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Global Boy Central  作者: 安達 ユウヘイ
2 Vokuo Egure
10/49

2.4

 堅苦しい飲み会は、瀬名の一言で終了した。

「おう、次行くぞ」

 大きな声ですべてが終了した。ああ、これが鶴の一声というのかしら。もしくは、独裁者が粛清を始める声にも似ていなくもない。チャップリンの「独裁者」という映画ではそんなシーンはなかったような気がする。浅井は頭の中がグチャグチャになっていながらそう考えた。


 居酒屋鳩を出ると外は予想よりも肌寒く、誰かがくしゃみをした。半袖では応える寒さだ。

 真田は近藤と話していた。もう近藤は眠気に負けて立ちながら眠っていた。ほとんどの応答は無意識に近いものだった。

 真田は浅井に近づいた。

「ゴメンね。なんか二次会みたいのあるみたいで、私も行かないと」

「ああ、良いんだよ。馬鹿な永島を家に送らないとだめだから」


 永島も立ちながら目をつむっていた。

「そうだ。浅井くん、今何処に住んでるの」

 唐突に質問されたが嘘をつく理由も見つからない。

「ああ、千葉の柏。上野から大体30分ぐらいかな」

「ええ、柏なの。嬉しいな。私、隣町なの。電車で10分ぐらい」

 え、そうなの。と大きな声を出すべきではない時間にもかかわらず嬉しさのあまり予想を超えて出てしまった。

「じゃあ今度、また会おうね」


 真田はそのままジャイアンと出来杉君よりのスネ夫、眠りの近藤に付いて行く。

 斎藤ケンはじゃあ、俺帰るわと言って、また遊ぼうなと手を握ってきた。山口は完全に眠っていて、斎藤ケンに掴まりながら、歩いていった。


 居酒屋鳩の前にいたのは、浅井と永島だけだった。永島は「ああ」とうめき声に近い声を出した。

「浅井。お前、嬉しそうじゃねぇか」

 壁に頬をつけながら話していた。

 浅井は半分呆れるように話した。

「お前、俺を泊める話し覚えてないのか」

「覚えてるよ。準備もできてる。ニンテンドー64もある」

「それは嬉しいが、高級車を運ぶドライバーはどうするんだ」

「ああ、そうだった」

 永島は運転手という役目を忘れていた。そして、その場で座り込んだ。


 居酒屋鳩の店主に、代行サービスの電話番号を聞き、手配した。時間はもうすぐで11時半になろうとしていた。予想よりも飲んだくれていたようだ。

 

「浅井、お前楽しそうじゃないか」

 二度同じことを言うのは、酔っぱらいの習性か。児童公園のベンチに座り、横になっていた永島に言われ少し苛立った。永島は完全に横になって体の力を全て抜いていた。腕がだらんと地面に付きそうだ。

「お前だって楽しそうだったじゃないか」

「良いんだよ。近藤なんか俺に興味なんてなかっただろうし

 ささくれや枝毛に興味を持っていかれていることに気づいてたようで、

「それはかわいそうに」と返した。

「まず、近藤は出来杉君よりのスネ夫の彼女だ。俺は手を出そうと思ってもだせん」

 ああ、なるほど。ほとんど興味はないがそんな関係だったのねと。風が吹いて酒臭さが鼻につく。


 代行サービスがやってきたときにはもうすぐで日にちを跨ぎそうだった。永島から鍵を借り、代行サービスに運転を頼んだ。エンジンがかかると、社内はビートルズの音楽が流れた。ラジオはビートルズ特集でもやっていたのだろうか。この曲はなんだろう。カム・トゥゲザーか。ビートルズで知っている数少ない曲で歪んだ音が車内を包む。


 永島の家までの代行サービスの料金は、2500円だった。タクシーのほうが安いのか、高いのかわからなかったが、永島は金を出すと居酒屋で叫んだことを忘れたようで、浅井が変わりに支払った。

 永島の家には明かりが灯っていた。実家ぐらしで、両親とともに暮らしているそうだが、もう日付は変わっていたのでインターホンを押すことにためらった。


「構わん!押せ!」と大きな声で激励に似た野次を飛ばす永島に押され、インターホンを2度押した。これは小さな抗議だ。

 ドアの向こうからガタガタと聞こえ、重厚なドアが開いた。そこには永島の母親が立っていた。

「すいません、夜遅くに。永島くんを連れてきました」

「あれ、浅井くんじゃない。久しぶり」


 自分の息子のことを心配しないのは素晴らしいなと思いながら、

「どうもお久しぶりです。すいません。こんな時間までかかるとは思っていなかったので」

 おうよ!と永島は騒いだが、母親はそこまで気にしているわけでもない。

「ごめんね。この子、お酒弱いのにいっぱい飲んじゃうからもう」

「いやもう大丈夫ですから。楽しかったですから全然」

 永島は家に上がり玄関で座り込んだ。

「今から家に行くと遅いでしょ。大丈夫?」


 永島の母親に家まで帰れるのかと聞かれたが、この様子だと永島は母親には自分が泊まるとは伝えていないようだ。まさか永島の家に泊めてもらうことになっていたなど言えない。

「ああ、タクシーで帰ります。少し飛ばせば近いので」

「そう」と言って「気をつけてね」と言われた。

 代行サービスの金ももらっていなかったが、そのまま出ることにした。

「では失礼します」

 永島が、ムクリと顔を上げ、

「浅井、俺は楽しかったぞ!」と口が3割近く廻っていなかった。

「・・・俺も楽しかったと思うよ」

 そう言って、夜の大館を歩くことにした。

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