに、走りたくなる。

 息切れする。はぁとと何度も呼吸する。民家の壁に大きく掲示されているポスターが目に入る。この世界は僕だけではないのかと少し落ち着きを取り戻す。


『信じましょう。そうすればあなたは救われます』

『不幸と幸福は紙一枚。信じましょう。あなたの道がひらけます』

 痒くなるような文章だった。というよりももはや痒かった。

 文字からしなくても、溢れ出るオーラで宗教だとわかる。

 5枚程度見たような気もするが、長い期間で貼られているものだろう。雨ざらしにあい、ところどころ剥がれている。こんな地方都市にまで好き好んで手を伸ばす宗教団体もあるのだなと薄ら笑いをする。

 

 当時、小学校の合併は決定していた。転校したあとはさほど興味を持ったことはなかったが、隣町の小学校に集約されることが決まっていて、永島もそこの小学校に通うことになっていた。

 小学校をなぜ閉校することを決めたのか。当時の耐震構造基準を遥かに下回っていたことを理由に建て替えに関する予算を組めないので閉校しましょ。簡単に言えばそんなもんだった。

 そして、その元小学校前に行き着いた浅井は看板に目を疑った。

『信教世界 秋田県北地区支所』

 ああ、侵略だ。

 浅井の顔に冷たい風が当たる。

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